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ジュナファーは面白そうにその様子をじっと見つめた。それから小さい声で「羨ましい」と口にする。
「ですよね、僕ら特別仲がいいんですよ。」
「僕」とか使って猫かぶって,普段のシュウとは大違いだ。
そんなことをのほほんと考えていると、ふと自分の腕が目に入った。
引っ張られていたはずの腕がいつの間にかユウリに絡まっていた。
つい口からため息をこぼす。悪いのはどんな時もユウリなのだが、これまでも何度かシュウとの約束をうっかり忘れて、行動してしまうことがあった。
パーティーを組みなれていないユウリはとにかく本能で行動しがちだ。
シュウの美麗な顔つきは表情がないと非常に怖い。
もし家に帰ってシュウに「慎重に行動しろ」と口うるさく言われるのだと考えると、ユウリは武者震いをした。しかし、ジュナファーにユウリとの仲をほめられたことに純粋に喜ぶシュウは、そんな様子は微塵も感じさせない。
それでもユウリはそろりとシュウから少しずつ距離をとると、ゆっくりと腕をほどいた。今のうちに腕を離して何もなかったことにしようと考えたのである。だが、そもそもシュウが後ろに立っているから、シュウの視線がどこを向いているのかをすっかり忘れていたユウリは、シュウの目線がしっかりとユウリに向けられていることにも気が付いていなかった。
だからユウリの動きを察知したかのようにシュウは先ほどよりも巧妙に絡みつくと、忘れていないぞという意味を込めて指先でトントンとユウリに音を刻む。
ユウリはそんなシュウを恨めしく思ったのだった。
「…チッ」
———またこっちに腕を回すのか。
ユウリは動きにくいと思いながらも、先ほどよりも緩くなった腕に行動を落ち着けた。いい加減動きすぎでもあったし、疲れたのだ。
ジュナファーとシュウが何気ない会話を始めてしばらくして、ユウリはすっかり集中力が切れた。
最近ようやくわかったことだが、そもそもシュウは人にくっつくことが好きなようで、ユウリの近くにいるといつの間にか肩を組んでいたり、服をつまんでいたり、なにかと触れてくる。
それにしても先ほどの、ジュナファーの「独り身」発言にユウリは納得できなかった。
たまに年を取ると物忘れが激しくなることがあると、聞いたことがあるが、この人も同じようなことなのだろうか。
それとも、と最悪のパターンも考えて、そんな思いでも消し去るはずもないかと頭を振った。
悶々と悩んでいると、微かに風が吹いた。
「…同じ、か」
シュウが目を見開いて隣で微かな声でつぶやいた。ようやく話したと思ったら、ぼそっとしか聞こえない。何かわかったのか?
「今なんか、言った?」
シュウの言葉を聞き返そうと振り向いた時、反動でユウリのおなかの音が響いた。
「…昼か。」
今さっきまで微塵もユウリと話す雰囲気ではなかったのに、シュウは目線を低くして「おなかすいたよな?」と声をかけた。ちょうどその時にエイデンの大鐘も響いて昼の時間を伝えた。
町では見てわかるような大時計もあるが、音が時間を知らせる。
他の町に比べてせわしなく動き回る人たちのためだろう。
「おい、今何で判断したんだ。」
ユウリのおなかの音はいつも正確にお昼を伝える。
隣でジュナファーはのんきにと笑うと家を指した。
「そろそろ昼も近いから休憩をどうかい?中で昼でも食べよう。」
そういうと、ジュナファーは家の中に消えていった。シュウは足元に握っていたフォークをさした。
「俺たちも中へ行こう」
「ん、ジュナファーと話していて何か分かったことでもあったか?」
「お前、本当に人の話聞いていなかったのか?」
シュウはあきれたようにそういうと人差し指を立てて言う。
「ジュナファーさんには確かに家族がいた。これは事実だ。」
ユウリの勘違いなんかではなかったらしい。
「ああ」
ユウリが小さいころは、将軍の庭にあるこの牧場には何度も来たことがあった。エイデンの花でにぎわう祭の季節になると、おいしいチーズを家族で販売しに来ていた。それは確かな事実なのだ。
「何があるんだろう。」
「そうだな。家にも何か家族の痕跡が残っているかもしれないし、何気なく聞き出してみようか。」
同意するように頭を振ると、ふと風に乗って何かが鼻をかすめた。ジュナファーの家に足を進めるにつれ、何やら懐かしい香りがして気分が向上する。
「匂いがする…」
エイデンの花のような匂いだ。この時期は咲かないはずなのにどこから匂いがするのか、かすかに匂うそれはシュウには届いていないみたいでユウリだけを引き付けた。
「どうかしたのか?何か匂うのか?」
「うん。エイデンのにおいがする。シュウ、先入っていて。どこにあるのか確かめてくる。」
ユウリはそういうと家の裏へと方向を変えた。
「わかった、早く入って来いよ。」
振り返って声を出すのも少し面倒で「了解」と合図するように手を頭の上で2度ほど振った。
「ですよね、僕ら特別仲がいいんですよ。」
「僕」とか使って猫かぶって,普段のシュウとは大違いだ。
そんなことをのほほんと考えていると、ふと自分の腕が目に入った。
引っ張られていたはずの腕がいつの間にかユウリに絡まっていた。
つい口からため息をこぼす。悪いのはどんな時もユウリなのだが、これまでも何度かシュウとの約束をうっかり忘れて、行動してしまうことがあった。
パーティーを組みなれていないユウリはとにかく本能で行動しがちだ。
シュウの美麗な顔つきは表情がないと非常に怖い。
もし家に帰ってシュウに「慎重に行動しろ」と口うるさく言われるのだと考えると、ユウリは武者震いをした。しかし、ジュナファーにユウリとの仲をほめられたことに純粋に喜ぶシュウは、そんな様子は微塵も感じさせない。
それでもユウリはそろりとシュウから少しずつ距離をとると、ゆっくりと腕をほどいた。今のうちに腕を離して何もなかったことにしようと考えたのである。だが、そもそもシュウが後ろに立っているから、シュウの視線がどこを向いているのかをすっかり忘れていたユウリは、シュウの目線がしっかりとユウリに向けられていることにも気が付いていなかった。
だからユウリの動きを察知したかのようにシュウは先ほどよりも巧妙に絡みつくと、忘れていないぞという意味を込めて指先でトントンとユウリに音を刻む。
ユウリはそんなシュウを恨めしく思ったのだった。
「…チッ」
———またこっちに腕を回すのか。
ユウリは動きにくいと思いながらも、先ほどよりも緩くなった腕に行動を落ち着けた。いい加減動きすぎでもあったし、疲れたのだ。
ジュナファーとシュウが何気ない会話を始めてしばらくして、ユウリはすっかり集中力が切れた。
最近ようやくわかったことだが、そもそもシュウは人にくっつくことが好きなようで、ユウリの近くにいるといつの間にか肩を組んでいたり、服をつまんでいたり、なにかと触れてくる。
それにしても先ほどの、ジュナファーの「独り身」発言にユウリは納得できなかった。
たまに年を取ると物忘れが激しくなることがあると、聞いたことがあるが、この人も同じようなことなのだろうか。
それとも、と最悪のパターンも考えて、そんな思いでも消し去るはずもないかと頭を振った。
悶々と悩んでいると、微かに風が吹いた。
「…同じ、か」
シュウが目を見開いて隣で微かな声でつぶやいた。ようやく話したと思ったら、ぼそっとしか聞こえない。何かわかったのか?
「今なんか、言った?」
シュウの言葉を聞き返そうと振り向いた時、反動でユウリのおなかの音が響いた。
「…昼か。」
今さっきまで微塵もユウリと話す雰囲気ではなかったのに、シュウは目線を低くして「おなかすいたよな?」と声をかけた。ちょうどその時にエイデンの大鐘も響いて昼の時間を伝えた。
町では見てわかるような大時計もあるが、音が時間を知らせる。
他の町に比べてせわしなく動き回る人たちのためだろう。
「おい、今何で判断したんだ。」
ユウリのおなかの音はいつも正確にお昼を伝える。
隣でジュナファーはのんきにと笑うと家を指した。
「そろそろ昼も近いから休憩をどうかい?中で昼でも食べよう。」
そういうと、ジュナファーは家の中に消えていった。シュウは足元に握っていたフォークをさした。
「俺たちも中へ行こう」
「ん、ジュナファーと話していて何か分かったことでもあったか?」
「お前、本当に人の話聞いていなかったのか?」
シュウはあきれたようにそういうと人差し指を立てて言う。
「ジュナファーさんには確かに家族がいた。これは事実だ。」
ユウリの勘違いなんかではなかったらしい。
「ああ」
ユウリが小さいころは、将軍の庭にあるこの牧場には何度も来たことがあった。エイデンの花でにぎわう祭の季節になると、おいしいチーズを家族で販売しに来ていた。それは確かな事実なのだ。
「何があるんだろう。」
「そうだな。家にも何か家族の痕跡が残っているかもしれないし、何気なく聞き出してみようか。」
同意するように頭を振ると、ふと風に乗って何かが鼻をかすめた。ジュナファーの家に足を進めるにつれ、何やら懐かしい香りがして気分が向上する。
「匂いがする…」
エイデンの花のような匂いだ。この時期は咲かないはずなのにどこから匂いがするのか、かすかに匂うそれはシュウには届いていないみたいでユウリだけを引き付けた。
「どうかしたのか?何か匂うのか?」
「うん。エイデンのにおいがする。シュウ、先入っていて。どこにあるのか確かめてくる。」
ユウリはそういうと家の裏へと方向を変えた。
「わかった、早く入って来いよ。」
振り返って声を出すのも少し面倒で「了解」と合図するように手を頭の上で2度ほど振った。
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