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神を殺す武器の巻

第238話 Wデートです

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 土曜日の朝、私は気合いを入れて身支度をしていた。
 トレードマークのポニーテールは今日はやめて、ママに編み込みにしてもらってそれをまとめて後ろ髪をすっきりアップに。
 ……ジェットコースターで長いポニーテールは、後ろの人に対する凶器だからね……。

 髪型がちょっと可愛くなりすぎたので服もそれに合わせようと思ったけど、あんまり可愛い系の服って持ってないなあ。この前みなとみらいに行った時に買えば良かった。
 スカートを選べばいいんだろうけど、私的に遊園地にスカートで行くのはナンセンス。ここはパンツルック一択だし、あいちゃんも絶対そうだ。

 クローゼットの前でうんうんと唸っていたら、察したママがやってきて白のスキニーと水色のセーター、それにショート丈のコートを並べて去って行った……と思ったら、でっかい裁縫箱を持ってきてセーターの裾に髪の毛をアップにするときに使ったリボンと同じ物をズバババっと通していって、サイドでリボン結びにしてった!

 コスプレイヤー、アレンジ能力凄い……。セーターだからこそできた技だけど、もしかしてこれトレーナーとかだったら「布に使える接着剤」とかで貼り付けられたのかもしれない。

 程ほどにガーリーになった服を着て、右手の小指に蓮とお揃いのピンキーリングを付けて、耳にはあいちゃんたちとお揃いの猫のイヤーカフを付ける。あと、もちろん蓮への誕生日プレゼントの片割れであるハートのペンダントもね。
 付けるものが……付けるものが多い!

 今日の目的地は、東京と神奈川の境目にある高低差の激しい遊園地。
 一応近場の中では、絶叫系のアトラクションが充実してるところだね。

 今回は相模線で橋本を経由していくのが早いから、待ち合わせは茅ヶ崎駅だ。
 まず最初に合流したのはあいちゃん。髪の毛がやっぱりアップになってる。今日は巻いたりしてない。……これは、ガチで絶叫マシーンを楽しみ尽くすつもりだ!!
 そして、私の予想通りのパンツルック。あいちゃんは私とちょっとしか身長が違わないのに足が長いから、横に並ばれると私の足が短く見える!

「ゆーちゃん、おはようー! あっ、ちゃんとイヤーカフ付けてきてる。偉い偉い」
「おはよう。あいちゃん、気合い凄いね……」

 私服では普段ガーリーな服装が多いあいちゃんが、珍しくチノパンとか穿いてアクティブだよ……。足下もがっつりスニーカーだし。

「あったり前でしょ? 午後6時まで遊び倒すよ!」

 クリスマスシーズンだから営業は遅くまでやってるんだけど、高校生だから親に「午後6時まで」って決められたんだよね……。まあ、そこから帰ってくるのにも1時間半はかかるから、仕方ないんだけど。

 東海道線ホームから蓮と聖弥くんが上がってきた。
 蓮はいつもとちょっと髪型変えて黒縁眼鏡掛けてるね。変装のつもりかも。本来もっと目立つ聖弥くんは何もアレンジしてないけど。
 私とあいちゃんが並んで待ってるのを見つけると、蓮は小走りに駆け寄ってきて私の顔をじっと見た。

「いつもと髪型違う。それも可愛いな」
「あ、ありがと」

 一言目にいきなり可愛いって言われて、頭がショートしかけたね。
 蓮ってクールキャラ目指してるんじゃなかったっけ?

「柚香ちゃんもアイリちゃんも可愛いよ。今日はたくさん遊ぼうね」

 聖弥くんは蓮に乗じて私を褒めつつ、さらっとあいちゃんに向かって「可愛い」って言ってるし。
 でも激鈍あいちゃんは「可愛い」は言われ慣れてるから「でしょ?」って笑っただけなんだなあー。うーん、空振り。

 それでも聖弥くん、ニッコニコだね。蓮は私のことを可愛いと言ったけど、浮かれてる感じはない。
 ……仕方ない、プレゼントはいつ渡すかタイミングを見計らうつもりだったけど、今のうちにご機嫌をアップさせておくか。

「蓮、誕生日おめでとう。これプレゼント」

 相模線に乗り込んですぐにバッグからラッピングされた小箱を出して蓮に渡すと、彼はそれを受け取りながらも驚いた顔をした。
 そりゃあ、誕生日プレゼントに欲しいものが「私の安全」って言われたけど、それはそれこれはこれだからさあ。

「開けてみて!」
「う、うん」

 ラッピングを解いてケースを開けた蓮は、シンプルかっこいいペンダントが収まってるのをみて「おお」と声を上げた。
 好みだろうなと思ったよ。これ単体だとクールだもんね。

「かっこいいじゃん。ありがとう」
「これと重なるんだよ」

 私が自分の付けてるハートのペンダントを見せると、蓮は自分のプレート部分に付いている曲線の意味を理解したらしくて、悶絶してた。

「やばい……可愛い」
「ペンダントが? かっこいいと思って選んだんだけどな」
「違う、柚香が可愛い」

 ……電車の中でそういうことを言うのは恥ずかしいと思わないのかなあ。
 私は恥ずかしくて赤くなったけど、公共の場で惚気られた事の方が理由としては大きい。

「あー、はいはい。ゆーちゃんはいつでも可愛いよ」
「蓮、惚気も程々にね」

 あいちゃんと聖弥くんにも呆れられつつ、蓮は服の中に入れてたピンキーリングのペンダントを外して、私がプレゼントしたペンダントを着けた。

「どう?」

 どう? って私に聞いてくるけど、もう顔がでろでろだもん。似合っても似合わなくても、関係ないんだよね。似合うけどさ!

「似合うよ。でも実は、これ見つけてくれたの彩花ちゃん」
「マジで? どういう風の吹き回しだよ」

 それまで上機嫌が振り切ってたのに、途端に蓮が顔を引きつらせた。

「もしかして、自分が柚香とお揃いにしたくて探したんじゃ?」
「いや……それが、ちゃんと蓮が着けることを前提で見てくれたみたい。彩花ちゃんとお揃いなのはこのイヤーカフの方だよ。しかもこれ、4人でお揃いにしたいって彩花ちゃんが言ったから、あいちゃんとかれんちゃんともお揃いなんだよ」
「あの時の彩ちゃん、いつもとちょっと違ったよね-」

 あいちゃんの証言も入って、あいちゃんと私のお揃いのイヤーカフを見せると、蓮と聖弥くんがなんとも言えない表情になった。

「俺、てっきり長谷部の内面って男なんだと思ってたけど、実はちゃんと見た目の通り女?」
「センシティブな問題だから触れないで来たんだけどね……もしかすると、今までは小碓王の意識が強すぎて、普通の女の子な彩花ちゃんの趣味とかは出にくかったのかも」
「え、なに? どういうこと?」

 実はまだ前世問題を話してなかったあいちゃんが身を乗り出してくる。
 あんまり前世がーとか電車の中では話したくないけど、私は彩花ちゃんのかなり昔の前世が日本武尊だということと、私は当時彼の妻で生け贄として死んだ弟橘媛だったことを小声でざっくり話した。

「ひえー、マンガみたい……。彩ちゃんのゆーちゃんへの溺愛加減は凄いと思ってたけど、そりゃ凄くもなるわ」

 話を聞き終えたあいちゃんは、感心しながらうんうんと頷く。

「あ、でもさ、彩ちゃんの内面は完全に女の子っていうか、少なくともゆーちゃんだけが特別なんであって、女の子が恋愛対象なわけじゃないよ」
「えっ、なんであいちゃんそんなことわかるの?」

 それ、私が密かに気にしてたことなんだよね。

「んー、だって彩ちゃん、女の子のことを性的な目で見てないもん。モデルやってるとさー、中学生であってもそういう目を向けられる事ってあるんだよ。でも彩ちゃんは一緒にお風呂入ったりしてても一切そういうところないじゃん? ゆーちゃんだって同性のスキンシップの枠を超えてなにかされたことある?」

 そういえば……ないかも。
 抱きしめられるのはしょっちゅうだったけど、キスされそうになったりとか、体を変な風に触られたりとか、そういうことは一切なかった。

「なかった。好き好き言われてたけど、結婚しようとか耳タコだけど、そういえばなかったよ」
「そこら辺は、彩ちゃんも前世の記憶にひきずられてるんじゃないかなあ」
「性的な目……」

 聖弥くんがあいちゃんからこっそり目を逸らしていたのは見逃さなかったからな!
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