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ダンジョンの謎とヤマトの謎の巻

第223話 封印の理由

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 基本的には高所に陣取り、下にいる敵は蓮の魔法で、同じ位置にいる敵は白兵戦で倒す。ヤマトだけはその高機動で上下自由に移動できるから、遊撃兵的に戦っていた。……言うことを聞かなかったともいう。

 高所にはライトさんとタイムさん、低所には颯姫さんとバス屋さんがいて、ヤマトや蓮が倒したモンスのドロップを拾ってくれていた。

「……さて、どうしよう、4層に行く?」

 3層のモンスもほとんど倒してしまって、颯姫さんがそんな質問を私たちに投げかけてくる。
 4層からは海マップなんだよね……。私は颯姫さんからも「海に近付くな」って言われてるからそれは守るけども。

「下に行こう! モンスター的には江ノ島ダンジョンと変わらないから対処しやすいだろうし。私は海に近付かない」

 蓮と聖弥くんに向かって宣言すると、カメラに映らない位置で彩花ちゃんも真剣な顔で頷いていた。

「ここでリスポーンするエルダーゴーレムを狙って、ヒヒイロカネ集めるのも悪くないけどね」

 肩に槍を担いだバス屋さんがそんな提案をする。確かにそれはちょっと心惹かれるけど、上位互換のアポイタカラで装備を揃えちゃった私たちにはあんまり意味がないんだよね。
 あ、売れるという点ではいいかな。蓮と聖弥くんは絶賛貯金中だしね。

「まあ、下行こうぜ。前回2層だけで帰っちゃったし」
「そうだね、エリアが変わった方が、見ててくれてる人も変化出て楽しいよね」

 ふたりも賛成してくれたので、私たちは高台から降りて3層への階段へと向かった。端っこの方にやっぱり抜け道があって、高所に敵がいなくて不意打ちの危険性が少ないから颯姫さんとバス屋さんはそっちから抜けてくる。

「4層なんだけど、海以外に端っこの方にマナ溜まりがあるから気を付けて。規模は……鎌倉ダンジョンよりちょっと大きいくらいかな」
「わかりました」

 颯姫さんの注意に私は頷く。端っこにマナ溜まりねぇ……。あれも危ないっちゃ危ないけど、落ちようと思って落ちられるものじゃないよね。小さいから。

 そして4層への階段を私たちは下る。そこに広がっていたのは白い砂浜と青い海……と、砂丘!!
 やっぱり段差あるんじゃーん!! というか、この階段から出たところが既に高台だよ。

『横須賀ダンジョンは砂丘あるのか……鳥取ダンジョンだけかと思ってた』
『徹底してるw』
『横須賀って海のイメージだけどそんなに山なの?』

 コメントも困惑気味だね。気持ちは凄くわかるよ……。
 しかしまあ、4層目にもなると若干慣れてくるね。蓮が下にいるモンスターをある程度片付けてから、聖弥くんと一緒に降りて行った。

 私は高台の端まで行ってもう少し地形を把握しようと、周囲を探りながら歩く。五十嵐先輩と彩花ちゃんは私の側に付いてるね。

「一応周囲の確認ね。マナ溜まりとかも位置確認しておかないと危ないかもしれないし」
「そうだね。高所から見ておくのは賛成」

 彩花ちゃんも今日はずっと真面目モードだな。――と私が思っていたとき。

 まるで、私たちの戦力が分割されるのを待っていたかの様に、あの白い服の少女が五十嵐先輩の後ろに姿を現した。

 突然のことに、五十嵐先輩がヒュッと喉を鳴らす。それを一瞥もせず、前回のように私に寄り添うヤマトにひたりと視線を注ぎながら彼女はゆっくり歩いてくる。

「我が主よ。此度こそ、御身をそのくびきから解き放ちましょうぞ」
「やめろ、その人に手を出すことは許さない」

 彩花ちゃんが女の子と私の間に剣を抜いて割り入ってくる。ヤマトも敵意をむき出しにして唸っている。
 それに対して、僅かに女の子は哀れむ様な表情を浮かべた。

「ミコ様までもが何故……我が主との繋がりはその程度のものなのですか?」
「そういうことじゃない! ヤマトはゆずっちを選んだ。今世のボクとは縁が繋がらなかったってことなんだ。ヤマトが今不幸そうに見えるか?」
「……許さない。気高き我が主をしもべとして許されるのはミコ様のみ」

 ……よくわからないけど、どうも本来のヤマトの主人は彩花ちゃんってことらしい。この女の子は、ヤマトが彩花ちゃん以外の人間に仕えていることが許せないって事なのか。

「おまえさえいなければ!」

 目に狂気の色を浮かべ、女の子が私に襲いかかってくる。――私は咄嗟に村雨丸を抜けず、自分の手でその突進を受け止めようとした。

「やめろ!」

 躊躇いなく彩花ちゃんが剣を抜いて女の子に斬りかかる。けれど、剣はその体をすり抜けた!
 物理攻撃が効かない!? 動画に映ってなかったのも、影がないのも、霊体か何かだからなの!?

「くっ……」

 体当たりされて、私は後ろに何歩か下がった。見た目から想定してたのよりも力が強い!

「ガウッ!」

 ヤマトが必死の形相で女の子の足に食らい付く。けれどそれもまるで霞に攻撃している様に通用しない。なのに、私を押すこの力は何!?

只人ただびとのおまえなど、消えてしまえ!!」
「何を言う、神使の使つか如きが!」

 彩花ちゃんが厳しい声で止めようとするけども、私はじりじりと崖の際に追い詰められていった。
 私が力負けする? そんなの普通は考えられないけど――。
 下は砂地。いや、違う、この真下は黄色く波打つマナ溜まりだ!

 あそこに落ちたらまずい。無事でいられた人は今までいなかったって聞いてる。
 頭の冷静な一部はそう警鐘を鳴らすけど、今の私には為す術がない。足を掛けて投げ飛ばそうとしても、その足がすり抜ける!

「撫子ォ! 許さぬぞ!」

 彩花ちゃんの掲げた剣が赤く輝く。肌を刺す様なビリビリとした怒りが私にも伝わってくる。
 ヤマトは私のスパッツに噛みついてなんとか引き戻そうとしてる。

 けれど。
 それらの抵抗は功を成さず、私の体は崖の上から落ちていった。
 砂地に叩きつけられることもなく、液体の様な、そうではないような黄色いマナ溜まりの中に沈んでいく。

 そうか、初めからあの女の子はこれが目的だったんだ。

 がぼり、と口から空気が泡になって逃げて行く。
 水面に向かって伸ばした手は何を掴むこともできず、水底から伸びた手が私の体を掴んで引き寄せているかの様に私は沈んでいく。

 苦しい。息ができない。吐いた空気の代わりに「何か」が体の中に入り込んできて体中が痛い。

 ああ……何かを思い出し掛けながらも「これ以上思い出しちゃいけない」って何度も思った理由、わかった。
 それは私が、以前死んだときの記憶だからだ……。
 記憶の最後は苦しみに満ちた死で終わっていたから、私はそれを思い出すことを拒んだんだ。
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