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神を殺す武器の巻
第233話 村雨丸の理由は
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「なんで俺の誕生日にふたりでデートじゃなくて4人で遊園地なんだよ……」
「今の状況でふたりでいると湿っぽくなるからだよ! 現に! 今! 蓮泣いたじゃん!」
蓮が思い切り不満そうに言うから、私は真実を叩きつけてやった。
ガーン、という効果音が背景に描いてあるかのように目を見開いて驚く蓮。
そして、彼はまたしおしおとうなだれたかと思ったら、急にがばりと顔を上げた。
「……俺、今なら『I LOVE YOU』が更に一段階上の完成度で歌える気がする! 果穂さんに言ってくるわ」
「はいはい、じゃあ戻ろうか」
凄い勢いで階段を降りて行く蓮の背中を見ながら、思わず笑いが漏れてしまった。
初めてキスして、3分も経たないうちにこうだもんね。
「果穂さん! 俺、『I LOVE YOU』を録り直したいです! 絶対前より良くなる自信があります!」
「え? ええ? それはいいけど、どうしちゃったの蓮くん」
泣いた跡の残る顔を隠しもせずに勢い込んで宣言する蓮に、ママの方が驚いてる。
「蓮が今度の土曜日誕生日だっていうから、どうせダンジョンも行けないし、聖弥くんとあいちゃん誘って4人で遊園地行こうかって言ったら拗ねちゃって……」
「しかもその理由が、『ふたりきりだと湿っぽくなるから』って言うんですよ、こいつは!」
「だってー、誕生日に欲しいものがあるって言うから訊いたら『おまえの安全』とか言うしさ……。重いでしょ! 心配してくれるのも、実際危なかったのもわかるけど」
わあ、私たちを見つめる彩花ちゃん以外の目が生温かーい。
「若いっていいねえ」
「アオハルしてるぅー」
タイムさんと颯姫さんの腹黒アラサーコンビが、菩薩のような微笑みでこっち見てるよ。
「あ、茶化してるわけじゃないの。私に青春なかったなあっていうか、自分のこの10年に思いを馳せちゃってね……」
「藤さんはいつでも青春ど真ん中でしょ」
「まあ、目標とやってることから考えたらそうかもしれないけどね」
颯姫さんの目標って何なんだろうなあ。強くなることが目標って人もいるみたいだけど、この人はそうじゃない気がする。
「じゃあ蓮くんの方は平日にスタジオ録って再録しましょ。……っと、その前に、どんな感じに変わったか歌ってもらっていい?」
「わかりました」
蓮は息を吸って目を閉じて、それからアカペラで歌い出した。……このさあ、歌い出す前に一瞬目を閉じるのがどうも集中するときの癖みたいなんだけど、この顔好きなんだよね。特にこの曲歌ってるときは、凄く切ない顔でいつもの蓮とは雰囲気が違うし。
蓮が「変わった」っていうのは、私を失い掛けたこととか、初めてキスしたこととか、そういうことが影響してるんだと思う。特に前者。
前にこの曲のことをラブソングなのに壊れかけてる感じがするって言ったことがあるんだけど、それが深まってる。
いつ壊れてもおかしくない、若いふたりの恋。そこに「でも好きなんだ」って気持ちがより強く載せられてて、今にも切れそうなロープを必死に掴んでる感じがする。
気がついたら、また私は涙を流してた。
颯姫さんも五十嵐先輩も彩花ちゃんも泣いてた。パパに至ってはダバァっと泣いてた。
蓮が歌い終わると、ママが拍手して、それにみんなの拍手が重なる。
「やっぱり蓮くんは感情の引き出しがたくさんあった方がいいのよ。ユズが危ない目に遭って、今までより切迫した気持ちが引き出しの中に入ったのね。よし、再録よ!」
「なんか蓮は、遠いところに行っちゃった気がするよ」
しみじみと呟く聖弥くんにママのチョップが入る。仕方ないね。私でもチョップしてるわ。
「聖弥くんは歌の道を選ばなかったんだからそんなこと言わないの。私の見立てでは聖弥くんの方が一般受けはするから再デビューは早いと思うわ。ボーイズコンテスト頑張ってね」
「はい……そうですね。これからは爽やかさを押し出して腹黒腹黒言われないように気を付けないと」
「それは無理だと思う……」
「うん、無理だと思う」
「諦めて。ほら、替わりに遊園地のことでも考えようよ。あいちゃんに訊いてみるからさ」
「前から薄々思ってたけど、みんなの僕に対する扱い、酷いよね」
あ、とうとうやさぐれた。でも聖弥くんへの扱いがこうなのは、完全に自業自得だよね。
「そういえば……多分だけど、どうしてユズの武器が村雨丸なのかもわかったわよ」
スマホでスタジオの予約をしようとしていたママが、ブラウザを開こうとして直前に見ていたサイトに気づいて突然そんなことを言った。
「えっ!? どうして?」
「弟橘媛は入水して亡くなったの。海の神への生け贄って事ね。これは神の花嫁になったことも意味するのよ。おそらくだけど、ユズにはその影響で水の属性が付いてるんだわ。
縁って不思議ねえ。それで、結局ユズはその弟橘媛を祀ってる橘木神社の地元で生まれたわけよ。あそこは旧国名で言うと上総になるんだけど、安房だけじゃなくてあの一帯が里見八犬伝ゆかりの地ってことになるわね。房総という地の縁と、水属性という繋がりから村雨丸が出てきたと想像するのはおかしくないんじゃないかしら」
「しかも名前も『柚香』じゃん!? 橘も柚子もつながってるよね?」
彩花ちゃんが興奮して叫んで、その場の全員が「ほぉ~」とため息をついた。
ママのオタク考察凄い……。そうか、村雨丸ってそう考えると私に凄く繋がりがあるんだ。
見た目は岡田切だし、完全に私に寄せてきてるよね。
私の名前が柚香なのは、ちょうど柚子の時期だったからってのと、ママもパパも柚子が好きだからって前に聞いたけど……彩花ちゃんの言う「繋がり」も一理あるね。
「私は! 私はなんで角材なんですか!」
「それはわかんなーい」
「藤さんが『力isパワー』の人だからじゃないの?」
「僕の武器がエクスカリバーなのは!?」
「名前に聖が入ってるからだったりして」
興奮した颯姫さんにママが軽く返し、タイムさんが茶々を入れ、聖弥くんまで話題に載ってきて、ちょっとした騒ぎになった。
「今の状況でふたりでいると湿っぽくなるからだよ! 現に! 今! 蓮泣いたじゃん!」
蓮が思い切り不満そうに言うから、私は真実を叩きつけてやった。
ガーン、という効果音が背景に描いてあるかのように目を見開いて驚く蓮。
そして、彼はまたしおしおとうなだれたかと思ったら、急にがばりと顔を上げた。
「……俺、今なら『I LOVE YOU』が更に一段階上の完成度で歌える気がする! 果穂さんに言ってくるわ」
「はいはい、じゃあ戻ろうか」
凄い勢いで階段を降りて行く蓮の背中を見ながら、思わず笑いが漏れてしまった。
初めてキスして、3分も経たないうちにこうだもんね。
「果穂さん! 俺、『I LOVE YOU』を録り直したいです! 絶対前より良くなる自信があります!」
「え? ええ? それはいいけど、どうしちゃったの蓮くん」
泣いた跡の残る顔を隠しもせずに勢い込んで宣言する蓮に、ママの方が驚いてる。
「蓮が今度の土曜日誕生日だっていうから、どうせダンジョンも行けないし、聖弥くんとあいちゃん誘って4人で遊園地行こうかって言ったら拗ねちゃって……」
「しかもその理由が、『ふたりきりだと湿っぽくなるから』って言うんですよ、こいつは!」
「だってー、誕生日に欲しいものがあるって言うから訊いたら『おまえの安全』とか言うしさ……。重いでしょ! 心配してくれるのも、実際危なかったのもわかるけど」
わあ、私たちを見つめる彩花ちゃん以外の目が生温かーい。
「若いっていいねえ」
「アオハルしてるぅー」
タイムさんと颯姫さんの腹黒アラサーコンビが、菩薩のような微笑みでこっち見てるよ。
「あ、茶化してるわけじゃないの。私に青春なかったなあっていうか、自分のこの10年に思いを馳せちゃってね……」
「藤さんはいつでも青春ど真ん中でしょ」
「まあ、目標とやってることから考えたらそうかもしれないけどね」
颯姫さんの目標って何なんだろうなあ。強くなることが目標って人もいるみたいだけど、この人はそうじゃない気がする。
「じゃあ蓮くんの方は平日にスタジオ録って再録しましょ。……っと、その前に、どんな感じに変わったか歌ってもらっていい?」
「わかりました」
蓮は息を吸って目を閉じて、それからアカペラで歌い出した。……このさあ、歌い出す前に一瞬目を閉じるのがどうも集中するときの癖みたいなんだけど、この顔好きなんだよね。特にこの曲歌ってるときは、凄く切ない顔でいつもの蓮とは雰囲気が違うし。
蓮が「変わった」っていうのは、私を失い掛けたこととか、初めてキスしたこととか、そういうことが影響してるんだと思う。特に前者。
前にこの曲のことをラブソングなのに壊れかけてる感じがするって言ったことがあるんだけど、それが深まってる。
いつ壊れてもおかしくない、若いふたりの恋。そこに「でも好きなんだ」って気持ちがより強く載せられてて、今にも切れそうなロープを必死に掴んでる感じがする。
気がついたら、また私は涙を流してた。
颯姫さんも五十嵐先輩も彩花ちゃんも泣いてた。パパに至ってはダバァっと泣いてた。
蓮が歌い終わると、ママが拍手して、それにみんなの拍手が重なる。
「やっぱり蓮くんは感情の引き出しがたくさんあった方がいいのよ。ユズが危ない目に遭って、今までより切迫した気持ちが引き出しの中に入ったのね。よし、再録よ!」
「なんか蓮は、遠いところに行っちゃった気がするよ」
しみじみと呟く聖弥くんにママのチョップが入る。仕方ないね。私でもチョップしてるわ。
「聖弥くんは歌の道を選ばなかったんだからそんなこと言わないの。私の見立てでは聖弥くんの方が一般受けはするから再デビューは早いと思うわ。ボーイズコンテスト頑張ってね」
「はい……そうですね。これからは爽やかさを押し出して腹黒腹黒言われないように気を付けないと」
「それは無理だと思う……」
「うん、無理だと思う」
「諦めて。ほら、替わりに遊園地のことでも考えようよ。あいちゃんに訊いてみるからさ」
「前から薄々思ってたけど、みんなの僕に対する扱い、酷いよね」
あ、とうとうやさぐれた。でも聖弥くんへの扱いがこうなのは、完全に自業自得だよね。
「そういえば……多分だけど、どうしてユズの武器が村雨丸なのかもわかったわよ」
スマホでスタジオの予約をしようとしていたママが、ブラウザを開こうとして直前に見ていたサイトに気づいて突然そんなことを言った。
「えっ!? どうして?」
「弟橘媛は入水して亡くなったの。海の神への生け贄って事ね。これは神の花嫁になったことも意味するのよ。おそらくだけど、ユズにはその影響で水の属性が付いてるんだわ。
縁って不思議ねえ。それで、結局ユズはその弟橘媛を祀ってる橘木神社の地元で生まれたわけよ。あそこは旧国名で言うと上総になるんだけど、安房だけじゃなくてあの一帯が里見八犬伝ゆかりの地ってことになるわね。房総という地の縁と、水属性という繋がりから村雨丸が出てきたと想像するのはおかしくないんじゃないかしら」
「しかも名前も『柚香』じゃん!? 橘も柚子もつながってるよね?」
彩花ちゃんが興奮して叫んで、その場の全員が「ほぉ~」とため息をついた。
ママのオタク考察凄い……。そうか、村雨丸ってそう考えると私に凄く繋がりがあるんだ。
見た目は岡田切だし、完全に私に寄せてきてるよね。
私の名前が柚香なのは、ちょうど柚子の時期だったからってのと、ママもパパも柚子が好きだからって前に聞いたけど……彩花ちゃんの言う「繋がり」も一理あるね。
「私は! 私はなんで角材なんですか!」
「それはわかんなーい」
「藤さんが『力isパワー』の人だからじゃないの?」
「僕の武器がエクスカリバーなのは!?」
「名前に聖が入ってるからだったりして」
興奮した颯姫さんにママが軽く返し、タイムさんが茶々を入れ、聖弥くんまで話題に載ってきて、ちょっとした騒ぎになった。
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