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柚香の再修行の巻

第261話 新宿ダンジョン

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 朝食を食べて、猫たちに行ってきます、忘れるなよ!? と念押しし、パパに車で送ってもらって私とママはまず寧々ちゃんの家に向かった。

 颯姫さんからは「家から防具着てきた方がいいよ」と言われているので、防具の上にコートを着る。こういう時には布防具は本当に便利だね。ママは暗色迷彩の上にトレンチコート着てて、ある意味「正しい」とか思っちゃった。絶対それを狙ってるよね。

 寧々ちゃんへの連絡は昨日のうちに入れてある。配信を見てた寧々ちゃんからもメッセージが来てたし、凄い心配してくれてる。

「じゃあ、このアポイタカラ・セットアップは修理するね」

 既にお父さんを超えてしまった寧々ちゃんが、穴の空いた防具をチェックし始めた。
 それを見ていたら、ぴょこぴょことマユちゃんが来て私の顔をふんふんと嗅ぎ始めた。
 放し飼いなんだ……ウサギは家屋の破壊神って聞いたことがあるけど大丈夫なのかな。寧々ちゃんと通じ合ってるから、柱をかじったりとかはしないのかもなあ。

 でっかいウサギは可愛いなあって思いながら見てたら、ドタッと音がした。何事かと思ったら、マユちゃんがひっくり返ってお腹を私に向けている。おお、ウサギ名物不器用な寝転び方ってやつだね。
 これは、「モフっていいよ」ってこと? 転がってるからには遠慮なくモフるけどね!

「わー、毛がふわふわー! 大きくなった分毛が伸びてるから手触りが違って感じるね」
「でしょ!? 世の中のツノウサをテイムした人は絶対ここまで育てるべきだよね!」

 寧々ちゃんが「我が意を得たり!」って勢いで鼻息荒く詰め寄ってきたけど……。いや、それはどうかと思う。
 サモエドサイズのウサギを家で飼える人はあんまりいないよ。そもそも、ツノウサテイムしてる人の大半が、「大きさ的にちょうどいいから」って理由だもん。

「もしかして、ヤマトも存在進化してたら体が大きくなったのかなあ」
「ヤマトは大口真神だから、上位が存在しないと思うわよ。そもそもアグさんと特訓してたじゃない」

 私の思いつきの一言にママがマジレスしてきた! そうですね! 犬系の上位存在として大口真神はあるかもしれないけど、大口真神の上はなさそう。

 寧々ちゃんは防具がただ刺されて破けただけなのを確認すると、すぐに修理をしてくれた。これはフリークラフトでもカスタムクラフトでもなくて、レシピに「修理」っていうのがあるんだって。

「ありがとう、寧々ちゃん!」
「新宿ダンジョンは……いろいろ驚くと思うけど、LVは本当に上がるから頑張ってね」

 防具を畳んで渡されながら、すっごい真顔で念押しされた。
 何があるんだ、新宿ダンジョン……。

 今回の集合場所は新宿駅東口なので、茅ヶ崎駅で彩花ちゃんと、藤沢駅で蓮と聖弥くんと合流する。
 うちの場合車を使ってアイテムバッグに入れるとパパが困るだろうから送ってもらったんだけど、きっとライトニング・グロウの人たちは車だろうね。

 茅ヶ崎から新宿へは乗り換え無しの直通。私たちはあんまりお喋りする気分にもなれず、スマホをいじって時間を潰していた。

「ああっ! ログインボーナス! 連続ログインが途切れちゃう!」

 そんな悲鳴を上げたのはママで、高校生4人から「気にするところ、本当にそこでいいんですか?」という視線を向けられている。

「ママ……」
「わかってる、わかってるわよ! しょうがないことは! それより、元旦またぐから今年は年末年始本当に特訓だけね。ダンジョンから出たらお祖父ちゃんたちに電話くらいしなさいね」
「うん……あけましておめでとうって気分でもないけどね」

 それどころか、クリスマスも私たちにはないよ。
 はあ、付き合い始めて最初のクリスマスがダンジョンでレベリングとは。
 私はそれでも蓮と一緒だけど、聖弥くんとあいちゃんは不憫だなあ。でも聖弥くんは、「初めてのクリスマスはダンジョンに籠もることになっちゃって……アイリちゃんには本当に悪いことをしたと思ってるし、その埋め合わせはしっかりするつもりです」とかSNSで言いそう。そして同情を引いて株を上げるんだ。
 うわ、私も聖弥くんロジックが理解出来るようになってきてるよ……ヤバーい。

 茅ヶ崎駅の周りもだけど、新宿駅の周りはクリスマス一色だった。あちこちのビルから流れてくるクリスマスソングに、街路樹にはLEDライトが巻き付いてるし。

「ユズ、そんな顔しないの。私だってクリスマスライブ急遽欠席してきたんだから。みーたんにすっごい顔で睨まれたわよ。わざわざLIMEのテレビ通話で!」
「あ、あ、あ……クリスマスライブ! ママ今年ソロあるんじゃなかったっけ……」
「ヤマトには換えられないわよ。逆に私とアグさんに何かあったら、ユズもそういうことは放り出してでも来るでしょ」

 確かに……。ソロは代わりになってくれる人がいるけど、迷惑を掛けることにもなるけど、「私じゃないと助けにならない! 代わりはいない」って気持ちにはならないもんね。

「果穂さんの次のライブ、見てみたいです。夏のライブもすっごい良かったし。やっぱ歌は生で聴くのが一番だなあって」
「次ねー、いつかな? 大岡越前祭は間違いないけどね。野外じゃなくてホールでやるライブもちゃんと見せたかったわね。やっぱり歌ってて気持ちいいのはきちんと音響が設計されてるホールよ」

 蓮とママがそんな話をしていると、私たちの前に見慣れた白い車が停まった。そしていつものメンバーがぞろぞろと降りてくると車がライトさんのアイテムバッグにしまわれる。
 あまりの光景に、周囲を歩いてた人が二度見してた。気持ちはわかるよ!

「おはようー。ここからは近いんだけど、車で行くと逆に面倒だから歩いて行きましょう」

 颯姫さんはそう言って先頭を歩き出す。新宿駅から徒歩5分ほど、歌舞伎町の外れの一角に、辺りの景色と恐ろしくそぐわない見慣れたダンジョンの入り口があった。
 うわー、ダンジョンって割と空気読まない場所にあることも多いけど、これはまた別格の酷さ! 目の前映画館だしね。
 でも、ダンジョンハウスがないからまだマシか? あれがあったら場所を食うもんね。

 新宿ダンジョンは、見た目は他のダンジョンと変わらない。1層にモンスが出ないのも一緒。ここで私たちはコートを脱いで、装備を調えた。

「まずは5層まで行きましょう。ゆ~かちゃんは、できればなまくらの剣で戦って。防具補正があるから、それでも5層までのモンスは倒せると思うわ。そっちの5人でパーティー組んで、できるだけゆ~かちゃんに入る経験値は減らして」
「了解です。あ、そうだ、これも着けておこう!」

 アイテムバッグの中から、横須賀ダンジョンで宝箱から出た魔力の指輪を取り出して指に嵌める。
 LV10になるまでの魔力の成長率に補正が掛かるって奴ね。あの時は死にアイテムだと思ったけど、今はありがたい!
 昨日RSTに付いては特訓したし、これで魔力も前より上がるようになったらいいな。

「ちょっと待って、やらないよりマシだと思うから、一度ここで手合わせしとこ?」

 強さの鬼・彩花ちゃんの口からそんな言葉が出る。
 ……確かにやらないよりマシだけど……今のステータス差で戦うの怖いなあ。
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