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ダメステアイドルと柚香の特訓の巻

第39話 テイマー開眼

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「さーて、今日はランニングからの打ち込みをする予定なんですが、せっかくヤマトがいるので参加して貰おうと思います!」

 スマホ搭載のカメラがヤマトを捉える。足下でお座りしててお利口だね!

「ヤマトが参加……?」

 あっ、嫌な予感を察知しましたというような顔のダメステアイドル。君はこういう予感だけは鋭く察知するな。MAGの高さか? MAGの高さなのか!?

 私は肩から斜めがけにしてたアイテムバッグから、フライングディスクを取り出してカメラに向けた。

「じゃーん! 今日はこれで、ヤマトと楽しく追いかけっこをします!」

『おおー』
『楽しそう!』
『恐ろしい』
『オイマテ、AGI100超えの従魔だぞ?』

 コメントは率直に楽しそうーって言う人と、真の恐ろしさを理解した人が半々くらいかな。

「いっくぞー、ヤマトー!」
「ワンッ!」

 広い1層で思いっきりフライングディスクを投げる! ヤマトは既にこれで遊んでいて、「追いかけて取って遊ぶ物」と理解してるから、凄く嬉しそうに駆けていく。

「蓮くん、ゴー! ヤマトからフライングディスクをゲットすべし!」
「げー!? あれと追いかけっこをするのか!?」
「そうです! 私も見ているだけでは自分の訓練にならないので走ります! ヤマトー、待て待て~」

 遊びの時は待てと言っても止まらないんだ、ヤマトは。うちは「待て」のコマンドは「ステイ」で憶えさせてるから。
 私が待て待て~、愛い奴よのう、苦しゅうないゾ、近う寄れ~とか言っても寄ってこない。

 さーて、楽しい地獄の追いかけっこの始まりだ!

「ヤマト、待て! 待てってば、ステイ! くそー! 飼い主の言うことも聞かないんだからそもそも俺の言うことを聞くわけねえ!」

 元気に文句言いながらも全力で走る蓮くん。これでもヤマトは手加減してくれてるんだけどなあ。
 キャッチしたフライングディスクを口にくわえて、蓮くんに追いつかれるか追いつかれないかの速度でワクワクを楽しんでる。

 時々蓮くんの目の前で止まって、ディスクくわえたまま反復横跳びしてる。「取れるか? 取れるか? 取ってみな!」って可愛い仕草で挑発してる。
 そして蓮くんは思いっきり手を伸ばして――こけた!

「ほらやっぱりこけたじゃーん!」
「こんなの、こけるに決まってるだろ!!」

 追いついた私にヤマトがディスクを差し出して、「また投げて」ってキラッキラの笑顔で見つめてくる。うわーお、可愛いでしゅねー、可愛いでしゅねー!!

「ヤマトしゃーん♡ もっと遊びたい? そーれ、今度はあっちー!」

 丸まった尻尾をぶんぶんと振りながら、ディスクを追いかけるヤマト。それを追いかける私と蓮くん。
 時々私がディスクをゲットして、遠い方へとぶん投げる。蓮くんは息が上がってきて文句を言うこともできなくなった。……思ったより持久力ないな。

 疲労の限界に近くなった蓮くんが、足をもつれさせて何にもないところで転んだから、一旦これは終了。
 うーむ、打ち込み以前にまずスタミナ鍛えないとどうにもならないな、これ……。

『可哀想可愛い』
『楽しそうなのはヤマトとゆ~かだけ』
『追いかけっこという名の走り込み……』
『楽しそうなのに地獄』
『見てる分には楽しい』
『ヤマトのいい表情、スクショしました』

 うんうん、コメント欄も概ね楽しそうで良かったよ。
 ヤマトを呼んでフライングディスクを回収……するとき、ちょっと引っ張りっこになった。まだ遊びたいヤマトVS私!!

「ヤマト、ステイ! グッド! また遊んであげるから、今は一旦休憩ね。はい、お水」

 ふー、また言うこと聞いて貰えないかと思ったけど、フライングディスクを無事に取り返せたよ。
 遥か遠くで蓮くんがぶっ倒れているが、私は気にせずヤマト用の水飲み皿を出してそこに水を入れた。すぐに水を飲み始めるヤマト。

 私も今のうちにお水を――と思ったら、ヤマトが何かに気づいたように顔を上げて、小さい三角のお耳をピコンとある方向へ向けた。そして、突然の猛ダッシュ!

「ぎゃあああああああー! そっち行っちゃダメぇぇぇぇ!!」

 私の気持ちを察して欲しい。
 今私たちは経験値を入れたくないのだ。だから「弱いモンスをちまちま殴る」じゃなくて、わざわざそれよりも効率の劣る方法でステータスを上げようとしてる。

 なのに、ヤマトの向かう先は2層への階段! このままヤマトが2層に降りてモンス狩りを始めちゃったら物凄く困る!!

「ヤマト、ステイ! ――ステイ!!」

 やばい、言うこと聞いてくれない! これは、「ダンジョンモードでのヤマト」だ! マスターである私の命令なんて聞いてくれなくて、自分の欲求最優先になってる奴!

 ヤマトが2層への階段へ辿り着いた。そのまま降りようとする――。

「ヤマト! ステイ!!」

 全力で追いかけてきたけど、私の距離ではヤマトに手は届かない。今の私にできることはコマンドを出すことだけ。
 腹の底から気合いを入れて叫んだら、階段の1段目でヤマトがぴたりと止まった!

『ヤマトがゆ~かの言うこと聞いた……』

 誰かのコメントがぽつりと流れていく。

 今、私の声に、コマンドに、何かが「乗った」!
 なんだかよくわからないけど、なんだかよくわからない感じのものがお腹の下の方から湧き上がってきて声に同化した感じがした。

 きちんとお座りしてステイをして私の方を見ているヤマトに追いついて、無事確保。
 はぁ~、安心したよう。

 私がヤマトを抱えてへたり込んでるところへ、蓮くんがよろよろとした足取りで寄ってきた。なんか変な顔してる。いや、顔は変じゃないな、変な表情。

「ゆ~か、おまえ今魔法使ったか……?」
「使ってませんが? ていうか、使える魔法なんてひとつもありませんが!?」
「キレるなよ……おまえのコマンドに魔力乗ってたから、テイマーに魔法があるのかと思ったんだよ」

 そうか、魔力! 今のが魔力なんだ! 魔力低すぎて使うことがなかったから、どういうものなのか全くわかってなかった。 
 テイマーが従魔を使役するには口で言うだけじゃダメで、魔力が必要なのか!

 どうやらヤマトには普通に言うこときく「飼い犬モード」と、あんまり言うこと聞いてくれない「従魔モード」があるみたいだってことは薄々思ってた。後者はダンジョンでのみ出るやつね

 この「従魔」状態のヤマトに言うことを聞かせるには、魔力を込めたコマンドを使う必要があるってことなのか……。

 でもテイマーにMP必要とか聞いたことないぞ? と思ってステータスをチェックしてみたけど、別にMPは減ってなかった。

「でもMP減ってない」
「魔法と違うからだろ。魔力使うのか……それじゃあ、俺は従魔をテイムしやすいってことだよな? テイマー目指した方がよくねえ?」
「これだから素人は……蓮くんのステータスで出会えるモンスターで可愛いのはいないよ。ヤマトは2層で出会ったけど特別に可愛いけどね!
 アイドルがオーガとかラミアとか連れ歩いて許されると思う?」
「……嫌な絵面だな。配信出来ねえ」

 蓮くんがしかめっ面になった。今のあなたのその表情も配信されてますけどね。


 凄く大事なことに気づいたんだけども、その後は上手く魔力を乗せることができなくて、飼い犬モードと従魔モードを行ったり来たりするヤマトは、フリーダムに行動し続けた。下の階に行かなかったのはよかったけど。
 さっきはたまたま2層のモンスターが階段近くまで来ちゃったのかな。それくらいしかヤマトが反応しそうなことが思い当たらない。

 多分魔力操作にはコツがあるんだ。これは訓練しないといけないけど、私のMAG低いからなぁー……。
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