上 下
106 / 271
強くなります! の巻

第99話 大涌谷ダンジョン攻略

しおりを挟む


 5層と6層はプチサラマンダーに囲まれる前に、進行方向にいる奴だけを倒してささっと進んだ。
 7層に入ったら森林エリアで、ダンジョン内なのに思わず深呼吸してしまった。

「あー、フィトンチッドー! 溶岩エリアの後だから凄く清々しい!」
「確かにね。敵さえ出なければここで寝っ転がりたい」
「敵が出なきゃな……」

『森にはヘビが出るぞ』
『あと化けキノコとツノウサくらいか』
『初級だから毒のない、でかいだけのヘビな』

 ダンジョン情報が流れてくる。見てる人も多いから、こういう情報も貰えて助かるね。

「サザンビーチダンジョンの4層からも森林ですよ。あんまり敵と戦ったことはないけど」

『確かに、前も駆け抜けてたような』

 うんうん、多分それは蓮たちと初めて会った日のことだね。あの時は帰りは戦ったけど、行きは確かに駆け抜けた。
 あとはMV撮影したときにも行ったけど、その時も駆け抜けてる。

「ヘビ、嫌だな」
「蓮は前にヘビに絡まれてるから」

 心底嫌そうな顔の蓮と、やっぱりため息をつく聖弥くん。SE-REN、いろいろされてるなあ……。

「えっ、サザンビーチダンジョンで?」
「そうそう、行きに確か5層辺りで、木の上から落ちてきたヘビにビビってたら、ツノウサに突撃されて、ひるんでるところでヘビに巻き付かれてた」
「聖弥が剣で切ってくれなかったらヤバかった」
「ええええ……確かに、全くステータスあげてなくて装備も付けてない一般人だとダンジョンは危ないけど、仮にも一応冒険者なのに初級ダンジョンでそんなにピンチに陥るもんなの?」
「陥るもんなんだよ!」

『ゆ~かと一緒にしてはいけない』
『あの時は見てて叫びそうになったよー』

 蓮の叫びに同調するようにコメントが入る。ううむ……そうなのか。
 サザンビーチダンジョンの森林エリアは4層からで、大涌谷ダンジョンの森林エリアは7層からだから、こっちの方がちょっと敵が強いんだよね。

 確かに、ヘビとか割とどこから出るかわからないからなあ。

 ……とか思ってた時期が私にもありました。
 ヘビことグリーンスネークは出たけど、ヤマトに首を噛まれて一撃だったし、化けキノコは私の棒手裏剣2発で倒せた。

 あとは、ツノウサことミニアルミラージ。これは割と人気のあるモンスターで、角の生えたウサギだね。黒い角が特徴で、ミニが付かないアルミラージはそこそこ強いモンスターなんだけど、いかんせん「ミニ」なんだよね。
 動物関係の仕事に就くためにテイマーを取ってる人たちは、これをテイムすることが多い。弱いからテイムしやすいし、小さいし、家で飼えるからね。

 ツノウサは突進してきたんだけど、聖弥くんが盾で弾いたら結構いい音がした。
 これは……角で思いっきり盾にぶつかったな?
 見てみたら、脳震盪起こしたらしいツノウサがひっくり返ってる。そして、サクッとヤマトにとどめを刺されてた。

『強さがインフレ起こしてる』
『初級に潜る強さじゃないんよ』
『でも経験不足なんだよなあ』
『装備品の強さだからねえ』

 それなんですよね……。だから、今日は配信のためにダンジョン潜ってるけど、強くなることに関しては合宿の方が期待大なのだ。

 この辺りの敵も相手にならないので、サクサク進む。そして私たちはあっさりと10層に辿り着いた。
 運がよければボスが……いたー!

「うわ、ここも溶岩か……」
「ボスもいるね」

 相変わらずSE-RENは嫌そうに言うなあ! そこは喜ぼうよ!

「ふたりとも、配信してるって意識をもっと持とうよ! わーい、ボスがいた! って喜ぶところでしょ!」
「わーい、ボスがいた! 頑張るよ! 蓮が!」
「俺様ぁ!?」

 わざとらしく喜んで見せた聖弥くんが、蓮にさらっと押しつけてる。
 まあ、わかるけども。

 ここのボスは、レッサーサラマンダー。
 サラマンダーの、下位種って奴だね。本物のサラマンダーはもっと強い。四元素の精霊ってくらいだし。

 プチサラマンダーはトカゲ型でサラマンダーを小さく弱くした奴だけど、レッサーサラマンダーは赤いサンショウウオみたいな奴だ。
 でかくて、のたのたしてて、火を吐く。ほらぁ!

「うおっと!」

 プチサラマンダーの吐くブレスとは全然大きさが違う! それがこっちに飛んできたけど、私たちは軽々避けた。

「私たちが叩いても良いけど、ここは蓮でしょ」
「僕もそう思う。今日はいいとこがなかったし」
「聖弥までそんな事を言うんだ……」

『あれだけでかければ的も外さないし』
『蓮くん頑張れ~』
『頑張れ魔法少女』

「魔法少女じゃねえから!」

 コメントに叫び返しつつ、蓮はロータスロッドを構えた。

「アクアフロウ!」

 レッサーサラマンダーの吐いたファイアーブレスよりも、蓮が打つアクアフロウの方が大きいなあ……。
 水の塊がどかっとレッサーサラマンダーにぶちあたり、オアアアア……って悲鳴だけがこだまして、ボスは倒れた。

 一撃か……。
 強くなったなあ~。

「あっけなかったね……」
「火属性に水魔法をぶつけるのは常道だよね」
「おおおおおおおお俺が、ボスを一撃で?」

 蓮は狼狽してるけど、補正込みでMAG250越えだよ?
 魔力「だけ」なら日本屈指だよ、君は……。

「いや、多分あれ、オーバーキルだった」

 私が呟くと、コメント欄も同意の渦!

『アクアフロウの水球は、普通あんなにでかくない』
『もしかするとゆ~かか聖弥でも一撃だったかもしれない』
『遅くてでかい相手だと、遠距離でぶつかられる魔法は安定するね』
『でもレッサーサラマンダーは魔法系だから、RSTはそれなりにあったはずなんだが』

 RST100越えてる私でも、さっき一撃でHPが150以上削られましたけどね……。
 初級ダンジョンのボスだから、多分ヤマトでも一撃なんだよね。シーサーペントがそうだったし。

 残念ながらボスドロはなし。そして赤い魔石が出たけど、さっそくヤマトが前脚の間に挟んでボリボリしております。骨ガムの如く。
 うーん、さっきひとつだけ拾えたツノウサの角と、プチサラマンダーの魔石だけが収穫かあ。

「なんか、あっけなかった。SE-REN火祭り事件みたいな撮れ高を期待してたのに」
「いや……蓮がゆ~かちゃんに魔法ぶつけたから、もうそれで十分じゃないかな」
「ああ、そうだよね!? そういえばさっき蓮、『俺』って言わなかった!?」

『言った!』
『言ってた』
『LVどうなった?』

「そうだ、LV!」

 聖弥くんが慌ててアプリをチェックしてる。そして、スン……って顔になった。
 うわ、嫌な予感!

由井聖弥 LV10 
HP 58/58(+310)
MP 17/17(+300)
STR 12(+198)
VIT 11(+204)
MAG 11(+197)
RST 13(+204)
DEX 12(+199)
AGI 11(+198)
装備 【エクスカリバー】【プリトウェン】【アポイタカラ・セットアップ】

「平たい……」

 一番低いステータスが11で、一番高いのが13ってどういうことよ。
 しかもRSTが高いのは、さっきのプチサラマンダーの集中砲火のおかげだよね?
 AGIが伸びないのはなんとなくわかるよ。AGIが上がりそうな動きしてないもん。盾持ちファイターだし。

 解せぬのは、MAGの上がり方だね! なんでLV2上がって、何もしてないはずなのにMAGも2上がってるの!

「聖弥くん、MAG上がってるのなんで!? 私なんかLV9上がってやっと2上がったのに!」
「それは、蓮から聞いて金沢さんから教わった魔力の訓練法をしたからだと思う」

 さらっと答える器用貧乏。それだよ……。

「というか、それはわかった。納得できた。だけど、同じ事をしてるはずなのに私のMAGが上がらないのはなんでかなあ!」
「才能がないからだろ」

 いつも私に「STRの才能がない」って言われてる蓮が、「へっw」と言わんばかりの顔で言う。

「気にしてるのに! 気にしてるのに! デリカシーがない!」
「俺……俺様だって気にしてるんだぞ!?」

 蓮の首を絞めようとする私と、必死に私の腕を掴んで阻止しようとする蓮。
 くっ、何故かこういうときだけ「日常生活ではこのくらい」の修正が入るんだなあ! 圧倒的にステータスでは私の方が強いのに、止められる!

『ぐだぐだしてんなあ』
『こいつらはこれでいいんだよ……』
『男ふたり女ひとりなのに色恋の気配が全く感じられない件』
『だがそれがいい』

 結局、「蓮が死ぬから」って聖弥くんに引き剥がされたけど、私的にスッキリしないなあ、いろいろと!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...