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ダメステアイドルと柚香の特訓の巻

第32話 驚愕! パパの過去

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 翌日の日曜日、私はパパに連れられてアイテムバッグを持って海老名の国分寺ダンジョンに来ていた。
 ここはかつて相模国国分寺があったというところの近くなので、そう言われている。なんかダンジョンは名所旧跡パワースポットの近くにできることが多いらしい。

 私が聞いた中で一番酷いと思ったのは、京都の上級ダンジョン「清水寺ダンジョン」で、清水の舞台から飛び降りないと入り口に着かないんだって。
 ちなみに江戸時代は「清水の舞台から飛び降りた」人の生存率は意外に高くて85%もあったそうな!

 それは木が生えてて地面が柔らかかったせいで、今はそうじゃないから「飛び降りないでください」って看板が立ってたそうなんだけど……。 
 上級ダンジョンに入る人はそもそもレベルの上がってる冒険者だから、ダンジョンアタックする人が飛び降りても怪我はしない。

 世界中にダンジョンを出現させた「何か」は、絶対ギャグ担当がいると思う。

 
 国分寺ダンジョンの駐車場に車を駐めて、車を降りる前にパパは私に向かって言った。

「ユズ、ここから先はパパがいいよと言うまでしゃべっちゃダメだよ」
「い、イエッサー」

 今日の私は髪型変えた上におしゃれ眼鏡を掛けてて、服装も持ってる中で一番動きにく……ガーリーで大人しい物だった。
 これにあのやけに上品なアイテムバッグを合わせると、ちょっと大人びた趣味の女の子にしか見えない。
 制服より長いスカート穿いたの、恐ろしく久しぶりなんですが。

「じゃあ行くぞー」

 私に向かって不穏な警告をした割りには、パパはいつもの調子で車から降りて、ダンジョン入り口の側にあるダンジョンハウスに向かった。
 ダンジョンハウスには更衣室があって、基本的にここで冒険者装備に着替えたりするところだ。必要ない手荷物とかを預けるロッカーもあるし、売店では買い取りもしてくれるし各種ポーション売ってたりもする。

「すみません、中級冒険者装備一式について相談なんですが」

 パパが無表情の店員さんに向かって話しかける。
 え? 別に私今ここで装備買うつもりないよ?
 混乱する私を置き去りにして、店員さんはこくりと頷くと「じゃあこちらへどうぞ」と小部屋に案内してくれた。

 ピーンときた!
 うっはあ、スパイ映画みたい!! かっこいい、かっこいい!

 端から見ると、「中級冒険者装備一式について店員さんに相談に乗って貰うため」に小部屋に入っただけの人に見えるんだわ、これ!

「買い取りですね。品物は何でしょう? アポイタカラ、ですか?」
「ははっ、お見通しですか。さすがですね。ユズ、もういいよ」

 扉を閉めた途端、店員さんは平坦な声音でこちらに尋ねてきた。
 ひぃぃぃ……。そこまで気づいてるぅ。

「さすがもなにも。ここ最近でこんなちようを使ってまで特別買い取りをしなければならないような案件はあれだけですから」
「パパ、ふちょうって何?」
「あいことばだよ。実は、パパは昔ちょっとだけ冒険者をしてたんだ。LVは12止まりだけどね。ユズが生まれる前のことだよ。
 少しだけやった後、ママのお腹にユズがいることがわかって、危ないことはやめようと思って引退したんだ」

 ほへぇ~、知らなかったよ! しかも私が生まれる前って、ダンジョンができたばっかりじゃない? その時期にダンジョンアタックしてた人か……凄いなあ。何のノウハウもない中でパパは戦ってたんだ。

「今では見向きもされないような物でも、その頃はちょっとでも性能が良ければ奪い合いだったからね。だから、こういった特別なやりとりの仕方が生まれたんだよ」
「なるほどー。憶えておこうっと。えーっと、中級冒険者装備一式について相談、ね」

 確かに、初級で相談する人はいるかもしれないけど、中級と呼ばれるLVに上がってきて、自分の武器が決まってなかったり、求める装備の方向性が理解出来てないって人はいないだろうな。

 私はスマホにメモしておいた。ヤマトがいるとこの先も何が起きるかわからないからね。

「アポイタカラの買い取りをお願いします。あと、この前サザンビーチダンジョンでドロップしたものも」
「はい、承りました。アポイタカラはどれほどでしょうか」
「200キロで」

 この店員さんの声って、落ち着かないんだよね。人工音声っぽいと言うか、淡々としすぎていて感情が感じられなくて。

「少々お待ちください」

 店員さんはタブレットを持ってくると、いろいろと入力していく。これはいつもの買い取りではないやつだ。多分高額買い取りの場合に限るんだろうなあ。

「アポイタカラ鉱石200キログラム。現在の買い取り価格はこちらです。ご承諾いただけましたらこちらの欄にサインをお願いします。買い取り金は振り込みになりますので、振込先口座もご記入ください。手数料はこちらに記載がありますのでご確認を」

 なんだかたくさん0が並んでるけど、もう私は気にしないことにした。数えてたら気が狂う。

「普段使ってない口座の方に振り込みなさい。そっちからいつも使ってる銀行に少しだけお金動かす方が問題にならないよ」
「イエッサー! で、お年玉貯めてた口座に入れることにするけど、いつもの口座にはいくらだったら入れていい?」
「100万……は多いか? 感覚狂ってるからちょっとパパも今混乱してるな。それはママと相談するから家に帰ってからな」
「はーい」

 口座について記入して最後にタッチペンで画面に「柳川柚香」と書き込んで、なんか一気にほっとする。

「アポイタカラは今ここで出していいですか?」
「はい、結構ですよ」

 店員さんの了承を得たので、小部屋のテーブルにアポイタカラ20本をどんどん出していく。店員さんはそれに片っ端から触れて、どこかに身につけているらしいアイテムバッグに収納していった。

 最後の1本だけ重さを量ってそれが10キロの塊であることを確認し、受け渡しは終了。

「ひとつ質問してもいいでしょうか」
「お答え出来ることなら」
「私がダンジョンでアポイタカラを見つけたとき、こう、小さい鉱石もいっぱいあって、これより大きいのもあって、それが綺麗だったのを憶えてるんですけど、アイテムバッグに入れてから出したら均一化してたというか」
「ストックとはそういうものです。合計320キロのアポイタカラがあったので、それを全てアイテムバッグに入れたら10キロの鉱石が32個という表記になります。仮に322キロだったとしたら、10キロの鉱石32個と2キロの鉱石1個で2スロット消費ということになります」

 ……待って待って待って!!!!
 私、配信でアポイタカラのストックが32個だったとか見せてない!!
 さすがにそれはヤバかろうと思って、映さないようにアプリを見てたもん。

 さーっと血の気が引いた私とは対照的に、パパはいつも通りで。

「じゃあ、帰ろうか。もう一カ所行かないといけないところもあるからね」
「あ……うん。あ、ありがとうございました」
「またのご利用をお待ちしております」

 店員さんは、最後だけほんの少し接客スマイルらしき物を浮かべた。
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