上 下
78 / 273
ゆ~か、アイドルをする!? の巻

第72話 撮影準備

しおりを挟む
 更衣室で衣装――じゃなくて新しい防具に着替える。
 1着目は私が黄色とオレンジ、蓮くんが青とインディゴの奴ね。
 隠し部屋を使って衣装チェンジをしながら3本動画を撮って、後で私がいい所を選んで繋ぎ直すのだ。だから、多少の失敗もOK。

 
「わあっ! 似合うー。ゆーちゃんも蓮くんも似合ってる! 凄いぜ私!」

 着替えて出たら、あいちゃんが拳突き上げて大興奮だ。
 うん、アポイタカラ製布防具、トレーニングウェアのような着心地でフィットしてるし、凄くいい!
 昨日ママが服に向かって包丁突き立てるの見たときには悲鳴上げたけど、傷ひとつついてなくて感動した。あれで防御力は実感したね。

 靴はワーキングブーツで、ちょうど足首辺りにごっついベルトが付いてそれがかっこいい。これも爪先が凄い固くて、ベニヤ板に蹴り入れてみたらバリッと割れたけど私の足はノーダメージ!
 防具で攻撃力上がってるって何事かな? って気もするけど、丈夫な防具って素晴らしいね。私が初心者の服を推す理由も「丈夫だから」なので、そういう意味でもこの防具は最高!

「あ、安永蓮です。デザインありがとう」
「どーもどーも、平原愛莉です。蓮くんが売れた暁には私の宣伝もよろしく」

 ちゃっかりしてるよ、あいちゃん。
 蓮くんとあいちゃんが服のデザインについて話してる間に、私は車からヤマトを連れてきた。リード付きで、今日はヤマトはママが連れて歩く予定。ママとあいちゃんの護衛みたいなもんだしね。

「準備いい? 2層に降りる階段から駆け抜けるわよ。メイクとヘアセットは下に着いてからね」

 ママはどっかで見たことあるようなジャージ着てる……と思ったら、あれだ! 胸に漫画に出てくる高校名が書いてある! グッズを実際に着るのかー! 鑑賞用に買ったんじゃないんだー。

「ママ、そのジャージ……」
「いいでしょ!」
「いいでしょじゃなくて、万が一破いたりしたら後悔しない?」

 胸を張ってドヤ顔してるママは、ふっと遠くを見つめて微笑んだ。

「いいの。もし破けたりしたら、マキくんが特訓の末に破いたジャージって設定で飾っておくから。それはそれで美味しいし」
「わあ、オタクの想像力逞しい-」

 むしろ今日はジャージ破けた方が嬉しいのかもな……普通にしててなかなか破ける物じゃないから、ママの中ではレア度が増すかも。

 前に蓮くんたちと初めて会った日は、サザンビーチダンジョンは恐ろしく混んでいた。あれから2週間経って、それは落ち着いたみたいだ。
 まあねえ、あれだけの人数が隠し部屋とか探しまくったらもう見つかっちゃうだろうし、激レア従魔なヤマトだって「どこに出るかわからないから、むしろ一度出たサザンビーチダンジョン以外の初級を当たれ」って言われ始めてるみたいだし。

 私たちはヤマトと一緒にダンジョンの1層に踏み込んだ。あいちゃんに蓮くんのロータスロッドを背負わせ、ママは村雨丸を背負う。そして、私と蓮くんとあいちゃんでアプリ使ってパーティー登録。
 これで、万が一経験値が入っても3分割だから蓮くんのレベルアップのリスクは回避できる。

「ヤマト、いい? これから一直線に最下層へ行くからね。途中でモンスターが出ても戦わないでね」

 私が言い聞かせると、こっちの顔をじっと見るヤマト。理解してるかな? と思ったら口を開けて「てへっ」て感じに首を傾げた。
 か、可愛いー! 可愛いけど、これはちょっと期待できないかも!

「ママ、頑張って着いてきてね」
「大丈夫大丈夫! ヤマト、ユズの後ろを付いて走るのよ。わかったわね。ユズと蓮くんはひたすら先を走って。こっちはそれに付いていくから」

 ママが真剣に言い聞かせたら、ワンっていいお返事をするヤマト。なんでー。くうっ、最初の日もそうだったけど、ママの言うことは結構聞くんだよね。
 やっぱり、ママは「ママ」なのかな。サツキとメイとカンタもママの言うこと聞くし。

「じゃあ、行くよー!」

 私は階段を降りてダッシュした。すぐ後ろを蓮くんが走っていて、あいちゃんとママも遅れずに付いてきてる。ヤマトは――ママにちゃんと併走してる!

「解せぬぅぅぅー!」
「なにこれー、すごいスピード出る! きゃーはははは! 楽しい!」
 
 あいちゃんは初体験のスピードに大はしゃぎだ。
 前回とは比べものにならない速さで私たちはダンジョンを突っ切り、10層にあっという間に到着した。

 今日は10層には誰もいない。宝箱もボスも、リポップするにはまだ早いみたい。
 隠し部屋を覗いてみたら、鉱床も掘られた後でまだ壁が再生してなかった。

 うーん、確かにこれは、今一番来るメリットがない場所かもしれない。
 なまじあの配信で有名になったから、今一番「うまみがない」と思われてるみたい。

 10層まで来るのに汗も掻かなかったから、そのままメイクに入ることになった。
 アイテムバッグからママのドレッサーをドンと出すと、蓮くんが呆然とし、あいちゃんが爆笑してた。
 だって、ママが「このまま入るでしょ」って言うからさー!

「アイテムバッグ便利じゃーん、私も欲しいなー」
「あいちゃんも冒険者続けたらどっかで拾えるかもよ?」
「じゃあ、次ゆーちゃんが見つけたら売ってよ、容量小さくてもいいからさ。予約ね!」
「いや、私も高校出たら冒険者続けるつもりないけど。テイマーになれたし」
「あ、そうだよねー。待てよ、そうすると私の方がダンジョンに潜る回数は増えそう」
「クラフト大変だってー。あいちゃん頑張れ」

 しゃべってる間もあいちゃんの手は無駄なく動き、私の髪を結い直した。最後までここは悩んだんだけど、結局実際に戦うときは頭部防具付けるからってヘアアクセはなし。前髪だけちょっと指先でワックス付けて流れ整えて、後はみなとみらいの時みたいに顔を作られた。

 その間に蓮くんは自分でメイクして、髪の毛もワックスでナチュラルっぽくくしゃっとさせて、掛かった時間は2人とも同じくらいかな。

「わー、本当だ、なんか違う。どこがどうと具体的には言えないけど」

 蓮くんのメイク、何やってるかは私からは見えなかったんだけど、こう、目力が増して顔が立体的になってるというか?

「ちゃんとノーズシャドウとか入れてるのよね、私ライブでもそこまでやらないわー。蓮くん凄いわねー」

 ママの方は蓮くんのメイクの過程を特等席でバッチリ見てたらしい。凄い真剣な顔してるけど、この人は推しを見るとき笑顔通り越して真顔になるんだよね。

「今日はよく出来てる。特訓の甲斐あった」

 蓮くんも満足げだ。
 ちなみにこの間、何組かのパーティーが来たけどボスがいないのを確認して回れ右している。ボスのいない最下層、居座る意味がないもんね。

 そして、ダンジョンの最下層の海と砂浜をバックに、私たちのMV撮影は始まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...