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終章 永遠の愛を君に捧げん
9 ベルの選択
しおりを挟む「――――ベルの意識はここにはない」
シリルの背後より、彼の疑問へ答える様に、そう話し掛けるのはファルークだった。
「それはどういう……まさか彼女の意識は既に――――っっ!?」
ファルークの方へ振り返りながらシリルはある可能性を口にする。
だがその問いにファルークはゆっくりと左右へ頭を振りながら否定した。
「天空の庭へいる訳じゃあない」
「だったら彼女はっ、ベルは一体――――っっ!?」
シリルは身分を忘れてファルークの白衣の襟をぐいっと掴みかかる。
一方ファルークと言えばそんなシリルの行動に成されるがままの状態で、ある説を唱え始めた。
「これはある意味実験だ。そして人は皆生きていく為には何かしらの実験を常に行いながら、次代へと生命を繋げていく。そう、これは決して無理強いでもなく、実験を行うベルの強い意志の許で遂行した結果だ」
「それはどういう事なのですかっっ。何故彼女自身が実験台等にならなければいけないのです!! ベルは病の身とはいえ、このマンヴィルの第一王女なのですっ、なのにどうして――――っっ!!」
ファルークの発した言葉に信じられないと、何度もシリルは頭を左右に大きく振った。
しかしファルークはそんなシリルを一瞥したと共に、冷たく突き放す様に二の句を告げる。
「それは僕もベルも王族だからだよ」
「王……族」
何を今更と言わんばかりにシリルはファルークを睨めつける。
「多くの者が勘違いをしているよね。王族は国民より敬われ、守られるべき存在だと――――ね。でも本当は全く違う。君達貴族や平民関係なく、全ての国民がいるからこそ王族は存在する事が出来るのだよ。確かに他にはない権力等色々な特権もあるのだがしかし、全ては国民を、国を、国民全ての生活を護らんとする為に必要なものでしかない。そこに己の利害は一切含まれる事はない。あーいや、でも何処にでもいるでしょ、偶に不出来な奴が生まれてきて、さも全てが己の好きにして良いと妙な勘違いをするとんでもない奴」
「はぁ……」
「平民や貴族、騎士そして王族にも決して歓迎されないイタイ存在がね。そう言うのは除外するとして、簡単に言えば王族は偉く等なく国民の為にその命を投げ打って仕えている様なもの」
「それがどうベルに関係があると……まさかっっ!?」
「うん、察してくれて嬉しいよシリル。現時点でこの魔力暴走症において有効な治療法は何も確立されてはいない。だからこそ僕とベルは未来への可能性を求め残り少ない時間の中で研究と議論を重ね、そうしてある説を見出し、それを確実なるものとする為の実験を行ったのだよ」
「ファルーク様の仰る事は解りますがどうしてベルがその実験にっ、もっと他の患者でもよかったのでは〰〰〰〰っっ!!」
シリルには到底納得が出来なかった。
いや理解したくないと言う方が正しいのだろう。
だがシリルの放った一言にファルークが苛立ちを露わにした。
「君は僕の大切なベルを侮辱する心算かっっ。僕への暴言は甘んじて受けよう。だが僕の愛する従妹を侮辱する事だけは絶対に許さない!!」
「そ、その様な心算は……ベルを侮辱等とんでもない。ただ俺はベルが、彼女に元気で笑っていて欲しくて……」
「あぁいやこちらこそ少し感情的になってしまったね。君がベルを想ってくれている事は十分わかっている心算だ。でも君も理解しているとは思うけれど、ベルが己の為に誰かを犠牲にしてまで生きる事を望む様な女性かな。少なくとも僕の愛する従妹姫は、そう言う類いの女性ではない。ベルは誰よりも気高く聡明な姫君だ。だからこそ自身の命を懸け、少しでも魔力暴走症で悲しむ者達の希望になりたいと思っているのだよ」
「申し訳……ありません。俺は彼女を失いたくないばかりに何も見えてはいませんでした」
「うん、誰もベルを失いたくはない――――とは言っても正確にはまだ失ってはいないと僕は思う」
「それって――――っっ!?」
シリルははっとした表情でファルークを注視した。
「先程も言ったよね。彼女はまだ天空の庭にいる訳じゃあない……と」
ファルークの、ベルと同じ情熱的なルビーの瞳が何やら悪戯っぽく輝いているのを、シリルは何とも不思議に思ってしまった。
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