55 / 273
どえらい装備!! の巻
第51話 岡田切吉房と運命の刀
しおりを挟む
「それじゃあ、見えたことだしクラフトしてみよう。フリークラフトはね、大分類の中で好きなように作れるんだ。例えば日本刀なら『剣』というカテゴリーだね。これはクラフトでも比較的初期に取得出来るんだけど、LVを上げていかないと時間も掛かるし最大MPも上がらない。そこがクラフトの苦労のしどころかな」
「なるほどー。友達はまだスキルが取れたばかりで【なまくらの剣】一振りでヘロヘロになってました」
「なまくらの剣か……懐かしい名前だなあ。スキルが上がってくると材料変換が出来るようになって、溜まりに溜まったなまくらの剣をインゴットに戻せるようになるんだけどね。あの瞬間が一番の快感だったかもしれないなあ」
溜まりに溜まったなまくらの剣……なんて恐ろしい響きなんだ。でもきっと寧々ちゃんちでも今頃、なまくらの剣ができているはず。
「よし、始めるよ。フリークラフトのやり方は実は人によって違うんだ。僕は僕なりのやり方があってね。少し驚くかもしれないけども、そのまま見ていてくれないかな」
私と蓮くんが頷くと、金沢さんはアポイタカラの前ですぅと深呼吸をし、背筋を伸ばした。
両手を合わせ、右手を少し下にずらす。そのまま、パァン! と柏手が打たれ、部屋の中がビリビリと震えた。
「掛けまくも畏き金に宿りたる大神に白しあげる。遠つ国より来たりしこの金の、内に含めし御姿を顕し給え」
意味がわかるようなわからないような言葉を変わった節回しで歌うように言うと、金沢さんはアポイタカラに向かって直角に近い角度でお辞儀をした。
それから手をかざし、集中を始めたのか目を閉じている。アポイタカラはすぐにきらきらと光り出して、見る間に一振りの刀と残りの鉱石がそこには現れた。
う……わ……。なんだろう、空気がさっきまでと違う。早朝の松林の中のように潤った清々しい空気が流れてるみたい。
クラフト完了までの時間の早さにも驚かされたけど、もっと驚いたのは現れた刀が、鞘に入っていたことだ。クラフトってそこまでできちゃうのか。
「すご……そうか、この家の周りが平気だったのはこういうことか」
ぽつりと呟く蓮くん。そういえば、家の前に来たとき大丈夫になったって言ってたなあ。
「ふう、さすがはアポイタカラというのかなあ。普段とは手応えが違ったね」
掛かった時間が短くても、消費したMPは多いんだろう。金沢さんはあいちゃんがクラフトした時みたいに大汗を掻いていた。
「さあ、柚香ちゃん、鑑定してごらん」
「はっ! なんかいろいろ凄くて忘れてました! なんか神社でやるみたいなことしてましたよね? あれはなんですか?」
「人によって精神集中の方法が違うんだ。最初に柏手を打ったのは場の気を清めるため。次に唱えていたのは祝詞のようなものなんだけど、僕は伝説金属に神様が宿っているように感じていてね。
だから、金属の中にいる神様に、その金属の中に宿している姿を――今日の場合は柚香ちゃんに合う日本刀の形だけども――それを現してくださいとお願いしたんだよ。それから、金属に対して敬意を表して、クラフトするという流れだね」
「ほへぇ~……あ、鑑定鑑定。
【村雨丸】魔力によって水の力を現し、鞘から抜けば露を宿らせ、更に魔力を流せば鮮血を洗い流すが如き勢いの水を出すことが出来る。……だそうです。属性は付いてないけど水に関係してる刀みたいですね」
私の話を聞いて、金沢さんはちょっと首を傾げた後スマホで何か調べ始めた。すぐに求めるものが見つかったのか、「ああ!」と納得したような声を上げている。
「南総里見八犬伝に出てくる架空の刀だね。聞いたことはあると思ったんだけど、村雨とか村雲とか似たような名前の刀が多いから引っかかっちゃったよ」
「あー、里見八犬伝。読んだことはあります。中身は憶えてないけど」
「魔力を流せば、って。ゆ~かに使えるのか?」
うっ、蓮くんの言葉が突き刺さる! どうせ私は魔法適正最低だよ!
「それ自体は武器の性能とは違う、おまけみたいなものだね。普通に刀として使う分には関係ないよ。柚香ちゃん、鞘から抜いてみてくれないかな」
「はい……うわー、緊張するー!」
私は少し震える手で村雨丸を持ち上げ、左手で鞘をしっかり握ると右手で柄を握って慎重に刀を抜いた。日本刀は実際の重量より、手で持ったときにもっと重みを感じる。
鞘から抜いた村雨丸を、照明で見やすいようにまっすぐに刃が横向きになるようにして見てみる。
村雨丸は、青みがかった黒い地金に乱刃の刃文が入った刀だった。
ぞっとするほど綺麗……というか、見覚えが……身幅広く、反り高く、刃文は丁字乱れ。華やかな刃文は福岡一文字の特徴だってママが言ってた。
「岡田切にそっくりだ」
「この派手な刃文は僕にも確かに岡田切に見える。多分そこはアポイタカラが合わせてくれたんだろうと思うよ。伝説金属で武器を作ると稀にそういうことがある。持ち主が何か明確なイメージを持ってるときに限るみたいだけど」
金沢さんは汗を拭いてマジックポーションを飲みながら言った。
「まさか村雨丸なんて名前の知られた刀が、岡田切の姿で出てくるなんて思わなかった。いやあ、凄い物を扱わせて貰ったよ、ありがとう」
「とんでもないです。こちらこそこんな見事な刀にしていただいて……刃文、猫の足跡にして欲しいとか言わなくて良かったです。これはこの形が完成形ですから」
私は漆塗りっぽく見える黒い鞘に村雨丸を納めると大事に抱いて、金沢さんに深々とお辞儀をした。
「なるほどー。友達はまだスキルが取れたばかりで【なまくらの剣】一振りでヘロヘロになってました」
「なまくらの剣か……懐かしい名前だなあ。スキルが上がってくると材料変換が出来るようになって、溜まりに溜まったなまくらの剣をインゴットに戻せるようになるんだけどね。あの瞬間が一番の快感だったかもしれないなあ」
溜まりに溜まったなまくらの剣……なんて恐ろしい響きなんだ。でもきっと寧々ちゃんちでも今頃、なまくらの剣ができているはず。
「よし、始めるよ。フリークラフトのやり方は実は人によって違うんだ。僕は僕なりのやり方があってね。少し驚くかもしれないけども、そのまま見ていてくれないかな」
私と蓮くんが頷くと、金沢さんはアポイタカラの前ですぅと深呼吸をし、背筋を伸ばした。
両手を合わせ、右手を少し下にずらす。そのまま、パァン! と柏手が打たれ、部屋の中がビリビリと震えた。
「掛けまくも畏き金に宿りたる大神に白しあげる。遠つ国より来たりしこの金の、内に含めし御姿を顕し給え」
意味がわかるようなわからないような言葉を変わった節回しで歌うように言うと、金沢さんはアポイタカラに向かって直角に近い角度でお辞儀をした。
それから手をかざし、集中を始めたのか目を閉じている。アポイタカラはすぐにきらきらと光り出して、見る間に一振りの刀と残りの鉱石がそこには現れた。
う……わ……。なんだろう、空気がさっきまでと違う。早朝の松林の中のように潤った清々しい空気が流れてるみたい。
クラフト完了までの時間の早さにも驚かされたけど、もっと驚いたのは現れた刀が、鞘に入っていたことだ。クラフトってそこまでできちゃうのか。
「すご……そうか、この家の周りが平気だったのはこういうことか」
ぽつりと呟く蓮くん。そういえば、家の前に来たとき大丈夫になったって言ってたなあ。
「ふう、さすがはアポイタカラというのかなあ。普段とは手応えが違ったね」
掛かった時間が短くても、消費したMPは多いんだろう。金沢さんはあいちゃんがクラフトした時みたいに大汗を掻いていた。
「さあ、柚香ちゃん、鑑定してごらん」
「はっ! なんかいろいろ凄くて忘れてました! なんか神社でやるみたいなことしてましたよね? あれはなんですか?」
「人によって精神集中の方法が違うんだ。最初に柏手を打ったのは場の気を清めるため。次に唱えていたのは祝詞のようなものなんだけど、僕は伝説金属に神様が宿っているように感じていてね。
だから、金属の中にいる神様に、その金属の中に宿している姿を――今日の場合は柚香ちゃんに合う日本刀の形だけども――それを現してくださいとお願いしたんだよ。それから、金属に対して敬意を表して、クラフトするという流れだね」
「ほへぇ~……あ、鑑定鑑定。
【村雨丸】魔力によって水の力を現し、鞘から抜けば露を宿らせ、更に魔力を流せば鮮血を洗い流すが如き勢いの水を出すことが出来る。……だそうです。属性は付いてないけど水に関係してる刀みたいですね」
私の話を聞いて、金沢さんはちょっと首を傾げた後スマホで何か調べ始めた。すぐに求めるものが見つかったのか、「ああ!」と納得したような声を上げている。
「南総里見八犬伝に出てくる架空の刀だね。聞いたことはあると思ったんだけど、村雨とか村雲とか似たような名前の刀が多いから引っかかっちゃったよ」
「あー、里見八犬伝。読んだことはあります。中身は憶えてないけど」
「魔力を流せば、って。ゆ~かに使えるのか?」
うっ、蓮くんの言葉が突き刺さる! どうせ私は魔法適正最低だよ!
「それ自体は武器の性能とは違う、おまけみたいなものだね。普通に刀として使う分には関係ないよ。柚香ちゃん、鞘から抜いてみてくれないかな」
「はい……うわー、緊張するー!」
私は少し震える手で村雨丸を持ち上げ、左手で鞘をしっかり握ると右手で柄を握って慎重に刀を抜いた。日本刀は実際の重量より、手で持ったときにもっと重みを感じる。
鞘から抜いた村雨丸を、照明で見やすいようにまっすぐに刃が横向きになるようにして見てみる。
村雨丸は、青みがかった黒い地金に乱刃の刃文が入った刀だった。
ぞっとするほど綺麗……というか、見覚えが……身幅広く、反り高く、刃文は丁字乱れ。華やかな刃文は福岡一文字の特徴だってママが言ってた。
「岡田切にそっくりだ」
「この派手な刃文は僕にも確かに岡田切に見える。多分そこはアポイタカラが合わせてくれたんだろうと思うよ。伝説金属で武器を作ると稀にそういうことがある。持ち主が何か明確なイメージを持ってるときに限るみたいだけど」
金沢さんは汗を拭いてマジックポーションを飲みながら言った。
「まさか村雨丸なんて名前の知られた刀が、岡田切の姿で出てくるなんて思わなかった。いやあ、凄い物を扱わせて貰ったよ、ありがとう」
「とんでもないです。こちらこそこんな見事な刀にしていただいて……刃文、猫の足跡にして欲しいとか言わなくて良かったです。これはこの形が完成形ですから」
私は漆塗りっぽく見える黒い鞘に村雨丸を納めると大事に抱いて、金沢さんに深々とお辞儀をした。
33
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる