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冒険者科夏合宿の巻

第107話 うちのクラスの団結力

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 翌朝はさすがに朝のランニングをすることができなかったので、私の体力は100%の充填率だ。
 それを朝ご飯の席で言ったら、周囲が全員「えっ?」とこっちを向いた。

「柳川さん……まさか学校の前にも走ってるの?」

 柴田さんが嫌そう~な顔で、味噌汁のお椀を持ちつつ私を見ていた。
 朝ご飯は、わかめと豆腐の味噌汁と雑穀米、玉子焼きに焼き鯖にサラダだ。これ以外にみんなそれぞれプロテインを飲む。
 汗をかくから、塩分不足にならないようにお味噌汁はしっかり飲めと言われてる。冒険者科は4ヶ月の間にサバイバル能力が上昇していて、「じゃあ、苦手でも頑張って食べたり飲んだりしなければ」って思うようになってるね。

「うん、元々走ってたけど、最近はヤマトがいるし朝散歩に5キロくらい走ってから朝ご飯食べて学校行ってるよ」
「うわぁ……」
「お味噌汁! こぼれるよ!」

 斜め前にいる柴田さんのお椀が傾いたので慌てて叫んだら、周囲からたくさんの悲鳴が上がった。柴田さんのお味噌汁に対してじゃなくて、私に対して。何故!

「5キロのランニングは散歩じゃねえよ!」
「ヤマトがいるからって、いるからって! いるから? いや、いなくても走ってるんだよね!?」
「化け物だ、化け物がいる……」
「まあ、柳川だったらフルマラソン余裕だな」

 大泉先生は驚きもせずにお箸を動かしている。うん、もういい加減入学してからの付き合いがあるんだからこうであってほしい。
 私の周りで驚いていないのは、あいちゃん・かれんちゃん・彩花ちゃん・寧々ちゃんの同じ部屋チームと、蓮と聖弥くんだけか……。解せぬなあ。

「今更だろ。こいつ、装備背負ったら多分大山阿夫利ダンジョンまで爆速で走るぞ」
「装備背負って速くなるのが、物理法則を超越してるんだよなあ」
「ステータス補正こええ」
 
 何かを諦めたような顔で蓮が呟くと、周囲の男子からはため息交じりの言葉が飛んでくる。いや、装備背負って重くなるのは、補正が付いてない場合だけだからね!?
 むむ、この中では2番目に付き合いが短い蓮が一番よくわかってる件?
 大山まで走るのは考えてなかったけど、神奈川県内だから行けないことはないね!

「さすが、ゆずっちに担がれて山を降りた男の言葉は含蓄がある」

 そこに彩花ちゃんの言葉が矢のように突き刺さり、蓮は胸を押さえてもだえた。ノリがいいな。

「長谷部様! やめて差し上げろ! 今日のダンジョン、安永が潰れてたら話にならねえんだよ!」
「こいつチキンハートなんだから、攻撃すんな!」

 おおっと、蓮と同じパーティーの金子くんと千葉くんが凄い勢いで蓮を庇ってる。そしてその理由が悲しい。

 そういえば、蓮たちが転入してから、男子たちは最初こそその顔の良さと知名度にちょっとビビってたけど、すぐに馴染んだんだよね。――蓮がヘボすぎて。
 蓮は初期ステータスでもうMAGが8あったから、その時点で魔法系に方針が決まってて、剣を持ったことがなかったらしい。

 なので、実技がダメダメにも程があったのだ。最初の実技の時、終わる頃には男子全員が微笑ましいものを見る目になってて笑った。
 剣を持つ必要はないんだから大丈夫だー、とか慰められてたし。まあ、その慰めてた男子が金子くんや千葉くんだね。

「頼もしいよ、柚香ちゃんがいるから、ちょっと潜っても全然平気そうだね」

 今日のうちにLV8くらいまで上げて従魔をゲットしたい寧々ちゃんは、一点の曇りもない目で私を見ている。私の周りはこうあって欲しいね!

 最初は驚いてた柴田さんも「そういえば柳川さんだった」と一言言って何故か平常心に戻った模様。
 よくわからない理由だけど、納得してくれたならいいか。

 朝食の後は準備をして、ストレッチをしてから武器防具を装備してパーティーごとに分かれてダンジョンに出発だ。
 今日の武器は授業のように刃を潰してなくて、殺傷力のある本物の武器だ。そして、自分で種類を選ぶことができる。限りはあるけどね。

 初心者武器と言われる補正がほとんど付いてないものだけど、人間に向かって使ったら大問題になる奴ね。もちろんそんなことをしたら周囲に反撃されるし、事前に書類で禁止事項の遵守って事で確認も取られてる。

 戦闘専攻はもうだいたい武器が決まってて、クラフトは慣れてるショートソードを選ぶ人が多い。ショートソードを選ばない人はクロスボウ。弓のように引くときに筋力が必要になるわけじゃないし、威力も高い。矢も短くて持ち運びが簡単だから。

 須藤くんと寧々ちゃんは、それぞれ武器を持ち替えようかと悩んでた。
 須藤くんはクロスボウ、寧々ちゃんは刀に。

「全員近接なのはバランス悪いかなと思ってさー」

 須藤くんは良識的だなあ。そこで自分が武器変えようと思う辺り。

「でも、初級ダンジョンのモンスは、基本近接でボコれば問題ないのばっかりだし、いきなり慣れないことやると逆に大惨事を引き起こすよ。蓮みたいに、蓮みたいに」
「それもそうか」

 初級ダンジョンの敵は連係攻撃をしてこない。だから、こっちが同士討ちにならない程度に多い人数で囲んで殴れば勝てる。階を下っても、モンスのステータスが上がるだけで基本戦術は何も変わらない。
 プチサラマンダーはちょっと例外だけど。

「うん、盾持ちもいるし、金太郎ダンジョンは特殊な敵はいないって聞いてるから大丈夫だよ! 一番当てやすい方法で殴ろう」
「笑顔で『殴ろう』って言う柳川の安心感、凄い」
「須藤くんもゆーちゃんに毒されてるね」

 確かに私も一瞬、それは安心感なのかと思ったよね。

 10人しかいない女子のうち、3人がA指定されたせいで、女子は全員女子リーダーのパーティーに入ってしまった。前田くんと倉橋くんと中森くんと蓮がリーダーになってるパーティーは、メンバー全員が男子だ。

「それじゃあ、出発の前にリーダーに質問だ。ダンジョンでの基本の立ち回りは?」

 武器を選び終えたところで大泉先生がそんな質問をしてきた。
 奇しくも、蓮以外の6人がぴったり声を揃える。

「近くの敵を囲んでボコれ!」

 蓮以外のリーダーは私以外全員戦闘系だから、笑顔で言うよね! 私も笑顔で言ったけどさ!

「え、えええええええー?」

 出遅れた蓮は、周囲のあまりに脳筋な発言にドン引きしている。
 いいんだよ、初級ダンジョンで5人パーティーなんて基本戦力飽和なんだから。
 ボスですら「LV10が4人で倒す」って言われてるんだし。
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