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第二章 交差する想い
7 僕だけのブルースター パーシヴァルSide
しおりを挟むブルースター。
その名の通り五枚の花弁が美しい青い星の形と似ていると言われる花。
星の花。
幸福な愛。
信じあう心。
全ては君への賛辞に他ならない。
真っ白な新雪を思わせる様な透き通る白い肌。
形の良い愛らしい唇。
まだ僕よりもうんと幼いのに、どうしてこんなにも心を奪われてしまうのだろう。
もう僕の瞳には彼女以外映らないし、また他を見ようとも思えない。
目の前にいる愛らしいブルートパーズの瞳を見つめるだけで、そして偶然にもほんの一瞬、僕と彼女の視線が絡み合う――――それだけで、こんなにも空虚で灰色だった僕の心は一瞬にして色々な花々が咲き乱れ、また氷点下までに冷え切っていた心は大地が息を吹き返すが如く、いや氷山から突然マグマが噴き出す様な勢いと熱がじわりじわりと心を温め?
いいやっ、温めるどころじゃあない!!
ドロドロに溶けだした粘度を持つ熱塊を、瞬時にして身体中へと感じてしまった。
それは今までに一度も感じた事のない不思議な感覚。
またそれに伴う激しい渇きにも似たもの。
単純に水を飲めば潤える――――と言うものではない!!
胸の鼓動は叩きつける様に激しく打ち続け、8歳の僕は思わず何かの病気か、はたまたこんなにも激しく心臓を打ちつけられれば、望み通り今直ぐにでも死んでしまうのかとやや真剣に考えてしまった。
でも不思議な事にこの時の僕は、何故か死にたくはなかった。
今迄の僕であればきっと迷う事無く死すら喜んで受け入れていただろう。
そのくらい何でもない。
何故なら僕にとって生と死は特に関心を抱く対象ではない。
ふふ、本当に我ながら物凄く可愛げのない子供だよね。
でもこれでも大分ましになったのだよ。
シリルとセバスやアシュクロフト夫人達と幸せな時間を共有した事で、少なくとも生まれてきて良かったと思える様になったのだから……。
でもこれは違う。
こんな魂レベルまで感じる想いを僕は知らない。
そしてこんな想いを僕の心に目覚めさせた神を敬うと同時に――――とても憎んだっっ。
そう……。
「紹介するよ、彼女が僕のリーン。アイリーン・ジェシカ・マコーリー嬢。キャラガー伯爵家の御令嬢だよ。そしてリーン、彼が僕の従兄弟であり親友のカーク侯爵子息のパーシヴァル・ジャレッド・エインズワース。パーシーだよリーン」
執事の背後より、何時の間にかシリルの隣で、彼の手をしっかりと握っている彼女がいた。
シリルの紹介を終えた彼女は、興味深げな視線を僕に向けると同時に、ゆっくりと花が綻ぶ様に破顔していき
――――。
「ぱーしー? ぱーしう゛ぁるさま? まあキラキラのエメラルドグリーンの瞳はシリルと一緒なのね。うんとっても綺麗。ね、ぱーしーさまがシリルのお友達なら私もお友達なの?」
心臓が色々な意味で悲鳴を上げていた。
でも僕は何もなかったように振る舞うしかない。
この時ばかりは僕自身平民ではなく貴族で良かったと、本当に心の底から感謝をしたよ。
「アイリーン嬢、どうか僕の事はパーシーと呼んで下さい。それから勿論僕達はもうお友達ですよ」
「嬉しいっ、シリルっ、私どうしよう、凄く嬉しいわっっ」
「良かったねアイリーン、僕ら三人ずっと何時までも仲良しになるんだよ」
「うんっ、シリルもパーシーも凄く綺麗」
アイリーンは何に対しても凄く幸せそうに微笑むんだ。
――――シリルに向けて……ね。
うん、もう言わなくてもわかるよね。
僕の初めての恋は何を味わう暇も与えられずにほんの一瞬で終わったんだ。
いや、正確には終わって等いない。
僕は誰にも気付かれずに今も、そしてこれから生涯を懸けてアイリーンただ一人を愛し続けるのだから……。
この恋は決して実らないし、絶対に振り向いて等貰えないのは十分承知している。
何故なら彼らは誰に憚る事無く堂々と想い合っている。
シリルの父である伯父上も、シリルへ関心を示さないけれども次代のベディングトン公爵夫人となる女性が、伯父上の親友の娘とあってか、家格はやや釣り合わないのも承知の上で現時点では表立って反対だと唱えてはいない。
それもあってなのだろうね。
三人でいると言うのにも拘らず、二人は直ぐに僕の存在を忘れて幸せそのものだった。
でも正直僕はその様子を見て辛いとは思わない。
何故ならこの胸に疼く痛みすらも、愛しいアイリーンと繋ぐものなのだと思えばそれは一瞬にして幸せなものへと変換が出来た。
そうして父が母へ抱く想いも少しずつだけれど理解出来たよ。
そうだね、愛する者がいると言う事はどの様な状態であっても幸せなのだと。
想える相手がいるだけで心はこんなにも満たされるのだと僕は勝手に悟っていた。
しかしその数年後、まさかこんな展開が待っているとは思わなかったよ。
あんなに想い合っていた筈なのに、シリルが別の女性と婚約するなんて……ね。
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