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どえらい装備!! の巻

第51話 岡田切吉房と運命の刀

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「それじゃあ、見えたことだしクラフトしてみよう。フリークラフトはね、大分類の中で好きなように作れるんだ。例えば日本刀なら『剣』というカテゴリーだね。これはクラフトでも比較的初期に取得出来るんだけど、LVを上げていかないと時間も掛かるし最大MPも上がらない。そこがクラフトの苦労のしどころかな」
「なるほどー。友達はまだスキルが取れたばかりで【なまくらの剣】一振りでヘロヘロになってました」
「なまくらの剣か……懐かしい名前だなあ。スキルが上がってくると材料変換が出来るようになって、溜まりに溜まったなまくらの剣をインゴットに戻せるようになるんだけどね。あの瞬間が一番の快感だったかもしれないなあ」

 溜まりに溜まったなまくらの剣……なんて恐ろしい響きなんだ。でもきっと寧々ちゃんちでも今頃、なまくらの剣ができているはず。

「よし、始めるよ。フリークラフトのやり方は実は人によって違うんだ。僕は僕なりのやり方があってね。少し驚くかもしれないけども、そのまま見ていてくれないかな」

 私と蓮くんが頷くと、金沢さんはアポイタカラの前ですぅと深呼吸をし、背筋を伸ばした。
 両手を合わせ、右手を少し下にずらす。そのまま、パァン! と柏手が打たれ、部屋の中がビリビリと震えた。

「掛けまくもかしこかねに宿りたるおおかみもうしあげる。とおつ国より来たりしこの金の、内に含めし御姿みすがたあらわたまえ」

 意味がわかるようなわからないような言葉を変わった節回しで歌うように言うと、金沢さんはアポイタカラに向かって直角に近い角度でお辞儀をした。
 それから手をかざし、集中を始めたのか目を閉じている。アポイタカラはすぐにきらきらと光り出して、見る間に一振りの刀と残りの鉱石がそこには現れた。

 う……わ……。なんだろう、空気がさっきまでと違う。早朝の松林の中のように潤った清々しい空気が流れてるみたい。
 クラフト完了までの時間の早さにも驚かされたけど、もっと驚いたのは現れた刀が、鞘に入っていたことだ。クラフトってそこまでできちゃうのか。

「すご……そうか、この家の周りが平気だったのはこういうことか」

 ぽつりと呟く蓮くん。そういえば、家の前に来たとき大丈夫になったって言ってたなあ。

「ふう、さすがはアポイタカラというのかなあ。普段とは手応えが違ったね」

 掛かった時間が短くても、消費したMPは多いんだろう。金沢さんはあいちゃんがクラフトした時みたいに大汗を掻いていた。

「さあ、柚香ちゃん、鑑定してごらん」
「はっ! なんかいろいろ凄くて忘れてました! なんか神社でやるみたいなことしてましたよね? あれはなんですか?」
「人によって精神集中の方法が違うんだ。最初に柏手を打ったのは場の気を清めるため。次に唱えていたのは祝詞のようなものなんだけど、僕は伝説金属に神様が宿っているように感じていてね。
 だから、金属の中にいる神様に、その金属の中に宿している姿を――今日の場合は柚香ちゃんに合う日本刀の形だけども――それを現してくださいとお願いしたんだよ。それから、金属に対して敬意を表して、クラフトするという流れだね」
「ほへぇ~……あ、鑑定鑑定。
 【むらさめまる】魔力によって水の力を現し、鞘から抜けば露を宿らせ、更に魔力を流せば鮮血を洗い流すが如き勢いの水を出すことが出来る。……だそうです。属性は付いてないけど水に関係してる刀みたいですね」

 私の話を聞いて、金沢さんはちょっと首を傾げた後スマホで何か調べ始めた。すぐに求めるものが見つかったのか、「ああ!」と納得したような声を上げている。

「南総里見八犬伝に出てくる架空の刀だね。聞いたことはあると思ったんだけど、村雨とか村雲とか似たような名前の刀が多いから引っかかっちゃったよ」
「あー、里見八犬伝。読んだことはあります。中身は憶えてないけど」
「魔力を流せば、って。ゆ~かに使えるのか?」

 うっ、蓮くんの言葉が突き刺さる! どうせ私は魔法適正最低だよ!

「それ自体は武器の性能とは違う、おまけみたいなものだね。普通に刀として使う分には関係ないよ。柚香ちゃん、鞘から抜いてみてくれないかな」
「はい……うわー、緊張するー!」

 私は少し震える手で村雨丸を持ち上げ、左手で鞘をしっかり握ると右手でつかを握って慎重に刀を抜いた。日本刀は実際の重量より、手で持ったときにもっと重みを感じる。

 鞘から抜いた村雨丸を、照明で見やすいようにまっすぐに刃が横向きになるようにして見てみる。

 村雨丸は、青みがかった黒いがね乱刃みだればもんが入った刀だった。
 ぞっとするほど綺麗……というか、見覚えが……はば広く、反り高く、刃文は丁字ちようじ乱れ。華やかな刃文は福岡一文字の特徴だってママが言ってた。

「岡田切にそっくりだ」
「この派手な刃文は僕にも確かに岡田切に見える。多分そこはアポイタカラが合わせてくれたんだろうと思うよ。伝説金属で武器を作ると稀にそういうことがある。持ち主が何か明確なイメージを持ってるときに限るみたいだけど」

 金沢さんは汗を拭いてマジックポーションを飲みながら言った。

「まさか村雨丸なんて名前の知られた刀が、岡田切の姿で出てくるなんて思わなかった。いやあ、凄い物を扱わせて貰ったよ、ありがとう」
「とんでもないです。こちらこそこんな見事な刀にしていただいて……刃文、猫の足跡にして欲しいとか言わなくて良かったです。これはこの形が完成形ですから」

 私は漆塗りっぽく見える黒い鞘に村雨丸を納めると大事に抱いて、金沢さんに深々とお辞儀をした。
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