上 下
163 / 271
体育祭!ダンジョンダンジョンダンジョン!の巻

第152話 滝山版オペラ座の怪人

しおりを挟む


 体育祭の練習が体育に入ってきたということは、マスゲームの練習も佳境に入ってきたわけですよ。

 使う音楽は英語版のサントラ。雰囲気出せる方がいいって。
 キーになる部分だけ先に日本語歌詞を作って歌ったのを録音して流す。
 ただし、クライマックスのところだけは私と蓮の生歌唱だ。多分審査員のポイントは高いよね!


 滝山版「オペラ座の怪人」はこういう流れだ。
 開幕、布を被せられたシャンデリアが中央に配置されていて、その由来が語られてオークションが始まる。
 そのオークションの最中に、かつての輝きを取り戻した(布を引っぺがした)シャンデリアが吊り上げられる。

 堂々と登場する、一番衣装が豪華なオペラ座の歌姫・カルロッタ。その後ろでコーラスガールとして歌い踊るヒロインのクリスティーヌ。
 けれど途中でカルロッタが機嫌を損ね、退場。黒一色の服に身を包んだマダム・ジリーが「クリスティーヌが歌える」と言ってクリスティーヌが代役を務め、公演は大成功。

 その時、クリスティーヌの幼馴染みであり、新しいオペラ座のパトロンでもあるラウルが彼女に気づいた。
 再会で一気に距離が近付いたふたりだけど、クリスティーヌは自分に歌を教えた「エンジェル・オブ・ミュージック」に逆らえないし、エンジェルに夢を見ていてラウルに食事に誘われたけど彼よりもエンジェルを選んでしまう。

 そのエンジェル・オブ・ミュージックこそがオペラ座の怪人――ファントム・オブ・ジ・オペラ。醜い顔を仮面で隠し、オペラ座に潜む怪人物。そして、ロリコン――は言いすぎかな。娘みたいな年のクリスティーヌに恋しちゃってるからね。
 クリスティーヌはファントムの手を取って、彼が住む蝋燭だらけの地下へ。そこでの歌唱はミュージカル版だと圧巻だけど、さすがに尺が足りなくてちょびっとだけ。

 本来ここで作曲中のファントムの仮面を好奇心から取ってしまい、その醜い素顔をさらけ出させてしまったクリスティーヌはファントムを激怒させて「地獄に落ちろ!」とか言われてるんだけど、滝山版は醜い顔のせいで母にも嫌われ孤独に過ごしてきた、とファントムに同情を誘う流れ。

 まあ、「地獄に落ちろ!」より、「どうか私を嫌わないでくれ」ってクリスティーヌに取りすがる方がわかりやすいよね……。三角関係に持って行きやすいし。
 そこでクリスティーヌは「醜さは顔じゃなくて心に現れるものよ」とファントムに答えてその手を取る。

 元のミュージカルや映画だと抱きしめちゃったりキスしちゃったりとかがあるけど、さすがにそれはやらんね……というか、それをやろうとしたら黒組内でクーデターが起きるわ。

 とはいえ、クリスティーヌがファントムに向ける愛情は敬愛や亡き父に重ねてる部分があるので、ラウルとの恋愛も進行して婚約しちゃう。
 そこでファントムから支配人に要求が来て、次の公演ではクリスティーヌを主役にしろと。それを支配人たちが拒否して、舞台に立ったカルロッタは、歌ってる最中にシャンデリアが落ちてきて下敷きに……Oh。

 この辺でそろそろ「ファントムやばいのでは?」と気づいたクリスティーヌ。だがもう遅い。ファントムが作ったオペラの上演をクリスティーヌ主演で演じるようまた要求があって、惨劇の後だから支配人たちも要求をのむ。
 そして、そのオペラの上演中、クリスティーヌは役者のひとりに変装していたファントムに誘拐されて、ラウルじゃなくて私を選んでくれと懇願。マダム・ジリーの助言で助けに来たラウルは、ファントムに捕まって首吊り寸前。

 他の場面では音楽の天使っていうのはクリスティーヌがファントムに対して言ってるんだけど、ここで滝山版はファントムがクリスティーヌに愛を告げる言葉として使われる。これは、私的にも解釈一致かな!

 結婚してくれなきゃラウルを殺す! と情緒大混乱中のファントムに、クリスティーヌは「これが私の心よ」と跪くファントムの手の甲にキスをする。振りだけだけどね。
 その行為に「ラウルを救うため」というクリスティーヌの真実の気持ちを悟ったファントムは、ラウルを解放して「ふたりでここから去れ!」と泣き崩れながら懇願。
 クリスティーヌは何度もファントムを振り返りながらも、ラウルと手を取ってその場を去って行く。
 そして、ファントムは蝋燭を倒して火の海の中に消えていく――。

 これを、10分で、やるんだわ……。食事中に話したら、ママは笑顔になった後固まってた。

「火の海をどう演出する!?」
「ファントムのマントの裏地を赤にして、最後そっちを表にして被ったら?」
「途中でも見えちゃうよ! ダメ! ファントムの衣装は白と黒だけじゃないとダメ!」
「なんで!」
「ラウルの衣装との差別化ができなくなる!」
「チッ……わかったよぉ!」
「表地と裏地の間に赤セロハンを仕込んで、ラストで引っ張り出して放り投げるのは!?」
「天才か!? それいこう!」
「クリスティーヌの衣装は……」
「裾の部分にスパンコールか何か付けておいて、最初は衣装と同じ色のシフォンのリボンとかを上に重ねて隠すのは?」
「なるほど……主役になってからはそのリボンを外して飾りを見せるってことねー。シフォンのリボンだったらウエストに結べば邪魔にならないし」
「待って! そのリボン、シフォンじゃなくて刺繍リボンにして、裏にドレスと同じ布縫い付けて、それで隠すのは? そうするとウエストに巻いたときにより豪華にならない?」
「それだー! クリスティーヌ一番金がかかるけど仕方ないか! ラウルが地味だしね!」

 滝山先輩含む衣装担当と大道具担当は工夫が凄いね……。
 ボードは両面使えるから、表面はオペラ座の特徴ある客席、裏面は地下の暗くて蝋燭がいっぱい立ってる場面。これは初期に決まってたのでボード担当は作業がかなり早くから始まってた。
 場面によってこれを入れ替えたりもするから、出番じゃない役の人でボードひっくり返したり、大道具こっそり動かしたり大変だよ。出番が限られてるカルロッタとかマダム・ジリーもそうだね。

 もちろん私たち振り付け担当も、滝山先輩の書いたシナリオに沿って、「ダンスを派手に見せて盛り上げる場面」と「簡単な振り付けで陣形移動や交差で表現する場面」を分けて、それぞれの振り付けを考えている。

 もう、なんだろう。振り付け担当は何回「オペラ座の怪人」を見たことか……。


 クリスティーヌは女子10人。実は私とあいちゃん以外はあんまりダンスができない人が多い。自然とクラフトばかり。
 ガチで動ける私とあいちゃんはクリスティーヌの代表みたいに出て踊るけど、モブクリスティーヌは簡単な動きの後はポーズ取ってるだけだったり。

 恐ろしいことに、真に踊れる人は男女ともにほとんどがモブに回っている……元の「オペラ座の怪人」自体がミュージカルだし、バレエ的な動きも多いからね。
 ダンス経験者の西山先輩が歌姫カルロッタなのもそのせいだ。注目をメインキャラに集めつつ、冒険者科の身体能力を活かして高い完成度に持って行く。

 てか、3年生の男子にバレエをやってたって人がいて、ジャンプして3回転してる! 凄すぎて開いた口が塞がらなかった。なのに、モブよ!

 うーん、戦略的……。私も今年は主役ポジションのクリスティーヌだけど、来年やるものでは一歩引いたキャラとかになるんだろうな。
 ちなみに大騒ぎした結果「総監督」の称号を付けられた滝山先輩の役は、マダム・ジリーだよ。これはある意味象徴的だね。黒一色の衣装はこの役だけだし、キーマン的存在だしね。

 そして、初回通し稽古で困った事が起きつつあった。
 予想済みだったけどね!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...