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神を殺す武器の巻

第239話 12月の遊園地の罠

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 予想してたけど、遊園地混んでるわ!
 前売りのデジタルチケット買っておいたから、入場はスムーズだったけどね。

「ゆーちゃんゆーちゃん、イヤーカフ見せてツーショしよ?」
「うん、いいねー」
「撮ってあげようか?」
「こういうのは、くっついて自撮りするのがいいの!」

 またもや滑る聖弥くんの気遣い。
 ふたりでくっついてあいちゃんがスマホ構えて自撮りして、ふたりでお揃いの猫のイヤーカフ着けてるところを撮影。
 角度の関係で、私たちがどこにいるかまではこの写真じゃ特定できないね。

「アップしていい? ゆーちゃんと他の友達とお揃いって」
「いいよー。私にもちょうだい」
「おけおけ。……あ、繋がらん」
「どういうこと?」
「電波ちゃんと来てるっぽいのに、全然SNSに繋がらない」

 あいちゃんの言葉に、私含めて他の3人もスマホをいじってみる。
 ……うん、ネット壊滅だね!! 電波弱っ!

「多分、そんなに電波充実してないところにこの人の多さだから……」
「恐るべし、イルミネーション時期の遊園地」
「まあ今日はさ、なんかネタを拾ってSNSに投下しようと思わずに、普通に遊び倒そうよ。実況じゃなくて良かったねー」

 実況じゃなくて良かったはほんそれだけど、まあ、遊園地で実況はいろいろ問題があるよね。無関係の人が映りすぎるとかさ。

「まず何から行く?」
「混むから今のうちにメガグラビティ乗っちゃお」
「正気かよ……」
「遊園地には準備運動がないんだね……」

 オープン直後だからまだ列が短くて良かった。列に並んでる最中、私たちは「3人で来る遊園地」について話をしていた。

「もしもアイリちゃんが来られなかったりさ、Y quartet関係の企画で遊園地だったりしたら、アトラクションのだいたいで僕があぶれるんだよ……考えるとげっそりするよね」
「え? ふたりを前に並べて、蓮の悲鳴を私が後ろから実況するって流れもあり得るけど?」
「あー、目に浮かぶ」
「そもそも、私と蓮が並んでるところを配信しても何も面白くないじゃん。それはただの惚気じゃん? 視聴者さんが見たいのは、過剰に絶叫する蓮とそれに引き笑いする聖弥くんっていう組み合わせだよ」

 私が言い切ると、隣の蓮は頭を抱えて「おまえ……おまえ」と呻いていた。この反応は、大体私が思ったとおりの絶叫をするんだろうな。

「そもそもふたりは絶叫マシーン強いの?」
「俺は……乗れるけど、程度だな。回転ブランコとかエアサイクルとかに乗るくらいならシャトルループでも乗るけど」

 うん、蓮らしいな。エアサイクルを蓮が漕いでるところははっきりいって想像つかない。

「僕は普通に乗れるけど、あんまり叫んだりできなくて、黙ったまま終わっちゃうかな」
「あー、そうそう。スプラッシュマウンテンで写真撮られたときに、ひとりで真顔で写ってたよな」
「なにそれ、面白っ」

 聖弥くんの反応を想像したのか、あいちゃんが笑う。……うん、あいちゃんは聖弥くんのことを好きになってるわけじゃないけど、絶対嫌ってはいないよね。友達レベルには思ってるはずだよね。
 
 絶叫マシーン一発目、落差がヤバくて長いことで有名なこの遊園地の名物コースター・メガグラビティは、前の列に私と蓮、その後ろにあいちゃんと聖弥くんが並んで乗った。

 そして、存分に楽しんで降りたら、聖弥くんとあいちゃんがすっごい似た顔で私と蓮を睨んでいた……。

「ゆーちゃんと蓮くん、声でかすぎ! 耳痛い!」
「蓮、こんなところでボイトレの成果を発揮しなくていいんだよ!?」
「えっ……そんなに俺の声響いてた?」

 私は「きゃーーーーはははははー!」って悲鳴混じりの笑いを上げちゃうタイプなんだけど、蓮は「うっぎゃーーーーーーーーああああああああ!!」だったからなあ。
 確かに隣でも、蓮の悲鳴凄いなーとは思ったわ。

「次から前後交代だよ。蓮と柚香ちゃんは後ろ!」
「そうそう! じゃあ次はあっちいこ! ゆーちゃんと私の大好きなヒューストンもあるし」

 言うが早いが、あいちゃんは聖弥くんと一緒に私と蓮を振り向くことなくスタスタと歩き始めた。
 おや? 一緒にジェットコースターで同じ迷惑を掛けられた同志で意気投合したかな? これはいい傾向かも。
 
 その後は「待ち時間がヤバくなりがちなものからさっさと行こう」という作戦で、巨大ウォータースライダー的なタワーウォータースライドの列に並ぶ。
 高さ386メートルからの水が流れる半円のチューブのコースを円形のゴムボートで下るアトラクションで、途中に段差があってはねたり、円形なだけに向きが変わったりする奴だね。

 かれんちゃんは「この手のアトラクション、コースアウトしそうで怖い」って断固拒否で乗ってくれないんだよなあ。
 私たちは塔を登りながらずっとお喋りしてたけど、乗り場に近付くにつれて蓮の口数が少なくなってきた。

「これヤバい奴だろ……コースアウトしたら死ぬぞ」
「かれんちゃんと同じ事言ってる」
「蓮、絶叫マシーンは安全が保証されてるから楽しめるんだよ」

 聖弥くんの正論で蓮は覚悟を決めたようにゴムボートに乗り込んだけど――スタートして即最大音量の絶叫を上げ続けたと思ったら、途中でピタリと絶叫が止んだ。真向かいに座ってるあいちゃんが蓮を見てぷるぷるしてる。
 ちょっと無理な体勢になりつつ蓮を覗き込んでみたら――虚無顔で放心してる!

「ちょ、ちょっと休もうか」

 降りた後に聖弥くんが引き笑いをしながら、蓮に肩を貸して近くのベンチに運んでいた。
 彼女的にはここで大丈夫だった? とか優しい声を掛けるべきなんだろうけど、あまりの絵面の衝撃さに笑いしか出てこない。でも笑ったら蓮は絶対傷つくから、ほとぼりが冷めるまでちょっと離れなきゃ!
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