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ダンジョンの謎とヤマトの謎の巻

第196話  話すことが山ほどある

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 配信が終わって庭を片付けると、パパとママがリビングで待機してた。いや、さっきパスタを作ってたときも待機してたんだけど、スマホで配信の方見てたんだよね。

「とりあえず3人ともそこに座って」

 ううっ、ママが怖いよ……。いや、怒ってる様には見えないんだけど、「どう出てくるかわからない」っていうのが怖い。

 私と蓮と聖弥くんはダイニングテーブルに。パパとママはリビングのソファに座って、体を斜めにして向かい合う。

「さっきも言いましたけど、柚香と付き合ってます」
「蓮と付き合うことにしました」

 ふたり揃って頭を下げると、ママは「いや、それはいいんだけど」と軽く言った。

「それはいいのよ。親が口出しすることじゃないし、むしろ柚香の親としては蓮くんは安心だわ。よく知ってる相手だしね。さっき配信見てた涼子さんからも絶叫メッセージが届いたけど、『柚香ちゃんなら嬉しい』って言ってたわよ」

 あ、そこもOKなんだ。というか私、蓮の親にも聖弥くんの親にも気に入られてるんだよね。
 やっぱり危ないところを助けて、その後ずっとサポートしてるのは心証いいらしくて。

「問題はねえ、一般的にアイドルの色恋沙汰って歓迎されないところなのよね。ファンにも柚香にも誠実でいようという姿勢の表れだとはわかってるけど……」

 頬杖を突いて眉間に皺を寄せるママ。パパは隣でうんうん頷いてる。

「すみません、それについては僕から説明していいでしょうか」

 聖弥くんが挙手してくれた! ありがたい! これについては本当に聖弥くんが話した方が説得力あるんだよね。

「聖弥くんから? どうぞ」

 ママも一瞬怪訝そうな顔をしたけど、聖弥くんに話の続きを促す。

「まず、昨日モブさんから女性関係のスキャンダルで降板した俳優がいるって話を聞いて、蓮は悩んでました。蓮は柚香ちゃんのことを好きだって僕にはっきり言ったことはなかったけど、柚香ちゃんのことを考えてるんだなっていうのはすぐわかって。――僕がSE-RENとして合流したときには、もう蓮と柚香ちゃんの関係はできあがってる様に見えてたんです。それくらい、長く友達やってる僕から見たら、蓮の柚香ちゃんに対する態度は特別でした」
「ああ……女性スキャンダルの話ね……そう、あれはとんでもない痛手になるのよ。まして蓮くんが目指してる2.5次元とかだとガチ恋がいて当たり前、相手に夢を見せてなんぼの世界だから」
「蓮は隠すからデメリットが出てくるわけで、最初からオープンにしてれば暴露されるものもないし、将来的にも『恋人がいるなんて』っていうファンが出てきたら古参のファンが庇ってくれるって思ったみたいです。僕も、それは一理あると思いました。でもそもそも彼女がいるってわかってる相手に入れ込めるかっていうと、かなりリスクも大きいなと思いました」
「それなのよ。私みたいに『推しが産める年齢の相手』ならいいけど、同年代でガチコで同担拒否となったら、蓮くんと柚香の立場は嫌がられるわね」

 ママと聖弥くんが真面目に話し合ってるのを、私は手をぎゅっと握って聞いているしかなかった。手のひらに冷たい汗を掻いてくるのがわかる。
 昨日から何度も、幸せだったり凄い不安だったりの繰り返しなんだけど、今がひとつの山だと思う。――なにせ、相手はママだから。

 私が小さく震えてると、蓮が私の手に自分の手を重ねてきた。驚いて振り向くと、「大丈夫」というように頷いている。
 ……聖弥くんが説明役を買って出たのは、それが一番いいからなんだろう。ちょっと肩から力が抜けて、私は蓮に向かって少し笑顔を向けることができた。

「それで昨日柚香ちゃんから相談を受けました。蓮は交際宣言するって言ってるけど、自分はしない方がいいと思うって。付き合いました別れましたっていちいち言ってたら蓮の傷になるんじゃないかって柚香ちゃんは心配してて、蓮は逆に柚香ちゃんを心配させないために、自分たちを知ってる人たちみんなに向けて覚悟を見せるって意図がありました。
 実際、教室に戻ってきて付き合ってます宣言したら、みんな最後は拍手で祝福してくれましたし」
「学校でもやったの? 凄いわね、蓮くん。ああ、私的には、隠さずいてくれることは逆にOKなのよ。ただ、世の中の大多数はアイドルの恋愛を否定的に捉えがちなのが心配なの」
「それで、ベニテングタケです」

 ママの言葉の最後に聖弥くんが言葉を被せる。ママは「どういうこと?」って顔してるけど、聖弥くんは――うっすら笑ってる! 怖ーっ!

「蓮が交際宣言をするなら、タイミングが必要だと思いました。蓮に対して好意的に受け入れられるタイミングが。それで柚香ちゃんに次の配信はベニテングタケだよねと確認しました。
 交際宣言は物議を醸すかもしれないけど、そもそも蓮は不憫キャラで通ってるし、付き合いたての彼女から毒きのこを食べさせられるシチュエーションって同情を買いませんか?」
「……やったわね! そりゃ同情を買うわ。私も配信見てたけど、柚香が泣いたすぐ後に『醤油垂らしていい?』って興奮してるのを見たら蓮くんが不憫になったもの! あー、やられた! 聖弥くんそこまで計算したのね? ベニテングタケの配信の時なら、交際宣言してもマイナスイメージより同情を集められる。確かにそうよ。一本取られたわ」

 ママが天を仰いだ。うわー、完全論破だ!

「よくやったわね、あなたたち。おかげさまでうちの柚香は『彼氏に毒きのこ食べさせる女子高生』って印象が付いたわよ」
「でも料理ができて強くて可愛いって動画でもコメント付いてましたよ」

 うわっ、ママと聖弥くんがニコニコしながら火花散らしてる!

「まあ、こうなったらマネージャーとしても否は言えないし、むしろよくこのタイミングを選んだとしか言えないわ。まだSE-RENがアイドルとして認知度が底辺で、蓮くんにも聖弥くんにも実績が何もない状態ってことね」
「あ、僕もひとつ希望があるんです」

 聖弥くんは急に居住まいを正して、ママに向き直った。――あれ? 何を言うつもりなんだろう?

「今まで毎日ボイトレとダンスの基礎を教えてくださってありがとうございました。僕はこれからはボイトレは週1くらいにして、演技の勉強をしたいと思います。ダンスはできるに越したことはないかもしれないけど、僕の場合かなり優先順位は低いから。それで、来年ジューノンのボーイズコンテストに応募するつもりです。
 でも勉強をするにもお金は掛かるから、今まで通りY quartetとしてはダン配はしたいし、できればもっとSE-RENとしての企画動画もやりたいなと思ってます」
「聖弥……」

 蓮が呆然と呟く。今度はその手を私が握る番だった。
 うん、わかってたよ。いつかは道が分かれるって。ふたりの夢は同じなようで少し違うから、いつも一緒に同じ事をやってるわけに行かないんだって。

 ママは一瞬目を閉じた後、大きく頷いた。

「わかったわ。企画動画とかに関しては私も考えておく。聖弥くんにはうちのクワイアのリーダーを紹介してあげるわ。プロのシンガーでボイトレもちゃんと教えてる人よ。私みたいに毎日の積み重ねはできないけど、有償な分高度な域まで教えてくれるから。それで、ダン配だけど――」
「来週どうかな? ヘリが納品されたから、少し離れた上級ダンジョンに行ったりするのも意外性があると思うよ」

 初めてパパが口を開いたと思ったら!
 ヘリ納品されたんですかー!!!! 初めて聞いたよー! もっと早く言いなさいよー!
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