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突然、ハルはユウリの肩をつかんだ。
「ん?どっかで会った?」
いきなり驚いたようにするから、どこかで偶然会ったことがあるのかもしれない、とユウリは振り向いた。それにしても、どっかであったとして、その仮面では、顔なんてわからない。
あまり重く考えすぎず、ハルを見るも全く心当たりがなかった。
「…いや、こっちの勘違いという可能性もあるので、」
ハルはそのまま黙り込むと、ユウリがつけていた火の近くに寄った。
「しかし、あなたにここがどう影響するかがわからない以上、長くここにとどまるのは良いこととは言えませんね。」
ハルはそういうと、少し歩き回って比較的平らな岩の上で足を止めた。腰に差していた短剣を引きぬくと音を立てながら、複雑な模様ともお絵かきともとれるそれを書き上げたのだ。大きな鎌以外にも細かなものを持ち歩いているようで、引き出しの多そうな男だ。
「それは何だ?」
見たこともない繊細な模様にユウリは感嘆の声を漏らすとともにそれが何なのかという疑問がわいた。
「これは魔法陣です。もしかしたら、自分でやろうと思えばできるのかもしれませんが、今は僕の見ている世界を見ていただきたいのです。」
魔法陣にしては模様が細かい。確かによく見れば陣のようでもあるけれど、それに気づけるかはその者が陣にどれだけ精通しているかで変わってくるのだろう。
ハルはその絵をゆっくり撫でると、それは淡い紫色を放ちながらユウリの足の下に広がって、ひときわ明るく目の前を照らした。
『おいで』
その瞬間、ユウリは間違って目を開けたら、あまりの光に自分の目がやられるだろうなと思った。だからいっそう強く、目を閉じたのだった。ハルの魔法は言葉に魔力を込めるもののようだ。だから話し言葉でも、思いもよらぬ力が含まれることがある、高度な魔法だ。
———何秒過ぎただろうか。いつまでたっても目の前の明るさが変わらなくて、しびれを切らして目を開けないように、片手も使って覆う。それにしても、いったい何の光なのか。
影響がどうのっていうくらいだから、もしかしたら浄化でもかけているのかもしれない。しかし浄化にしては光りすぎで、そのうえ、『おいで』だ。おいでってことは浄化ではないだろう。持つ魔法のスペックが高すぎる気がして、不思議で仕方がない。
ユウリはいつまで待てばいいのか不安になって声をあげた。
「———なあ、いつ目開けていい…?」
「え、いつまで目とじてんですか、というか、目を閉じていたんですか…」
あきれるような物言いで声だけでも、仮面の下の顔が想像できるようだ。
「はっ?」
その言い草に何だかイラついて、勢いよく目を開けた。眩しいぐらいのその先に目を凝らした。目が光に慣れたのか、その光景が視界いっぱいに入ってきた。
「——エイデン」
久しぶりに見た、懐かしい景色。青藍に茂るエイデンが目の前に広がっていた。
将軍の庭。エイデンの故郷。ユウリから思わず感嘆の声が漏れた。
「懐かしいな…」
「——本当にこちらの景色を見ていなかったんですね。僕が見ていたのは今さっきからこっちの景色です。」
どうやら浄化を施したわけではなかったらしい。ハルの見ていた景色のほうへユウリを呼んだようだった。ハルが歩き始めたので、後れを取らぬように足を進める。何の変哲もないただの道にユウリは何も思わなかった。だからこそ、ユウリはここが人の空間魔法の世界、クピディダスの空間だということに驚きを隠せなかった。
あたりは昼間のようで、太陽から与えられる温かさに洞窟で冷えた体が温かくなる。先ほど見えていた洞窟と同じ場所を歩いているはずなのに、地面はごつごつしていないし、昼間の温かさを感じて、不思議な感じがする。
きっと、本来の次元とハルが魔法で見せた次元が重なり合っているのだろう、そうユウリは結論づけた。つまり同じ場所であるようで実は違う場所に立っていたということになる。そう考えると、今さっきまでお互いに普通に話していたことこそがかなりおかしなことに感じて、自分のことでありながら顔が引きつった。そんなことは本来あるはずのないことだ。
「それにしてもここは暖かさも感じるし、においまで感じることが出来るんだな」
「…ええ、ですがそれがここの怖いことです」
ハルは何やら歩きながら考え込んでいるようで、それ以上の情報をこちらに提示しようとしない。ユウリはなんだか手持無沙汰で、足元にある花に視線を向けた。
「…なあ、こういう遊び、昔はやらなかったか?」
ユウリはエイデンの花を手に取ると、いくつかの花で冠を作った。
「——え、…ああ、藍花祭のやつですね」
藍花祭。藍花祭とは青い花エイデンをたたえる祭りだ。エイデンでは藍花が咲き誇る季節に皆で宴をする。エイデン将軍が愛したこの地で、私たちが暮らせることを祝うのだ。藍花祭では冠職人が花を編んでそれに魔法をかける。そうして完成したものを好きな人の頭にのせたりする風習があるのだ。ユウリが今作ったのは、本物ではない。小さいころは藍花祭以外でもユウリが作ったような冠もどきを作ってみんなでよく遊んだ。
「そうだ、俺もよく小さいころはこれ作ってみんなで遊んだ。」
その時のことを思い出して、かすかに笑いがこぼれる。
花冠を見つめながら、最近思い出しそうな銀の髪の友人が記憶をかすめた。
(この時もこいつが一緒だったのか…。それにしても思い出せない。印象の薄い奴だったのか?)
——————————
投稿時間を設定するの忘れていました。待っててくださった方すみません。
「ん?どっかで会った?」
いきなり驚いたようにするから、どこかで偶然会ったことがあるのかもしれない、とユウリは振り向いた。それにしても、どっかであったとして、その仮面では、顔なんてわからない。
あまり重く考えすぎず、ハルを見るも全く心当たりがなかった。
「…いや、こっちの勘違いという可能性もあるので、」
ハルはそのまま黙り込むと、ユウリがつけていた火の近くに寄った。
「しかし、あなたにここがどう影響するかがわからない以上、長くここにとどまるのは良いこととは言えませんね。」
ハルはそういうと、少し歩き回って比較的平らな岩の上で足を止めた。腰に差していた短剣を引きぬくと音を立てながら、複雑な模様ともお絵かきともとれるそれを書き上げたのだ。大きな鎌以外にも細かなものを持ち歩いているようで、引き出しの多そうな男だ。
「それは何だ?」
見たこともない繊細な模様にユウリは感嘆の声を漏らすとともにそれが何なのかという疑問がわいた。
「これは魔法陣です。もしかしたら、自分でやろうと思えばできるのかもしれませんが、今は僕の見ている世界を見ていただきたいのです。」
魔法陣にしては模様が細かい。確かによく見れば陣のようでもあるけれど、それに気づけるかはその者が陣にどれだけ精通しているかで変わってくるのだろう。
ハルはその絵をゆっくり撫でると、それは淡い紫色を放ちながらユウリの足の下に広がって、ひときわ明るく目の前を照らした。
『おいで』
その瞬間、ユウリは間違って目を開けたら、あまりの光に自分の目がやられるだろうなと思った。だからいっそう強く、目を閉じたのだった。ハルの魔法は言葉に魔力を込めるもののようだ。だから話し言葉でも、思いもよらぬ力が含まれることがある、高度な魔法だ。
———何秒過ぎただろうか。いつまでたっても目の前の明るさが変わらなくて、しびれを切らして目を開けないように、片手も使って覆う。それにしても、いったい何の光なのか。
影響がどうのっていうくらいだから、もしかしたら浄化でもかけているのかもしれない。しかし浄化にしては光りすぎで、そのうえ、『おいで』だ。おいでってことは浄化ではないだろう。持つ魔法のスペックが高すぎる気がして、不思議で仕方がない。
ユウリはいつまで待てばいいのか不安になって声をあげた。
「———なあ、いつ目開けていい…?」
「え、いつまで目とじてんですか、というか、目を閉じていたんですか…」
あきれるような物言いで声だけでも、仮面の下の顔が想像できるようだ。
「はっ?」
その言い草に何だかイラついて、勢いよく目を開けた。眩しいぐらいのその先に目を凝らした。目が光に慣れたのか、その光景が視界いっぱいに入ってきた。
「——エイデン」
久しぶりに見た、懐かしい景色。青藍に茂るエイデンが目の前に広がっていた。
将軍の庭。エイデンの故郷。ユウリから思わず感嘆の声が漏れた。
「懐かしいな…」
「——本当にこちらの景色を見ていなかったんですね。僕が見ていたのは今さっきからこっちの景色です。」
どうやら浄化を施したわけではなかったらしい。ハルの見ていた景色のほうへユウリを呼んだようだった。ハルが歩き始めたので、後れを取らぬように足を進める。何の変哲もないただの道にユウリは何も思わなかった。だからこそ、ユウリはここが人の空間魔法の世界、クピディダスの空間だということに驚きを隠せなかった。
あたりは昼間のようで、太陽から与えられる温かさに洞窟で冷えた体が温かくなる。先ほど見えていた洞窟と同じ場所を歩いているはずなのに、地面はごつごつしていないし、昼間の温かさを感じて、不思議な感じがする。
きっと、本来の次元とハルが魔法で見せた次元が重なり合っているのだろう、そうユウリは結論づけた。つまり同じ場所であるようで実は違う場所に立っていたということになる。そう考えると、今さっきまでお互いに普通に話していたことこそがかなりおかしなことに感じて、自分のことでありながら顔が引きつった。そんなことは本来あるはずのないことだ。
「それにしてもここは暖かさも感じるし、においまで感じることが出来るんだな」
「…ええ、ですがそれがここの怖いことです」
ハルは何やら歩きながら考え込んでいるようで、それ以上の情報をこちらに提示しようとしない。ユウリはなんだか手持無沙汰で、足元にある花に視線を向けた。
「…なあ、こういう遊び、昔はやらなかったか?」
ユウリはエイデンの花を手に取ると、いくつかの花で冠を作った。
「——え、…ああ、藍花祭のやつですね」
藍花祭。藍花祭とは青い花エイデンをたたえる祭りだ。エイデンでは藍花が咲き誇る季節に皆で宴をする。エイデン将軍が愛したこの地で、私たちが暮らせることを祝うのだ。藍花祭では冠職人が花を編んでそれに魔法をかける。そうして完成したものを好きな人の頭にのせたりする風習があるのだ。ユウリが今作ったのは、本物ではない。小さいころは藍花祭以外でもユウリが作ったような冠もどきを作ってみんなでよく遊んだ。
「そうだ、俺もよく小さいころはこれ作ってみんなで遊んだ。」
その時のことを思い出して、かすかに笑いがこぼれる。
花冠を見つめながら、最近思い出しそうな銀の髪の友人が記憶をかすめた。
(この時もこいつが一緒だったのか…。それにしても思い出せない。印象の薄い奴だったのか?)
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