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その時コンコンコンとノックオンが聞こえてきた。廊下を歩いてくる音が全く聞こえなかったものだからこの屋敷に人がいることさえも忘れてしまう。
道理で無人のように感じたのだ。

「レオンハルト様、入ってもよろしいでしょうか。」

「…待ってくれ。」

落ち着いた声でそう言われて、この部屋の主人がシュウではなかったらしいことに驚いた。
あいつ、自分の部屋でもないのにそんなに物色して大丈夫なのか?

そういって目線を動かすとシュウはますます険しい顔をしていた。もしかしてシュウの表情のデフォルトが険しい顔なんじゃないかと疑う。

シュウが鋭く扉を睨みつけると、軽く舌打ちをしてカーテンを勢いよく閉める。その異様な感じに何も言うなとは言えまい。

「シュウ、なんだか今日はおかしい。どうかしたの……うわっ」

無言のままこちらのほうへ近づいてくるシュウの顔は相変わらず険しいのだが、それはまるで焦っているようにも感じる。まるでユウリの能面が移ったみたいだった。レオンハルトが扉の方へ歩いていくのと同時にシュウはユウリのそばへ立つと、少しかがんで布団ごとユウリを持ちあげた。

「なっ、なにしている?」

「兄さん?」

「やはり今帰ることにした。ユウリ、我慢しろ」

ユウリだってしっかりした体格をしているはずなのにその重さを気にもせずに持ち上げると、あろうことか扉ではなくもう一つの窓から出ていこうとする。
あまりの突飛さに言葉が出ないでいると、その窓が屋敷の表ではなく裏に面しているのだと知ってシュウが何かから隠れたいらしいことを察する。
しばらく寝込んでいたせいで今すぐにシュウから降りようとすると、ふらふらして正気な状態とは言えないから仕方なくシュウの思うままに身を任せることにした。
あと少しで飛び降りられるといったその時、外で執事の人が待っていたはずなのに勢いよく扉が開け放たれた。

「待て、そこの客人たちは今回の討伐に関係しているとお見受けする。」

そういって部屋の主人に断りもせずに三人ほどの人たちが無造作に入ってくると大きな態度でそう言った。派手な金髪を後頭部で高く止めて、長い髪を揺らしながら入ってきた。あとの二人は従者なのか一歩下がった位置に立って主を止めるでもない。

短髪の黒髪とウェーブのかかった茶髪だ。

「だったらなんだってんだ?」

シュウは機嫌が悪そうにそういうと窓にかけていた足を下ろして降参するように振り向いた。毛布の隙間から彼らの姿は確認できるが、シュウが隠すように抱え込んでいるせいでよく見えない。

「ほら席について」

シュウはイライラした顔でそれをとらえると足の向きを変えた。



1章終わり







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中途半端なのですが、ここまでで1章が終わりです。読んでくださる皆様ありがとうございます。
この後番外編をいくつか更新してから、2章になりますが、
2章はまだ書き終えていないのでしばらくお休みします。
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