上 下
100 / 271
強くなります! の巻

第93話 ついに! レベルアップ!

しおりを挟む
 ワンツーキック、ワンツーキック。そのテンポで私は左右のパンチと蹴りをアグさんの背中に向けて叩き込む。
 一応左右の足を交互に使ってるけど、これは……たいくつだ。

 剣の時はいろんな打ち込み方を試してみたけど、「そういえば私の武器は村雨丸で、ショートソードじゃなかった」と思い出してしまったのですよ。

 なまくらの剣は、分類的にはショートソードだ。休憩前はあのクッソ重い剣を振りすぎて右手がガクガクになるかと思ったけど、それも上級ポーションで回復した。助かるなー。

 最初にまたアグさんに咆吼をして貰ってヤマトを戦闘モードにしたので、ヤマトはまた飽くなき執着心で戦いを挑んでる。

 休憩してたとき見た感じ、通常の状態ではヤマトはアグさんを敵とは認識してないみたい。スイッチが入るまでは飼い犬モードだし、アグさんの顎に付いてる牛乳舐めようとしてたから止めた。
 そのくらいの距離まで平気で近付くんだよねえ。

 ところが、バーサクが始まったら「このドラゴンが親の仇か!」ってくらい執拗にくらいついていく。
 考えてみたら、ヤマトが倒せなかった相手ってアグさんだけなんだなあ。だからかな? 倒すまで戦い続けちゃうのかもしれないな。


 と、まあ、ここまで考えるくらいの余裕があるんですよ。ワンツーキック。

「おーい、30分経ったぞ!」

 ヤマトに1回、アグさんに1回ライトヒールを掛けた蓮が、こっちに向かって声を掛けてきた。
 よし、気合い、気合いだ。絶対にヤマトを止めるという気合い!

「ヤマト、ストップ!」

 お腹から声を出したとき、金沢さんに教わった丹田を意識した気がする。
 あ、声にまた魔力が乗った!

 ヤマトは――「なんで!?」って不満げな顔をしてるけど、アグさんに対する攻撃を止めている。

 やったー!!
 ヤマトがいうことを聞いたよー! これで2回目だよー!

「ヤマトぉぉぉ! グッド! グッドだよ! やればできるじゃん!」

 ヤマトをぎゅうぎゅう抱きしめてめちゃくちゃに撫でたら、ヤマトはすぐにご機嫌になって尻尾をパタパタと振った。

「ゆ~かが、ヤマトを止めた……だと?」

 ……蓮が目をかっぴらいて驚いてますが……。そこまで驚かれることかなー!?
 うん、驚かれることですねー! 自分でも驚いたもんね!

「キュルルルル」

 訓練終了という空気を感じ取ったのか、「こっちも撫でて」と言わんばかりにアグさんが頭を寄せてくる。私はヤマトを抱っこしたまま、アグさんに顔を寄せて頬ずりをした。

「アグさんー、ありがとう! きっとステータスがたくさんあがると思うよー。
 たくさん叩いたり蹴ったりしてごめんね」
「ギャオ」

 目を細めて私にスリスリしてくるアグさん、可愛いっ!

 でも、アグさんを可愛いと思えば思うほど、私の気持ちは重くなった。
 テイマーと従魔の繋がりは、その命が尽きるときまで。
 その重さに耐える自信がないって、テイマーにならない人もいる。
 従魔を亡くしたテイマーが、精神的に立ち直れなくなる事もある。

 中には、本当に従魔を捨て駒的に使うテイマーもいて、テイムして、肉壁にして見殺しにして、また別のをテイムしてというのを繰り返す人もいるらしい。
 でも、そういう人は少数。そういう事を平気でできる人間に、パーティーメンバーとして命預けたくないし。

 アグさんは、いつまでここにひとりぼっちでいるんだろうな……。


 という思いを、2層のデストードに思いっきりぶつけましたけどね!
 デストード、ガマガエルをうんとでっかくして、不細工にして、あちこちに人面が浮き出してるようなコブが付いたカエルのモンスターね。
 カエルも嫌いじゃないけど、これはさすがに可愛くないな!

 LV40で浅い層とはいえ上級ダンジョンにでるモンスだからめちゃくちゃ警戒してたら、あんまり動きが速くないし図体はでかいし……と思ってた時期が私にもありました!
 デストードは、四肢に毒を持ってるんだって。
 しかも、粘着性のある舌を伸ばしてくるスピードが凄い早い!

「おっと!」

 舌が飛んできたので、バックステップで避けて、手にした村雨丸でとっさにスパッと切り落とす。
 ああ、初めて切ったものが「カエルの舌」になってしまったね、私の村雨丸よ。

「ナイス、柚香ちゃん! あとは毒に気を付けながらダメージを与え続ければ勝てるよ」

 いつでも手助けに入れるように位置取りながら、毛利さんがアドバイスをくれる。
 そうか、やっぱり毒が怖いんだな。ここだとすぐ上に上がれるしダンジョンハウスにキュアポーションも売ってるから、そんなに毒は怖くない気もするけど。

「デストードの毒は即効性がある上に痺れるからね!」
「なるほど、デスが付くわけですね! 気を付けます!」

 デストードの毒、欲しいなあ。それを棒手裏剣に塗りたい。即効性のある痺れ毒なんて最高では? 取り扱いを間違うと自爆しそうだけど。

 重心をグッと下げながら、村雨丸で上段から切り下ろす。――ひえっ、凄い切れ味! カエル肉がスパッと切れるよ!

 一発で深手を負わされたデストードが、私を飲み込みそうな勢いでこっちにダイブしてくる。私は迷わずに踏み込んで、下からその喉元に突きを入れた。そして、全体重を掛けて左側に倒れ込むようにしてデストードの頭を切り裂く!

 首を半分以上切られたデストードは、血を降らせるとびくりと痙攣し、べしゃっという音を立てて倒れた。油断なく刀を構えたまま様子を見ていると、そのまま体が消えてドロップアイテムと魔石が残る。

 はぁぁぁぁぁ……倒したぞ、LV40! ちょっと血が掛かっちゃったけど!

「お見事! 避けないで下に入り込んでいったからドキッとしたけど、あのまま狩っちゃうとは思わなかったよ」

 血振りすると、刀身から水が滴って簡単に血を洗い流すことができた。うわ、便利!
 ていうか、私今魔力通したね!? 凄い凄い、快挙だ!

「急所をさらけ出してくれたので、今かなって思って。意外に柔らかかったからいけると思いました」
「急所を……それってやっぱりお父さんに教わったのかい?」
「いえ、ママに教わりました。どの動物もだいたい喉は急所だって。だから狩りする動物は喉を狙ってくるって」
「あ、あの人は……娘に何を教えてるんだ……」

 毛利さんが頭を抱えてしまった。とりあえず、撤収撤収! 他のモンスターが来ないうちにね。……って、ドロップ拾わなきゃ! いつもはヤマトが魔石食べちゃうから拾い損ねるんだよね。

 落ちてるなんか湿った袋と魔石を掴み、アイテムバッグに放り込む。そして急いで階段を上がって1層へ帰還。
 私たちが思ったより早く帰ったせいで、蓮がヤマトを抱えたまま驚いてる。

「運が良かった。すぐにモンスと遭遇したし、デストードだったからね。これがマッドゴーレムだったりしたら僕が手を貸さなきゃいけないところだったよ。ここの2層は湿地エリアだから、一癖あるモンスが多い」
「デストードって運がいい方なんですね。あんなに攻撃が早くて毒持ちなのに」
「戦ってわかったと思うけど、打たれ弱いんだ。毒のないキリングトードっていうモンスターもいるけど、そっちは皮が丈夫であんなに斬撃は通らないんだよ。皮を切っちゃえばダメージは入れやすいんだけどね」
「うわぁ!」

 私たちの話を聞いて頷きながらスマホをいじった蓮が叫び声を上げた。――あ、そうか! LV確認しなきゃ!

ゆ~か LV16
HP 122/122(+230)
MP 18/18(+150)
STR 38(+165)
VIT 42(+150)
MAG 6(+95)
RST 6(+100)
DEX 50(+155)
AGI 51(+135)
ジョブ 【テイマー】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】【村雨丸】
従魔 【ヤマト】
 
 なるほどわからん! 強いのか弱いのか!
 一気にLV9あがったせいで、本当によくわからん!
 わかるのは、MAGとRSTが凄い低確率でしか上がらなかったということだけ!

 そしてヤマトは――。

ヤマト LV16 従魔
HP 171/390
MP 110/140
STR 300
VIT 322
MAG 150
RST 150
DEX 312
AGI 412

種族 【柴犬?】
マスター 【ゆ~か】

 わーお。
 前のスクショと見比べないと何がどれだけ上がったかよくわからないけど、とにかく凄い高ステなのはわかる!

 そして。

安永蓮 LV17 
HP 95/95(+80)
MP 52/87(+300)
STR 15(+75)
VIT 22(+85)
MAG 48(+215)
RST 42(+160)
DEX 39(+120)
AGI 37(+145)
スキル 【初級ヒール】
装備 【アポイタカラ・セットアップ】【ロータスロッド】

「は?」
「は?」

 蓮のステータスを覗いた私と毛利さんの声が被った。

「MAGが……48? え? LV17でもう俺より高い……これが、真性の魔法使い」
「ずるいぃぃぃぃー!」
「好きでMAG上がってんじゃねえよ!!」

 阿鼻叫喚である……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...