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終章 永遠の愛を君に捧げん
4 父と子 Ⅲ
しおりを挟む「許可を得なければ施設には入る事は出来ぬ。また縦しんば施設へ問題なく入ったとしても、王女殿下とは話す事も最早出来ないのだぞ!! ただの抜け殻となった殿下を見るだけなのだ。それでも――――」
「彼女に、ベルに逢えるのであれば、俺は彼女の傍へ行きたい!!」
今度こそっ、俺は取るべき手を間違えない為にっ、俺はベルえるのそばへに逢わなければいけない!!
ベルは俺の強い所も、弱くてヘタレな部分も全てを受け入れてくれたのだっっ。
であれば俺は生きていようが、また死していようともっ、俺を受け入れてくれたベルの許へ行かなければいけない。
戦うしか脳の無い俺がベルの傍近くへ行った所で、何がどう役に立つのか、はたまた何の役にも立たないのかもしれない。
いや確率的には断然後者だろう。
それでもだっ、それでも俺自身がベルと離れたくはないのだっっ。
何も語りあう事は適わなくとも、それでも俺自身が彼女へ心より謝罪した上で、もし許されるならば彼女へ愛を囁きたい。
ベル、俺には貴女がどうしても必要なのだと、どうしようもない愚かで馬鹿な男だけれども、生涯を懸けて貴方の傍にいたい――――がしかしちょっと待つのだ俺。
確か今父上は……。
『王女殿下はお前が出兵した後暫くしてから昏睡状態となられ、つい二ヶ月前まではまだ伝心魔法で近しい方々とお話も出来たらしいのだがそれも困難となり……』
俺が出兵した時ははまだ……にしろ、その後昏睡状態で伝心魔法を行使していたらしいベル。
それもつい二ヶ月前までって……???
俺には遣えないが伝心魔法では妖精になれるものなのか???
「はあ、お前は何を呆けているのだ。何故王女が妖精になる必要があると言うか王女は普通に人間だ。殿下がお生まれになられた際、だらしなく頬を緩め、ニヤけきった阿呆に抱かれる殿下と直接お会いしたのだからな。それに我が王族の血にも妖精族には混じっていないからな!!」
ただ極悪非道な魔女の血ならば、殿下のお身体には半分はしっかりと流れてはいるぞ。
半分不貞腐れた様な、実に苦々しいと言わんばかりな表情で父は小声でボヤいていた。
それは一体誰の事なのか――――と突っ込みたい所ではあるが、何となく俺の本能がそれを善しとしなかった故に何も訊かずそのまま触れないでいた。
「ですが父上、俺は戦地での二年のも間、ほぼ毎日妖精……の様なベルに逢っていましたよ。それと先日もです。ほんの一時ですが彼女はエメラルドグリーンのドレスを着て……!?」
なんて事だっっ!!
こんな時まで俺は全くと言っていい程気がつかなかったのだっっ。
そう、何時も妖精の姿で身に纏っていたドレス。
あれは出兵前にセバスに頼みっぱなしだったであろう俺が初めて彼女へ送ったドレスだったのだっっ。
何の気持ちも篭って等いない形ばかりの儀礼的なドレスをっ、彼女はずっと身に着けていてくれていたのだ!!
きっとそうだっっ。
あぁ一刻も早く逢って確かめなければっっ。
「……妖精か、もしかすればお前への殿下の想いが成し得たものなのかもしれぬな。わかった。王宮からの許可は私が責任を持って出そう。だが、お前も知っての通りあの場所へ行くには王の許可だけでは入れない。しかし兎に角やれる事は色々手を尽くしておく。それまでお前は屋敷で待つように」
「ですが――――っっ!?」
「お前は王太子殿下だけでなく、色々な方面でも反感を持たれているのだ。殿下の崇拝者は兎角多い……が、私は直ぐに動く故、それまで殿下への謝罪の文言を考えておけ。万が一許可が下りたとしても、お前は殿下の許へ行くまでに茨の道しか待っていないのだからな」
「茨……って」
そう言い終えた父は悠然と立ち上がると直ぐに執務室を後にした。
一方俺は今一つ納得出来ないまままんじりとした思いを抱え、屋敷へと帰路に就く。
初めて父子として対話をした二日後、王の許可は勿論、施設側よりの許可を父はもぎ取ったらしい。
やや勝ち誇ったような父の表情に何やら良からぬ取引でもあったのかもしれないと勘ぐりながらも、俺はやっとベルに逢える機会を得たのだっっ。
これを逃す馬鹿はいない。
骨を折ってくれただろう父へ礼を言い、そうしてその足で王都の郊外にあると言う魔力暴走症の為の施設へと転移した。
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