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夏休みのあれこれの巻

第144話 謀略VS謀略

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 毒無効の指輪をゲットした!
 これで毒キノコも食べられる!

『シャグマアミガサタケもうまいらしいぞ。見た目脳みそだが』
『あのスウェーデンでは食べてる奴か……』
「えー! そういう毒キノコ情報たくさんください! あと、毒があるけど食べると美味しいものの情報お待ちしてます!」

 毒無効の指輪を中指にはめると、さすが魔道具というか、ぴたっとサイズが合ったよ。なんか、これだけでもワクワクするね!

『こういうときのゆ~かの笑顔、本当に輝いてるよな』
『いやー、暴走犬と暴走マスターと暴走ウィザードと腹黒王子はこのチャンネルの名物だ』
「え? なんか僕だけ違う見方をされてて納得いかないんですけど」
「俺、暴走したっけ……?」

 聖弥くんは腹黒だけど確かに暴走はしないね。
 蓮もあんまり暴走するタイプじゃないんだけど、フレンドリーファイアー事件が印象に残りすぎたのかな。

「宝箱もゲットしたし、幸先いいね! 行くぞ5層ー!」

 半分わざとだけど、元気よく拳を突き上げて進行宣言。ちょっと投げやりな蓮の「おー」と、結構元気な聖弥くんの「おー!」と、完全に私コピってるでしょと言いたくなる先輩の「おー!」が続く。

 足取り軽く元気よく。
 私たちを「見ている」奴らに警戒を気取られないように。
 そうして歩きながら、私は一昨日の家族会議を思い出していた。


「日曜日のダン配、鎌倉ダンジョンってほぼバレちゃってるから、襲撃されるかもしれなくて」

 さすがに黙ったままなのはまずいと思い、夕食の時に両親に報告しておく。
 パパは「えっ!」って驚いてたけど、ママは「そうね」と平静な様子で頷いた。

「なんでママ驚いてないの……」
「私はスレも見てるしなんなら住んでるし、動画にコメもしてるし、普通の人が知り得るあんたたちの情報は当たり前に入手してるわよ」

 そ、そーなんですか! ママってスレ民なんだ!! 私は面倒でああいうところは見たことないんだけど。

「スレでも、襲撃は予想されてるわよ。警備出してあんたたちを守る計画もあるけど……なんだかんだいって、閉鎖的ではあってもスレはオープンなのよ。その気になれば誰でも見られる。襲撃が予想されて、対抗戦力に集合がかかってることはあちらも把握済みだと思った方がいいわね」

 スラスラ言いながら冷やし中華にからしを追加するママ。
 うわあ、その辺はもうお互い「分かりきってる事実」なんだ……。

「というか、逆に日曜日に襲撃できなければ、チャンスは二度と来ないとみんな思ってるわ。だから、『来る』わよ。何組もね」
「マジデスカ」
「マジデスヨ」

 そんなに狙われてるの!?
 確かに、装備品の価値に対して、私たち中身の方はチョロいと思われてるのは分かるけども!

「鎌倉ダンジョンから変更する気はないんだな?」

 パパは心配そうだ。うん、こっちの反応の方が普通だよね。

「……逃げてもね、いつか同じ事態になるから」
「って、聖弥くんが言ったんでしょ」
「ハイ、ソーデス!」

 私もそう思ったから、受け入れてるんだけどね。

「早いところシメて、襲撃される危険の芽は摘んどこうってことで」
「私もそれは賛成。中級ダンジョンに行った話も、配信ではしてないのよね。私3回くらいチェックしちゃったわよ。だから、中級ダンジョンに不慣れだとは向こうも思ってるはず」
「そうかー、じゃあ、5層で襲撃される可能性が濃厚だな」
「私もそう思うわ」

 パパとママは揃って襲撃予定場所を「5層」って言うけど……。

「なんで5層って言えるの?」

 中級ダンジョンは2ヶ所しか行ったことがない私が尋ねると、パパとママは真剣な顔で私に説明してくれた。

「襲撃してくるなら5層。理由は、ユズたちが小部屋に不慣れだと踏んでの事」
「間違っても4層までの開けたフロアでは来ないわね。それに、それ以上待つと他の奴らに盗られるかもしれないでしょ? 5層に入ったら、比較的早めの小部屋が一番可能性高い。……ということを、情報共有してくるわー」
「えっ、誰と?」
「スレ民!」

 にっこりとママは笑った。そして翌日土曜日の夜、例のサンバ仮面を持ってどこかへ出かけていった。


 私たちがこうして一見楽しく配信してる裏で、私たちを狙う輩同士で潰し合いが起きている可能性が高い。
 それもあるし、「私たちを狙ってる奴」を狙ってる人たちもいる。普段は過疎ってるはずのダンジョンなのに、今日はやっぱり人の出入りが多いね。

 私の推察の根拠は足跡。墓場フロアは丈の短い草が全体的に生い茂ってるんだけど、階段の側とかかなり踏まれた跡がある。
 ヤマトもちょっとそわそわしてるしね。

「中級って5層から小部屋あるんだっけ」
「そうそう。小部屋どころか大部屋もあるよー」

 素知らぬ振りをして先輩と茶番な会話をしつつ、さりげなく太ももにベルトで留めた棒手裏剣を確かめる。
 今日は先輩にシート加工して貰った痺れ毒付きだよ! 格好良くこれを投げられたらいいんだけど、私たちのシミュレーションの中では残念ながらこれの出番はない。

「さっそく小部屋だね。私斥候役で確認します。……うん、特に物音なし。ゴーストはいるかもしれないけど、スケルトンの足音的な物はないなあ」

 私、蓮、ミレイ先輩、聖弥くんの順で隊列を組んで進む。
 いきなり最初の小部屋で襲撃されるとは思ってないけど、手のひらに冷たい汗が滲んでくる。

「このままこっち周りで進む?」

 階段を降りた時点で、正面に小部屋があり、左右に道が分かれていた。
 普段はいちいち相談しないで「とりあえず行ってみよー!」と進むけど、今日は諸事情によりそうは行かない。
 私たちにも、時間稼ぎをしなきゃいけない理由があるんだよね。

「マップ見てみようか」
「俺は狭い場所より開けた場所の方がいいな。魔法で薙ぎ払えるし」
「じゃあ左回りにしよう。それで1周するつもりで」

 作戦会議に見えるけど、これは進行ルートの案内だよ。多方面にね。

 ザワっと少し音がしたけど、それがモンスの立てたものか、私たち以外のパーティーが立てたものかは判別できず。

 それに私が警戒した瞬間、私の前方でパチパチという音がした。
 身構えた瞬間、音はバリバリと急に激しくなり、ヤマトの毛が逆立つ!

「何!?」

 村雨丸を抜いてそちらを警戒したところで、後ろからミレイ先輩の悲鳴が響いた。
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