吸血姫の食事情～血を吸うよりパン食べたい～

2016年9月のごはん。

わらわは暇だからパンを作ることにしたのじゃー

ある日、畳の上に座っていた可憐かれんはいった。
「わらわはのう。パンを作ることにしたのじゃ」
そうやって、拳を握りしめて、幼女みたいに無邪気に笑う。
「はあ」
また趣味が変わったのかと、俺はげんなりする。
「とりあえず。ココアパンをつくってみたんだがのう」
可憐がその小さい手を差し出す。ラップに包まれた真っ黒なパン。
「はあ」
俺は、姫がつくったパンをみる。
本当に、真っ黒なパンだ。
「これは、炭？」
「ちがうわー！」
姫が可愛らしく切れた。


□


ここは異世界。
姫と俺は他の三人の仲間と共に、異世界のど田舎にいる。
きまぐれな姫はどうやらここでパン作りに目覚めたようだ。
「ちょっと、ココア入れすぎだなー」
俺はいった。
「紫ゆかり殿ー、そうかのう」
姫はいう。
「ああ」
紫は頷く。　　
ゆかりとは、女みたいな名前だが、姫がつけた俺の名前だ。
一方の姫の名前は可憐。俺が紫。他に、茜あかね、葵あおい、翠みどりがいるが、まあそいつらはややっこしいのであとで説明する。
「今日もパンつくるんだろ？」
紫は聞いた。
「そうじゃ」
姫は幼い笑顔でいう。
奥の台所には、ベーキングパウダーに、ドライイーストに、強力小麦粉に、あずき。
どうやら、今日はあんこパンをつくるみたいだ。
俺は立ち上がった。
窓を開ける。
空は晴れていた。
ここは異世界の田舎街。
俺達はまだここで駐在している。
もしかしたら、ここで暮らすかもしれない。