オフトゥン使いの俺、パーティーを追放される。戦ってみたら最強だったが「オフトゥンが恋しいから帰ってきてくれ」とか言われたってもう遅い

加藤伊織

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オフトゥン使いの俺、勇者パーティーを追放される

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「パーネル、もうお前はこのパーティーにはいらない。無能なお前の代わりに有望な新人を入れるから、今日限りで出て行ってくれ」

 勇者と呼ばれるミルバーンの人を馬鹿に仕切った発言に、俺は唇を噛みしめた。
 最近、何かというと分け前が異様に減らされていたので、薄々こんな展開になるのではないかという予感はしていたのだ。

 大陸でも随一と言われる剣技の持ち主であるミルバーンの他にも、このパーティーには10歳にして王立魔導院に入学し13歳で卒業した天才魔術師のメリッサ、魔法と剣の二刀流で戦う元王宮騎士のウォーレンなど、名だたるメンバーが顔を揃えている。

 確かに、その中で俺は一段どころか三段、四段くらい実力不足だと思ってはいた。けれど、俺のユニーク魔法「オフトゥン」はこのパーティーを影から支えていたのは間違いなかったのに。
 
 オフトゥン――それは30センチは厚みがありそうなふっかふかの寝具を出現させる、俺だけにしか使えないユニーク魔法だ。その寝心地は雲の上に眠るかのような心地よさで、限界まで疲労困憊していても少し眠るだけで体力魔力共に最大値まで回復する。

 ……だが、それだけだ。

「だいたい、アンタのその魔法意味不明なのよ。ベッドもどきを出すだけじゃない。そりゃ、短時間で魔力が回復するのは便利だけど、それ以外は荷物持ちの役にしか立たないでしょ? あ、荷物持ちもいらないのよね。私の空間魔法があればホントにアンタってや・く・た・た・ず! キャハッ」

 金色のツインテールを揺らしてメリッサが嘲りの言葉を投げつけてくる。こいつは天才かもしれないけど、性格は最悪だ。そして、ウォーレンも冷たい目を俺に向けていた。

「お前の魔法は疲労する局面では確かに便利だ。だが、我々がそんな無茶な戦いをすることなどもうあり得ない。ならば、戦力を増やすのが合理的だろう。私はミルバーンに全面的に同意する」

「実はもう新メンバーも決まってるんだ。回復魔法のエキスパート、『聖女候補』のソーニャと言ったらお前も知ってるだろう?」

 その名前に俺は絶句した。ひたすらに戦場に身を置いて冒険者を癒やす聖女・ソーニャ。その名は誰でも知っている。二つ名が「聖女候補」なのは、まだ神殿から正式に聖女の称号を受けていないからだ。

「お待たせしました、勇者様」

 長い水色の髪を揺らし、ソーニャが現れる。それに俺は驚いた。だってここは迷宮の出口、「お待たせしました」なんて悠長な言葉を言いながら優雅に登場できる場所ではない。

「ソーニャ、他のメンバーはどうした?」
「あの思い上がりばかり激しい俗物共ですか? 迷宮の奥に置いてきましたわ。わたくしの回復魔法がなければろくに戦えないのに、いつも街では態度ばかり大きくて。さすがのわたくしも、腹に据えかねていたところでしたの。勇者様にお誘いいただけて嬉しいですわ」

 ソーニャがミルバーンにしなだれかかる。その姿は、俺が勝手にイメージしていた聖女――慈愛の化身とはほど遠くて、どこまでも生臭い女だった。

「と言うわけだ。まあ、餞別にこれくらいくれてやるよ。頑張って街まで生きて帰れよ」

 ミルバーンが俺の足元に鞘に収められた剣を投げてよこす。
 俺は、今まで短剣一本しか持たないできた。俺の武器は、周りの人間をサポートする「オフトゥン」だからだ。

 ……この剣がなければ、俺ひとりでは街まで生きて帰れない。それが現実。いや、ろくに使ったことのない剣があっても生還は厳しいかもしれない。

 無言で剣を拾い上げる俺に向けられる嘲りの視線。それに耐えきれず、俺は2年も旅を共にしてきた「元」仲間に背を向けて逃げ出した。


 迷宮遺跡のある森を抜ければ、街道に出る。それを道なりに歩けば一日ほどで街に着く。
 森を無事に抜けられれば、の話だが。
 俺は剣を鞘から抜き、鳥の羽音にもビクつきながら森を慎重に歩いていた。

 ガサリ、という音で慌てて振り向く。きっと森の獣だろうという気持ちが半分、モンスターだったらどうしようという気持ちが半分。
 そして、今回は嫌な方の予想が当たってしまった。

 ハッハッハ、という荒い息。微かな風に乗って血生臭い匂いが漂ってくる。
 俺が振り向いた先にいたのは、口から血の混じったよだれを垂らした巨大なヘルハウンドだったのだ。

「グルルル……」

 ヘルハウンドは低く唸りながら、俺を見定めているようだった。一撃で殺してやろうか、いたぶって遊ぼうか考えているんだろう
 まずい、あんなのに襲われたら死ぬ!
 俺が震える手で剣をヘルハウンドに向けると、奴はくい、と口角を上げた。オモチャを見つけた犬が遊んでと言うときの顔のように。――全く可愛くはなかったが。

 黒い巨体が俺めがけて飛びかかってくる。
 俺は恐怖に耐えきれず尻餅をつき、馴染んだ言葉を叫んでいた。

「お、オフトゥン!!」

 目の前に現れたのは巨大なオフトゥン。あああ、どうするんだ、俺! 今こんなものを出しても役に立たないのに!
 俺がひとりでパニックになっていると、オフトゥンに気付いたヘルハウンドはいそいそとその中に吸い込まれ、一瞬でプスプスと寝息を立て始めた。時々フゴッとか鼻を鳴らしている。

 俺は、それを呆然と見ていた。

 そうか、人だけじゃなく魔物もオフトゥンの魔力には抗えないのか……。
 なら、この隙に俺は逃げるべき――いや、違う。

 俺は尻餅をついた拍子に取り落とした剣を拾い上げた。
 オフトゥンで眠るヘルハウンドの、首筋を狙って剣を突き立てる。
 切り裂かれた首からは血が噴き上がる。だが、ヘルハウンドが目を覚ますことはなかった。
 頭から血を浴びながら、俺は何度もヘルハウンドに斬り付けた。本当に、ヘルハウンドが息絶えるまで。


 それ以来、俺はオフトゥンを利用した戦いで到底ソロでは倒せないはずのモンスターを次々と倒し、実力とランクを上げていった。
 当然いくつかのパーティーから勧誘は来たが、全て断っている。
 あの勇者パーティーのように、腐った人間関係に巻き込まれるのは二度とごめんだった。

 俺はこのユニーク魔法で、魔王をも倒してみせる。
 邪竜エキドナも古代龍も、オフトゥンの前では無力だったのだ。その素材を売り払い、装備を調えた俺は今では「オフトゥン使いの剣士パーネル」として名が通っている。


 酒場でひとりのんびりと豚肉の赤ワイン煮を食べながら酒を飲む。以前は食事は気の休まらない時間だったが、ひとりになった上に金に余裕もできて、その点随分と気楽になった。
 と、外からいやに騒がしい、がなり合うような声が聞こえてきて俺は顔をしかめた。

「あんなところで上級魔法連発する馬鹿がいるか! いたな、ここに!」
「なんですって!? アタシが馬鹿? じゃあアンタの脳みそなんてゾンビ以下よ! 補助魔法なしじゃ戦えない無能剣士のくせに!」
「くそっ、メリッサが魔力切れしなければ、強化した魔法剣であんな魔物……」
「もうっ! 勇者パーティーっていうからもっと強いと思ってたのに、こんなめちゃくちゃな戦いをしてるなんて思いませんでしたわ! もっと楽に稼げるって思ったのに!」

 お互いに罵倒しながら酒場に入ってきたのは、勇者ミルバーンのパーティーだった。
 今、俺が一番見たくない奴らだ。

 だが、俺は奴らに追放された身。もう無関係だと無視を決め込んでいたら、ミルバーンが俺に気付いて駆け寄ってきた。

「パーネル! ああ、ここで会えたのも神のお導きだ! 頼む、俺たちのパーティーに戻ってきてくれ! お前のオフトゥンがどれだけ凄かったかやっとわかったんだ!」
「そうよ! ああ、あの羽毛に埋もれるような素敵な寝心地……アンタの事役立たずとか言って悪かったわ。あのオフトゥンが忘れられないの」
「俺たちが全力で戦うためには、パーネルのオフトゥンが必要だった。頼む、この通りだ」

 俺の前で土下座するミルバーンとメリッサとウォーレン。ひとりソーニャだけが顔を歪ませて三人を見下ろしていた。

「俺は役立たずだからいらないんだろう?」
「そんなことない! 俺たちは心を入れ替えたんだ! 頼む、戻ってきてくれ!」
「パーティーの上限は4人だったよなあ? 俺の入る場所なんかないじゃないか。有望な回復魔法使いの聖女様もいることだし」
「回復魔法しか使えないクソ女の方こそ追放してやる! 回復魔法ならメリッサだって使える!」
「ちょっ、今なんて言いましたの!? このわたくしのことを、聖女ソーニャをよりにもよって『回復魔法しか使えないクソ女』ですって!?」
「本当のことだろうが!」

 また奴らは言い争いを始めた。俺は皿の上の肉の最後の一欠片を飲み込み、赤ワインで流し込むと席を立つ。

「悪いが、俺は誰とも組む気はないんでね。ああ、いつかの餞別の剣、返してやるよ。あの時はこれで助かったからな」

 腰に差していた2本の剣のうち、安っぽい方の剣を鞘ごとミルバーンの前に投げてやる。ミルバーンは、目から血が流れそうなほど顔を歪めて立ち去ろうとしている俺を睨んでいる。

「じゃあな、魔王倒してくるわ」
「おいっ、待ってくれ! 魔王討伐は勇者である俺の役目なんだ! 俺の面目が丸つぶれに! 頼む、俺と一緒に魔王を倒しに行ってくれよぉ!!」
「お前の都合なんか知るか」

 一言言い捨てると、俺は今度こそ酒場を後にした。
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みんなの感想(1件)

煌
2021.04.03

もうちょいと続きそうな

2021.04.03 加藤伊織

いえ、全力でタイトルだけのネタ小説なので、これで終わりです!

解除

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