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「ってそこじゃなかった!」

トワーズは大きく頭を揺らし大げさに反応する。

(そこじゃねぇってじゃあどこだよ。おまえが話ふったくせに。本当に行動がうるさいやつだな)

ユウリは横目でそう訴えていると突然トワーズがこちらを向いた。

「そういえば!聞いたか、例の幽霊の話」

「…幽霊?記憶にはないが。」

「あーそれもそうか!ここ最近、お前は傭兵をしてなかったからな。じゃあ特別に教えてやるよ!」

いきなりの心霊話に首をかしげるとトワーズは得意そうな顔をした。
自分が入手した情報を披露できることに生き生きとしている。

「フィニアンドレイ領を北に抜けた先に狼の森があるだろ?そこで…人が消えるんだってよ」

「…神隠しか?」

ユウリ達は、昨日狼の森に行ったばかりだ。
フィニアンドレイ領はユウリたちが暮らしている街であるエイデン領の西に広がる広大な土地だ。北には狼の森が広がっていて、冒険者以外はあまり立ち入らない。

「とある商人の男が出かけた先からの帰り道に起こった話らしいんだけど、——」

トワーズが身を乗り出した。ユウリもその話に興味津々という様子を隠し切れず二人は顔を近づけた。その時二人の間に顔を近づける人がもう一人いた。

「何の話してんだ?」

後ろからシュウが顔を突っ込んだのだった。

「…終わったのか。おまえも。」
———お前も一緒に聞いておけ。

シュウはユウリの肩に手を置くと少し後ろに引っ張って隣の席に腰を落ち着けた。

「おお!俺はトワーズっていうんだ!お前がユーリのパーティー君だっていう兄ちゃんか?よく見るとものすごいイケメンだな!」

「ああ、シュウだ。よろしく」

トワーズはすかさず名乗るとにぃっと笑う。トワーズも年齢変わらないはずなのに兄ちゃんって、きっと大人びた見た目に騙されているに違いなかった。

「それで?その商人に起こった話っていうのはどういうことなんだ?」

「ああそうなんだ!その商人の一行は森の中で荷車を走らせていたんだ。北の国からの帰りでな、特に山賊にも絡まれることもなかったし、狼の森まで距離もあったから、危険区域ではなかったはずなのに、突然荷車が止まってしまったらしいんだよ。」

「突然?」

「ああ、それでびっくりして外に出てみたら御者も護衛もみんないなくなってて積み荷と走っていた馬だけが森に置き去りにされたんだらしい。」

「——それは、不思議な話だな?」

ユウリは首をかしげて頭の中を整理する。

「ちなみにいつのことなんんだ?」

「ああ、えっと、たしか10日前だ。」

「10日前…」
(10日前か。俺は特に何もしていなかったな。)

たしか足をねん挫したばかりで家にこもっていた気がする。確かシュウは街に出かけていた記憶があるような…。
シュウはどんな反応をしているのかと視線を動かすが、シュウが前のめりになっていないせいか微妙に顔がよく見えない。でも今さっきの話を聞いて何を思ったのか、肩においている指に力が込められた。

「二人とも気をつけろよ、何があっても今は狼の森には立ち寄らないほうがいい。傭兵も馬もみんな帰ってきていないらしいからな。それになんだか近づいてきている感じもするしな!それにどこかのお貴族様にその調査が依頼されているらしいんだけどまだ成果もないって話らしいし、」

「まあなんだ、ユウリならたいていのことは大丈夫だと思うが、十分に気を付けろ」

アンジェルは低い声を鳴らしてそうユウリに声をかけるとアンジェルはユウリの頭をなで、注意を促した。幼いころからギルドにいるせいかアンジェルはユウリをまだ子供だと思っている雰囲気がある。

それについこの前、山の中で遭難しかけたことは一言も言ってない。
きっとそれを言ったら心配させるだろう。

そんなことを思っていると硬いに何だかとがったものが食い込んだ。

「っ!いって!おい肩の手が痛い」

それはシュウの指だったみたいで隣のシュウを大きく振り向くと不機嫌そうに目を配る。

「悪い」
(軽い気持ちで肩を砕かれたらたまったもんじゃねーんだよ。)

ジロっと後ろを睨むとシュウは目を細めて、誤魔化す。自分の手の力ぐらい操ってもらわないと困るのに。

とにかくユウリはそのことを頭の隅に入れてギルドを後にした。



—————————

読んでくださる皆様ありがとうございますm(__)m
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