永遠の愛を君に捧げん

雪乃

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第二章  交差する想い

9  夢よ覚めないで!!  アイリーンSide

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 温かい。
 とても心地の良い温もり。
 氷の様に冷たくなってしまっていた私の心を、この温もりが少しずつ溶かしてくれる。
 心地の良い温もりと交互にやってくるのは、私の身体が溶けちゃうくらいの熱い、とても熱過ぎる熱。
 そうしてとろとろに蕩けきっただろう私は、もう何もわからなくなっていくわ。
 でもそれと同時に身体だけでなく、この温かさで心がじんわりと満たされる。
 
 不思議ね。
 シリルしか私にはいないと思っていたと言うのに、この温もりはシリルであってシリルではない。
 多分パーシーだと思うのに――――。

「シリル……」

 何故か違うのに、何故かそう声に出してしまったというのに、彼は何故か少しはにかんだ様子で……。

「そうだよ、アイリーン。僕は君をずっと愛しているよ」

 優しく甘い声音で答えてくれるのは、やっぱりシリルなのだと思う。
 温かくて逞しくも力強い腕で、こうして私をしっかりと抱き締めてくれている。
 そう、この温かさだけは本物。
 嘘偽りなく私を、私だけを護ってくれる腕。
 そして私をとろとろに蕩けるチョコレートの様に沢山愛してくれるの。
 だからあの雨のピクニックの日を境に、私達は何度も何度も深く愛し合ったわ。
 何故なら私達は求めあっているのだもの。

 ね、シリル。
 これでもう王女様なんてどうでもよくなったでしょう。
 だって貴方は何度も私の中で愛していると囁きながら、私の中で熱い熱を放っているのだもの。
 私達は愛し合う者同士。
 誰も、そう王女様にだって私達を決して引き離せやしないわ。
 だからシリル。
 お願いだからそんなに悲しそうな表情をしないで。
 大好きよ、私の貴方……。


 今より二ヶ月程前になるかしら。
 私は体調を崩してしまったの。
 別に大病とか風邪を引いたのではなくてよ。
 ただ少しムカムカするだけ。
 それと身体が何時もよりじんわりと熱い感じがする。
 変だなぁ……って思っているのだけど、でも症状はそれだけではなかったわ。

 あんなに大好きだったお魚料理が、何故か臭いを嗅いだだけでもう吐きそうになって、今では全くと言っていいくらい食べられなくなったわ。
 料理長は何か粗相をしたのではないかと言って平謝りしてくれるのだけれど、別に彼の所為せいではないもの。
 ただ私が食べれないだけ。

 だけどそれよりももっと困った事があるわね。
 ええ、何と言っても兎に角眠い。
 食事やお茶の時間なんて構わず、本当に何をしていても眠いの。
 今では立っていてもこけずに寝てしまえるわ。
 ふふ、これは一種の特技ね。
 でも笑っているばかりではいられなくなったのよ。

「お、お嬢様、お嬢様はもしかして――――っっ!?」

 最初に私の異変に気が付いたのは勿論エステル。
 幼い頃よりずっと一緒だったものね。
 気がつくのは当たり前なのかもしれない。
 最近はパーシーが迎えに来てくれるから、エステルは一緒に来なくてもいいと言っていたの。
 何故ならエステルが一緒だとあの心地の良い温もりに包まれなくなってしまうもの。

 それだけは嫌!!
 
 あの温もりは私だけのものっっ。
 どんなにエステルが不審に思おうともっ、これだけは絶対に譲らない。
 なのに――――。

「私がっ、私が何としてもお伴をするべきでした!! まさか、まさかパーシヴァル様がこの様な……!?」

 何故ここにパーシーの名前が出るのかしら。
 私はシリルと一緒にいるのよ。
 確かにパーシーは迎えに来てくれるけれども、馬車に乗れば何時の間にかシリルへと変わっているのって、エステルは一緒に連れていかないから知らないのね。
 ああ濡れ衣を着せられて可哀想なパーシー。

「これは旦那様と奥方様へ早急にお知らせしなくてはっっ!! それにお医者様にも診察をお願いしなくてはいけませんっっ。でもいいですかお嬢様、もうこれからはお一人でも外出はいけませんよ!! でもパーシヴァル様もパーシヴァル様ですっ、幾らなんでもこんな事って……!!」
「嫌っ、待ってエステルっっ」

 私は慌ててエステルを呼び戻す。
 何故かはわからないけれど、咄嗟にお父様とお母様には知られたくないと思ってしまったの。
 でもエステルは私の言う事を聞いてくれない。
 どうしてっ、どうして聞いてくれないのっっ。
 ねえ一体私はこれからどうすればいいの!?
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