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第一章 突然の婚約と一方的な婚約破棄
5 シリルは逃げる!!
しおりを挟むこうして第一王女と半ば強引に婚約を交わせられてしまったたシリルには、どうしても彼女を受け入れる事が出来なかった。
シリルはがっつりと骨の髄、血の一滴まで貴族社会で生きる者の筈なのに、政略婚を当然と受け止める世界の住人なのにだっっ。
然も先の事件で言い渡されたのは断罪はでなく、誰もが羨む美しくも聡明な王女との婚約に少しばかりの減俸。
普通にあり得ない処遇。
本来ならばきっと床に頭を擦りつけ、取り成した?王女へ生涯に渡り感謝してもしきれないだろう。
何と言ってもまだこの世に生きているのだから……だ!!
そして王女の我儘で押し切ってくれた彼女に対し愛情こそはないだろうが、それでも正式な夫婦となり、これからの人生を誠心誠意尽くす事が道理だと言うのも彼なりに理解をしていた筈。
だがどの様に頭では理解していようともそれでもだっ、それでもシリルの心に長年住まうのは突如彼の人生へ乱入した王女ではなくっ、キャラガー伯爵令嬢アイリーンただ一人。
幾ら王命とは言えど、心まで素直に捧げる事をシリルには到底出来なかった。
そう、ある意味シリルは愚直で不器用な男。
騎士として、また次代のベディングトン公爵としての領地経営等に関しては、それなりに研鑽を積んできた所為か、今直ぐにでも祖父や父親までとはいかなくとも、人並みくらいには問題なくこなせるだろう。
だがっ、貴族の男としては実に不器用なのだ!!
彼の生きる世界では政略婚は当たり前。
寧ろ恋愛結婚の方が珍しい、いや殆どないと言ってもいい。
世の紳士淑女達の様に政略と言う契約の許で子を生せば、後はお互い過度に干渉せず好きなだけ愛人を囲めばいい。
夫婦としての表向きの体だけを取り繕えば、何も問題がない事もシリル自身嫌という程知り過ぎていた。
実際彼の両親でさえお互い立派な政略婚で、おまけにそれぞれに愛人や子供も存在するらしい。
らしい……と言うのは現実にシリルがこれまでの間に、異母か異父の兄妹となる者達とは未だ声を交わす所か、顔を見た事等一度もないからである。
シリルの住む本邸には公爵夫妻とその一人息子である彼の三人のみしか住んではいない。
何故ならこの国の法律により、余程の事がない限り愛人は本邸には決して足を踏み入れる事は許されない。
またその子供も然り。
その為皆別宅を与えられ、こうして夫婦間は今も問題もなく表面的だが平和を維持している。
そのルールに則りシリルも無駄な抵抗をせず、世の倣いに従えばいいだけの事。
しかし愚直で不器用なシリルにはそれが出来ないのだ。
だからと言って王女を蔑ろにする事も出来ず、また恋しいアイリーンを振り切る事も出来ないでいた。
男としてはこれ以上ないくらいのヘタレだと罵られても仕方がない。
そう、実に見事なヘタレっぷりを披露していた時に一報が齎された。
隣国バリッシュとの戦端が開かれる!!
その一報を聞いたシリルにとって、これに便乗しないと言う考えは何処にもなかった。
まさにこれのお蔭で王女とも適度な距離が置けるし、また周りからも干渉はされないだろう。
そして愛しいアイリーンには戦地より手紙を送るか伝達魔法で事情をしっかりと説明し、何時の日か王女との婚約を破棄するまでどうか待っていて欲しいと伝えると心に決めれば――――。
もう直ぐ王女の誕生日間近と言う事を聞き、100%儀礼的なのは否定しようもないが、今年15歳となる成人間近の王女へ、特段想い入れもないただ思いついただけのエメラルドグリーンの色を指定し、ドレスが出来上がれば王宮へ届ける様に指示をするとシリルは、父と祖父の意見も聞き入れず隊を整え、一路東部に接するバリッシュとの国境へと出発した。
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