3 / 42
1-2
しおりを挟む
「…?」
———なんだ、こいつ。どっから湧いて出たんだ。
相手は何も言わない。だからユウリはかすかに頭を傾けた。
野生の勘がそうさせるのか、急に現れた怪しいやつにユウリはいつもの「ああ、こんにちは」みたいな雰囲気は出せなくて、しばらく沈黙が流れた。
しかし、わざわざ声をかけてくるぐらいだから、悪い人とは限らない。でもいったいどこから来たのやら、そこそこ深い森の中から現れるなんて、ユウリにとってそいつは怪しい以外の何物でもなかった。
———強盗、脱走、いやそれにしてはやはり服がきれいだな……。
一人で悶々と考え始めると、周りのことは目に入らなくなるのは癖だ。
「・・・おい、お前失礼なこと考えているだろ。」
男はいきなり口を開いたかと思うと、腕を組んでじっとこちらに目線をよこしながら、ユウリの心の中を見抜いたかのようにぶっきらぼうにそう言った。
「いや、失礼じゃない、多分」
「多分って、それは考えていたってことと一緒だろ」
男はクスクス笑う。
咄嗟にユウリは嘘をつこうとしたが、ユウリは嘘をつくことが苦手であったことを思い出す。言っていることと顔が一致していないのだとか。
だからユウリが嘘をつくと、嘘はうそにしか聞こえないのだ。男は何が面白かったのか、さらに笑いを強める。
「まあ、俺のことはどうでもいい、ところで、お前はどうしてこんな森の中にいるんだ?」
「そんなこと」と軽い言葉で終わらせるものでもない気がするが、ユウリは早く家につきたいと思っていたので、ひとまず気にすることをやめる。見たところ害のある人でもない。
まあ害があったところでやり返せばいいか。
ユウリは頭で考えるよりも行動するほうが得意だ。
足は負傷しているものの動かせないわけではないし、しっかりと剣は背中にあることを確認する。そう判断するとユウリはいまだ笑っている男に家まで連れて行ってくれるように頼んだ。
「じゃあつまりこまっているということであっているか?」
「ああ!だから手を貸してほしい!お礼はしっかりする!」
困っているって初めから言っているのに聞いてなかったのか?
男は話を聞いていなかったのか腕組みをしながら、頼ってもらえてうれしいとでもいうような顔で言う。
ユウリはその態度に少しイラっとして、叫ぶように男に返事をした。そのうえ、イラっとしたせいもあって普段から釣り気味できついと評される目が少しばかしきつくなってしまった。
変な笑い顔を向けるこの男が自分の表情一つで断るような狭量なやつだとは思わなかったが、いろんな人に関わるほど断られることだって少なくないのだ。そんな風に考えながらこの男と話すのが初めてではないくらい気軽なことに気づく。
———俺が今までいろいろな人ととってきたコミュニケーションの中でうまくいったものはあったっけ?
近所の女の子に顔が怖いって言われたこともあったし、初対面の人は必ず眉間にしわを寄せてユウリの態度にまず怒りを覚える。つまり俺のこんな顔にも優しく答えるこの男はきっといいやつなんだ。そう自己完結する。
ここで人を逃したらきっとしばらく、もしくは当分来ない。なにせここは人里から少し離れた森の中だ。ユウリは仕方がないので今さっきの態度を改めるべく愛想笑いでもして機嫌を取ろうと決心した。しかし普段から表情筋を動かさないせいか、頬の筋肉を動かすことができない。どんな時も練習が必要だと皆は言うが笑顔の練習なんてユウリはしたことはなくて、咄嗟に頬の筋肉に力を込めた。
———人が機嫌悪くなる理由は愛想が悪いからだ。
(俺だっていつまでもむかしのままじゃねえ。ちゃんと笑顔の練習だってしてるし。)
そう思ったユウリの顔は傍から見れば無理に力を入れすぎてこめかみがピクピクしていて喧嘩でも売っているのかと思うような顔になってしまっていたのだが。
男はそれを見ると笑っていた顔をさらに笑いを深めて、ますます大きな笑い声をあげた。
「はははっ!そんなに言わなくてもわかってる、お前を連れて行けばいいんだろ?」
一生懸命なユウリの気持ちが伝わったのか男は、そういうと手を木のほうにかざし、まるで腕のように枝を動かし始めた。
「俺は優しいからな」
木から何本か枝を受け取ると器用にユウリの足に巻き付けて固定した。
どうやらこの男は植物と仲がいいらしい。魔法は大体みんな詠唱するが、得意なものに関しては詠唱をしないでする人もいる。ユウリはこんな風に大胆に魔法を使う人を初めて見た。しかも植物となんて、めったに見れるもんじゃないなと得をした気持ちになった。
男はユウリに手を差し伸べると軽々と背負った。
一応成人した男であるユウリにとって広い背中は何か負けた気がした。
———なんだ、こいつ。どっから湧いて出たんだ。
相手は何も言わない。だからユウリはかすかに頭を傾けた。
野生の勘がそうさせるのか、急に現れた怪しいやつにユウリはいつもの「ああ、こんにちは」みたいな雰囲気は出せなくて、しばらく沈黙が流れた。
しかし、わざわざ声をかけてくるぐらいだから、悪い人とは限らない。でもいったいどこから来たのやら、そこそこ深い森の中から現れるなんて、ユウリにとってそいつは怪しい以外の何物でもなかった。
———強盗、脱走、いやそれにしてはやはり服がきれいだな……。
一人で悶々と考え始めると、周りのことは目に入らなくなるのは癖だ。
「・・・おい、お前失礼なこと考えているだろ。」
男はいきなり口を開いたかと思うと、腕を組んでじっとこちらに目線をよこしながら、ユウリの心の中を見抜いたかのようにぶっきらぼうにそう言った。
「いや、失礼じゃない、多分」
「多分って、それは考えていたってことと一緒だろ」
男はクスクス笑う。
咄嗟にユウリは嘘をつこうとしたが、ユウリは嘘をつくことが苦手であったことを思い出す。言っていることと顔が一致していないのだとか。
だからユウリが嘘をつくと、嘘はうそにしか聞こえないのだ。男は何が面白かったのか、さらに笑いを強める。
「まあ、俺のことはどうでもいい、ところで、お前はどうしてこんな森の中にいるんだ?」
「そんなこと」と軽い言葉で終わらせるものでもない気がするが、ユウリは早く家につきたいと思っていたので、ひとまず気にすることをやめる。見たところ害のある人でもない。
まあ害があったところでやり返せばいいか。
ユウリは頭で考えるよりも行動するほうが得意だ。
足は負傷しているものの動かせないわけではないし、しっかりと剣は背中にあることを確認する。そう判断するとユウリはいまだ笑っている男に家まで連れて行ってくれるように頼んだ。
「じゃあつまりこまっているということであっているか?」
「ああ!だから手を貸してほしい!お礼はしっかりする!」
困っているって初めから言っているのに聞いてなかったのか?
男は話を聞いていなかったのか腕組みをしながら、頼ってもらえてうれしいとでもいうような顔で言う。
ユウリはその態度に少しイラっとして、叫ぶように男に返事をした。そのうえ、イラっとしたせいもあって普段から釣り気味できついと評される目が少しばかしきつくなってしまった。
変な笑い顔を向けるこの男が自分の表情一つで断るような狭量なやつだとは思わなかったが、いろんな人に関わるほど断られることだって少なくないのだ。そんな風に考えながらこの男と話すのが初めてではないくらい気軽なことに気づく。
———俺が今までいろいろな人ととってきたコミュニケーションの中でうまくいったものはあったっけ?
近所の女の子に顔が怖いって言われたこともあったし、初対面の人は必ず眉間にしわを寄せてユウリの態度にまず怒りを覚える。つまり俺のこんな顔にも優しく答えるこの男はきっといいやつなんだ。そう自己完結する。
ここで人を逃したらきっとしばらく、もしくは当分来ない。なにせここは人里から少し離れた森の中だ。ユウリは仕方がないので今さっきの態度を改めるべく愛想笑いでもして機嫌を取ろうと決心した。しかし普段から表情筋を動かさないせいか、頬の筋肉を動かすことができない。どんな時も練習が必要だと皆は言うが笑顔の練習なんてユウリはしたことはなくて、咄嗟に頬の筋肉に力を込めた。
———人が機嫌悪くなる理由は愛想が悪いからだ。
(俺だっていつまでもむかしのままじゃねえ。ちゃんと笑顔の練習だってしてるし。)
そう思ったユウリの顔は傍から見れば無理に力を入れすぎてこめかみがピクピクしていて喧嘩でも売っているのかと思うような顔になってしまっていたのだが。
男はそれを見ると笑っていた顔をさらに笑いを深めて、ますます大きな笑い声をあげた。
「はははっ!そんなに言わなくてもわかってる、お前を連れて行けばいいんだろ?」
一生懸命なユウリの気持ちが伝わったのか男は、そういうと手を木のほうにかざし、まるで腕のように枝を動かし始めた。
「俺は優しいからな」
木から何本か枝を受け取ると器用にユウリの足に巻き付けて固定した。
どうやらこの男は植物と仲がいいらしい。魔法は大体みんな詠唱するが、得意なものに関しては詠唱をしないでする人もいる。ユウリはこんな風に大胆に魔法を使う人を初めて見た。しかも植物となんて、めったに見れるもんじゃないなと得をした気持ちになった。
男はユウリに手を差し伸べると軽々と背負った。
一応成人した男であるユウリにとって広い背中は何か負けた気がした。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く
小葉石
BL
今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。
10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。
妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…
アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。
※亡国の皇子は華と剣を愛でる、
のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。
際どいシーンは*をつけてます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
太陽を追いかける月のように
あらんすみし
BL
僕は、ある匿名SNSでフォロワーのFの死を知る。
僕がそのSNSを始めたとき、Fは職場の後輩との恋について幸せな投稿を綴っていて、僕はそれを楽しみに、羨ましく思っていた。
だが、そんな2人にも別れが訪れて、次第にFの投稿はたまに辛い心情を綴ったものばかりになる。
そして、その年の春の訪れと共にFの投稿は途絶えた。
日々の忙しなさに忙殺されていた僕が、Fの死を知ったのは夏も終わりに近づいたある日の別のフォロワーの投稿だった。
Fと親しくしていたそのフォロワーの報告で、Fのあとを追うように後輩君も亡くなったという。
2人に何が起きたのか、僕はその軌跡を辿ってみることにする。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる