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番外編1
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(————どうしよう。)
ユウリはここ最近の肌寒さに頭を悩ませていた。
しばらく一緒に過ごしていたけれど配慮が足りなさ過ぎて今さら気づいたことがあったのだ。というか、最後まで気づいていなかったというほうが正しいのかもしれない。
それはユウリの足もよくなってきたころ、シュウが新しい移住先を探そうと宿を聞いてきたことで初めて気が付いたのだ。
(そういえば、シュウはこの家に来てからずっとソファーで寝ていたな?)
せっせと朝食の片づけをしているシュウを横目で見る。
本来は自分でしなければならない片付けをシュウがってくれている。ユウリはご飯を作ることができても片付けるのは得意ではなくて、それを見ていたシュウが「俺のほうが、手際がいい」と言って二日目にして奪われた仕事だ。
(——しょうがない、…か?)
そんなシュウを眺めながら、仮にも客人に今日までソファーで寝かせていたことをもう一度考え直す。ベッドで寝ることも何度かあったが、それは仕方なく、だ。それに狭すぎるベッドで寝るにはいささか寝心地が(ユウリにとっては)悪い。
「シュウいつも悪いな。今更なんだが、今日寝るのはこっちのベッドをつかってくれ。」とそういうのは簡単だろう。しかしシュウの性格上、素直に「ありがとう」と言わないのは分かりきっていることだ。それにユウリがこの家にいてほしいみたいに聞こえる。
というか宿探しを口に出した時点でもそろそろ出ていくという意志以外にはありえない、と結論付けた。
かたいソファーに薄い布団を載せるだけでは良質なベッドなど完成しない。肌触りの良い布に、毛布にそれから…
唸ってみたところでユウリにはあのフカフカに何が詰まっているかなんて想像できやしない。
———家にあるソファーでは天と地の差がある。
それだけは分かるぞと、やけに心の中で力説してしまったなと気づいたのだった。
だからユウリはシュウが街に何かしに行く隙にシュウのために宿探しでもしてやろうかと今日の予定を尋ねたのだった。すると、シュウは何を言うでもなくユウリの予定を聞いてきた。
「今日はどうするんだ?」
シュウが顔をあげる。その口ぶりにユウリは「お前はここに居つくつもりなのか、宿探しはどうした」と頭にはてなが浮かんだ。
ここ数日はユウリに合わせて、シュウもギルドで仕事を受けた。ギルドの印は冒険者の身元を表すもので世界共通で、シュウもギルド印は持っていたから一緒に仕事を受けた。しかし昨日の言葉を聞いて、てっきり出ていくものだと思っていたのに。
「は、なんで?旅立つんじゃねーの?昨日そう言っていただろ?」
「いや、……旅のし過ぎで資金繰りが悪くって?」
「え、何そのはてな。…決まってないの?……まあシュウくらいの魔法使えるんだったらもう少しギルドで仕事探してみたら?それとも一緒に依頼ボードでも見に行くか?」
そうはいってみたものの資金繰りっていうほど今お金は使っていなかったようだし、報酬もかなりの額だったはずだ。
(いったい何に使ったんだ?)
冒険者ギルドのいいところは仕事が欲しいなら短期間でも仕事を請け負えることだ。言い換えれば、短期バイトの掲載所、いや仕事紹介の仲介所的なところでもある。
ただ、基本的にランクを上げないといい報酬はもらえない。その点でいうとユウリは幼いころからギルド登録していることとランク上げが順調だったために報酬には何の問題もない。
ユウリはシュウの顔を見つめた。資金繰りが悪いっていうのは冗談だと思っているが、あまりに顔が無表情で本気だと主張するものだから、ユウリは見た目の割に後先考えないやつなのだと悟ってため息をついた。
「いいのか?じゃあ、これからもエイデンで探すことにする。…でもそろそろ宿くらいはどうにかした方がいいよな?」
「…。」
(まだ俺の家で寝るつもりだったのか。)
「ちっ。でも今の時期、宿は探すのに苦労するかもしれないな。」
ユウリはここ最近の肌寒さに頭を悩ませていた。
しばらく一緒に過ごしていたけれど配慮が足りなさ過ぎて今さら気づいたことがあったのだ。というか、最後まで気づいていなかったというほうが正しいのかもしれない。
それはユウリの足もよくなってきたころ、シュウが新しい移住先を探そうと宿を聞いてきたことで初めて気が付いたのだ。
(そういえば、シュウはこの家に来てからずっとソファーで寝ていたな?)
せっせと朝食の片づけをしているシュウを横目で見る。
本来は自分でしなければならない片付けをシュウがってくれている。ユウリはご飯を作ることができても片付けるのは得意ではなくて、それを見ていたシュウが「俺のほうが、手際がいい」と言って二日目にして奪われた仕事だ。
(——しょうがない、…か?)
そんなシュウを眺めながら、仮にも客人に今日までソファーで寝かせていたことをもう一度考え直す。ベッドで寝ることも何度かあったが、それは仕方なく、だ。それに狭すぎるベッドで寝るにはいささか寝心地が(ユウリにとっては)悪い。
「シュウいつも悪いな。今更なんだが、今日寝るのはこっちのベッドをつかってくれ。」とそういうのは簡単だろう。しかしシュウの性格上、素直に「ありがとう」と言わないのは分かりきっていることだ。それにユウリがこの家にいてほしいみたいに聞こえる。
というか宿探しを口に出した時点でもそろそろ出ていくという意志以外にはありえない、と結論付けた。
かたいソファーに薄い布団を載せるだけでは良質なベッドなど完成しない。肌触りの良い布に、毛布にそれから…
唸ってみたところでユウリにはあのフカフカに何が詰まっているかなんて想像できやしない。
———家にあるソファーでは天と地の差がある。
それだけは分かるぞと、やけに心の中で力説してしまったなと気づいたのだった。
だからユウリはシュウが街に何かしに行く隙にシュウのために宿探しでもしてやろうかと今日の予定を尋ねたのだった。すると、シュウは何を言うでもなくユウリの予定を聞いてきた。
「今日はどうするんだ?」
シュウが顔をあげる。その口ぶりにユウリは「お前はここに居つくつもりなのか、宿探しはどうした」と頭にはてなが浮かんだ。
ここ数日はユウリに合わせて、シュウもギルドで仕事を受けた。ギルドの印は冒険者の身元を表すもので世界共通で、シュウもギルド印は持っていたから一緒に仕事を受けた。しかし昨日の言葉を聞いて、てっきり出ていくものだと思っていたのに。
「は、なんで?旅立つんじゃねーの?昨日そう言っていただろ?」
「いや、……旅のし過ぎで資金繰りが悪くって?」
「え、何そのはてな。…決まってないの?……まあシュウくらいの魔法使えるんだったらもう少しギルドで仕事探してみたら?それとも一緒に依頼ボードでも見に行くか?」
そうはいってみたものの資金繰りっていうほど今お金は使っていなかったようだし、報酬もかなりの額だったはずだ。
(いったい何に使ったんだ?)
冒険者ギルドのいいところは仕事が欲しいなら短期間でも仕事を請け負えることだ。言い換えれば、短期バイトの掲載所、いや仕事紹介の仲介所的なところでもある。
ただ、基本的にランクを上げないといい報酬はもらえない。その点でいうとユウリは幼いころからギルド登録していることとランク上げが順調だったために報酬には何の問題もない。
ユウリはシュウの顔を見つめた。資金繰りが悪いっていうのは冗談だと思っているが、あまりに顔が無表情で本気だと主張するものだから、ユウリは見た目の割に後先考えないやつなのだと悟ってため息をついた。
「いいのか?じゃあ、これからもエイデンで探すことにする。…でもそろそろ宿くらいはどうにかした方がいいよな?」
「…。」
(まだ俺の家で寝るつもりだったのか。)
「ちっ。でも今の時期、宿は探すのに苦労するかもしれないな。」
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