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夏休みのあれこれの巻
第134話 マユがマユ
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モンスターハウスになってる部屋に入ろうかなと思ったんだけど、迂闊に中に入ったらヤマトにぶっ飛ばされたゴーレムがぶつかってきたりしそうなので、私たちは入り口だけ閉鎖しつつ、敵の全滅を待った。
「何もしてないのに経験値うまうまー」
アプリをチェックしてあいちゃんが楽しそうに言うけど、ちゃっかりその横に位置取ってる聖弥くんは微妙な表情だ。
「経験値だけ見れば……確かに凄く儲かったんだけど、実戦経験という別の意味の経験値が入ってこないね」
「あー、それ。僕も思った。でもさ、この上がったステでもう少し先に行くのもいいんじゃないかと思ったよ。あんまり危険はなさそうだし、万が一レア湧きが出ても柳川とヤマトが倒してくれそうだし」
「そうそうレア湧き出たら困りますわ」
最初常識的だなと思った須藤くんの話の結び方に、私はチベスナ顔になった。半月もしない間に中級ダンジョンでレア2体と戦うなんて、本人が激レアさんだよ。
「わーお、LV16まで上がったよ。一体ヤマトはどれだけゴーレム倒したの」
笑いが止まらない悪徳商人みたいになりながら、あいちゃんがそろりと部屋を覗く。
モンスターハウス、最初は小さい部屋なのかと思ったら、思ったより奥行きがあって……中ではまだヤマトの吠える声と、ゴーレムがガラガラと崩れる激しい戦闘音が響き渡ってる。
「わあ、私もLV15まで上がって……えっ、マユちゃん!?」
寧々ちゃんの半分悲鳴のような驚いた声に、私たちは寧々ちゃんの足下に視線を集めた。
本来そこにちょこんと座っていたマユちゃんは、白い糸のような物がガンガンと絡まってきていて、私は思わず周囲を警戒した。
もしかしたら、死角からジャイアントスパイダーが攻撃したのかもしれないと思って。
「寧々ちゃん! アプリでチェックして! 状態異常があればそこに出るはず」
「そっか!」
そうこうしている間にも、マユちゃんは瞬く間に白い糸に覆われてしまった。
まるで、蚕の繭が巨大になったみたいな感じ。そして、近くにジャイアントスパイダーはいない。
「あっ! マユちゃんのLVが10超えてる! それに……」
寧々ちゃんが恐る恐るマユちゃんのステータス画面を私たちに向けた。
マユ LV12 従魔
HP *$(+25)
MP £♀(+50)
STR 1┻(+32)
VIT ゑ≦(+35)
MAG ?ж(+33)
RST U>(+35)
DEX £ £(+32)
AGI 〒┻(+33)
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【繝溘ル繧「繝ォ繝溘Λ繝シ繧ク】
マスター 【法月寧々】
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
その画面を見た私たちは、一斉に物凄い悲鳴を上げてしまった……。
「なにこのホラー! 部分的に普通なのが怖い!」
繭に包まれ、ピクリとも動かなくなっているマユちゃんを遠巻きに囲みつつ、私たちはガクガクと震えていた。
部屋の中から響く、重たい破壊音。そして一抱えもありそうな繭になったマユちゃん……夏のホラーはここにあったんだ……。
「だ、大丈夫……マユちゃんは生きてるから」
顔色を悪くしつつ、私たちの中では一番落ち着いてる寧々ちゃんがしゃがみ込んでそっと繭を撫でる。
「よくわからないけど……LVが上がったことと関係してるんじゃないかと思うんだ」
「テイマー志望の私でも聞いたことない現象だけど!?」
いや、志望じゃ無くて私はもうテイマーか。少なくとも私は従魔やモンスターがこんな状態になったというのは聞いたことがない。
やがて、モンスターハウスの中での破壊音が止んだ頃、マユちゃんを包み込んだカチコチの繭がピシリと音を立てた。
最初は小さい音。それが連続して起きながら、大きな音になっていく。
寧々ちゃんだけが怖がることもせず繭に寄り添い、聖弥くんとあいちゃんと須藤くんは少し下がって武器を構えた。
そして私は、その繭に向かってカメラを向け続けていた。
そこから出てくる「何か」をすぐに鑑定するために。
もしも「寧々ちゃんの従魔のマユちゃん」じゃなくなってたら、即座にみんなに攻撃の指示を出せるように……。
「ブッ!」
若干聞き慣れた声とともに、見慣れた白いお手々が内側からボスッとパンチで繭を割った。
自力で開けた穴から、ジタバタしながら白に黒いハチワレ模様のツノウサがもたもたと出てくる。私は少し震える手で向けたスマホで「それ」を鑑定した。
マユ LV12 従魔
HP 120/120(+25)
MP 211/211(+50)
STR 70(+32)
VIT 65(+35)
MAG 83(+33)
RST 59(+35)
DEX 63(+32)
AGI 92(+33)
スキル 【幻影魔法】
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【アルミラージ】
マスター 【法月寧々】
「アルミラージだー!!」
思わず叫んだよね。ミニアルミラージだったマユちゃんが、「ミニ」じゃないアルミラージになった!
しかもステータスが高い! ヤマトほどじゃないけど、これは立派な戦力だよ。
「マユちゃん!」
繭から完全に抜け出したマユちゃんは、元のミニウサギくらいの大きさからかなり大きくなって――うん、ヤマトより少し大きいくらいだね。元の3倍くらいかな。
それをぎゅっと抱きしめる寧々ちゃんは凄く嬉しそうで。
ハーネス、ぎっちぎちになってないかな? とか余計な心配を私はしてしまった。
「存在進化……ってことかな。アグさんのところで凄い修行したから、一気に経験値が入ったせいでミニアルミラージの枠に収まらない成長をして、アルミラージになったのかも」
ちょっと私と同じ心配をしたのか、マユちゃんのハーネスをチェックしながら寧々ちゃんが呟く。
はあー、と安堵のため息をつきながら、武器を構えていた3人はそれを下ろした。
でっかくなっても大きさ以外特に変わらず、鼻をヒコヒコさせながら寧々ちゃんに抱っこされているマユちゃんに、自然に私たちの注目が集まる。
「モンスターが進化したって初めて聞いた」
「研究してレポートか何かにしたら凄いことになるかも」
「絶対嫌。面倒くさい」
「でも一応冒険者協会の人には報告しないといけないよねえ」
一瞬の沈黙の後、私は寧々ちゃんの肩をポンと叩く。
「頑張って! アグさんを紹介してくれた神奈川支部の理事の人なら紹介できるから!」
「えっ、私!?」
でっかいウサギを抱きかかえたまま驚いてるけど、寧々ちゃん以外の誰がやると言うんですかね……。
「何もしてないのに経験値うまうまー」
アプリをチェックしてあいちゃんが楽しそうに言うけど、ちゃっかりその横に位置取ってる聖弥くんは微妙な表情だ。
「経験値だけ見れば……確かに凄く儲かったんだけど、実戦経験という別の意味の経験値が入ってこないね」
「あー、それ。僕も思った。でもさ、この上がったステでもう少し先に行くのもいいんじゃないかと思ったよ。あんまり危険はなさそうだし、万が一レア湧きが出ても柳川とヤマトが倒してくれそうだし」
「そうそうレア湧き出たら困りますわ」
最初常識的だなと思った須藤くんの話の結び方に、私はチベスナ顔になった。半月もしない間に中級ダンジョンでレア2体と戦うなんて、本人が激レアさんだよ。
「わーお、LV16まで上がったよ。一体ヤマトはどれだけゴーレム倒したの」
笑いが止まらない悪徳商人みたいになりながら、あいちゃんがそろりと部屋を覗く。
モンスターハウス、最初は小さい部屋なのかと思ったら、思ったより奥行きがあって……中ではまだヤマトの吠える声と、ゴーレムがガラガラと崩れる激しい戦闘音が響き渡ってる。
「わあ、私もLV15まで上がって……えっ、マユちゃん!?」
寧々ちゃんの半分悲鳴のような驚いた声に、私たちは寧々ちゃんの足下に視線を集めた。
本来そこにちょこんと座っていたマユちゃんは、白い糸のような物がガンガンと絡まってきていて、私は思わず周囲を警戒した。
もしかしたら、死角からジャイアントスパイダーが攻撃したのかもしれないと思って。
「寧々ちゃん! アプリでチェックして! 状態異常があればそこに出るはず」
「そっか!」
そうこうしている間にも、マユちゃんは瞬く間に白い糸に覆われてしまった。
まるで、蚕の繭が巨大になったみたいな感じ。そして、近くにジャイアントスパイダーはいない。
「あっ! マユちゃんのLVが10超えてる! それに……」
寧々ちゃんが恐る恐るマユちゃんのステータス画面を私たちに向けた。
マユ LV12 従魔
HP *$(+25)
MP £♀(+50)
STR 1┻(+32)
VIT ゑ≦(+35)
MAG ?ж(+33)
RST U>(+35)
DEX £ £(+32)
AGI 〒┻(+33)
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【繝溘ル繧「繝ォ繝溘Λ繝シ繧ク】
マスター 【法月寧々】
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
その画面を見た私たちは、一斉に物凄い悲鳴を上げてしまった……。
「なにこのホラー! 部分的に普通なのが怖い!」
繭に包まれ、ピクリとも動かなくなっているマユちゃんを遠巻きに囲みつつ、私たちはガクガクと震えていた。
部屋の中から響く、重たい破壊音。そして一抱えもありそうな繭になったマユちゃん……夏のホラーはここにあったんだ……。
「だ、大丈夫……マユちゃんは生きてるから」
顔色を悪くしつつ、私たちの中では一番落ち着いてる寧々ちゃんがしゃがみ込んでそっと繭を撫でる。
「よくわからないけど……LVが上がったことと関係してるんじゃないかと思うんだ」
「テイマー志望の私でも聞いたことない現象だけど!?」
いや、志望じゃ無くて私はもうテイマーか。少なくとも私は従魔やモンスターがこんな状態になったというのは聞いたことがない。
やがて、モンスターハウスの中での破壊音が止んだ頃、マユちゃんを包み込んだカチコチの繭がピシリと音を立てた。
最初は小さい音。それが連続して起きながら、大きな音になっていく。
寧々ちゃんだけが怖がることもせず繭に寄り添い、聖弥くんとあいちゃんと須藤くんは少し下がって武器を構えた。
そして私は、その繭に向かってカメラを向け続けていた。
そこから出てくる「何か」をすぐに鑑定するために。
もしも「寧々ちゃんの従魔のマユちゃん」じゃなくなってたら、即座にみんなに攻撃の指示を出せるように……。
「ブッ!」
若干聞き慣れた声とともに、見慣れた白いお手々が内側からボスッとパンチで繭を割った。
自力で開けた穴から、ジタバタしながら白に黒いハチワレ模様のツノウサがもたもたと出てくる。私は少し震える手で向けたスマホで「それ」を鑑定した。
マユ LV12 従魔
HP 120/120(+25)
MP 211/211(+50)
STR 70(+32)
VIT 65(+35)
MAG 83(+33)
RST 59(+35)
DEX 63(+32)
AGI 92(+33)
スキル 【幻影魔法】
装備 【アポイタカラ・ハーネス】
種族 【アルミラージ】
マスター 【法月寧々】
「アルミラージだー!!」
思わず叫んだよね。ミニアルミラージだったマユちゃんが、「ミニ」じゃないアルミラージになった!
しかもステータスが高い! ヤマトほどじゃないけど、これは立派な戦力だよ。
「マユちゃん!」
繭から完全に抜け出したマユちゃんは、元のミニウサギくらいの大きさからかなり大きくなって――うん、ヤマトより少し大きいくらいだね。元の3倍くらいかな。
それをぎゅっと抱きしめる寧々ちゃんは凄く嬉しそうで。
ハーネス、ぎっちぎちになってないかな? とか余計な心配を私はしてしまった。
「存在進化……ってことかな。アグさんのところで凄い修行したから、一気に経験値が入ったせいでミニアルミラージの枠に収まらない成長をして、アルミラージになったのかも」
ちょっと私と同じ心配をしたのか、マユちゃんのハーネスをチェックしながら寧々ちゃんが呟く。
はあー、と安堵のため息をつきながら、武器を構えていた3人はそれを下ろした。
でっかくなっても大きさ以外特に変わらず、鼻をヒコヒコさせながら寧々ちゃんに抱っこされているマユちゃんに、自然に私たちの注目が集まる。
「モンスターが進化したって初めて聞いた」
「研究してレポートか何かにしたら凄いことになるかも」
「絶対嫌。面倒くさい」
「でも一応冒険者協会の人には報告しないといけないよねえ」
一瞬の沈黙の後、私は寧々ちゃんの肩をポンと叩く。
「頑張って! アグさんを紹介してくれた神奈川支部の理事の人なら紹介できるから!」
「えっ、私!?」
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