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神を殺す武器の巻
第237話 ヤマトの真名
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翌日の業間休み、うちのクラスまで長田先輩が走ってきた。先生に見つかったら怒られるレベルの走りっぷりだけど、何も言われなかったみたいだ。
「柚香ちゃん! ちょっと来て!」
「は、はい!」
長田先輩の慌てっぷりに、私も釣られて慌てながら席を立つ。
「お兄ちゃんから連絡来たの。どっかビデオ通話できる場所……屋上の手前の階段だ!」
長田先輩は私の手を引いて、屋上へ向かう階段を上がっていく。屋上には鍵が掛かっていて入れないけど、手前までは行けるし案外人気もないんだよね。
うちのクラスは3階にあるから、中庭の四阿に行くよりもこっちの方が近い。
階段に私と並んで座り込むと、長田先輩はLIMEのビデオ通話をくるっくさんに架けた。すぐに応答があって映し出されたくるっくさんは、顔色悪いし目の下の隈が凄い……。
「今業間休みでそんなに時間ないから手短にね!」
長田先輩の厳しい言葉に頷くくるっくさんは、疲労の色が濃いのに目は爛々としていた。
『ゆ~かちゃん、突然だけど柴犬のDNAが一番オオカミに近いって知ってる?』
いきなりクイズかな? もちろん知ってるよ。これでも生物方面への進学を目指してるくらいだしね。
「はい、知ってます。見た目的には似てるハスキーとかより近いんですよね」
『ヤマトのDNAを解析した結果、柴犬ではなくて既に絶滅したニホンオオカミとほぼ一致したんだ。これがどういうことかわかる? ……いや、実際のところそうだろうと思って仮説を立てた俺にも納得しきれないんだけども』
「ヤマトは、見た目は柴犬だけど、ニホンオオカミ……のモンスターってことですか」
『うん、そういうことだね。根本的に俺らは勘違いしがちだったけど、ヤマトはそもそもモンスターなんだよね、従魔だから。だけど、あまりに柴犬らしくて、ついつい『ステータス的におかしい犬』だと思い込んでしまった。
そして、ダンジョンに出現するモンスターは神話や伝承に登場するものから名前が取られていることがほとんどだ。中には神をモデルにした物もいる。つまり、ヤマトの本当の種族は』
くるっくさんの言葉を、緊張しながら私は聞いていた。スマホを片手に持った彼は、レンズの前に1枚の紙を差し出して見せる。
そうか、それがヤマトの「真名」なんだ!
『日本に於けるニホンオオカミの神格化、大口真神。俺は、これがヤマトの本当の種族だと思う』
「し、調べてみます!」
自分のスマホを操作し、ダンジョンアプリからヤマトのステータスを見る。
――ヤマトの種族は今まで【柴犬?】になっていたのに、【大口真神】へと変化していた。
「か、変わってます! 確かに大口真神って書いてある!」
『ヤマトがダンジョンで顕現したとき、おそらく最初はマナ溜まりからゆ~かちゃんを助けたときのように尻尾の巻いてないニホンオオカミの姿だったんじゃないかと思う。確認を取る方法はないけどね。でも、それがゆ~かちゃんの中では一番柴犬に似ていたから柴犬と認識されてしまったんじゃないかな。だけど今ゆ~かちゃんは「大口真神」という概念を知った。それで情報のアップデートがされたってこと』
「そ、そうかも……」
はっきり言ってそこまで覚えてない! 遠目に「犬だ!」と思ったのは覚えてる。小さい耳とかで外見的に柴犬だって私の脳が判断したのかも知れないし、ヤマト自身が絶滅した種族よりも現代にもいる犬種に寄せてきた可能性もある。
ひとつだけはっきり言えるのは、「大口真神」って存在を私が今初めて知ったことだよ。
『柴犬は神としては祀られてないからね。ダンジョンにいるモンスターは神話や伝説に登場するものという法則に当てはめると、ニホンオオカミであるヤマトは『大口真神』になるんだ。
そのヤマトという名前も、偶然だろうけど奇妙な一致があってね。日本武尊が東征したとき、道に迷ったところを案内した白狼が大口真神という伝承が残ってるんだよ』
存じております……。あの時の私がヤマトと付けたのが、今までゲームで柴犬に和風な名前として「ヤマト」と「タケル」って付けてたせいでもあるんだけど、そもそもそれも「ヤマトタケル」に繋がっちゃうんだよね。
深層心理って怖いなあ。
私がなんとごまかそうか悩んでいると、スマホの向こうのくるっくさんが大あくびをした。
『あー、すっきりした! あの日の仮説が証明できて本当にすっきりしたよ! じゃ、俺はもう寝るから!』
「はい! おやすみなさい!」
怒濤の勢いで通話が切れた。通話が終わってからも、私の胸は鼓動が早い。
今目の前にいないはずのヤマトと自分が、テイマーと従魔として繋がってるのがはっきりとわかる。もしかして、大口真神という真名を知ったから?
私の言うことをちゃんと聞いてくれなかったのも、種族をまともに把握してない中途半端なマスターだったからなのかもしれない。
私は改めてヤマトのステータスを見てみた。
ヤマト LV29
HP 522/522
MP 232/232
STR 464
VIT 580
MAG 203
RST 232
DEX 464
AGI 754
種族 【大口真神】
マスター 【ゆ~か】
うん、【柴犬?】なんてクエスチョンマークの付いた種族名じゃなくて、はっきりとした種族名だ。そっか、ニホンオオカミの神格化された神様の名前は大口真神っていうんだね。
過去の記憶のせいで「神使の狼」って認識してたから、モンスターとしての種族名が違うなんて思いつかなかった。
……って、あれ?
ヤマトのステータス、妙に上がってるー!? これも真名を把握したからー!?
「柚香ちゃん! ちょっと来て!」
「は、はい!」
長田先輩の慌てっぷりに、私も釣られて慌てながら席を立つ。
「お兄ちゃんから連絡来たの。どっかビデオ通話できる場所……屋上の手前の階段だ!」
長田先輩は私の手を引いて、屋上へ向かう階段を上がっていく。屋上には鍵が掛かっていて入れないけど、手前までは行けるし案外人気もないんだよね。
うちのクラスは3階にあるから、中庭の四阿に行くよりもこっちの方が近い。
階段に私と並んで座り込むと、長田先輩はLIMEのビデオ通話をくるっくさんに架けた。すぐに応答があって映し出されたくるっくさんは、顔色悪いし目の下の隈が凄い……。
「今業間休みでそんなに時間ないから手短にね!」
長田先輩の厳しい言葉に頷くくるっくさんは、疲労の色が濃いのに目は爛々としていた。
『ゆ~かちゃん、突然だけど柴犬のDNAが一番オオカミに近いって知ってる?』
いきなりクイズかな? もちろん知ってるよ。これでも生物方面への進学を目指してるくらいだしね。
「はい、知ってます。見た目的には似てるハスキーとかより近いんですよね」
『ヤマトのDNAを解析した結果、柴犬ではなくて既に絶滅したニホンオオカミとほぼ一致したんだ。これがどういうことかわかる? ……いや、実際のところそうだろうと思って仮説を立てた俺にも納得しきれないんだけども』
「ヤマトは、見た目は柴犬だけど、ニホンオオカミ……のモンスターってことですか」
『うん、そういうことだね。根本的に俺らは勘違いしがちだったけど、ヤマトはそもそもモンスターなんだよね、従魔だから。だけど、あまりに柴犬らしくて、ついつい『ステータス的におかしい犬』だと思い込んでしまった。
そして、ダンジョンに出現するモンスターは神話や伝承に登場するものから名前が取られていることがほとんどだ。中には神をモデルにした物もいる。つまり、ヤマトの本当の種族は』
くるっくさんの言葉を、緊張しながら私は聞いていた。スマホを片手に持った彼は、レンズの前に1枚の紙を差し出して見せる。
そうか、それがヤマトの「真名」なんだ!
『日本に於けるニホンオオカミの神格化、大口真神。俺は、これがヤマトの本当の種族だと思う』
「し、調べてみます!」
自分のスマホを操作し、ダンジョンアプリからヤマトのステータスを見る。
――ヤマトの種族は今まで【柴犬?】になっていたのに、【大口真神】へと変化していた。
「か、変わってます! 確かに大口真神って書いてある!」
『ヤマトがダンジョンで顕現したとき、おそらく最初はマナ溜まりからゆ~かちゃんを助けたときのように尻尾の巻いてないニホンオオカミの姿だったんじゃないかと思う。確認を取る方法はないけどね。でも、それがゆ~かちゃんの中では一番柴犬に似ていたから柴犬と認識されてしまったんじゃないかな。だけど今ゆ~かちゃんは「大口真神」という概念を知った。それで情報のアップデートがされたってこと』
「そ、そうかも……」
はっきり言ってそこまで覚えてない! 遠目に「犬だ!」と思ったのは覚えてる。小さい耳とかで外見的に柴犬だって私の脳が判断したのかも知れないし、ヤマト自身が絶滅した種族よりも現代にもいる犬種に寄せてきた可能性もある。
ひとつだけはっきり言えるのは、「大口真神」って存在を私が今初めて知ったことだよ。
『柴犬は神としては祀られてないからね。ダンジョンにいるモンスターは神話や伝説に登場するものという法則に当てはめると、ニホンオオカミであるヤマトは『大口真神』になるんだ。
そのヤマトという名前も、偶然だろうけど奇妙な一致があってね。日本武尊が東征したとき、道に迷ったところを案内した白狼が大口真神という伝承が残ってるんだよ』
存じております……。あの時の私がヤマトと付けたのが、今までゲームで柴犬に和風な名前として「ヤマト」と「タケル」って付けてたせいでもあるんだけど、そもそもそれも「ヤマトタケル」に繋がっちゃうんだよね。
深層心理って怖いなあ。
私がなんとごまかそうか悩んでいると、スマホの向こうのくるっくさんが大あくびをした。
『あー、すっきりした! あの日の仮説が証明できて本当にすっきりしたよ! じゃ、俺はもう寝るから!』
「はい! おやすみなさい!」
怒濤の勢いで通話が切れた。通話が終わってからも、私の胸は鼓動が早い。
今目の前にいないはずのヤマトと自分が、テイマーと従魔として繋がってるのがはっきりとわかる。もしかして、大口真神という真名を知ったから?
私の言うことをちゃんと聞いてくれなかったのも、種族をまともに把握してない中途半端なマスターだったからなのかもしれない。
私は改めてヤマトのステータスを見てみた。
ヤマト LV29
HP 522/522
MP 232/232
STR 464
VIT 580
MAG 203
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DEX 464
AGI 754
種族 【大口真神】
マスター 【ゆ~か】
うん、【柴犬?】なんてクエスチョンマークの付いた種族名じゃなくて、はっきりとした種族名だ。そっか、ニホンオオカミの神格化された神様の名前は大口真神っていうんだね。
過去の記憶のせいで「神使の狼」って認識してたから、モンスターとしての種族名が違うなんて思いつかなかった。
……って、あれ?
ヤマトのステータス、妙に上がってるー!? これも真名を把握したからー!?
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