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ダンジョンの謎とヤマトの謎の巻
第198話 放任主義ってこういうことですか
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翌週の日曜、一度うちに集まったメンバーは車で柳川家の自家用ヘリポートへ向かった。
なんと、私もヘリ見るの初めてなんだよね。
茅ヶ崎の山の方(山ないけど)にあるヘリポートまで車で15分くらい。そこで私たちが見た物は、ちゃんとした格納庫まで設置されたヘリポートだった。
「……パパ、どのくらいお金掛けたの……土地まで買って……」
「はは、全部ユズに相続するから大丈夫だよ」
大丈夫じゃないよ。預金の桁を直視しない様にしながらも、特に贅沢三昧とかせずにきてるのに。
いくら私が一時的にお金持ちになったからって、こんな勢いでお金使われたら困るよねぇぇぇ!
「パパはこれ以上の買い物禁止ー!」
「ユズ、本気で殴るんじゃない! 怪我するから!」
「いや、殴りたくなるのも仕方ないっつーか」
「私もこれはびっくり」
蓮も聖弥くんもあいちゃんも呆れ顔じゃん!
「キャンピングカーも一千万でしょ!? その駐車場にする土地も買うんでしょ!? 誰のお財布から出たと思ってるのよー! こどものお金を親が使い込むんじゃない!」
「訴訟起こすならうちの父に相談しようか?」
聖弥くんの薄笑いも、今は私の味方だね。
思わずブチ切れちゃったけど、今日の目的地である長野の諏訪ダンジョンに行くには車では時間が掛かりすぎる。
私はちょっとモヤモヤが解消できないまま、ヘリに乗り込んだ。……ヘリに乗ること自体は楽しみだったんだよ。パパが掛かったお金をごまかそうとしなければさ。
ヤマトは今日は万が一暴れたりしない様にキャリーケースの中だ。ヤマトがうちに来た頃からママが慣らしてくれてたから、キャリーの中でお利口にしてる。
計器をチェックして、パパがヘリを操縦する。ちょっとの振動の後でヘリは垂直に浮き上がり、高度を上げていった。
「わっ、ここから海が見える」
ヘリポートは北峰高校の裏の方だったんだけど、学校は高台にあってもさすがに海は見えなかったんだよね。ヘリからだと相模湾が見えるよ。
「思ったより揺れないね」
あいちゃんも窓に張り付いて外を見てる。というか、パパ以外の4人は全員それやってるわ。見るでしょ! ヘリに乗ったらさ!
ヘリは渋滞も信号もない空を、すいすいと進んでいく。
丹沢山地を越え、甲府盆地を越え、長野県へ。そして、眼下にキラキラ光る諏訪湖が見えて完全に私の機嫌が直った頃、その高度を落とした。
――わずかに40分ほど。確かにこれは早い。
「じゃあ、パパはここで待ってるから行ってきなさい」
ヘリポートで降りた途端にそう言われて、またもや目が点になる。
長野で、すぐ側に諏訪湖があるってことはわかるけど、それ以上の事はわからないのに!
「じゃあ、タクシー呼ぼう。どうしてもダンジョンの側にヘリは降りられないしね。帰りもここまでタクシーで帰ってくればいいよ」
聖弥くんがタクシー会社を検索して、すぐに手配してくれた。犬がいることも、こちらが4人であることも伝えてる。手慣れてるなあ。
「こんにちワンコー!Y quartetのダンジョン配信です! 今日は長野の諏訪ダンジョンにやって参りましたー! ヘリで! ヘリで来たの! パパがヘリ買っちゃったんだよー! 信じられなーい!!」
ダンジョンに着いたら着替えて準備して、配信開始。今日からダン配でも頭部防具付けてるんだけど、あいちゃんの分がないんだよね。サポーター用に一個追加注文しておかなきゃ。
『こんにちワンコー!』
『いきなり愚痴から始まった』
『諏訪ダンジョンか……とうとう上級なんだな』
『アイリちゃんがいる!』
『行動範囲が広がったのはいいことじゃん』
「やほやほー、アイリでーす! 今日はダンジョンエンジニアとして来たよー」
メイクバッチリ、髪の毛は緩く巻いてるあいちゃんがカメラに向かって猫を被ったまま手を振る。着ているのは私の防具のピンクの方。私は黄色のだから、今日は完全にお揃いだね。
『アイリって戦えるのか?』
『冒険者科だとは聞いてたけど、アイリちゃんとダンジョンという組み合わせが意外』
うん、前にあいちゃんとコラボ動画やったこともあるし、私たちの関係については割と知ってる人がいるね。
「アイリ、多分武器持たせると俺より強いぞ」
「それは蓮がクラス最弱だからだよ。でも、女子の中でもかなり強い方なのは間違いないよね」
嘘偽りのない真実を蓮と聖弥くんが言うと、あいちゃんがそっちを向いてニコッと笑った。――そしてふたりは黙り込む。無言の圧を掛けられたな、「強いとか言ってイメージ崩すな」って。
実際、あいちゃんはクラフトの中では一番強いんだけどね……。
「今日はあいちゃんを戦わせるつもりはないからね。予備の武器もないし。まあ、いざとなったら前みたいにプリトウェンぶん回してもらっても」
「なんでバラすの! あの盾振り回して戦ったことを!」
しまった! 口が滑っちゃったよ! すかさず怒りの表情のあいちゃんにヘッドロックを掛けられた!
『というわけで、アイリの猫が剥がれるところまでが1セットのお約束だな』
『上級ダンジョンで猫を被れなんて言わないから』
なんか、あいちゃんが猫を被ってるのは本当に周知の事実なんだね。「猫が剥がれるまでが1セット」まで言われると草ですわ。
「今日の目標は5層だけど、僕は上級ダンジョン初めてだからゆっくり行って欲しいな」
「そうだな、俺は文化祭期間中に江ノ島ダンジョン行ったけど、シーサーペントが上陸してきてビビった」
うちのクラスでも上級ダンジョン経験者は私と蓮と彩花ちゃんだけだね。
今日は無理せずのんびり経験値を稼いで敵に慣れよう。そして帰りは信州そばを食べて帰ろう!
『あー、シーサーペントな』
『上級初めてだとビビるだろうけど、あいつら地上も動けるぞ。地上の方がのたのたしてるから倒しやすい』
『実際のウミヘビも地上行動できる種類がいるよ』
蓮が語ったシーサーペント上陸事件について、視聴者さんから続々と情報が!
シーサーペントって陸上行動できるんだね!? あの時だけじゃなかったんだ!
なんと、私もヘリ見るの初めてなんだよね。
茅ヶ崎の山の方(山ないけど)にあるヘリポートまで車で15分くらい。そこで私たちが見た物は、ちゃんとした格納庫まで設置されたヘリポートだった。
「……パパ、どのくらいお金掛けたの……土地まで買って……」
「はは、全部ユズに相続するから大丈夫だよ」
大丈夫じゃないよ。預金の桁を直視しない様にしながらも、特に贅沢三昧とかせずにきてるのに。
いくら私が一時的にお金持ちになったからって、こんな勢いでお金使われたら困るよねぇぇぇ!
「パパはこれ以上の買い物禁止ー!」
「ユズ、本気で殴るんじゃない! 怪我するから!」
「いや、殴りたくなるのも仕方ないっつーか」
「私もこれはびっくり」
蓮も聖弥くんもあいちゃんも呆れ顔じゃん!
「キャンピングカーも一千万でしょ!? その駐車場にする土地も買うんでしょ!? 誰のお財布から出たと思ってるのよー! こどものお金を親が使い込むんじゃない!」
「訴訟起こすならうちの父に相談しようか?」
聖弥くんの薄笑いも、今は私の味方だね。
思わずブチ切れちゃったけど、今日の目的地である長野の諏訪ダンジョンに行くには車では時間が掛かりすぎる。
私はちょっとモヤモヤが解消できないまま、ヘリに乗り込んだ。……ヘリに乗ること自体は楽しみだったんだよ。パパが掛かったお金をごまかそうとしなければさ。
ヤマトは今日は万が一暴れたりしない様にキャリーケースの中だ。ヤマトがうちに来た頃からママが慣らしてくれてたから、キャリーの中でお利口にしてる。
計器をチェックして、パパがヘリを操縦する。ちょっとの振動の後でヘリは垂直に浮き上がり、高度を上げていった。
「わっ、ここから海が見える」
ヘリポートは北峰高校の裏の方だったんだけど、学校は高台にあってもさすがに海は見えなかったんだよね。ヘリからだと相模湾が見えるよ。
「思ったより揺れないね」
あいちゃんも窓に張り付いて外を見てる。というか、パパ以外の4人は全員それやってるわ。見るでしょ! ヘリに乗ったらさ!
ヘリは渋滞も信号もない空を、すいすいと進んでいく。
丹沢山地を越え、甲府盆地を越え、長野県へ。そして、眼下にキラキラ光る諏訪湖が見えて完全に私の機嫌が直った頃、その高度を落とした。
――わずかに40分ほど。確かにこれは早い。
「じゃあ、パパはここで待ってるから行ってきなさい」
ヘリポートで降りた途端にそう言われて、またもや目が点になる。
長野で、すぐ側に諏訪湖があるってことはわかるけど、それ以上の事はわからないのに!
「じゃあ、タクシー呼ぼう。どうしてもダンジョンの側にヘリは降りられないしね。帰りもここまでタクシーで帰ってくればいいよ」
聖弥くんがタクシー会社を検索して、すぐに手配してくれた。犬がいることも、こちらが4人であることも伝えてる。手慣れてるなあ。
「こんにちワンコー!Y quartetのダンジョン配信です! 今日は長野の諏訪ダンジョンにやって参りましたー! ヘリで! ヘリで来たの! パパがヘリ買っちゃったんだよー! 信じられなーい!!」
ダンジョンに着いたら着替えて準備して、配信開始。今日からダン配でも頭部防具付けてるんだけど、あいちゃんの分がないんだよね。サポーター用に一個追加注文しておかなきゃ。
『こんにちワンコー!』
『いきなり愚痴から始まった』
『諏訪ダンジョンか……とうとう上級なんだな』
『アイリちゃんがいる!』
『行動範囲が広がったのはいいことじゃん』
「やほやほー、アイリでーす! 今日はダンジョンエンジニアとして来たよー」
メイクバッチリ、髪の毛は緩く巻いてるあいちゃんがカメラに向かって猫を被ったまま手を振る。着ているのは私の防具のピンクの方。私は黄色のだから、今日は完全にお揃いだね。
『アイリって戦えるのか?』
『冒険者科だとは聞いてたけど、アイリちゃんとダンジョンという組み合わせが意外』
うん、前にあいちゃんとコラボ動画やったこともあるし、私たちの関係については割と知ってる人がいるね。
「アイリ、多分武器持たせると俺より強いぞ」
「それは蓮がクラス最弱だからだよ。でも、女子の中でもかなり強い方なのは間違いないよね」
嘘偽りのない真実を蓮と聖弥くんが言うと、あいちゃんがそっちを向いてニコッと笑った。――そしてふたりは黙り込む。無言の圧を掛けられたな、「強いとか言ってイメージ崩すな」って。
実際、あいちゃんはクラフトの中では一番強いんだけどね……。
「今日はあいちゃんを戦わせるつもりはないからね。予備の武器もないし。まあ、いざとなったら前みたいにプリトウェンぶん回してもらっても」
「なんでバラすの! あの盾振り回して戦ったことを!」
しまった! 口が滑っちゃったよ! すかさず怒りの表情のあいちゃんにヘッドロックを掛けられた!
『というわけで、アイリの猫が剥がれるところまでが1セットのお約束だな』
『上級ダンジョンで猫を被れなんて言わないから』
なんか、あいちゃんが猫を被ってるのは本当に周知の事実なんだね。「猫が剥がれるまでが1セット」まで言われると草ですわ。
「今日の目標は5層だけど、僕は上級ダンジョン初めてだからゆっくり行って欲しいな」
「そうだな、俺は文化祭期間中に江ノ島ダンジョン行ったけど、シーサーペントが上陸してきてビビった」
うちのクラスでも上級ダンジョン経験者は私と蓮と彩花ちゃんだけだね。
今日は無理せずのんびり経験値を稼いで敵に慣れよう。そして帰りは信州そばを食べて帰ろう!
『あー、シーサーペントな』
『上級初めてだとビビるだろうけど、あいつら地上も動けるぞ。地上の方がのたのたしてるから倒しやすい』
『実際のウミヘビも地上行動できる種類がいるよ』
蓮が語ったシーサーペント上陸事件について、視聴者さんから続々と情報が!
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