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夏休みのあれこれの巻

第143話 それはそれとして!

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 今日は、各自本気は出さないようにねと聖弥くんから通達が入ってる。
 中級ダンジョンの敵相手に、私たちの真の戦闘力が「今の段階で」バレるのは都合がよろしくないそうで。

 ヤマトをテイムした翌日、サザンビーチダンジョンは物凄く賑わっていた。
 その人混みの中で、私からヤマトを奪おうとした輩もいた。
 そもそもテイムされた従魔のマスターを変更ってのは無理な話だから、ただの無知。もしくは、「マスターと引き離しても従魔は生きていける」ことを利用して、稀少なペットとして売ろうとしたか。

 アイテムバッグゲットした後は、それも狙われたしね。
 でもあれは所有権設定があるから、簡単には奪えない。
  アイテムバッグはある意味安全よ。所有権変更するのにフルネームがいるから。配信で全世界に見られてるのに、自分のフルネーム明かすわけはないもんね。
 でも出回ってる絶対数が少なすぎて、そういう情報ってあまり広まってないみたいなんだよね。

 でも――例えば、高校生でまだまだいろんな事に甘いと思われてる私たちが、「人質を取られて否と言えない状況」で装備などを要求されたら。

 つまり――私たちはこのままではいつまでも狙われる。
 それをさっさと断ち切ってしまいましょう。こっちには迎撃態勢が整っているのだと知らしめてしまえということだよね。

 いやー、ママの好きそうな考え方だよ。聖弥くんが説明したとき、ニッコニコしながら聞いてたもん。
 娘を危険に晒すなんて、って考えなんてママの中にはない。
 そんなものあったら、今頃私はダンジョン潜ってない。


「おー、これがスケルトン」

 縦長タイプの日本のお墓が点在する陰鬱としたフロアのあちこちに、アンデッドモンスターが徘徊している。
 全く何の驚きもない様子で蓮は呟くと、ロータスロッドを振ってスケルトンを物理で倒した。

「ええええー。そこはぎゃーとかうおおおおおあああとか叫ぶところでは!?」
「だって怖くないし。こいつら、アンデッドって分類にはなってるけど人間の霊魂ベースじゃなくて、『そういう分類にされてるモンスター』ってだけだ。要は物質」

 チクショウ!!
 そっか、ダンジョンにいる「アンデッドモンスター」は幽霊とは無関係なんだ!
 蓮にとってはこれは「ただの物質」であって、怖がるに値する物じゃないそうだ。

 ガラガラと……スケルトンの骨と一緒に、私の今日の配信計画が崩れていく。

「スケルトンって、腰骨砕くと動けないんだっけ」

 そんなことを言いながら、蓮はさくさくと補正で上がっている力を使って骨どもを叩き潰していく。
 これには聖弥くんも先輩も苦笑するしかありませんわ。

「じゃあ、蓮もいい調子だからサクサクいこうか」
「そだねー。5層まではどうせ開けたお墓だから、この調子で進んじゃおう」

 人のことは言えないけど、聖弥くんも先輩も軽いなあ。

 開けた場所だから、アンデッド苦手な人は余計嫌なフロアなんだろうな。どうもこのパーティーの中にはダメな人はいないようだけど。
 まずは5層を目指す。敵が強くなってドロップもよくなるし――襲撃がしやすくなるからね。

 私たちは配信をしているから、狙っている人間にとっては動きが把握できて好都合。
 ――うわー、今まではそういうこと意識してなかったけど、意図的に作った隙とはいえ、私たちってなんて無防備に見えるんだろう!

 あ、元々は私のうっかりが原因だから、それに関しては反省してるけども。

 ふよふよ浮かぶゴーストも、スケルトンも、たまに出てくるグールも、申し訳ないけど敵じゃない。

「想定としてはさー、基本的に蓮の絶叫が響き続けて使い物にならなくて、私と聖弥くんとヤマトだけで攻略を進めるって感じを予定してたんだよね」
「おまえ……俺のこと……俺のこと……くっ」

 前に金沢さんに武器を作って貰うために鎌倉に来たとき、「手繋いで」と言うまでビビってたことを思い出したのか、蓮が文句を言いかけて崩れ落ちた。
 はい、そうですよ。そもそも「蓮の絶叫が響き続けて使い物にならない」というイメージを植え付けたのは自分じゃん。

「戦闘しなくていいって楽だね、ほんと」

 先輩もお気楽だ。多分素だろうけどね。


 ダンジョンはだいたい3層ごとにエリアが変わることが多い。でも中には、ここのように「ずーっと荒れ地に墓地」ってテーマで作られてる場所もある。
 こういうダンジョンは、出る敵の系統が変わらないから、私たちみたいに特効武器を持ってたら攻略は簡単なんだよね。

 5層への階段を目の前にして、ヤマトが吠えて何かを知らせてきた。
 その場に行ってみると――赤箱だー!

「わ、宝箱!」
「お墓の陰になってたから見つけにくかったのかな?」
「中級の4層でしかも赤箱だから、そんなに期待できないけどねー」

 先輩は宝箱に向かい、腰に下げていたツールの中から針金を出して鍵穴に突っ込む。
 うう、見ていたいけど、私たちが見ているとモンスターその他から身を守れないから、渋々私たち3人は先輩を中心に散開して敵に備えた。

「鍵解除っと……この感じは、あーはいはい」

 見たい! 見たい! でもあとでアーカイブで見よう!
 私がうずうずしてたら、後ろでパチンと何かを切る音がして、「開いたよ-」と少し気の抜けた先輩の声が響いた。

「毒矢罠だったよ。発動させるワイヤーを切って終わり。で、中身はねー……」

 中に入っているのは、鈍い金色をした指輪だ。先輩がカメラを向けて鑑定してるから、その結果を待つ。

「び、微妙」
「何ですか!?」
「どんな指輪ですか?」

 食いつく私と蓮に、トホホ顔の先輩が鑑定画面を見せてくれた。
 
 結果は「毒無効の指輪」。あー、ヒーラーがいればすぐに解毒できるから、常に毒の噴霧をしてくるようなモンスが相手じゃないときは……違う! これは、凄いお宝だ!

「やっぱり、低級アイテムだったね」
「使い道がね。代替手段が多すぎて」

 あんまりがっかりもしていない聖弥くんと先輩がテンション低く話しているところで、私は宝箱の中から指輪をつまみ出した。

「この指輪、私欲しい! 絶対換金しない! わっかんないの!? これは凄い使い道があるんだよ!」
「ゆ~かちゃんが前衛で一番毒食らう確率高いからいいけど……」
「……また、変なこと考えてるだろ」

 蓮がしっぶい顔で私を見てるけど、私は力強く頷いてみせる。思わず頬も緩んじゃうね!

「だって!! これ付けてたら、海で釣ったフグをママが調理しても中毒起こさないんだよ!? 肝の処理とかに失敗しても問題ないんだよ!?」

『待てやwww』
『使い道が間違ってる』
『いや、これがゆ~かだ!!』

 コメント欄も呆れ半分爆笑半分で、こっちもこっちで蓮は完全に脱力していた。

「……フグ料理くらい普通に食いに行けよ、金はいくらでもあるだろ~」
「あと、毒キノコとか食べてみたいの! ベニテングダケにはイボテン酸っていう強いうまみ成分が含まれてて、毒キノコだってわかっていながら『少しだけ』って食べる人がいるって聞いたことあるもん! リスがモリモリ食べてる動画見ながら、どれだけ羨ましかったことか!!」

『【朗報】毒無効の指輪に新たな利用法発見』
『以前から、暗殺の危険があるような人には買い取られてるって話もあったけどな』
『ベニテングダケ食べてみたいから、は草不可避』
『これは、ダン配以外のYカルテットの企画がひとつ決まったな』

 そうだね。食べると美味しい毒キノコを食べるとか、なかなかできない企画だよ!
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