上 下
18 / 273
ゆ~か、いろいろダメなアイドルを助けるの巻

第17話 行きが本番とは限らない

しおりを挟む
 聖弥さんの外せる装備は外して、蓮くんの武器もまとめてアイテムバッグへ。
 そして、この中で一番頼りない蓮くんが聖弥さんを背負うことになった。

「大丈夫? その状態で砂浜歩ける? 私が背負った方がいいんじゃない?」
「やめろ、それだけは絶対やめてくれ! 俺のプライドが死ぬ!」

 蓮くんが頑なに遠慮するので、私とヤマトが彼らの護衛をしながら地上へ戻ることにした。
 
 というか、担架があればよかったな。肋骨折ってる疑惑がある人を背負って運ぶっていうのは、見てる方も心臓に悪い。

 蓮くんはゆっくり砂浜を歩いた。きっとあれは聖弥さんに衝撃を与えないためだよね。体力無くてサクサク歩けないんじゃないよね……。

 途中、カニの形のモンスターのミニカルキノスとか出て来たけど、私の盾での裏拳一発かヤマトの噛みつきで倒していく。出た魔石はヤマトが美味しくいただき、ドロップがあったらぽいっとアイテムバッグへ。

 最初、カニが出て来たときヤマトが反復横跳びをしながらじゃれつこうとして、ハサミで鼻を挟まれてキャイン! って鳴いてたのはいい思い出です……。次からは敵認定したらしくてしっかり戦ってた。

 6層の森林エリアへの階段を上ったとき、蓮くんがはーはーと息を切らしながら立ち止まった。

「5分、休ませてくれ……」

 そう言いながらも聖弥さんを下ろさないのは偉い。

「そうだ! 聖弥さんをアイテムバッグに」
「絶対入れるな! スプラッタだ!! おまえ、学校で習わなかったのか!?」

 むう……怒鳴る元気あるじゃん。
 というか、アイテムバッグなんておいそれと手に入るアイテムじゃないから、情報はそんなに出回ってないんだよね。学校でもまだ習ってない。

「生体はアイテムバッグに入らないんだよ。あと、同じ種類のアイテムは複数入れても1スロットしか消費しないから、小のアイテムバッグでも思ったより物が入るんだ」

 柔らかい声で聖弥さんが補足してくれる。知らなかった……。
 ダンジョンアプリを開いてみたらアイテムバッグの項目が出来てて、確かにアポイタカラはまとめて1スロットの扱いになってる。数は32って表示されてるね。
 ポーションとか複数持つとかさばるから、この仕様は助かる。

「ポーションがあと2本あったら、ふたりに1本ずつ飲ませられたのにね。不測の事態に備えて多めに持ち歩くべきだったよ」

 聖弥さんの場合は体内の損傷部分の回復で、蓮くんは疲労回復だ。
 骨折は治るのに時間がかかるけど、ポーションを飲めば痛みを抑えられるし、少しだけ治りも早くなる。

「気にすんな。1本も持たないで来た俺たちが準備不足だったんだよ」
『ポーションは2本は持っとけ』
『いや、できれば3本。最低1本だな』
『駆け出しアイドル、金がないのか』
『でも芋ジャ……初期装備シリーズじゃないんだな』

 私の方で流れるコメントを見て、蓮くんのこめかみにピキッと青筋が立った。

「どうせ駆け出しで金がねえよ! あと、さすがにアイドル名乗るからにはあれは着られなかった! それで装備買ったから資金が尽きた!」
「なーるほど」

 休んでいる間に飛んできたジャイアントバットは、ヤマトが飛びかかって撃退する。あーん、なんて優秀な護衛!

 5分が経ってそろそろ出発しようかというとき、階段に向かってきた集団が私たちを囲んだ。

「へいへい、お嬢ちゃん、いい物持ってるじゃーん。それ、ちょっと手に取って見たいなあ」

 ナイフをちらつかせながら、アロハ姿のいかにもな輩が4人組で絡んでくる。

「アロハは市役所職員だけでごちそうさまです。おととい来やがれ」
「おまっ! 挑発すんなよ、俺動けないぞ!?」
「大丈夫、私とヤマトがいるから」

 男たちは私からすると強そうには見えない。今日は人がたくさんいるから6層まで降りてこられたんだろう。

「ふーん、自信満々じゃん。50万再生したからってイキッてんじゃねえよ! このメスガキが!」

 いや、別にイキッてませんけど……。こういう人たちって、痛い目見ないとダメなのかな。

 舌打ちをしたひとりが、ナイフを振りかざしてこちらに襲いかかってきた。私に向かって手を伸ばすけど、私は半身でかわす。
 哀れ、男の手はバッグをかすっただけで……いや、かすってない! バッグが半実体化して男の手をすり抜けた!

 凄い凄い! 所有権と使用権が私にしかないってこういう事なんだ! こーれーは便利。

 そして、男はヤマトにガッツリ脚を噛まれて悲鳴を上げながら地面を転がった。
 その間、僅か10秒程度で……。
 
 この人たち、私が貴重なアイテムを持ってることは知ってても、動画は見てないのかな? ヤマトが常識外れに強いって知らないの? 所有権設定もしたって間違いなく実況でさっき言ったよね?
 命知らずのバカって怖いねー。こういう大人にはなりたくないな。
 
「今の配信されてたから、こっちの正当防衛だって証拠残ってるよ。同接3000人が証人だよ。それと、治療費はびた一文たりとも払いません! これ以上文句があるなら、ヤマトよりは弱い私がガチで相手するけど?」
『そうだそうだ!』
『通報しました。リアルに』
『ぶちかませ、ゆ~かちゃん!』
『ゆ~かがガチで戦う、だと?』
『ステはそれなりだけど、カニ相手以外にどれだけ強いか未知数だな。これは見物みもの

 右足を一歩引いて、左腕にある初心者の盾を男たちに向ける。こっちに来たら盾でぶちかますぞ、って構え。腰を落とした私の隙のない構えに、男たちは顔を青くしてお互いに目配せし、「憶えてろよ!」という古典的な捨て台詞を残して逃げていった。

「ヤマト、グッド! 偉ーい! さすが強いでしゅね~♡」
「むしろおまえ、何者なんだよ……」

 蓮くんの顔が青い。怖い思いをしちゃったのかな。私はヤマトが全員瞬殺してくれるって信じてたから、何も怖くなかったけど。

「私は偶然ヤマトをテイムしてバズっただけの、ダンジョン初心者だよ。まあ、格闘術とか武器戦闘とかは学校で習ってるけど」
「冒険者科……恐ろしいところだぜ」

 ぽつりと蓮くんが呟く。恐ろしいところというのは認める。通ってて時々学校の正気を疑うもん。
 そこで本当に休憩は終わりになって、後は私とヤマトがモンスターを片付けているだけで地上に辿り着けた。そこで配信は終了。

 ダンジョンから出た途端、また囲まれる。今度は良識ある大人の人たちに。
 救急車を呼んでくれる人、ダンジョンハウスで買ったらしいポーションを蓮くんに飲ませてくれる人、ヤマトをモフる人……。

 そして、私のスマホがブルブル震えて着信を知らせた。

『ユズ! 大変なことになってたね! 車で迎えに来てるから、今車駐めてそっち行くわ!』

 うわー、ママが来た……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

処理中です...