【柴犬?】の無双から始まる、冒険者科女子高生の日常はかなりおかしいらしい。

加藤伊織

文字の大きさ
上 下
142 / 362
夏休みのあれこれの巻

第134話 マユがマユ

しおりを挟む
 モンスターハウスになってる部屋に入ろうかなと思ったんだけど、迂闊に中に入ったらヤマトにぶっ飛ばされたゴーレムがぶつかってきたりしそうなので、私たちは入り口だけ閉鎖しつつ、敵の全滅を待った。

「何もしてないのに経験値うまうまー」

 アプリをチェックしてあいちゃんが楽しそうに言うけど、ちゃっかりその横に位置取ってる聖弥くんは微妙な表情だ。

「経験値だけ見れば……確かに凄く儲かったんだけど、実戦経験という別の意味の経験値が入ってこないね」
「あー、それ。僕も思った。でもさ、この上がったステでもう少し先に行くのもいいんじゃないかと思ったよ。あんまり危険はなさそうだし、万が一レア湧きが出ても柳川とヤマトが倒してくれそうだし」
「そうそうレア湧き出たら困りますわ」

 最初常識的だなと思った須藤くんの話の結び方に、私はチベスナ顔になった。半月もしない間に中級ダンジョンでレア2体と戦うなんて、本人が激レアさんだよ。

「わーお、LV16まで上がったよ。一体ヤマトはどれだけゴーレム倒したの」

 笑いが止まらない悪徳商人みたいになりながら、あいちゃんがそろりと部屋を覗く。
 モンスターハウス、最初は小さい部屋なのかと思ったら、思ったより奥行きがあって……中ではまだヤマトの吠える声と、ゴーレムがガラガラと崩れる激しい戦闘音が響き渡ってる。

「わあ、私もLV15まで上がって……えっ、マユちゃん!?」

 寧々ちゃんの半分悲鳴のような驚いた声に、私たちは寧々ちゃんの足下に視線を集めた。
 本来そこにちょこんと座っていたマユちゃんは、白い糸のような物がガンガンと絡まってきていて、私は思わず周囲を警戒した。
 もしかしたら、死角からジャイアントスパイダーが攻撃したのかもしれないと思って。

「寧々ちゃん! アプリでチェックして! 状態異常があればそこに出るはず」
「そっか!」

 そうこうしている間にも、マユちゃんは瞬く間に白い糸に覆われてしまった。
 まるで、蚕のまゆが巨大になったみたいな感じ。そして、近くにジャイアントスパイダーはいない。

「あっ! マユちゃんのLVが10超えてる! それに……」

 寧々ちゃんが恐る恐るマユちゃんのステータス画面を私たちに向けた。


マユ LV12 従魔
HP *$(+25)
MP £♀(+50)
STR 1┻(+32)
VIT ゑ≦(+35)
MAG ?ж(+33)
RST U>(+35)
DEX £ £(+32)
AGI 〒┻(+33)
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【繝溘ル繧「繝ォ繝溘Λ繝シ繧ク】
マスター 【法月寧々】

「ぎゃああああああああああああ!!!!」

 その画面を見た私たちは、一斉に物凄い悲鳴を上げてしまった……。


「なにこのホラー! 部分的に普通なのが怖い!」

 繭に包まれ、ピクリとも動かなくなっているマユちゃんを遠巻きに囲みつつ、私たちはガクガクと震えていた。

 部屋の中から響く、重たい破壊音。そして一抱えもありそうな繭になったマユちゃん……夏のホラーはここにあったんだ……。

「だ、大丈夫……マユちゃんは生きてるから」

 顔色を悪くしつつ、私たちの中では一番落ち着いてる寧々ちゃんがしゃがみ込んでそっと繭を撫でる。

「よくわからないけど……LVが上がったことと関係してるんじゃないかと思うんだ」
「テイマー志望の私でも聞いたことない現象だけど!?」

 いや、志望じゃ無くて私はもうテイマーか。少なくとも私は従魔やモンスターがこんな状態になったというのは聞いたことがない。

 やがて、モンスターハウスの中での破壊音が止んだ頃、マユちゃんを包み込んだカチコチの繭がピシリと音を立てた。
 最初は小さい音。それが連続して起きながら、大きな音になっていく。
 寧々ちゃんだけが怖がることもせず繭に寄り添い、聖弥くんとあいちゃんと須藤くんは少し下がって武器を構えた。

 そして私は、その繭に向かってカメラを向け続けていた。
 そこから出てくる「何か」をすぐに鑑定するために。
 もしも「寧々ちゃんの従魔のマユちゃん」じゃなくなってたら、即座にみんなに攻撃の指示を出せるように……。

「ブッ!」

 若干聞き慣れた声とともに、見慣れた白いお手々が内側からボスッとパンチで繭を割った。
 自力で開けた穴から、ジタバタしながら白に黒いハチワレ模様のツノウサがもたもたと出てくる。私は少し震える手で向けたスマホで「それ」を鑑定した。


マユ LV12 従魔
HP 120/120(+25)
MP 211/211(+50)
STR 70(+32)
VIT 65(+35)
MAG 83(+33)
RST 59(+35)
DEX 63(+32)
AGI 92(+33)
スキル 【幻影魔法】
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【アルミラージ】
マスター 【法月寧々】

「アルミラージだー!!」

 思わず叫んだよね。ミニアルミラージだったマユちゃんが、「ミニ」じゃないアルミラージになった!
 しかもステータスが高い! ヤマトほどじゃないけど、これは立派な戦力だよ。

「マユちゃん!」

 繭から完全に抜け出したマユちゃんは、元のミニウサギくらいの大きさからかなり大きくなって――うん、ヤマトより少し大きいくらいだね。元の3倍くらいかな。

 それをぎゅっと抱きしめる寧々ちゃんは凄く嬉しそうで。
 ハーネス、ぎっちぎちになってないかな? とか余計な心配を私はしてしまった。

「存在進化……ってことかな。アグさんのところで凄い修行したから、一気に経験値が入ったせいでミニアルミラージの枠に収まらない成長をして、アルミラージになったのかも」

 ちょっと私と同じ心配をしたのか、マユちゃんのハーネスをチェックしながら寧々ちゃんが呟く。

 はあー、と安堵のため息をつきながら、武器を構えていた3人はそれを下ろした。
 でっかくなっても大きさ以外特に変わらず、鼻をヒコヒコさせながら寧々ちゃんに抱っこされているマユちゃんに、自然に私たちの注目が集まる。

「モンスターが進化したって初めて聞いた」
「研究してレポートか何かにしたら凄いことになるかも」
「絶対嫌。面倒くさい」
「でも一応冒険者協会の人には報告しないといけないよねえ」

 一瞬の沈黙の後、私は寧々ちゃんの肩をポンと叩く。

「頑張って! アグさんを紹介してくれた神奈川支部の理事の人なら紹介できるから!」
「えっ、私!?」

 でっかいウサギを抱きかかえたまま驚いてるけど、寧々ちゃん以外の誰がやると言うんですかね……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

異世界に飛ばされたら守護霊として八百万の神々も何故か付いてきた。

いけお
ファンタジー
仕事からの帰宅途中に突如足元に出来た穴に落ちて目が覚めるとそこは異世界でした。 元の世界に戻れないと言うので諦めて細々と身の丈に合った生活をして過ごそうと思っていたのに心配性な方々が守護霊として付いてきた所為で静かな暮らしになりそうもありません。 登場してくる神の性格などでツッコミや苦情等出るかと思いますが、こんな神様達が居たっていいじゃないかと大目に見てください。 追記 小説家になろう  ツギクル  でも投稿しております。

ループn回目の妹は兄に成りすまし、貴族だらけの学園へ通うことになりました

gari@七柚カリン
ファンタジー
────すべては未来を変えるため。  転生者である平民のルミエラは、一家離散→巻き戻りを繰り返していた。  心が折れかけのn回目の今回、新たな展開を迎える。それは、双子の兄ルミエールに成りすまして学園に通うことだった。  開き直って、これまでと違い学園生活を楽しもうと学園の研究会『奉仕活動研究会』への入会を決めたルミエラだが、この件がきっかけで次々と貴族たちの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。  子爵家令嬢の友人との再会。初めて出会う、苦労人な侯爵家子息や気さくな伯爵家子息との交流。間接的に一家離散エンドに絡む第二王子殿下からの寵愛?など。  次々と襲いかかるフラグをなぎ倒し、平穏とはかけ離れた三か月間の学園生活を無事に乗り切り、今度こそバッドエンドを回避できるのか。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

処理中です...