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ゆ~か、アイドルをする!? の巻

第76話 SE-REN(仮)の大一番

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 翌日、私たちはSE-REN(仮)としての多分最後の大仕事、レコーディングに来ていた。
 レンタルスタジオでスタッフさんがひとり付いてくれて、時間単位でレンタルできるってところ。
 たまーにテレビで見たりする黒い部屋を想像していたら、実際にオーディオルームに入ったら結構雑然といろんな楽器がおいてあってびっくり。

「ここ、学割効くのよー。良かったわねー」

 ママがマイクとかチェックしながらそんなことを言った。
 てか、土日だからいつもより高いけどね……。

「はぁぁぁ、緊張する」

 ママは歌う本人じゃないし、私はこういうことで緊張するタイプじゃないし、結局緊張してるのは蓮くんひとりだけ。
 なんか、今日は朝から「緊張する」って20回くらい聞いてる気がするんだけど。
 よくその緊張感、もつなあー。

「おまえ、なんで平然としてるんだよ」
「えっ……むしろ、何時間も緊張し続けられる蓮くんが凄いと思ってた」

 だって、朝うちまで来てさ、開口一番「緊張するー」でしょ?
 その後ストレッチしたり発声練習したりして、その間も時々「緊張する」って吐きそうな顔で言ってて、喉開いて歌い始めてからも部屋の隅で壁に向かって「緊張する」だもん。

 緊張の大安売りですわ!

「はいはい、ちゃんと話聞きなさいねー。このマイクはボーカルマイクよ、普通のカラオケとかで使うマイクと違って、指向性が高いの。真っ正面から歌わないと音を拾って貰えないから気を付けて」
「は、はい……一応前回レコーディングしたときも同じタイプの使いました」
「私は知ってまーす。ママたちがライブで使うよね」

 ちょっとでもマイクの正面から逸れると、音を拾って貰えない悲しいマイクだよ。
 カラオケのマイクとは本当に全然違うの。

「もう一度流れの確認ね。音源はみーたんにお金積んで作って貰ったから、それを聞きながらまず蓮くんが歌って、一番いいテイクを取るわ。それをその場で簡単に編集して、それをユズが聞きながら歌う。
 蓮くんはもう好きなようにのびのび歌いなさい。ユズが帳尻合わせるから」

 うわあ……私の責任重大だあ。
 でも、蓮くんの一番いいテイクを取るなら、まあ大丈夫かな。

 ちょっとは心配したけど、蓮くんは前より上手くなってるから、ママが「現状での期待値」よりちょっと上に設定してある目標をとりあえずこなすことができた。
 音を外さないは前提として、前よりも声に伸びが出るようになったね。

 思ったよりも早く私の番が回ってきて、私はヘッドホンをしてマイクの前に立つ。
 流れてくるのは、ここ1週間で何百回聞いたかわからないSE-RENの「Magical Hues」。みーたんさんが結局いろんな機材使って作ってくれた音源に、蓮くんの声が入っている。

「夢の中へと歩き出す未来を描く 君と二人 輝く星が導くように心を重ねて進もう」

 イントロは同じ音を歌う。私は声が高いから、聖弥さんと蓮くんのようにはどうしてもならない。
 そこからはずっとハーモニー。蓮くんの声を前に出して、私は後ろからずっとメロディを支え続ける。

 ああ、なんかこの歌、私たちの2週間みたいだね。
 私が私がってやることもできたけど、別に凄いやりたいとかでもないアイドルまがいのことをしてるのは、同じ配信者で同い年のSE-RENを放っておけなかったから。

 知名度を底上げして、蓮くんのステータスが上がりやすくなるようにメニュー考えて特訓して。
 武器も防具も一緒に作って……あれ?

 むしろ私、やり過ぎでは!?
 多分蓮くんたちがサザンビーチダンジョン最下層で戦ってたからヤマトはそこに向かったんだろうし、そのおかげで隠し部屋を見つけられたけど。
 お金、かけ過ぎでは?

「はい、やり直し~。途中から別のこと考えてたでしょ」

 あっさりママにリテイク食らいました……ぐう。
 そこからは心を入れ替えて、歌詞を私なりに解釈した表現で歌いきった。

 ママとスタッフさんが編集をしている間、私たちはロビーで一息ついていた。
 もう、蓮くんが魂抜けた顔してるよ。

「終わったな……」
「蓮くん的には終わったけど、私的にはまだ動画編集が残ってるんだわ」

 だって、2本作らないといけないんだもん、蓮くん中心のと私中心の。それぞれ、SE-RENチャンネルとゆ~かチャンネルにアップするから。

 でも構成自体は一緒だから、「ここで画像2テイク目のに切り替えて、ここで全景入れて」って昨日のうちに構想は立てたから今日からはズバババっと作業に移るよ。

「ゆ~か」

 突然真顔で蓮くんが呼ぶので、自動販売機の前で私は振り返った。

「今まで、いろいろありがとうな」
「……なんか終わったつもりでいるみたいだけど、多分SE-RENに今後もママが関わるんだろうし、うちにレッスンしにくるんだよね?」
「あー! そうだった!! 全然終わりじゃねーじゃん」

 多分格好付けてるつもりだったのに、私に指摘されて蓮くんはクールぶってるのを吹っ飛ばして頭を抱えた。
 うーん、締まらない男だのう……。
 あっ、ジュース買おうとしてたのに、タイムアウトしてしまった! なんてこったい。


 1時間以上経った頃、ようやく編集が終了した。
 ママがドヤ顔でSE-REN(仮)版のMagical Huesを流す。

 おおおおお……。
 凄い、ちゃんと編集してあると感じが違う。
 低めの蓮くんの声と、私の高音がハーモニーになる。聖弥さんと蓮くんのを聞いたときには「ふたり揃って歌う声の相性の良さが最高の長所」だったけど、私の声が入った物はそれとは全く違う物になってた。いや、当たり前だけども。

「いつも顔合わせればぎゃーぎゃー言ってた2人だけど、こうして歌うと声が合ってるのよね。聖弥くんの時にはなかった奥行きが歌に出てるわ」

 ママが褒めてくれたけど、私と蓮くんは無言で曲を最後まで聴いていた。
 そして、アウトロが終わると蓮くんが噛みしめるように言う。

「おまえ、凄いよ。ほんと凄い。聖弥が怪我してどうなるかと思ったけど、あれがなかったらこの曲は聴けなかったんだな」
「うん……ここまで何千万かかったことか……」

 みーたんさんにお金積んでって言ってたけど、結局いくら掛けたんだろうなあ。前に一度編曲する段階で断られてたから、ママは結構な額を積んだと思われる。

「くっそ! 俺が感動してるのにその言い様はないだろ!」
「いや、正直な感想だよ!? かかったお金いちいち計算してないけど、武器作って防具作って、その末にこれがあるんだなあと思うと私も感慨深くて」
「わかったよ! ゆ~かのRES上げに協力するから!」

 土下座モードに入った蓮くんが、自発的に協力を申し出てくれたよ。やったね!
 蓮くんの特訓は終わったけど、聖弥さんにもユズーズブートキャンプしなきゃだし、もう少し付き合うことになりそうだ。
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