【柴犬?】の無双から始まる、冒険者科女子高生の日常はかなりおかしいらしい。

加藤伊織

文字の大きさ
上 下
129 / 362
冒険者科夏合宿の巻

第121話 ドMですか

しおりを挟む
「お、おはよ」
「おはようー」

 合宿最終日、洗面所で顔を洗って出たところで蓮に会った。
 凄いな、さっき中森くんなんか盛大に寝癖付けて歩いてたけど、早起きしてセットしてるのか何なのか、髪型に乱れがないよね。

「片桐先生、凄いよな」

 何故か、私に並んでぼそっと蓮が呟く。

「それは昨日私も思ったけど」
「帰ってきてから風呂に入ったときに一緒になってさ、いろいろ話聞いたんだよ」

 あー、なるほど。確かにあのタイミングなら一緒になるよね。私も西山先輩たちと一緒になったんだし。

「魔法の活用とか教えてもらった。アクアフロウを直接ぶつけるんじゃなくて、床を水浸しにしてから雷魔法で感電させたり、氷魔法で凍らせたりして動きを阻害したりとか」
「ロマンだねー、水魔法と雷魔法のコンボ」
「どんなロマンだよ。おまえは全く……」

 呆れられましたが、これはロマンの極みじゃないの!? 少なくともママとか彩花ちゃんは同意してくれると思うんだけどな!

「今まで俺たち、連携とか余りとらないでバラバラに戦ってたけど、ああいう司令塔がいるとスムーズだよなーって思ってさ」
「うん、私も思った! Y quartetの場合はさ、前衛ふたりだけど私は切り込み隊長じゃん? だから聖弥くんが落ち着いて周囲を見られるようになったら、そういう役目ができると良いかなあって」
「聖弥なら……慣れてくればできると思う。元々冷静なタイプだし。てか、聖弥って昨日何かあったか?」

 蓮は思いっきり眉をしかめてるけど、そんなに聖弥くんの様子がおかしいんだろうか。

「昨日……?」

 昨日は……なんかいろいろありすぎて記憶が散漫だなあ。
 私が首を傾げていると、蓮は洗面所からちょっと離れたところに行って私を手招きした。こっちはあまり人がいないから、人に聞かれたくない話なんだろうか。

「聖弥がおかしい。急にへらへらし始めたり、夜ずっとourtube見てて赤面してたり。あと、やたらアイリの話が出る」
「あ、あー!」

 それか! それなら心当たりがあるよ!
 思わず大きな声を出してしまった私に、蓮が「声がでかい」と注意してきた。

「うん、あった。昨日午前中に聖弥くんが盾持っていちいち攻撃受けてから倒してたから、あいちゃんがキレちゃって」
「うわ、アイリキレさせたのか。こえー」
「この合宿って、1年生の目的はLV10を達成しようってことじゃん? それを超えてる人って、要はサポート要員なんだよね。だからあいちゃんが『あんたは主役じゃない』ってビンタして」

 昨日の午前中に起きたことをダイジェストで説明すると、「それでおかしかったのか!」と蓮はしゃがみ込んで頭を抱えた。

「昨日あいちゃんに怒られてから口数が少なかったのは確かだよ」
「昼休憩の時、なんで俺がアイリを呼び捨てにしてるか聞かれた。最初はそもそもourtuberとして知ってたせいなんだけどさ」

 そこから午後の「アイリちゃん」に繋がったのか……。
 これは……もう……あれですね。
 わかりやすいフォーリンラブ。

 しかしなあ……あいちゃんかー。よりによってあいちゃんかー!
 見た目可愛いけど中身があれだからモテない人の代名詞、あいちゃんかー!
 いや、聖弥くんの場合外見じゃなくて、中身で惚れたみたいだからいいのかな?

「なんだよ、その百面相」

 心の中でいろいろ考えてたら顔に出てたみたいで、口をへの字にした蓮にツッコまれた。

「いやー、『たで食う虫も好き好き』ってことわざがあったなあって」
「まあ、俺も似たようなこと考えてたけど。どう見ても昨日一日でアイリに恋してるよな……」

 すっごい嫌そうに言うなあ。まあ、私も聖弥くんの茨道を考えると、キャッキャして野次馬で楽しむ気にはなれない。

「でもさー、聖弥くんには悪いけどあいちゃんって……」
「僕が何?」
「ぎょわっ!」

 本当に驚くと、人間はナチュラルに変な悲鳴を出せるんですね!
 自動販売機の陰から聖弥くんが笑顔で現れたので、私と蓮は思いっきり悲鳴を上げてしまった。

 ああああー、やばい気まずい!
 噂してたところにその人が来るの、すっごい気まずいよ!

「昨日聖弥がおかしかったから、同じパーティーの柚香に何かあったかって聞いてた」

 うわっ、蓮は平然と事実を言うなあ! 
 目つきすっごい悪いけど!

「あ、うん。ちょっと昨日いろいろあったね。やっぱり蓮にはバレちゃうかー」

 テヘヘと笑う聖弥くんは、照れてはいるけどあんまり誤魔化そうとはしていないっぽい。私は男子とこういう話をしたことがないので、ちょっと態度に困るなあと思っていたら――。

「あのさ……やっぱり、アイリちゃんって可愛いし凄くモテるよね?」
「私の知る限りモテたことはないよ……」

 ちょっともじもじしながらそんなことを聞いてくるから、思わず即座に答えたよね。
 えっ? って聖弥くんは不思議がってるけど、むしろビンタされた人間としてその理由がわからないって何だろうなあ!

「あいちゃんはさ……確かに見た目はいいけど、遠慮が無いしすぐ手とか足とか出るじゃん。中学の間、何度男子と喧嘩してたことか……。もしかしたら密かに好かれたりしてたかもしれないけど、告白されたりしたって話は一度も聞いたことないよ。
 てか、聖弥くんだってあれで引いたりしなかったの?」
「僕、女の子から告白されたことはあっても、あんなに怒られて叩かれたの初めてで……」

 由井聖弥ァー! どうしてそこで顔を赤らめるんだー!
 私と蓮は揃って、「えええええ」って顔で聖弥くんを見つめてしまった。

「誰かを叱れるって、凄いことだと思うよ。相手のことを考えてるって事だもんね。僕だったら、余程好意を持ってる相手じゃなかったら叱ったりしないで放置するから」
「ドMなの?」

 うっかり口から本音が漏れた!
 いやだってさ、ぶったたかれてブチ切れられて、それで「自分のことを考えてくれてる」ってどんだけのポジティブ思考なのよ!?
 あれって人を好きになるようなシチュエーションだった?
 少なくとも私の感覚では否だ!

「あ、でも恥ずかしいから、この事は他の人には言わないようにして」

 手を合わせて私たちを拝む聖弥くん。

 もうね。
 レアなんですよ。人を拝む由井聖弥という存在が。
 腹黒王子って言われるくらい、裏から手を回すタイプだからさ……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベルアップしたらステータスが無限になった

wow
ファンタジー
レベルが上がるのが遅すぎると追放された主人公にシステムメッセージが流れ驚愕の事実が通達される。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

ループn回目の妹は兄に成りすまし、貴族だらけの学園へ通うことになりました

gari@七柚カリン
ファンタジー
────すべては未来を変えるため。  転生者である平民のルミエラは、一家離散→巻き戻りを繰り返していた。  心が折れかけのn回目の今回、新たな展開を迎える。それは、双子の兄ルミエールに成りすまして学園に通うことだった。  開き直って、これまでと違い学園生活を楽しもうと学園の研究会『奉仕活動研究会』への入会を決めたルミエラだが、この件がきっかけで次々と貴族たちの面倒ごとに巻き込まれていくことになる。  子爵家令嬢の友人との再会。初めて出会う、苦労人な侯爵家子息や気さくな伯爵家子息との交流。間接的に一家離散エンドに絡む第二王子殿下からの寵愛?など。  次々と襲いかかるフラグをなぎ倒し、平穏とはかけ離れた三か月間の学園生活を無事に乗り切り、今度こそバッドエンドを回避できるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...