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夏休みのあれこれの巻
第131話 深まる謎
しおりを挟む配信の翌日、私はアポイタカラ・セットアップに身を包み、ヤマトを連れて寧々ちゃんの家の前にいた。
「おはよう、寧々ちゃん! はい、村雨丸背負って。なんなら、私の予備の防具も着る?」
「おはよう、柚香ちゃん。……つまり、ダンジョンまで走って行くんだね?」
さすが寧々ちゃん。理解が早い。
だって神奈川県内ですもん。これもスタミナ上げだと思えば余裕余裕。
マユちゃんのキャリーがどういうタイプか事前に確認したらリュック型だと教えて貰えたので、「いける」と拳を握った次第であります。
私の防具に関しては、確かに私のサイズではあるんだけど、寧々ちゃんとはそんなに体型が変わらないので行けるはず。
寧々ちゃんは少し迷ってから、「じゃあ借りるね……」とアポイタカラ・セットアップを持って家の中へ戻っていった。
今日は蓮は呼んでない。
マユちゃんが弱すぎて、アグさんにダメージが入ることも無いだろうし、アグさんに放り投げられたりすることもないだろうからね。
一応私のアイテムバッグには蓮と聖弥くんの武器防具も入ってるんだけど、VITに一番補正が付いてるのは村雨丸なんだよね。
この装備での補正があれば、寧々ちゃんも余裕で大山阿夫利ダンジョンまで行ける!
…………と思っていたんですけどね。
まさかの、マユちゃんが酔った……。
確かにリュックに入ってる状態で、凄いスピードで走られたら……ねえ。モンスターも車酔いみたいなことになるんだね。
寧々ちゃんの家を出てから30分ほど走った辺りで、一度休憩してマユちゃんの様子を見たら、ぐったりして口元に若干泡っぽい物が。
「マユちゃぁぁぁーん!!」
相模川の河川敷に轟いた、寧々ちゃんの悲鳴が凄かった。
しかたないので、マユちゃんにポーションを飲ませつつママに電話して車で来てもらい、前回と同じく登山口で下ろして貰った。私たちは駆け上がっても大丈夫だけど、マユちゃんがまた泡吹いちゃうから、普通の速さでの山登りね。
「マユちゃんのステータスが凄い上がったら、ここら辺くらい一緒にハーネス付けて走って行けるのにね」
「うん、でもステータス上がったらもう来ないと思うから」
岩を避けて登山道を上りながらなんの気なしに言ったら、寧々ちゃんの鋭い突っ込みが返ってきた。
ソーデスネ……。
予定よりも2時間遅れで大山阿夫利ダンジョンへ到着。
これに関しては、完全に私の読み違いです。マユちゃんは最弱の存在なのだった……。
「上級ダンジョンといっても、見た目は変わらないんだね」
「うん、私も前回来たときそう思ったよ」
大山の山頂について寧々ちゃんが持った感想は、前回の私と同じような物だった。
ダンジョンの入り口は一律で洞窟の入り口みたいな外見。アグさんがギリギリ出られるかどうかって大きさなんだよね。
……でも、出入りできるんだよね。ここ以外のダンジョンにも行ってたんだろうし。
あ、どうなんだろう、疑問になってきた。案外、ここは上級ダンジョンだからここにアグさんを常駐させて、狩りはここでしてた可能性もあるね。
ダンジョンの入り口を潜ると、外よりかなりひんやりとした空気が心地いい。
年間通して同じ気温って、夏には本当に最高だよ。
「アグさーん、遊びに来たよー」
隅っこの方に赤い小山を見つけて声を掛けると、むっくりとその小山が起き上がった。隣の寧々ちゃんが「ヒッ」と小さく声を漏らしている。
「大丈夫だよ。テイムされてるドラゴンだし、凄く人懐っこいからね」
「う、うん」
初見の反応って普通はこうなんだなあ。
アグさんは嬉しそうに羽を広げてドスドスと足音も荒く走ってくる。
「ギョロロロ~」
「わーい、久しぶり!」
寧々ちゃんが数歩後ずさったので、私はグルグル鳴きながら頬ずりをしてくるアグさんを受け止めた。
ヤマトはアグさんの足下で「構ってステップ」をしている。
やっぱり、ヤマトって普通の状態だとアグさんを敵と認識しないんだよねえ。
「懐いてる……んだよね?」
怖々と寧々ちゃんが遠巻きにアグさんを見ているので、私は頑張って怖くないアピールをすることにした。
アイテムバッグからボウルを2つ出して、それぞれに牛乳を入れる。それをヤマトとアグさんの前に置くと、2匹はガブガブと牛乳を飲み始める。
「アグさんは牛乳好きなんだって。あとサンドイッチと、グミが好物らしいよ」
「グミ……」
「うん、言いたいことは分かるよ……。誰がモンスターにグミをやったんだってね……」
マスターさんのおやつだったんだろうけど、何故そこでドラゴンにグミを上げようと思ったかだよね……。
毛利さん曰く、コーラ味で噛み応えのあるグミが好きらしい。……私もそれ好きだよ。海外の奴ね。
牛乳を飲み終わったアグさんにグミを差し出してみると、アグさんは舌を伸ばしてペロリと器用にグミを口に入れた。
そのまま嬉しそうな顔であぐあぐと噛んでいる。あ、もしかして噛み心地がいいのかな?
「あ、はいはい。ヤマトにもおやつね」
ヤマトはグミを食べないから、前に拾っておいた魔石をひとつあげる。
いつもながら、ヤマトは器用に前足で魔石を挟み込んでガリガリと囓り始めた。
「マユちゃんも魔石食べる?」
「食べないよ」
軽く聞いたら、物凄い真顔の寧々ちゃんに否定されました!
あれっ!? そういえば、合宿の間中マユちゃんが魔石食べてるところとか見たことないぞ!? ヤマトなんか戦ってたら出てきた魔石食べまくってるけど、そういうこと無かったね!
「ええと、それは寧々ちゃんが食べちゃ駄目だよって命令してるわけじゃなくて?」
「うん、私もテイマーになって気づいたけど、モンスターって別に魔石食べないよ? ヤマトの方が特殊なんだと思う」
「うっそー!? アグさん、魔石食べる!?」
まだグミをモッチャモッチャと噛んでるアグさんの前に、魔石をひとつ置いてみる。アグさんは魔石には全く興味を示さず、ヤマトが「要らないの? 要らないの? 貰っていい?」とアグさんの足下で様子を見ている。
ええええええええええええええ!?
魔石食べるのって、ヤマトだけなの!?
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