124 / 257
冒険者科夏合宿の巻
第116話 聖弥のアイデンティティー
しおりを挟む
五十嵐先輩が棒手裏剣の毒付与を終わらせたのとほぼ同時に、着替えた蓮と聖弥くん、そして安達先生と片桐先生が食堂に駆け込んできた。
蓮と聖弥くんにそれぞれの武器と盾を渡しつつ、私は片桐先生に目を向けた。
「他の先生たちとも話し合ったが、これはあくまでも『ダンジョンでは不測の事態も起きることがある』という前提の上での実習の一環だ。
2年生の橋本からの救援要請によると、本来足柄ダンジョン7層には出ないはずの大型モンスターの発生があった。外見はキメラ型だ」
食堂の奥の方に座っていた上級生がざわついている。キメラ? と疑問形のささやきがあちこちで起きていた。
「小型のキメラは足柄ダンジョンの上層階にも発生するな。だが、砂地エリアの7層には本来キメラは沸かない。今回発生したキメラは大型であり、魔法を使う。つまり、エルダーキメラだ」
エルダーキメラ……。
……知らん……。
どうしよう。とりあえず真面目な顔で頷いておくか。
「これを踏まえて、モンスターを討伐して橋本パーティーを救出するメンバーを選定した。エルダーキメラは生体型だから、安永の氷魔法は効果が高い。それに、体の大きさや攻撃の危険度に比べると動作は遅い。高AGIの柳川は物理アタッカーとして適役だ。最後に、ヘビの頭から毒液を吐く攻撃があるから、それを防ぐ盾として由井のプリトウェンは有効だ。3人とも補正効果で魔法耐性が異様に高いのもポイントだ。
ジョブヒーラーの安永がいれば、毒を受けたときの対策にもなる。大泉先生は安永と役割が被るというか、安永ほどの攻撃力がないので今回はここに残って指示出しをしてもらう。
このパーティーは上級攻略に匹敵する戦力がある。中級の通常敵は余り問題にならないだろう」
つらつらと片桐先生が説明をするのを聞いて、立候補もあったけど実は凄い検討されたメンバーなんだね!? と驚いてしまった。
片桐先生は後衛ボウガン使い、安達先生は前衛バックラー持ち軽戦士だそうだ。バックラーは確かに毒攻撃には向かないね。
索敵をするのは安達先生、判断をするのは片桐先生と言うことなんだろう。
「安達先生は高AGI・高DEX型の前衛軽戦士のお手本みたいな人だ。柳川はよく見ておくようにな」
「はい」
凄いな……トラブルが起きてるけど、それへの対処も含めて本当に「実習」なんだ。
校長先生の判断を仰がないと、とかじゃなくて、現場の判断で全てが回ってる。
レア湧きは階層を移動できるから、階段が安全地帯にはならない。
だけど、隠し部屋には入れない。
橋本先輩たちの、「隠し部屋に避難」というのは、最適の対処法だった。隠し部屋があって、それを知ってないとできないことだけどね。
そういうのを含めて勉強になるー!
余程厳しい上級ダンジョンの一部以外は情報も凄く出回ってるから、アタックするダンジョンを事前に調べるのは大事なことだってわかるね。調べておけば、隠し部屋の有無や、それが何層のどこにあるかもわかって活用できる。
「出発前に装備を確認するぞ」
「あ……すみません、魔法を習得させてください!」
聖弥くんのそんな言葉に、私と蓮は驚いて彼を見つめた。
聖弥くんはMAGが10に達してるから、魔法を習得することができる。
それはわかるんだけど、このタイミングで何を習得すると言うんだろう。
「僕は蓮みたいに高火力の魔法を使うことはできません。柚香ちゃんみたいに攻撃に秀でてるわけでもありません。……僕に何ができるのか、パーティーの中で何をするべきなのか、今日ずっと考えてました」
真剣な顔で聖弥くんはアプリを操作して、私が見たことない画面へと進んだ。
「特徴のない勇者ステータスは、パーティーの中で欠けているところを補うときにこそ一番活用できるんじゃないかと、やっと気づきました。
僕は主役じゃなくて、パーティーの中でふたりを支える役目なんです」
主役じゃないっていうのは、人によっては耐えがたいことなんだろう。でも聖弥くんはそれを嘆かずに受け入れた。
自分の特性を正しく理解し、「Y quartetというパーティーの中で最高に強みを発揮するには」と考えた結果が――。
「初級補助魔法を習得します。これなら、僕みたいにギリギリのMAGでも威力が変わらなくて、パーティーの戦力の底上げになりますから」
初級補助魔法を選択したことで、AGIを上げるラピッドブーストと、VITを上げるスタミナブーストを聖弥くんは習得した。
AGIを上げるっていうのは、どんな場面でも死に筋じゃない手なんだよね。その上でVITを上げておけば、生存率を上げることに直接繋がるんじゃないかと思う。
……聖弥くん、午前中にあいちゃんに怒られてから、ずっと「自分の役割」について考えてたんだな。
たった1日の中で、人はこんなに成長するんだ。
事情を知らない人たちから見たら何でもないことかもしれないけど、うちの班のメンバーや蓮は「どう立ち回ったらいいか、最適解がわからないままなんとなくで戦ってる」聖弥くんを知ってる。
だから、私はじんわりと感動をしていた。
蓮と聖弥くんにそれぞれの武器と盾を渡しつつ、私は片桐先生に目を向けた。
「他の先生たちとも話し合ったが、これはあくまでも『ダンジョンでは不測の事態も起きることがある』という前提の上での実習の一環だ。
2年生の橋本からの救援要請によると、本来足柄ダンジョン7層には出ないはずの大型モンスターの発生があった。外見はキメラ型だ」
食堂の奥の方に座っていた上級生がざわついている。キメラ? と疑問形のささやきがあちこちで起きていた。
「小型のキメラは足柄ダンジョンの上層階にも発生するな。だが、砂地エリアの7層には本来キメラは沸かない。今回発生したキメラは大型であり、魔法を使う。つまり、エルダーキメラだ」
エルダーキメラ……。
……知らん……。
どうしよう。とりあえず真面目な顔で頷いておくか。
「これを踏まえて、モンスターを討伐して橋本パーティーを救出するメンバーを選定した。エルダーキメラは生体型だから、安永の氷魔法は効果が高い。それに、体の大きさや攻撃の危険度に比べると動作は遅い。高AGIの柳川は物理アタッカーとして適役だ。最後に、ヘビの頭から毒液を吐く攻撃があるから、それを防ぐ盾として由井のプリトウェンは有効だ。3人とも補正効果で魔法耐性が異様に高いのもポイントだ。
ジョブヒーラーの安永がいれば、毒を受けたときの対策にもなる。大泉先生は安永と役割が被るというか、安永ほどの攻撃力がないので今回はここに残って指示出しをしてもらう。
このパーティーは上級攻略に匹敵する戦力がある。中級の通常敵は余り問題にならないだろう」
つらつらと片桐先生が説明をするのを聞いて、立候補もあったけど実は凄い検討されたメンバーなんだね!? と驚いてしまった。
片桐先生は後衛ボウガン使い、安達先生は前衛バックラー持ち軽戦士だそうだ。バックラーは確かに毒攻撃には向かないね。
索敵をするのは安達先生、判断をするのは片桐先生と言うことなんだろう。
「安達先生は高AGI・高DEX型の前衛軽戦士のお手本みたいな人だ。柳川はよく見ておくようにな」
「はい」
凄いな……トラブルが起きてるけど、それへの対処も含めて本当に「実習」なんだ。
校長先生の判断を仰がないと、とかじゃなくて、現場の判断で全てが回ってる。
レア湧きは階層を移動できるから、階段が安全地帯にはならない。
だけど、隠し部屋には入れない。
橋本先輩たちの、「隠し部屋に避難」というのは、最適の対処法だった。隠し部屋があって、それを知ってないとできないことだけどね。
そういうのを含めて勉強になるー!
余程厳しい上級ダンジョンの一部以外は情報も凄く出回ってるから、アタックするダンジョンを事前に調べるのは大事なことだってわかるね。調べておけば、隠し部屋の有無や、それが何層のどこにあるかもわかって活用できる。
「出発前に装備を確認するぞ」
「あ……すみません、魔法を習得させてください!」
聖弥くんのそんな言葉に、私と蓮は驚いて彼を見つめた。
聖弥くんはMAGが10に達してるから、魔法を習得することができる。
それはわかるんだけど、このタイミングで何を習得すると言うんだろう。
「僕は蓮みたいに高火力の魔法を使うことはできません。柚香ちゃんみたいに攻撃に秀でてるわけでもありません。……僕に何ができるのか、パーティーの中で何をするべきなのか、今日ずっと考えてました」
真剣な顔で聖弥くんはアプリを操作して、私が見たことない画面へと進んだ。
「特徴のない勇者ステータスは、パーティーの中で欠けているところを補うときにこそ一番活用できるんじゃないかと、やっと気づきました。
僕は主役じゃなくて、パーティーの中でふたりを支える役目なんです」
主役じゃないっていうのは、人によっては耐えがたいことなんだろう。でも聖弥くんはそれを嘆かずに受け入れた。
自分の特性を正しく理解し、「Y quartetというパーティーの中で最高に強みを発揮するには」と考えた結果が――。
「初級補助魔法を習得します。これなら、僕みたいにギリギリのMAGでも威力が変わらなくて、パーティーの戦力の底上げになりますから」
初級補助魔法を選択したことで、AGIを上げるラピッドブーストと、VITを上げるスタミナブーストを聖弥くんは習得した。
AGIを上げるっていうのは、どんな場面でも死に筋じゃない手なんだよね。その上でVITを上げておけば、生存率を上げることに直接繋がるんじゃないかと思う。
……聖弥くん、午前中にあいちゃんに怒られてから、ずっと「自分の役割」について考えてたんだな。
たった1日の中で、人はこんなに成長するんだ。
事情を知らない人たちから見たら何でもないことかもしれないけど、うちの班のメンバーや蓮は「どう立ち回ったらいいか、最適解がわからないままなんとなくで戦ってる」聖弥くんを知ってる。
だから、私はじんわりと感動をしていた。
8
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
婚約破棄に効く薬
ひろか
ファンタジー
「ルビエット! 君との婚約を破棄し、ここにいるハルーシャを新たな婚約者とする!」
婚約とは家同士の契約。
平民に心奪われたわたくしの婚約者さま。よろしいですわ。わたくしはわたくしのやり方で貴方の心を奪い返しましょう。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる