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終章 永遠の愛を君に捧げん
10 世界にあるたった一つの魔法
しおりを挟む「確かな事は彼女はまだ天空の庭にはいないと言う事」
「何故それがわかるのですか」
「まあね、僕も長年この研究に携わってきた実績と、僕の母もこの病で亡くしたからね。その経験も踏まえてのものかな。まあ今迄に分かっているのは、天空の庭へは精神のみだけがあの場所へ行くのだよ。そう、言い換えれば肉体は共に行く事の叶わない場所。だから初期化した瞬間より心と身体は全く違うものとなると言う事は……」
「身体は自由に動いているとでも言うのですか?」
「うん、理解が早くて助かるよ。初期化をした瞬間より脳と心は生まれたての赤子同然だけれどね、身体は変わらない。そのお蔭で過去には色々と問題があったから、今はこの施設で新たな人間関係を構築し、上手くいけば外の世界へ行く事も可能になる。でもそれはほんの僅かだ。大半はこの施設で身体を保護している。ふふ、大きな赤ん坊ばかりでそれも大変と言えば大変だけれどね。でも生きているだけまし――――なのかは本人しかわからない。おっと話が逸れたね。そしてベルが行った実験とは――――」
それは心の臓でなく脳への暴走となる事がわかった直後、ベルはファルークより頸椎へ魔法の針を刺し入れる施術を受け、上手くいけば暴走した膨大なる魔力は、その針の細い内筒より外へと放出される――――と言うものである。
そうすれば脳へのダメージを防ぎ、初期化される事もないと考えついたのである。
「だが実際ベルに内包されていた魔力は膨大なものでね。拳大の魔石へその魔力を注入したのだけれど、その数は大凡千個にもなったよ。いやはや魔石には永遠に困らないのだけれど、だたほんの僅かだけ暴走した魔力が脳を直撃してしまったらしい」
「そんなっ、それでは実験は失敗じゃあ――――っっ!?」
「まあ何にしても初めての事だからね。でも初期化に至ったかと言えば答えはわからない。シリル、これは完全に僕の推論だけれどね、もしかするとベルは天空の庭とこちらの世界の狭間にいるのかもしれない」
「世界の狭間……」
「うん、宰相より君とベルの体験談を聞いてね、とある推論が浮かんだんだ」
「それは何でしょうか」
シリルは食い入るようにファルークを見つめる。
もしかすると少しでも回復の可能性はないのかと、シリルは逸る心をぐっと抑えつけファルークの話へ耳を傾ける。
「ベルの妖精? それはもしかして彼女の心だと思うんだよ」
「ベルの心?」
「そう、君を想う彼女の心。普通の人間には絶対に出来ないけれども、ベル程の魔力の持ち主ならば、伝心魔法の上をいく魔法を行使出来たのではないのかと思うよ。ただの魔力だけじゃあない。強く相手を想う……愛情がなければ決して成し得ない愛の魔法だよ」
「愛の魔法……ベルはそれ程までにこんな俺を……」
うわ言の様に呟くシリルの両の肩を、ファルークはがっしりと力強く掴んできた。
「今度は君の番だよシリル。君の、ベルに対する何物にも代えがたい強い愛情を示す番だ!!」
「俺の、ベルへの想い……。ファルーク様っ、俺は一体何をすればいいのでしょうかっっ」
俄然やる気を見せたシリルへ、ファルークは茶目っ気たっぷりに告げた。
「方法は簡単。でもその思いは強く真っ直ぐであらねばならない」
「はい、俺は絶対にやり遂げてみせます!! してその方法は……」
「遥か昔からある魔法だよ。そこには貴族や平民なんてものは関係ない。愛する相手へ愛を囁き、そして――――愛情を込めてキスをするのだよ。一つの曇りも許されない。ベルを無事に君の許へと連れ戻すには、この方法しかないと僕は信じているんだ。そしてこれを出来るのはこの世界においてシリル、君一人だけだ。ベルが心の底より愛する君しか出来ない唯一の魔法なんだよ」
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