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ダンジョンの謎とヤマトの謎の巻
第201話 誰ぞ、主や
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「――我が主よ。何故、そのような者に仕えていらっしゃるのですか」
見た目の幼さに反して、キリリとした声は相手に向かって強い非難を感じさせる。
……てか、誰に向かって言ってるの!?
「江ノ島ダンジョンの時の……」
「ねえ、あなたは何物なの? 前にも私たちの前に出て来たよね」
蓮もすぐに女の子の存在に気づき、聖弥くんは油断なく盾を構え、あいちゃんは口に手を当てている。多分、大声上げそうになったのを我慢したんだと思う。
「影が……ない」
やっぱりそこ気づくんだねー!? 私前に見たとき気づかなかったけど!
ダンジョンの中はエリアによって明るさが違うけど、木を伐採しきってしまったこのフロアでは影がはっきりできるほどの明るさがある。
その中で、やっぱり影のない女の子がひとりで現れるのは異様としか言いようがない。
「主よ! 何故、何故何もお言葉をくださらないのですか!」
悲痛なほどの叫び声が胸に突き刺さる。その視線はこっちを向いてて――違う。
私に向いてるんじゃない。私に向いてたら眼が合うはず。でも女の子の視線は僅かに下がってて。
主、と呼びかけられているのは、ヤマトだった。
『なんだ? 誰かと話してる?』
『他のパーティーか?』
あれ? おかしいな、画角的に映ってるはずなんだけど、視聴者さんは気づいてない?
「あそこに、3層の階段に向かう途中に女の子がいて……」
『何も映ってないぞ』
『喋ってる? 声も入ってない』
『やめてぇぇぇぇぇぇ』
『ホラーやめろ! ドッキリだよな!?』
「映ってない!? 幽霊でもないのに」
蓮がロータスロッドを構えて私を背に庇う。うっ、ビビりの蓮が彼女を守ろうと逞しくなって! ……とか感動してる場合ではなく。
「……その娘のせいなのですか、あなた様が捕らわれているのは。偽りの主に仕えてはミコ様もさぞかし無念でしょう」
きっ、と女の子の目が今度こそ私を捉えた。ひたり、と素足が地面を踏みしめて一歩こちらに踏み出す。
「おまえさえいなければ……おまえさえ」
「グルルル……ワンッ!」
怨念の籠もった声が私に向けられたかと思ったら、歯をむき出しにしたヤマトが私と女の子の間に割って入った。
それ以上私に近寄ったら容赦しないと言わんばかりの威嚇に、女の子は目を見開いて驚く。――そして、またもやふっと姿を消した。
「消えた」
「なにあれぇぇぇぇ!!」
消えるところを初めて見た聖弥くんとあいちゃんはすっごい驚いてる。
私と蓮は2回目だからそんなに驚かなかった。
それよりも、ヤマトだよ。
ヤマトは女の子が消えたのを見ると、私のところへ戻ってきて、後脚で立ち上がって太ももの辺りをポンポンしてきた。可愛いいいいいいいいいい。
じゃなくて!
「ヤマト……あの子は、ヤマトのことを知ってるの?」
私に尋ねられてヤマトは……へっへっへと舌を出して、私の足をぽんぽんと……あ、これ「おやつください」の合図だわ。
とりあえず犬用ビスケットを取り出してあげると、尻尾を振りながらボリボリと食べ始める。
うーん? ヤマトがなんらかの鍵を握ってそうなんだけど、喋ったりしないからさっぱりわからないよ。
「あいつ、明らかにヤマトを見てたよな」
「うん、それで私に向かって『おまえさえいなければ』って。ヤマトが私を庇ったから、驚いて消えたけど……うーん、わけがわからないよう」
「ねー、ゆーちゃん! 今の子何!? 意味がわからないんだけど」
「ヤマトに向かって『主』って言ってたみたいだけど」
あいちゃんと聖弥くんは、私と蓮に輪を掛けて「わけわからん」って状態だ。
『ちょっと待て、話についていけない』
『画面には映ってなかったけど、誰かいたって事?』
「あ。やっぱり映ってなかったんだ……。いたんですよ、小学校低学年くらいで、おかっぱ頭の裸足の女の子が。多分ヤマトに向かって『主』って呼びかけてて、私に向かって『おまえさえいなければ』って……あの年齢相応の表情じゃなかった。影もなかったし」
私が説明すると、コメント欄が凄い勢いで悲鳴に埋め尽くされていった。
蓮曰く幽霊じゃないということなんだけど、だったらカメラに映らないって何なんだろう。影がないことと関係してるのかな……。
「どうしようか、これから」
「うーん、これから下っていくのもなんか怖いね」
「でもまだ1時間くらいしか経ってないし……」
「LV確認していい?」
ちょっと薄気味悪いし、このまま進むのも躊躇するよねって話し合ってるとあいちゃんがスマホでLVをチェックし始めた。
「うほっ! 7も上がってるー! さすが上級ダンジョン!」
『ウホはやめろ』
『アイリゴリラ』
『やめろ、ヘビを素手でぶちのめしたのと相まって、アイリゴリラが脳内に定着する』
んんっ! とあいちゃんは咳払いして、画面をじっとりと睨んだ。「ウホッ」が次々に流れていくのを見てむきーってなってるね。
さて、私は……と。
うわっ、上がってる! いくら1層丸々敵を倒しきったからって、4も上がってるとは思わなかった!
ゆ~か LV31
HP 228/228(+250)
MP 36/36(+170)
STR 62(+165)
VIT 66(+150)
MAG 11(+95)
RST 11(+100)
DEX 90(+185)
AGI 96(+165)
スキル 【初級ヒール】
ジョブ 【テイマー】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】【村雨丸】【オリハルコン・ヘッドギア】
従魔 【ヤマト】
LV30越えたかー。ちょっと驚きだなあ。
いや、私たち補正のせいで戦力飽和って言われてるし、蓮がコンボを覚えたり私も技量が付いたりしてきて強くなってきてるけどさ、上級で戦うには多分これでもLV低いんだよね。だからこんなに勢いよくLVアップしたんだし。
「……なんか、今日はもう終わりにしていい様な気がしてきた」
気分的にもスッキリしないし、LVも予想以上に上がったしね。ドロップも結構拾ったからいいお金になるはずなんだ。
「んー、俺も賛成」
「一旦ダンジョン出て、諏訪大社にお参りしようか。時間はあるから、上社と下社全部回れそうだし」
「そうだね、お参りしてお蕎麦食べて帰ってもいいよー。この層まるっと全滅させたのは間違いないし」
他の3人も賛成みたいだね。……多分、得体の知れない存在に遭遇したことで、これ以上進むのをためらう気持ちもあると思う。
「じゃあ、一旦配信はここで終わりにします。この後は着替えてから観光を配信かな。それでいい?」
「私はいいよ」
蓮と聖弥くんも頷いているので、一度配信を終了させて私たちは地上に出た。
ダンジョンハウスで着替える前にドロップの換金をしてもらったんだけど、なんと100万の大台を超えたよ! 結構な数を倒したからなあー。
あいちゃんがクラフト用に素材になるアルミラージの角が欲しいって言うから渡して、後は全員の口座に4等分して振り込んでもらった。
ふう……予想外のことが起きちゃったけど、気分切り替えて観光するか。
見た目の幼さに反して、キリリとした声は相手に向かって強い非難を感じさせる。
……てか、誰に向かって言ってるの!?
「江ノ島ダンジョンの時の……」
「ねえ、あなたは何物なの? 前にも私たちの前に出て来たよね」
蓮もすぐに女の子の存在に気づき、聖弥くんは油断なく盾を構え、あいちゃんは口に手を当てている。多分、大声上げそうになったのを我慢したんだと思う。
「影が……ない」
やっぱりそこ気づくんだねー!? 私前に見たとき気づかなかったけど!
ダンジョンの中はエリアによって明るさが違うけど、木を伐採しきってしまったこのフロアでは影がはっきりできるほどの明るさがある。
その中で、やっぱり影のない女の子がひとりで現れるのは異様としか言いようがない。
「主よ! 何故、何故何もお言葉をくださらないのですか!」
悲痛なほどの叫び声が胸に突き刺さる。その視線はこっちを向いてて――違う。
私に向いてるんじゃない。私に向いてたら眼が合うはず。でも女の子の視線は僅かに下がってて。
主、と呼びかけられているのは、ヤマトだった。
『なんだ? 誰かと話してる?』
『他のパーティーか?』
あれ? おかしいな、画角的に映ってるはずなんだけど、視聴者さんは気づいてない?
「あそこに、3層の階段に向かう途中に女の子がいて……」
『何も映ってないぞ』
『喋ってる? 声も入ってない』
『やめてぇぇぇぇぇぇ』
『ホラーやめろ! ドッキリだよな!?』
「映ってない!? 幽霊でもないのに」
蓮がロータスロッドを構えて私を背に庇う。うっ、ビビりの蓮が彼女を守ろうと逞しくなって! ……とか感動してる場合ではなく。
「……その娘のせいなのですか、あなた様が捕らわれているのは。偽りの主に仕えてはミコ様もさぞかし無念でしょう」
きっ、と女の子の目が今度こそ私を捉えた。ひたり、と素足が地面を踏みしめて一歩こちらに踏み出す。
「おまえさえいなければ……おまえさえ」
「グルルル……ワンッ!」
怨念の籠もった声が私に向けられたかと思ったら、歯をむき出しにしたヤマトが私と女の子の間に割って入った。
それ以上私に近寄ったら容赦しないと言わんばかりの威嚇に、女の子は目を見開いて驚く。――そして、またもやふっと姿を消した。
「消えた」
「なにあれぇぇぇぇ!!」
消えるところを初めて見た聖弥くんとあいちゃんはすっごい驚いてる。
私と蓮は2回目だからそんなに驚かなかった。
それよりも、ヤマトだよ。
ヤマトは女の子が消えたのを見ると、私のところへ戻ってきて、後脚で立ち上がって太ももの辺りをポンポンしてきた。可愛いいいいいいいいいい。
じゃなくて!
「ヤマト……あの子は、ヤマトのことを知ってるの?」
私に尋ねられてヤマトは……へっへっへと舌を出して、私の足をぽんぽんと……あ、これ「おやつください」の合図だわ。
とりあえず犬用ビスケットを取り出してあげると、尻尾を振りながらボリボリと食べ始める。
うーん? ヤマトがなんらかの鍵を握ってそうなんだけど、喋ったりしないからさっぱりわからないよ。
「あいつ、明らかにヤマトを見てたよな」
「うん、それで私に向かって『おまえさえいなければ』って。ヤマトが私を庇ったから、驚いて消えたけど……うーん、わけがわからないよう」
「ねー、ゆーちゃん! 今の子何!? 意味がわからないんだけど」
「ヤマトに向かって『主』って言ってたみたいだけど」
あいちゃんと聖弥くんは、私と蓮に輪を掛けて「わけわからん」って状態だ。
『ちょっと待て、話についていけない』
『画面には映ってなかったけど、誰かいたって事?』
「あ。やっぱり映ってなかったんだ……。いたんですよ、小学校低学年くらいで、おかっぱ頭の裸足の女の子が。多分ヤマトに向かって『主』って呼びかけてて、私に向かって『おまえさえいなければ』って……あの年齢相応の表情じゃなかった。影もなかったし」
私が説明すると、コメント欄が凄い勢いで悲鳴に埋め尽くされていった。
蓮曰く幽霊じゃないということなんだけど、だったらカメラに映らないって何なんだろう。影がないことと関係してるのかな……。
「どうしようか、これから」
「うーん、これから下っていくのもなんか怖いね」
「でもまだ1時間くらいしか経ってないし……」
「LV確認していい?」
ちょっと薄気味悪いし、このまま進むのも躊躇するよねって話し合ってるとあいちゃんがスマホでLVをチェックし始めた。
「うほっ! 7も上がってるー! さすが上級ダンジョン!」
『ウホはやめろ』
『アイリゴリラ』
『やめろ、ヘビを素手でぶちのめしたのと相まって、アイリゴリラが脳内に定着する』
んんっ! とあいちゃんは咳払いして、画面をじっとりと睨んだ。「ウホッ」が次々に流れていくのを見てむきーってなってるね。
さて、私は……と。
うわっ、上がってる! いくら1層丸々敵を倒しきったからって、4も上がってるとは思わなかった!
ゆ~か LV31
HP 228/228(+250)
MP 36/36(+170)
STR 62(+165)
VIT 66(+150)
MAG 11(+95)
RST 11(+100)
DEX 90(+185)
AGI 96(+165)
スキル 【初級ヒール】
ジョブ 【テイマー】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】【村雨丸】【オリハルコン・ヘッドギア】
従魔 【ヤマト】
LV30越えたかー。ちょっと驚きだなあ。
いや、私たち補正のせいで戦力飽和って言われてるし、蓮がコンボを覚えたり私も技量が付いたりしてきて強くなってきてるけどさ、上級で戦うには多分これでもLV低いんだよね。だからこんなに勢いよくLVアップしたんだし。
「……なんか、今日はもう終わりにしていい様な気がしてきた」
気分的にもスッキリしないし、LVも予想以上に上がったしね。ドロップも結構拾ったからいいお金になるはずなんだ。
「んー、俺も賛成」
「一旦ダンジョン出て、諏訪大社にお参りしようか。時間はあるから、上社と下社全部回れそうだし」
「そうだね、お参りしてお蕎麦食べて帰ってもいいよー。この層まるっと全滅させたのは間違いないし」
他の3人も賛成みたいだね。……多分、得体の知れない存在に遭遇したことで、これ以上進むのをためらう気持ちもあると思う。
「じゃあ、一旦配信はここで終わりにします。この後は着替えてから観光を配信かな。それでいい?」
「私はいいよ」
蓮と聖弥くんも頷いているので、一度配信を終了させて私たちは地上に出た。
ダンジョンハウスで着替える前にドロップの換金をしてもらったんだけど、なんと100万の大台を超えたよ! 結構な数を倒したからなあー。
あいちゃんがクラフト用に素材になるアルミラージの角が欲しいって言うから渡して、後は全員の口座に4等分して振り込んでもらった。
ふう……予想外のことが起きちゃったけど、気分切り替えて観光するか。
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