闇色の救い人

かきのたね

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 眩しい……。
 目を刺すような光に眠りから引き上げられる。
 昨日カーテンを閉めずに寝てしまったのか、窓から差し込む朝日が部屋中を照らしていた。
 朝の清々しいけれど強い光から逃れようと身じろぐと、筋肉質な腕にぎゅうと抱き込まれる。
 さらりと絡められた足に、ジークフリートが体を清めてくれたんだと気付いた。
 4人の夫の中では特に精悍な顔付きをしているジークフリートも、こうして見ると幼い寝顔が可愛らしい。
 衛兵の団長だと言っていたけれど、訓練でついた傷だろうか、それとも戦いでついた傷だろうか。
 引き攣ったような傷や爛れたような傷。
 無駄なく鍛えられた体に無数に残る傷跡に無意識に手が伸びる。

「ん、ふふっ」

 目につく傷をひとつずつ辿っていると笑い声と共にジークフリートに組み敷かれていた。

「っジークさん」
「おはよ、朝から誘ってる?」
「ち、違います!ちょっと気になって」
「昨日は見てる余裕なんてなさそうだったもんな」

 おかしそうにそう言って触れるだけの口付けを落とすと体を起こして私の腰を撫でた。

「体は大丈夫か?」
「……めちゃくちゃ筋肉痛です」
「でも、気持ちよかっただろ?」

 実際、数え切れない程達するくらい気持ちよかっただけに何も言い返せない。
 ジークフリートは、う~と唸りながらシーツに包まる私の頭をポンポンと撫でた。
 甘Sっていうのかな。
 私が甘い言葉で恥ずかしがったり、気持ちよくなって訳が分からなくなってるのを見て楽しむタイプのSだ。
 シーツが剥がされてまた口付けられると、顎に置かれた親指で口を開かされる。
 程よく冷えた水が流れ込んできて散々酷使した喉が癒されていく。
 2度3度と口移しで水を飲ませてもらって、そのままゆっくり啄むようなキスをされた。
 性感を呼び起こすものではなく愛玩するような優しい口付けの心地良さに、ついまたうとうとしてしまう。

「朝食とシャワーどっちが先がいい?一応昨日体は拭いておいたけど」
「ん、しゃわー……」
「了解」

 ジークフリートに抱き抱えられてシャワーを浴びる。
 泡立てた布を放って、剣だこのある手のひらで撫でさすられる。
 いくらセックスをしたからってこんな明るいところで体を見られるのも人に体を洗われるのも恥ずかしい。
 それでも、満足に動けないから仕方ない……仕方ないんだけれど。

「っあ、ジークさん、やめ……」
「ちゃんと中も綺麗にしないとな。残ってたら出てきたとき困るだろ?」
「や、あっ、あ、っ……」

 ぐちゅぐちゅと音を立てて掻き出すようにジークフリートの指が出入りする。
 あぐらをかくジークフリートを跨ぐように膝立ちで後ろから支えられて腰を逃がすこともできない。
 お腹側のひときわ感じる場所を擦られて大きく開いた足ががくがく震えた。

「あら、う、だけなら、っ、こんな、いらない……!」
「感じてるのか?可愛いな、流してもすぐトロトロになる」
「あっ!ちが、ねぇ、聞いてってばぁ……!」

 体を支える手が悪戯に胸の先に伸びてきて、立ち上がってしまったそれを微かに撫でる。
 曖昧な刺激は高められた体には物足りなくて、触れられたところがじんと疼いた。
 ――だめだ、私、もうえっちな気分になっちゃってる。
 指だけじゃ足りない、もっと大きいので掻き乱してほしい。
 そう思ったのが伝わったかのように、足の間に熱がすり寄せられた。

「あー、悪い、興奮した……抱いてもいい?」

 耳元で熱いため息とともに吐き出された言葉にはしたなくも体が喜ぶのがわかった。
 こくこくと小さく頷くと、あぐらから膝立ちになったジークフリートが腰を押し付けてくる。
 じわじわと体が開かれる感覚に甘い息を抑えきれない。
 ジークフリートの下生えがお尻に当たったのを感じて、全部受け入れたことを知る。
 一瞬奥まで届いたそれに身構えたけれど、丁寧に可愛がられたのを覚えていた体は痛みではなく快感を受け取った。
 肩とお腹に手を回されて、腰を擦り付けるように動かされる。
 昨日のような頭がおかしくなりそうな快感とはまた違う、じわじわとした寝起きの体にも優しい気持ちよさ。
 荒い息と一緒に喉の奥から甘える子犬のような声が出て恥ずかしい。

「っ、はぁ、ん……気持ちいいな、アオイ」
「うん、やば、ぃ……ぁ、あ、っん!」

 そういえば、初めて名前を呼ばれた気がする。
 昨日はタイミングがなかったし、アルレイスとした時は名乗ってすらいなかった。
 そう気付いてしまうと不思議と高揚して絶頂に押し上げられてしまう。
 震える体を抱きしめられて余韻に浸っていると、またゆるゆるとジークフリートが動き始めて落ち着いてきていた快感に火がつけられた。
 そうしてジークフリートが1度達するまでに、私は片手で足りるか足りないかの数達したのだった。








「おはようございますメサイア。軽食をご用意しておりますが召し上がりますか?」
「おはよう。うん、お願い」
「おはようございます閣下。閣下はどうされますか?」
「おはようシアン。そうだな、ご一緒させてもらおうかな」

 今日の朝食はスコーンとコーンスープだ。
 優しくていい匂い……。
 ガラス製のテーブルに並べられたそれに食欲が刺激される。
 くぅというお腹の小さな催促に従って食事を済ませた。
 食後の花茶を楽しんでいると、ふとジークフリートが2番目に喋った青年の名前を呼んで応えていたのを思い出す。

「ジークさん。ジークさんて2人をどうやって見分けてるんですか?」
「うん?あぁ、あいつらをうちの団で預かってた事があるんだ。最初は髪の分け目だとか剣の位置だとかで見分けてたけど、見慣れたらすぐ分かるようになる」
「なるほど、そういうものなんですね……」

 犬や猫を複数飼っている人がそれぞれを見分けられるのと同じような感じなのだろうか……それはまた違うかな?
 そんな的外れなことを考えているうちに片付けを終えた双子が、くすくすと笑いながら会話に入った。

「私達に名字があれば見分けられなくても呼べたのでしょうけど」
「2人には名字がないの?」
「えぇ、神殿の前に捨てられていた拾われ子ですから」
「そうだったんだ……あれ、そしたらもしかしてルイスさんも……?」
「はい。私達と同じように先代の神官長に。猊下とは兄弟のように育ちました」
 
 昨日ノエルとシアンを紹介してもらった時、アルレイスは双子に信頼を置いているように見えたけれどそういった理由があったからなのか。
 それにしても……この世界に来てからまだ2日、この神殿から一歩も出ていないからこの国の実情がわからないけれど、捨て子がいるというのはそう珍しいことでもないのだろうか。
 日本では周りにそんな境遇の人はいなかった。
 言いふらすようなことではないので知らなかっただけかもしれないけれど、それでもこんな身近に何組も、ということはないように思う。
 何もわからない状況で私が2人に何を言えることもなく、ただ頷くことしかできなかった。

「ところで今日はユリウスが来るんだろう?いつ頃来るか決まってるのか?」
「リンフォード閣下は午後にいらっしゃるそうですよ」
「そうか。じゃあ俺はユリウスに挨拶してから帰ろうかな」

 ーーユリウス。
 私と同い年の、あの銀髪の綺麗な人だ。
 鋭い目付きをしていて、神経質そうだった。
 アルレイスもジークフリートも優しい人だったけれど、彼はどんな人なんだろう。
 3日目にもなると慣れというか余裕ができたのかそんなことを考えてしまう。
 あぁ、緊張する……いっそ早く時間になってしまえ。
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