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柴犬? ヤマトとの出会いの巻

第5話 おうちに帰るまでがダンジョンです

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 一緒にダンジョンに来た友達は、私が走り回っている間に帰ってしまったらしい。メッセアプリに目の離れた腹立つ顔の魚のスタンプで「お・さ・き」って入ってた。世知辛い……。

 ダンジョンの隣にある、海の家ならぬダンジョンハウスのロッカーで自分の荷物を回収して、買い取り屋さんにゴブリンのドロップ品を買い取って貰った。
 本当は魔石だとスライムのでも1個100円とかになるから、これだけ戦ったらいいお小遣いになるんだけど……全部ヤマトのお腹の中です。

 ゴブリン装備は初心者シリーズより1だけ攻撃も防御も高いんだけど、その1のためにボロボロ腰巻きを巻いたりは絶対に出来ない。だって腐ってもJKだもの。こっちの買い取りはまとめて2000円になった。

「ヤマトー、これからおうちに行くけどね、車が走ったりしてるところを通るから、急に暴れたりしちゃダメだよ。いい?」
「ワン!」

 ああ、いいお返事。そしていい笑顔! 絶対本犬理解してない奴だよ、これ!
 ダンジョン前の駐輪場には、学校名のステッカーの付いた自転車が一台ぽつりと止まっている。サザンビーチダンジョンこと湘南ダンジョンは、実は不人気ダンジョンなんだよね。近いからよく来るんだけど。

 階層が少ない初級ダンジョンだっていうのもあるけど、湘南ダンジョンは「全国ダンジョン徹底調査! 地震の時にいたくないダンジョン堂々の1位」に輝いてしまったダンジョンなのだ。

 理由は、もう立地にあるとしか言えない。
 国道134号線沿いの砂防林の中に、唐突にこのダンジョンの入り口がある。周りは松林、100メートルもいけばもう波打ち際。一度地震が起きて小さな津波が起きたとき、ダンジョンの入り口すれすれまで海水が来たらしい。

 世界でもダンジョンの入り口が津波や大雨で浸水したという話は聞いたことがないので、もしかしたら何か謎のパワーで守られてるのかもしれないけど、ちょっとやだよね。

 私はヤマトを自転車のカゴに入れた。案外大人しくカゴに入ったヤマトは、前脚をカゴにちょこんと掛けてとってもラブリー♡
 
「うん。そのままそのまま、大人しくしててね。すぐ着くからね」

 そのままヤマトはお利口さんにしていて、私は自転車を走らせて帰宅することが出来た。
 ヤマトを抱えてインターフォンを押し、「ただいま」と呼びかけるとガチャリと音がして玄関ドアが解錠された。私はドアを開けながら中に呼びかける。

「あのね、ママ……」
「お・か・え・り♡ ユ~ズ、早くヤマト抱っこさせて♡」
「なーぜー知ってるし……」
「そんなん配信見てたに決まってるですしー」

 足下にハチワレのサツキと黒ブチのメイという2匹の猫をまとわりつかせながら、犬用おやつを手にしたママが玄関で待ち構えていた……。


「ヤマト、お座り。うん、いい子ね。そのまま『ステイ』よ。グッド! はい、ご褒美。きゃー、可愛い~」

 ヤマトはママの言うことはいきなり聞いた。くるんと丸まった尻尾をぶんぶん振りながらママの手からおやつを貰っている。

 ヤマトを飼っていいかという問題に関しては、私は最初から心配してなかった。我が家はパパもママも動物好きで、猫も保護猫出身のサツキ・メイ・カンタっていう3兄弟がいる。
 犬も私が小学3年生の頃まではいたんだけど、虹の橋を渡ってしまった。私と兄弟みたいに育ったあの子も柴犬だったんだよね。だから私は犬の中でも柴犬が特に好き。

 飼ってもいい? と聞いたところで、うちは「どうぞどうぞ」しか返ってこない家なのだ。今まで犬がいなかったのは、単純に出会いがなかっただけ。

 私の動物好きは完全に血筋。だって、道歩いてるとママが時々「猫落ちてないかなー」って言いながら車の下覗いてるもんね。
 一度、本当に車の下から子猫を引っ張り出したときにはめっちゃ驚いたけど。それが後のカンタである。サツキとメイはその後近くにいたのをママによってゲットされた。

 そのカンタだけど。
 猫たちの中で一番ヤマトにビビって、やんのかステップで廊下を後ずさりしていった……。
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