上 下
151 / 273
夏休みのあれこれの巻

第142話 配信開始

しおりを挟む
 ダンジョンハウスで五十嵐先輩と合流し、寧々ちゃんと先輩とママの合作である「サポーター用装備」を渡す。
 五十嵐先輩はそれを身につけると、アプリを開いて自分のステータスをチェックして歓声を上げた。

「わー、凄い凄い。まともに冒険者やってたら絶対お目にかかれないステータスだよ」
「そうですよねー。私たちが強いのも、武器防具のおかげですから」

 武器防具の補正でステータスが大幅に上昇して、そのおかげで本来の力量に見合わぬ強い敵を倒せ、結果LVが上がっているという順番だもんね。
 蓮なんかはまだ特訓してたから自分の努力の部分もあるけど、聖弥くんは全く特訓してなかったから。

「あ、そうそう。これね、寧々ちゃんから預かってる」
「そっか、ありがとうございます! ……えええええええ」

 五十嵐先輩から渡されたのは、寧々ちゃんにデザインを一任したヤマトの装備。
 白いTシャツなんだけど……。まあ着せるか。

 ヤマトは嫌がらずに服を着たけど、ママが「ブフォッ!」って凄い勢いで吹いてた。


 ダンジョンの1層で、準備万端整えて私たちは配信開始時間を待つ。
 いつもの格好の私と蓮と聖弥くん。
 お馴染みの「芋ジャー」こと初心者の服の上に、蛍光グリーンのメッシュゼッケンベストを被った五十嵐先輩。ぱっと見は「これからバスケでもするんですか」って感じ。
 ちなみに、胸のところに「サポーター」って白字で書いてある。わあ、わかりやすい。

 そして――。

「おい、いいのか、ゆ~か。ヤマトの扱いこれで」

 蓮の目が若干死んでる。
 いや、私の目も同じか。

 ヤマトの白Tシャツの背中には、すっごい達筆で「暴走犬」と書かれていた……。
 何? 寧々ちゃんのお父さんかおじさん、書家なの?
 ぶっとい筆で、流麗かつ勢いのほとばしる凄い書をありがとうございます……なんて言うと思うかー!!

 でも、でもなあ! 寧々ちゃんがそれにOKを出したって事は、私のごく身近な人も含めて、ヤマトのイメージってこの一言で言い表されるんだよね!!
 私にとっては「可愛い可愛いヤマト(ただし時々暴走する)」なのになあ。

「もう……いいよ、ウケが取れれば」

 力ない声も出ようってもんだよね。

 私ががっくりきてる理由はもうひとつ。
 蓮が全然びびってないのだ。平然としてる。
 せっかくアンデッドダンジョンを選んで来たのに!!

「じゃあ、配信始めようかー」

 楽しそうなのは聖弥くんと五十嵐先輩だ。

 10時になったので、配信用のスマホでourtuberを起動する。そして配信開始……。

「こんにちはー! Y quartetのダンジョン配信の時間です!」

『こんにちはー』
『聖弥くんが一番に出てくるとは珍しい』
『なんか後ろがどよんとしてるのはなんだ』

「蓮が絶叫するほど嫌がるだろうと思ってアンデッドダンジョンを選んだのに、全然怖がってないんですぅ……」

 うつろな目で私が言うと、コメント欄は大草原だ。
 いや、笑い事じゃないんですよ。笑い事か!

「俺は……ヤマトの扱いについて哲学してた」

 蓮は足下にいたヤマトをひょいと抱き上げ、カメラに映るように背中を向けさせた。

『これはこれはw』
『可愛い!』
『それでいいのか!?』
『これ以上ないほど的確じゃねえかw』

「暴走させないように頑張ります……」

 私もふにゃふにゃと言うしかないね。ちょっとぐにゃんとしてたら、横からツンツンと袖を引かれる。――あ、そうか。

「今回は中級ダンジョンで宝箱に罠が仕掛けられてることが目に見えてるので、念のためダンジョンエンジニアのゲストをお呼びしてます。どうぞー」

 私が振ると、黒髪ポニテというお揃いの髪型をした五十嵐先輩が元気いっぱいにカメラの画角に割り込んでくる。

「やっほー! 初めまして、ゆ~かの姉のミレイです! クラフト兼エンジニアだよ。よろしくねー!」

『姉!?』
『ゆ~かがもうひとりいるのかと思った!』
『姉いたの!?』
『寧々ちゃんが来ると思ってた!』
『似てるなあ』
『ああ、芋ジャーの神は我らを見捨ててはいなかった』

 わお、コメントの勢いすっごい。
 これは芋ジャー正解ですわ。それを当たり前のように着てる先輩も凄いけど。

「お姉ちゃんじゃないです! 学校の先輩! 先輩、この人たち本気にしちゃうから!」
「てへぺろ☆ 残念ながらお姉ちゃんじゃありませーん。同じ冒険者科の3年生でクラフト専攻でーす。今日は宝箱が出てきたときだけのお仕事なので、気楽に来ました!」

 ウインクしつつ舌をペロッと出すあざとい表情……。これはファンが付くわ。

「でもでもー。気持ちはゆ~かちゃんの姉だから!」
「私もね、お姉ちゃんと呼ぶことにやぶさかではないんだけどね! 女子同士でイチャイチャしてると蓮が『アホなの?』って視線を投げて来やがるからー」

『百合に割り込む男は死すべし』

「いや、割り込んでねーし」

 コメントに真顔で返す蓮。うん、こういうところは面白い。

『でも本当に似てる!』
『従姉妹か何かなの?』

「前に合宿でそういう話もでたんだけど、残念ながら私たち同士が認識してるレベルでは血は繋がってないです。他人の空似ってやつ?」
「私はねー、最初にヤマトテイムして走り回ってコケまくった動画見たとき、自分見てるみたいであちこち痛くなりましたよ。私はコケてないのに」
「共感性羞恥ですね」
「違うと思うな。じゃあ、行こうかー」

 私と先輩のおしゃべりが始まると止まらないので、聖弥くんが無理矢理ぶったぎって進行させる。蓮がそれに付いていって、私とヤマト、そしてミレイ先輩も後を追い。

 大一番の配信がとうとう始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...