上 下
99 / 301
強くなります! の巻

第92話 特訓後半

しおりを挟む
「ヤマト、疲れた? よしよし、頑張ったね」

 私が手を伸ばしてヤマトの頭をわしわしと撫でると、ヤマトは伏せたままで尻尾をぶんぶん振った。
 そして柴犬スマイル。へっへっへ、と息をつきながら「まだ行けるよ!」みたいな笑顔。

 うーん、確実に疲れてるみたいなんだけど、あれかな。体育祭の後の興奮状態というか、体は疲れてるのに脳内麻薬かなんか出てて「まだ行ける!」って思っちゃってる奴。

「毛利さん、犬にポーションって飲ませて平気だと思います?」
「犬に……ポーション?」
「そもそもヤマトは従魔だから厳密に言って犬じゃないね。大丈夫だよ」

 宇宙猫の顔をした蓮とは対照的に、あっさりと毛利さんは頷いた。
 そうだ、そもそもヤマトは犬じゃないんだった……いつも忘れるよ。

「飲んでみるかーい?」

 空になったヤマトのお皿に、たぷたぷと上級ポーションを注いでみる。
 すると、何かを感じたのかヤマトは急に立ち上がって、がぶがぶとそれを飲み始めた。

 上級ポーションって黄色い炭酸飲料の味がするんだよねえ。ああ、炭酸は入ってないから栄養ドリンクが近いかな。……匂いもそっち系だし。よく飲む気になったなあ、ヤマト。

 綺麗に皿の中身を空にし、ヤマトは「シャキーン!」って効果音が付きそうな勢いで立ち上がった。よし、私も上級ポーション飲んで、あとちょっと頑張ろう!

「毛利さん、ひとつ聞いてもいいですか?」

 私が上級ポーションを飲みながら尋ねると、「ん?」と彼は振り返った。

「アグさんのマスターさんは、いきなりアグさんをコントロールできたんですか?」
「柚香ちゃんはヤマトをちゃんとコントロールできてないんだね?」

 念押しするかのような毛利さんの聞き方。ハイッ、すみません!!

「できてません! というか、テイマーになったら命令を聞いて貰えるもんだとばかり思ってて……一度だけコマンドに魔力が乗った感じがして、その時は命令を聞いてくれたんですが。アグさんのマスターさんは、どのくらいMAGがあったんですか?」
「MAG自体はそんなに高くなかったよ。確か引退する直前、LV50くらいあった時点で20ちょっとだった気がする」

 あれぇー?
 私の予測と違うなあ? ていうか、LV50でMAG20はかなり低いんじゃないかなー?

 てっきり、魔力が乗らないと言うことを聞いてくれないから、高MAGの方がテイマーとして向いてるのかと思ったんだけど……。

「魔力必要、みたいなことは確かに言ってたね。でもそれは運用の話で、テイムするのに必要なわけでもなくて、高いからって言うことを聞いてもらえるわけでもないらしい」
「えええっ、じゃあ、どうやって言うことを聞いてもらうんですか?」
「俺はテイマーじゃないから実感はできないけど、『気合い』って言ってた」

 気合いか……。やっぱりそこなのか。

「実際、モンスターを従えるには凄い気力が必要だと思うよ? 柚香ちゃんみたいに低レベルでテイマーになった人は他にいないんじゃないかな?
 本来モンスターは敵対存在だから、簡単には下ってくれないし……アグさんの時も凄かったよ。フレイムドラゴン前にして、いきなり『うちの子にする!』って言い出して数時間睨み合いでね。本当に怖かった……あ、マスターの方が怖かった、ってことだけど」
「数時間! ひえええー」
「フレイムドラゴンと睨み合い……俺には絶対無理だ」
「本来テイムってそういうものなんだよ。うんと格下ならともかく、自分と対等か、それ以上に強い相手をテイムしようとしたら、一歩間違えたら死ぬ危険もあるからね。あの時はアグさんが睨み合いに応じないでブレス吐いてたら、そこで終わってた」

 確かに、そうなんだよね。
 だからヤマトはおかしいというか、初対面からこっちに好意的だったから私もまさか普通の犬じゃないなんて思わなかったし。

 それにしても、気合いか……。
 魔力必要なのに気合い? ああー、ちっともわからないよー!
 ひとつだけ、ひとつだけわかったことがあるけどね!

「よし、あとちょっとスパーリングしたらLVあげちゃおう! 多分もう特訓よりもLV上げしてった方がいい段階に来てる! MAGの高さとコマンドの成功率が関係しないなら、MAGが上がらない問題は一旦どけておいて。
 上級ダンジョン2層のモンスってどのくらい強いんですか?」
「お、おい、ゆ~か、おまえまさか……」
「そうだなあ、LV40相当から、ってところだよ。2層でちょっとだけLVあげるつもりなら、柚香ちゃんもフル装備で補正付ければ戦えないこともない。俺もいるし。……問題は、ヤマトかな」

 名前を呼ばれて「なんですか?」って首を傾げるヤマト。可愛いねえ、可愛いねえ。
 でも暴走ドッグなんだよね……。

「ヤマトが片っ端からモンスに喧嘩売ってたら、収拾付かなくなる可能性が高い」

 ため息交じりの毛利さんの言葉に、私も思わずため息をついた。
 それですよねー。
 さっきのアグさんみたいに、敵が器用に気絶させてくれるわけじゃないしね。

「いや? ヤマト連れて行かなきゃいいんじゃないですか? 俺がここでヤマト押さえてるから、毛利さんとゆ~かだけが戦ってくれば」

 当たり前のようにヤマトを抱っこしながら蓮が言った言葉が冴えてる!
 なーるほどー! パーティー登録しておいて1体だけ倒せば、LV40の敵なら私もヤマトも蓮もLVアップするね。

「ああ、それなら大丈夫そうだ」
「ちょっと待って、アグさんのHP確認してみる。――うん、ほとんど減ってない。じゃあ私、着替えてくる!」

 ヤマトと私の素殴りだったらアグさんにほとんどダメージは入ってない。つまり、蓮がアグさんを回復してくれること前提だけど、村雨丸さえ使わなければ、防具の補正が付いてもたいしたダメージは入らないっぽい。

 じゃあ、着替えてきますかね! ステータスが高い方が特訓効果が上がるんだし!

 公衆トイレでささっと着替えさせて貰う。マナー違反なんだけど、他に着替えられるところがないんだよね。
 黒のスパッツにオレンジのキュロット、黄色のトップスに着替えると、改めて初心者の服より動きやすいなーと思う。あいちゃん様々ですわ。

「お待たせ~。じゃあ、休憩は終わりにしてもうちょっとアグさんと戦わせて貰おう! 今度は素手でいくぞー」

 私が気合い入れて声を張ると、真ん中の辺りで牛乳を入れたお皿に顔を突っ込んでいたアグさんが「ギョ?」って顔を上げた。

 く、口の周りに牛乳付いてるよ、このドラゴン……。
 ああ、もう、可愛いなあっ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。 最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。 でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。 記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ! 貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。 でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!! このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない! 何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない! だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。 それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!! それでも、今日も関係修復頑張ります!! 5/9から小説になろうでも掲載中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...