上 下
101 / 271
強くなります! の巻

第94話 魔法使いェ……

しおりを挟む
 MAG48――これがどれだけ凄いかというと、「MAG30で上級魔法・上級ヒールのスキルを取れるようになる」という事実でわかると思う。
 MAG依存の魔法スキル習得条件は、初級がMAG10、中級がMAG20、上級がMAG30。その他にジョブ取ってると取れるようになる魔法とかあるけどそれは割愛。

 で、MAGが5上がるごとに1つのスキルを選択できるから、蓮は今魔法の初級・中級・上級と、ヒールの中級・上級から7つ選択できる状態。いや、5つ取れば全部取れるけどね!

 今日の特訓前に「取るべきは中級ヒールと初級魔法か」って言ってたのは、MAGが20だったからだ。MAG10を超えたところで初級ヒールを取ってたから、選択できるのは中級まででふたつ。

 だけど、一気にLVアップしたことで、もうえらいことになってる!

「魔法系全部一気に取れるじゃん! 取っちゃえ!」
「ええええ、俺のここんところの悩みは一体……」
「待った待った、先にジョブを取ろう。回復と魔法攻撃と補助魔法、どれを優先したい?」

 面倒な魔法の習得が一気にできると知って、「全部取ろう!」と突っ走った私だけど、熟練冒険者の毛利さんが止めてくれた。
 確かに、ジョブを取るのは大事! ジョブごとのスキルも付くし、専用魔法も取れるようになる。

「うーん……どっちかというと、回復優先です」

 蓮は悩みつつもそう答えた。まあ想定内かな。「初級魔法と中級ヒール」って言ってたくらいなんだし。

「じゃあ、まずは中級ヒールと上級ヒールを取って、ジョブヒーラーになろう。その時に解放されるスキルの中でも、MAGによるポイント消費型で取れるものがある。それを見てから後の選択肢を決めたほうがいいよ」
「なるほど!? そうします!」

 蓮が指先を震わせながら中級ヒールと上級ヒールを取得した。そしてステータス画面に戻ると、ジョブ【ヒーラー】という文字が増えていた!

「……なんでMAG更に上がってるの?」
「ジョブボーナスだよ。柚香ちゃんもDEXが上がっただろう?」
「えっ? 私は確か次のLVアップの時に上がりましたよ?」
「それはLV10に達してなかったからだね。『LV10までは、それまでやったことでステータスアップ率が決まる』の法則だよ。一律でジョブボーナスは+5だけど、成長率の中に組み込んじゃうと更に上がりが良いからね」

 な、なるほどー! 確かに「妙にDEX上がった」とは思ってたんだよね!
 というか、テイマーのジョブボーナスはDEXなのか。MAGじゃないのか。そこはMAGであって欲しかったなあ……。

 そうか、テイマーが後衛で戦闘支援やってる率が高いのは、高DEXになるからなんだね。前衛不向きじゃなくて、後衛向きになるからなのかー。

 私の場合、日本刀を使ってて更にDEXが伸びやすく、元々のステータスが前衛向きだ。
 DEXが上がると「遠距離武器の命中率が上がる」よりは「近接武器のクリティカル率が上がる」運用をした方が良くて、避けながら接近戦というスタイルになる。

 遠距離武器よりは絶対そっちの方が、私の性格にも向いてるしね!

「なんかいっぱいある!?」

 驚きすぎて語彙力がなくなった蓮が、助けを求める顔でアプリ画面を私と毛利さんに見せてくる。

 うわ。
 なにこれ。

 私の場合、ジョブテイマーだけど、特別な項目は【従魔】だけ。ヤマトのステータスも見られるけど、ヤマトも魔法型じゃないから、魔法には無縁。

 そう、私は、魔法には無縁!! 教科書も読んでないほど無縁!
 つまり、魔法の名前がたくさん書いてあるところを見せられても、目が滑る!

「おいゆ~か、なんで目を逸らすんだよ!」
「専門外なので……自分で調べるなりなんなりして。なんだったら私の教科書貸すし」
「教科書に載ってるのか? 俺の今の状況!」

 なんかパニック気味になってるから、私はちらりと蓮のスマホに視線を戻した。

安永蓮 LV17 
HP 95/95(+80)
MP 52/87(+300)
STR 15(+75)
VIT 22(+85)
MAG 53(+215)
RST 42(+160)
DEX 39(+120)
AGI 37(+145)
ジョブ 【ヒーラー】
スキル 【初級ヒール】【中級ヒール】【上級ヒール】【回復力アップ】【護りの祈り】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】【ロータスロッド】

「無理! もうこれだけで十分目が滑る! 護りの祈りって何!? 蓮は聖女か何かなの!?」
「知らねえよ!」
「ああ……これは。金沢くんが見たら笑い転げる奴だ」

 そういう毛利さんはそれほど驚いてないけど。――あれ? 今「金沢くん」って言ったよね?

「笑いの沸点が低い金沢さんって、武器クラフトの金沢さんですか!?」
「そうだよ。彼の修行中に護衛をしたことがあるからね」

 ごくあっさりと返ってくる答え。なるほど! 世間は狭いなあ。そもそも神奈川県内のことだしねえ。

「護りの祈りは、防御力を上げるスキルだよ。魔法スキルの方でもバフは取れるけど、こっちの方がMP消費が低い。――ちなみに、うちのヒーラーはLV57でMAG44だったかな。それでも上級ヒールまで使えてジョブヒーラーになってるけど。つまり、多分蓮くんに魔法に関して教えられる人は、日本国内を探してもあまりいない……。ヒーラーかウィザードかどっちかという人ならいるけど、両方って人はごく一握り」

 毛利さんの説明を聞いて、蓮の体がふらりとかしぎ――ぶっ倒れたー!

「え? 倒れるところ? えええー?」

 なんか気絶してるっぽい蓮を、ヤマトがふんふんと嗅いでいる。お腹の辺りを前脚でてしてししている。「おまえ、何寝とんねん」って感じかな。

「いや……仕方ないと思うけど。蓮くんは常識的なんだろうね、だから自分が一般からどれだけ逸脱してるか認識が難しかったし、受け入れがたかったんだと思うよ」

 一般から逸脱……。確かに、俳優になりたくて、回り道だけどアイドルしてて、そのついでにやってる冒険者でこんな有り余る才能を突きつけられても困惑するんだろうな。

 あと、蓮は意外に小心者だから、自分が努力してる分野ならいざ知らず、「普通じゃない。凄すぎる」って言われても「まさかそんなー」ってシャットアウトしちゃいそう。

「もういいや……面倒だし寝かしとこ。魔法のことはうちの学校の先生にでも相談してもらえばいいし。そうだ、さっき拾ったドロップ鑑定しなきゃ」

 デストードを倒した時に拾った、なんか湿った袋! 取り出して鑑定したら【デストードの痺れ毒】だった。ただし、取扱注意の上にこのままだとうっかり私が触って毒状態になりそう。

「これは……この袋の口を開いて、中の毒液に棒手裏剣を浸せば? でもなんか棒手裏剣投げるときに間違って触りそうー」
「アイテムクラフトの職人に頼むといいよ。毒系はそのまま使う方法もあるけど、薄いシート状に加工してその両面にビニール貼ることもできる。そうすると垂れてきたりしないから、使うときに剣に貼り付けたりして使えるんだ。割と便利だよ」
「湿布みたいな感じですね? それは良さそう! 戦う前に棒手裏剣に貼り付けておけばいいんだ! 垂れてこないってのがポイント高い! それなら村雨丸にも使えるし」

 クラフト凄いなあ! 武器と防具以外にもいろいろある。アクセサリークラフトの人もいるし、アイテムクラフトの人はポーションとか作ってるって聞いてたけど、そんな加工もできるのか。

「毛利さん、もし知り合いのクラフト職人さんがいたら紹介してもらえませんか?」

 図々しく頼むよ。だって金沢さんの護衛もしてたっていうし、毛利さんみたいな高LV冒険者なら、いろんなクラフトの人と知り合いの可能性が高い!

「いいよ、LV上げを手伝ったりした縁で繋がりがある人も多いしね。俺としても知り合いに仕事が入るのは嬉しいから。
 やっぱりこういうのは直接その人を知ってるかどうかが大きくて、HPホームページとかでは判断しにくいところがあるからね」
「わーい、ありがとうございます! そうだ、今日こんなにお世話になると思ってなかったんですけど、御礼はどうしたらいいですか?」

 当たり前のようにLIMEの友達登録画面を出して差し出したら、毛利さんは友達登録してくれた。やった! これでこの先もわからないことが聞ける!

「御礼? いらないいらない。生ヤマトに会えて、柚香ちゃんにはアグさんと遊んでもらえて、それで十分だよ。現役冒険者科の高校生に話を聞けて参考にもなったし、良い気分転換にもなったからね」

 毛利さんは顔の前で手を振りながらニカッと笑った。やっぱり、稼いでる人は心に余裕があるなあ。

「もしよかったら、特訓はもう終わりだろうけど、たまにアグさんと遊びに来てもらえると嬉しいよ。柚香ちゃんには随分懐いているしね」
「それはもう、私にはご褒美です! 時々来ますね!」

 さて、特訓は終わり、私たちは山を降りなきゃね。最後に休憩の時に半分食べたサンドイッチの残りをアグさんに食べさせて、思いっきり撫でさせてもらった。

「アグさん、今日はありがとうねー。また来るね-」
「グルグルグル」

 アグさんにペロって顔を舐められた! うわー! ドラゴンに舐められたー!
 なんかヤマトも舐められてる! 首を伸ばしてヤマトを舐めるアグさん、可愛いっ!
 ヤマトはよろけないように踏ん張ってる。こっちも可愛い。

「さて、俺も帰るか……ああ、蓮くんはおぶっていこうか? それともポーションで起こすかい?」
「いや、いいですよ。私が担いで降ります。アルゼンチン・バックブリーカーで」

 持ち物は全てアイテムバッグに収納して、私より10センチ以上でかい蓮の体をひょいと担ぐ。防具の補正は入ってるからこのくらい余裕だね。
 毛利さんは顔を覆って「尊厳……」とか呟いてたけど、気絶してるからいいのだ。


 後で意識が戻った蓮が、死にそうになってたのは言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...