上 下
139 / 273
夏休みのあれこれの巻

第131話 深まる謎

しおりを挟む


 配信の翌日、私はアポイタカラ・セットアップに身を包み、ヤマトを連れて寧々ちゃんの家の前にいた。

「おはよう、寧々ちゃん! はい、村雨丸背負って。なんなら、私の予備の防具も着る?」
「おはよう、柚香ちゃん。……つまり、ダンジョンまで走って行くんだね?」

 さすが寧々ちゃん。理解が早い。
 だって神奈川県内ですもん。これもスタミナ上げだと思えば余裕余裕。
 マユちゃんのキャリーがどういうタイプか事前に確認したらリュック型だと教えて貰えたので、「いける」と拳を握った次第であります。

 私の防具に関しては、確かに私のサイズではあるんだけど、寧々ちゃんとはそんなに体型が変わらないので行けるはず。
 寧々ちゃんは少し迷ってから、「じゃあ借りるね……」とアポイタカラ・セットアップを持って家の中へ戻っていった。

 今日は蓮は呼んでない。
 マユちゃんが弱すぎて、アグさんにダメージが入ることも無いだろうし、アグさんに放り投げられたりすることもないだろうからね。

 一応私のアイテムバッグには蓮と聖弥くんの武器防具も入ってるんだけど、VITに一番補正が付いてるのは村雨丸なんだよね。
 この装備での補正があれば、寧々ちゃんも余裕で大山阿夫利ダンジョンまで行ける!


 …………と思っていたんですけどね。
 まさかの、マユちゃんが酔った……。
 確かにリュックに入ってる状態で、凄いスピードで走られたら……ねえ。モンスターも車酔いみたいなことになるんだね。

 寧々ちゃんの家を出てから30分ほど走った辺りで、一度休憩してマユちゃんの様子を見たら、ぐったりして口元に若干泡っぽい物が。

「マユちゃぁぁぁーん!!」

 相模川の河川敷に轟いた、寧々ちゃんの悲鳴が凄かった。
 しかたないので、マユちゃんにポーションを飲ませつつママに電話して車で来てもらい、前回と同じく登山口で下ろして貰った。私たちは駆け上がっても大丈夫だけど、マユちゃんがまた泡吹いちゃうから、普通の速さでの山登りね。

「マユちゃんのステータスが凄い上がったら、ここら辺くらい一緒にハーネス付けて走って行けるのにね」
「うん、でもステータス上がったらもう来ないと思うから」

 岩を避けて登山道を上りながらなんの気なしに言ったら、寧々ちゃんの鋭い突っ込みが返ってきた。
 ソーデスネ……。

 予定よりも2時間遅れで大山阿夫利ダンジョンへ到着。
 これに関しては、完全に私の読み違いです。マユちゃんは最弱の存在なのだった……。

「上級ダンジョンといっても、見た目は変わらないんだね」
「うん、私も前回来たときそう思ったよ」

 大山の山頂について寧々ちゃんが持った感想は、前回の私と同じような物だった。
 ダンジョンの入り口は一律で洞窟の入り口みたいな外見。アグさんがギリギリ出られるかどうかって大きさなんだよね。
 ……でも、出入りできるんだよね。ここ以外のダンジョンにも行ってたんだろうし。
 あ、どうなんだろう、疑問になってきた。案外、ここは上級ダンジョンだからここにアグさんを常駐させて、狩りはここでしてた可能性もあるね。

 ダンジョンの入り口を潜ると、外よりかなりひんやりとした空気が心地いい。
 年間通して同じ気温って、夏には本当に最高だよ。

「アグさーん、遊びに来たよー」

 隅っこの方に赤い小山を見つけて声を掛けると、むっくりとその小山が起き上がった。隣の寧々ちゃんが「ヒッ」と小さく声を漏らしている。

「大丈夫だよ。テイムされてるドラゴンだし、凄く人懐っこいからね」
「う、うん」

 初見の反応って普通はこうなんだなあ。
 アグさんは嬉しそうに羽を広げてドスドスと足音も荒く走ってくる。

「ギョロロロ~」
「わーい、久しぶり!」

 寧々ちゃんが数歩後ずさったので、私はグルグル鳴きながら頬ずりをしてくるアグさんを受け止めた。
 ヤマトはアグさんの足下で「構ってステップ」をしている。
 やっぱり、ヤマトって普通の状態だとアグさんを敵と認識しないんだよねえ。

「懐いてる……んだよね?」

 怖々と寧々ちゃんが遠巻きにアグさんを見ているので、私は頑張って怖くないアピールをすることにした。
 アイテムバッグからボウルを2つ出して、それぞれに牛乳を入れる。それをヤマトとアグさんの前に置くと、2匹はガブガブと牛乳を飲み始める。

「アグさんは牛乳好きなんだって。あとサンドイッチと、グミが好物らしいよ」
「グミ……」
「うん、言いたいことは分かるよ……。誰がモンスターにグミをやったんだってね……」

 マスターさんのおやつだったんだろうけど、何故そこでドラゴンにグミを上げようと思ったかだよね……。

 毛利さん曰く、コーラ味で噛み応えのあるグミが好きらしい。……私もそれ好きだよ。海外の奴ね。

 牛乳を飲み終わったアグさんにグミを差し出してみると、アグさんは舌を伸ばしてペロリと器用にグミを口に入れた。
 そのまま嬉しそうな顔であぐあぐと噛んでいる。あ、もしかして噛み心地がいいのかな?

「あ、はいはい。ヤマトにもおやつね」

 ヤマトはグミを食べないから、前に拾っておいた魔石をひとつあげる。
 いつもながら、ヤマトは器用に前足で魔石を挟み込んでガリガリと囓り始めた。

「マユちゃんも魔石食べる?」
「食べないよ」

 軽く聞いたら、物凄い真顔の寧々ちゃんに否定されました!
 あれっ!? そういえば、合宿の間中マユちゃんが魔石食べてるところとか見たことないぞ!? ヤマトなんか戦ってたら出てきた魔石食べまくってるけど、そういうこと無かったね!

「ええと、それは寧々ちゃんが食べちゃ駄目だよって命令してるわけじゃなくて?」
「うん、私もテイマーになって気づいたけど、モンスターって別に魔石食べないよ? ヤマトの方が特殊なんだと思う」
「うっそー!? アグさん、魔石食べる!?」

 まだグミをモッチャモッチャと噛んでるアグさんの前に、魔石をひとつ置いてみる。アグさんは魔石には全く興味を示さず、ヤマトが「要らないの? 要らないの? 貰っていい?」とアグさんの足下で様子を見ている。

 ええええええええええええええ!?
 魔石食べるのって、ヤマトだけなの!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...