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終章 永遠の愛を君に捧げん
3 父と子 Ⅱ
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「今なんと……と言いますか父上、貴方には別邸で愛人と子がいると――――」
「誰がその様な出鱈目を申したのだ?」
「い、いえ、その……直接的な確認は致しておりませんんがその……」
昔父の愛人と偶然?あった事があるとは、シリルは口が裂けても言えなかった。
そしてその事を知らないだろうデュークは実に憮然とした表情のまま、静かにシリルを見つめていた。
「ですが火のない所には煙は立ちませんと言いますか、父上は本邸でお過ごしになるよりも別邸で殆どをお過ごしになられているのが何よりの証拠だと俺は思います」
「――――ったく、口先ばかり成長しおってからに!!」
「ですが父上っっ」
「本当にその頑固な所はヴィヴィアンにそっくりだな」
「母上にですか?」
「ああ、あれは昔から頑固で意地っ張りな癖に……この世で一番傷つき易い女性だ」
「父……上?」
シリルは初めて見たと思う。
デュークより母ヴィヴィアンの話題が出た事も驚きだが、そんな母の事を思い出す様に話すデュークの表情は、とても冷酷無情を言われる表の顔ではなく、穏やかで慈愛に満ちた、まるで今も尚母へ恋情を抱いているかのようにも垣間見えたのだ。
まさか――――この冷え切った契約婚をしっかりと貫き、そしてお互いに、いや如何やら父の方は違う可能性もなくはないだろうがしかし、母には今現在愛人と子がいると、まあこちらも噂しか耳にしてはいないのだが……。
しかし今はベルの許へ一刻も早く向かわねばならないのだっっ。
両親の件はまた後日訊く事に――――って、目の前にいる父デュークが素直に話すかは、甚だ疑問なのかもしれない。
そう、兎に角今は父の子がいないのであれば母の子を後継ぎに据えて貰えばいいだけの事!!
「でしたら父上、母上がお産みになられた子を公爵家の後継ぎとして下さい。俺はもう先程にも言いましたが公爵家には何の未練もありません。何が原因かは存じませんが、我が家は家族として既に破綻をしていたのです。今更家族ごっこをする訳にもいかないでしょう。そして俺は貴方方の様な夫婦にはなりたくはない!! 俺は王女を、ベルの傍近くで見守り、今度こそ彼女が俺を許してくれた後は、俺は全身全霊で以って大切な女性を守り切ります!! これ以上お話しがなければ俺は今より彼女の許へ行く所存で――――っっ!?」
「王女殿下はもう王宮の何処にもおられはしない」
シリルの言葉を遮る様にデュークは静かに告げた。
「そ、それはどういう……では王女はっ、ベルは今何処にいると言うのですかっっ!!」
シリルはそのまま立ち上がり、目の前にいるデュークへ喰い下がるがそれもデュークの想定内の事だったのだろう。
デュークは一切動じる事無く、静かにシリルを見上げ――――。
「王女殿下の病を知っているのか」
「い、いえ、でも今はそれどころでは――――」
「魔力暴走症だ。それももう三年も前には発症され、余命先刻もされていたのだ。勿論王女殿下もその事は承知されておられる。何処でお前を見染めたのかまでは知らんが、王女の最初で最後の我儘が、ほんの一時だけのお前との婚約と言う繋がりだったのだ。それ以外は何も望まれる事もなく、最期の瞬間までこの国の為に尽力されたのだ」
「魔力暴走症……最期……の瞬間?」
その言葉を聞いた瞬間、シリルは自身の心の臓がぎゅっと握り潰される様な感覚を覚えた。
「あぁ王女殿下はお前が出兵した後暫くしてから昏睡状態となられ、つい二ヶ月前まではまだ伝心魔法で近しい方々とお話も出来たらしいのだがそれも困難となり、王女の遺言にて数名の侍女と共に郊外の施設へと向かわれたのだ」
「であれば直ぐにその施設へ向かいますっっ」
「シリル、落ち着いて聞くのだ。王女は既に――――」
「嘘だっ、嘘だと言って下さい父上っっ!! こんな、こんな現実なんて……!?」
到底受け入れられる訳がない!!
既にベルがもう俺の手の届かない所へ逝ってしまったなんて……!!
「誰がその様な出鱈目を申したのだ?」
「い、いえ、その……直接的な確認は致しておりませんんがその……」
昔父の愛人と偶然?あった事があるとは、シリルは口が裂けても言えなかった。
そしてその事を知らないだろうデュークは実に憮然とした表情のまま、静かにシリルを見つめていた。
「ですが火のない所には煙は立ちませんと言いますか、父上は本邸でお過ごしになるよりも別邸で殆どをお過ごしになられているのが何よりの証拠だと俺は思います」
「――――ったく、口先ばかり成長しおってからに!!」
「ですが父上っっ」
「本当にその頑固な所はヴィヴィアンにそっくりだな」
「母上にですか?」
「ああ、あれは昔から頑固で意地っ張りな癖に……この世で一番傷つき易い女性だ」
「父……上?」
シリルは初めて見たと思う。
デュークより母ヴィヴィアンの話題が出た事も驚きだが、そんな母の事を思い出す様に話すデュークの表情は、とても冷酷無情を言われる表の顔ではなく、穏やかで慈愛に満ちた、まるで今も尚母へ恋情を抱いているかのようにも垣間見えたのだ。
まさか――――この冷え切った契約婚をしっかりと貫き、そしてお互いに、いや如何やら父の方は違う可能性もなくはないだろうがしかし、母には今現在愛人と子がいると、まあこちらも噂しか耳にしてはいないのだが……。
しかし今はベルの許へ一刻も早く向かわねばならないのだっっ。
両親の件はまた後日訊く事に――――って、目の前にいる父デュークが素直に話すかは、甚だ疑問なのかもしれない。
そう、兎に角今は父の子がいないのであれば母の子を後継ぎに据えて貰えばいいだけの事!!
「でしたら父上、母上がお産みになられた子を公爵家の後継ぎとして下さい。俺はもう先程にも言いましたが公爵家には何の未練もありません。何が原因かは存じませんが、我が家は家族として既に破綻をしていたのです。今更家族ごっこをする訳にもいかないでしょう。そして俺は貴方方の様な夫婦にはなりたくはない!! 俺は王女を、ベルの傍近くで見守り、今度こそ彼女が俺を許してくれた後は、俺は全身全霊で以って大切な女性を守り切ります!! これ以上お話しがなければ俺は今より彼女の許へ行く所存で――――っっ!?」
「王女殿下はもう王宮の何処にもおられはしない」
シリルの言葉を遮る様にデュークは静かに告げた。
「そ、それはどういう……では王女はっ、ベルは今何処にいると言うのですかっっ!!」
シリルはそのまま立ち上がり、目の前にいるデュークへ喰い下がるがそれもデュークの想定内の事だったのだろう。
デュークは一切動じる事無く、静かにシリルを見上げ――――。
「王女殿下の病を知っているのか」
「い、いえ、でも今はそれどころでは――――」
「魔力暴走症だ。それももう三年も前には発症され、余命先刻もされていたのだ。勿論王女殿下もその事は承知されておられる。何処でお前を見染めたのかまでは知らんが、王女の最初で最後の我儘が、ほんの一時だけのお前との婚約と言う繋がりだったのだ。それ以外は何も望まれる事もなく、最期の瞬間までこの国の為に尽力されたのだ」
「魔力暴走症……最期……の瞬間?」
その言葉を聞いた瞬間、シリルは自身の心の臓がぎゅっと握り潰される様な感覚を覚えた。
「あぁ王女殿下はお前が出兵した後暫くしてから昏睡状態となられ、つい二ヶ月前まではまだ伝心魔法で近しい方々とお話も出来たらしいのだがそれも困難となり、王女の遺言にて数名の侍女と共に郊外の施設へと向かわれたのだ」
「であれば直ぐにその施設へ向かいますっっ」
「シリル、落ち着いて聞くのだ。王女は既に――――」
「嘘だっ、嘘だと言って下さい父上っっ!! こんな、こんな現実なんて……!?」
到底受け入れられる訳がない!!
既にベルがもう俺の手の届かない所へ逝ってしまったなんて……!!
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