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Y quartet結成! の巻

第85話 「計画通り(ニヤリ)」してる人がいます

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 私の手元のスマホでMVを3人で見る。
 コメントもちょろちょろ入るけど、今は「見る時間」なので私たちの返しは無しで。

 蓮くんのアップね……これ、見る度にびびっちゃうんだよね。
 なんだろう……顔がR指定? 制限無しに垂れ流しちゃっていいもの? ってくらいいつもと違ってセクシーがヤバい。

 案の定、そこのシーンではSE-REN推しの人たちの悲鳴が凄かった。
 その次のカットは真顔の私が抜刀して、村雨丸から露が飛び散るという方向性的に正反対なもの。こっちもなんか凄い悲鳴がひとりから上がってた。

『SE-REN(仮)のセクシー担当は安永蓮の方だったのか』

 ぽつんと流れたコメントに苦笑しちゃうね。そもそもセクシー担当なんていなかったんだよ! ボケの蓮くんとツッコミの私だったんだよ!

 約4分のMVを見終わると、誰からともなくパチパチと拍手が上がった。

『888888888』
『凄いの撮ったなあ』
『88888』
『ゆ~かちゃん歌上手!』
『蓮くん上手くなってる』
『思ったよりまともにアイドルしてた』

「でもこの場の誰もアイドルになるつもりがない件」

 私がぼそっと呟くと、蓮くんと聖弥さんがうんうんと頷く。

「それだよね。僕たちは俳優になりたいわけだから」
「でも、俺は舞台に立ちたい派だから、歌もダンスもやっておいて損はないと思った。ポップスとミュージカルだと歌い方とか違うけどな」
「はいはーい、私がなりたいのは動物園の飼育係です!」

『存じております』

 ずらーっと並ぶ『存じております』の字! そこは私のチャンネルの人だけじゃなくてSE-RENチャンネルの人も規定事項になっちゃってるのか!

「僕たちは認知度を上げたりする必要があるから、フリーで活動を続けるつもりだけど。ゆ~かちゃんもなんかもったいないね。こんなに歌もダンスも上手いなんて、全然知らなかったよ」
「ゆ~かは規格外の人生歩んでるからな。小6からourtuberアウチユーバーだろ? そのために滑舌レッスンもボイトレもしたって聞いて驚いた」

『確かにもったいない!』
『蓮くんがゆ~かちゃん有識者になってる』
『この中で一番ゆ~かちゃんがアイドルらしい!!』
『でも聖弥くんたちもアイドルだよ』

 ん? なんか流れが微妙な方向に来てない?
 ――と思った瞬間、聖弥さんが輝く笑顔でこっち向いた。

「ゆ~かちゃん、これからも一緒にユニット組んでくれないかな? これから僕たちもダン配とかするわけだし、ゆ~かちゃんが一緒だと心強いからね。知名度ボーナスもあるし」

 キタコレ!!!!!!!!!!!!
 さては、ゲストで配信に出て欲しいと言ったときからこういう流れに持って行くつもりだったな!?

「せ、聖弥……おまえ、これ以上ゆ~かに負担掛けさせようとするなよ」

 うっは、蓮くんに庇われる私。確かに今、イルカアタックを食らったフグに一瞬なったけどね!

「ええええええええ、だから私はアイドルになるつもりないって」
「うん、それはわかってるよ。でもそもそも僕たちも今のMVみたいにアイドルらしい事ってそうそうできないから。それに、ほら、さっきの話……」

 さっきの話。そこで不自然に聖弥さんが言葉を切る。配信で言えない話で、「さっき」の話……ママの爆弾発言のことか!

「うーーーーーん、さては、私が情に厚くてSE-RENを見放せないってわかって言ってるね?」

 蓮くんと聖弥さんはボイトレとダンスの基礎レッスンのために、当分うちに通うことになってる。それをしながらたまにダン配というのがSE-RENの当面の活動になる。

 だけど、それ以外にちょっと重大な案件で私は彼らに関わることになりそうなのが、ママの爆弾発言なんだよね。まだどうなるかは決まってないんだけど。

「そうそう、ゆ~かちゃんって配信見ててもわかるけど面倒見いいからね。このままの僕たちを放っておけないでしょ」

 自分たちを人質にするとか。腹黒王子だなあ……もう。
 結局、私の目の届くところにSE-RENが居続けるってことなんだよね。
 私が武器防具を支援し、蓮くんにブートキャンプをし、散々世話を焼いてきたんだけど、彼らが近くにいてもそれを「はい、終わり」と割り切ることができるかって話なんだけど。

「ちょっと考えさせて……うん、わかった。やるけどひとつだけ条件があります。それはSE-RENのチャンネル登録者数が1万人に達するまでの期間限定ってこと。
 私がやりたいことの中にアイドルはないんだもん。だから、知名度ブーストだと思って」

 SE-RENのチャンネル登録者は今2000人くらいだ。
 登録者数をグラフで見たけど、(仮)の発表後まず一気にドカンと増えて、その後も右肩上がりに増え続けてる。

 順調に行けば、少なくとも高校生でいるうちには終わる。この勢いを保持できれば、そもそも今年中に終わる。

「ゆ~か! 甘過ぎじゃねえ!? 聖弥も無理に誘うなよ」

 蓮くんに甘いと言われるのもなあ……。まあしょうがない。甘いんだよ、私は!

「どうせ私もダン配するしね、それを一緒にやるだけだと思えば。……蓮くんと聖弥さんのユニットはそのまま保持して欲しい。それに加えて時々私、みたいな感じならいいよ」

『やったー!』
『SE-RENの安全が確保された! めでたい!』
『お人好しだなあ。でもそこがいい』
『ゆ~かちゃん女神! 天使!』

「ありがとう、ゆ~かちゃん! それで疑問なんだけど」
「はい?」

 私がこれからも彼らと活動を共にすることになって(聖弥さんの企みにまんまとハマって)、聖弥さんはニッコニコだよね。そりゃ、あの社長を叩きのめす武器になったようなものだし。

 だけど、次に彼の口から出た言葉はちょっと予想外のものだった。

「なんでゆ~かちゃんは蓮のことを『蓮くん』って呼ぶのに、僕のことは『聖弥さん』なの?」
「そういえばそうだな!?」

 蓮くんが今更なことに声を上げた。本当に今更だなあー。

「えーと、偉そうだったから?」

 すかさず返す私。なんかもう出会った瞬間から、蓮くんのことは「こいつは同レベル」って判断してた気がする。

『偉そうwww』
『謎判断w』
『でも確かに聖弥くんと蓮くんだと、聖弥くんの方がちょっと歳上に見えるときがある』

 偉そうって言われて聖弥さんは「アイドルがその顔を配信で出していいの?」というチベスナ顔になり、蓮くんはなんとも言えない表情になった。

「別に偉くないから。これからは僕のこともくん付けで呼んで貰いたいなあ」
「うん、わかった。じゃあ、聖弥くんと蓮ね」
「待て、なんでそこで俺が呼び捨てになった!?」
「えっ? だって、聖弥さんが『さん』から『くん』にランクダウンでしょ? そうしたら蓮くんも『くん』から呼び捨てにダウンすべきじゃない? 平等に1ランクダウンだよ」
「どういう基準だよ!? えっ、もしかして初対面の時からゆ~かの中で俺と聖弥はランクが違ったって事か!?」
「そうだよ! 蓮くんからは私と同レベルの匂いがしたもん! 聖弥さんはなんか偉そうだったから1ランク上だったの!」

『謎基準www』
『この謎っぷりがゆ~かなんだよなー』
『さん、くん、呼び捨ての順にランクわけされてるのかw』

 私たちがやいやいと言い合いしてるのを見て、コメントもツッコミが入りまくりだ。

「あはははは! いいよ、聖弥くんに蓮で行こう! ゆ~かちゃんって面白いなあ。蓮もきっと2週間楽しかったでしょ」
「いや、地獄だったぞ、俺は……」

 晴れ晴れとした聖弥くんに対して、蓮の怨念のこもった顔ときたら。
 確かに厳しいトレーニングさせましたよ! でもしないとまずかったんだもん!

「これで3人お揃いの防具でも問題なくなったね、ユニット名どうする?」

『へっぽこトリオ』
『SE-REN++』
『コント青信号』
『えー、難しいよー』

 聖弥くんがユニット名まで決めようとしてるぞ。
 というか、今気づいたけど、今日の出来事全部この人に誘導されてなかった!?
 思うところはあるけど、今は配信中だし自重しよう!

 と、思ってたところにトコトコとヤマトが階段を降りてきた。夕飯の後私のベッドで寝てたんだけど、起きたら私がいなかったので探しに来ましたって感じかな。

「お、ヤマト! おいで!」

 でも真っ先に呼ぶのが蓮なんだなあ……私は配信中だからって自重したのに!
 てってって、とやってきたヤマトは生配信に乱入し、しゃがんで呼んだ蓮の腕にずぼっと頭を突っ込んだ。可愛い!!

『Y トリオは?』

 ふと目に入ったそのコメント、思わず復唱してしまった。
 そういえば、安永も由井もYが頭文字。私は柳川でもYだけどゆ~かでもYだ。
 3人の共通点と言ったら確かにそれなんだけど。

「トリオ、になんかお笑いの波動を感じるのは私だけ?」
「でもYを付けるのはいいかもしれない。由井に安永、それとゆ~かちゃんだし」
「ヤマトもYだぞ!」

 ひらめいた! って顔で叫ぶ蓮。そうだー! ヤマトもYだ!

『カルテットだ!』
『Y カルテットだ!』

「そうだよね!? 私はダン配するならヤマトを連れて行くし、実質これはもうカルテットだよ! 決まり!」

 私が喜んでるので、なんかヤマトもはしゃいで私に飛びついてきた。可愛い!!


 こうして、新しく「Y quarteカルテツトt」というユニットが誕生したのだった……。
 でも当分アイドルはいらん! お腹いっぱいです!
 今度の日曜日はママに大山阿夫利ダンジョンに連れてって貰うんだから!!
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