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24 辺境騎士団の砦へ……行く前に
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昨日の夜、中途半端にしたまま流れてしまった私たちの状況の説明。それをするために私はクリスさんの馬に乗せられていた。
これについては、「先生が一番足遅いんだから馬に乗せてもらいなよ」という雄汰くんの鋭くも涙が止まらなくなるような一言があり……。
確かに子供たちは足が速い。私とのステータスの差があるから。
前後を騎士に挟まれて子供たちは歩いて移動することになった。
最初は馬も並足で歩いていたんだけど、後ろの子供たちが「遅ーい」と煽るのでだく足だ。
人生二度目の乗馬体験だけどサラブレッドとは違って体高が低いせいか、いくらか安心感があるけど。
「ミカコさんは馬に慣れていないそうですね。気分が悪くなったりしたら我慢しないですぐに教えて下さい」
頭の真後ろから響いてくるイケボがなければ尚よかった!!
子供たちが疲れすぎないように時折様子を見つつ、私は智輝くんが熱を出したために医師を求めて集落を探し、森にほど近い村を見つけたことを話した。
そして、そこで子供たちと私が村人によって捕まえられそうになったことと、彼らは私たちを売るつもりだったと言うことも。
「一部の村人は、他の人の行いを謝ってくれました。……でも、やはり子供たちにとっては衝撃的なことで、自分の力によって人を傷つけてしまった子は、それが自分の傷になってしまったんです」
あの時の楓ちゃんの、嗚咽する度に激しく震えた背中を思い出す。彼女はあのまま心を閉ざしてしまってもおかしくないほどのショックを受けていた。
大人の私に比べても極端に高い子供たちのステータス。私たちに与えられた力はこの世界を生き抜くために必要だけど、子供の自覚している「自分の力」とはあまりに乖離している。それが、本当に危うい。
力は本当に使い方次第なんだなと、私は馬上でため息をついた。
「つまり、村人の行いによって、同じこの世界の人間である我々を良くは思わない子供たちも中にはいると、そういう事でもありますね?」
レイモンドさんが切り込んできた。言い難いことをバッサリと言うな、この人は。その分こちらも答えやすくて話が早くていいんだけど。
「……はい。言いづらい話ではありましたが、つまりそういうことです。この世界の大人だからというだけの理由で、皆さんを信じられない子もまだいます」
「ミカコさんにとっては、我々は信じるに足る者でしょうか?」
頭の後ろから、少し戸惑った声。私は善人ぶらずに、本当のことを話そうと決めた。私を舐められるのが現時点では一番まずいから。
「8割信じています。自分を一軍の指揮官として考えたら、相手に全幅の信頼を置いてしまうのは危険すぎると思うので」
クリスさんは無言で私の言葉を聞いていた。騎士としては、「全幅の信頼」を置かれたいだろう。でも子供たちが彼らを信じ切れない以上、私までが全て信じるわけにはいかない。
「騎士の誇りという言葉と、あの時のあなた方の表情は私たちの信頼を得るには充分でしたが、『騎士の誇り』が私が知る元の世界での『騎士の誇り』と同じであるなら、という条件が付いてしまっていますから。あとは、立場的に私たちがあなた方を助けたというのが、あの村人たちと違うところ。つまり」
一度言葉を切る私を、レイモンドさんが興味深そうに見ている。
「あなた方は私たちに大いなる借りがあり、騎士の価値観ではそれを放置するのを良しとはしないだろうから、それが崩れない限りは味方だと信頼できる。むしろ、その程度でしかない。――現時点ではそういうことです」
「なかなか、手厳しいですね……。我々は恩義を感じ、全て善意によって動いているつもりですが」
クリスさんの声は心なし元気がなかった。まあ、仕方ないよね。私なんかぱっと見甘く見えるんだろうし、あの村に行くまでは実際甘かった。
「団長はそういうところが甘いんですよ。都市に入った途端に石を投げつけられたら、その後の行動は慎重に取らざるを得なくなる。それと同じです。それに、まだ続きがあるのでしょう?」
「ちょっとレイモンドさんのことを心の友って呼びたくなってきましたよ。わかってますね」
「騎士団の砦に着いたら酒でも飲み交わしますか」
「いいですね! あ、でも、もしかすると存在していたお酒の関係上、この世界の人から見たら、私は凄くお酒が強いかもしれません……」
エールなんかはまず間違いなくあるだろうけど、あれってあんまりアルコール度数が高くないんだよね。
土曜の晩に溜まった録画を片付けつつ、芋焼酎のお湯割りを飲みながらスルメ囓ってる私を見てうちの親はよく嘆いていたもんだし。
多分私、この世界の人と比べたらお酒は強いはずだ。蒸留酒が既に存在してるかどうかで分かれるかもしれないけど。
「ミカコさんは、全ての点で私の常識を越えてきますね」
「そのうち慣れて下さい。私の世界ではこれくらいは普通です。――それと、『現時点では』と敢えて言ったのは、個々人の信頼関係が全体に大きく影響を与えてくるからです。例えばジェフリーさん。彼は息子さんをお持ちなんですよね?
昨日も子供たちとたくさん遊んでいただきましたし、子供たちもあっという間に懐いています。その、失礼ながらトイレからお尻を出して転げ出てしまったことについても、非情に人間味があって隙のある行動でしたので、大人に警戒心を持っていた子もその気持ちが少し緩んだようです」
「ジェフリー……」
レイモンドさんは思いきりため息をついたけども、クリスさんは私の言葉に頷いた。
「わかりました。確かにお互いに遠巻きに見ているだけでは信頼は生まれない。各自できる範囲で子供たちと交流を深めるように言いましょう」
「お願いします。それと、そろそろ休憩を――のついでに、魔物退治です」
私はひらりと馬から降りた。降りられた! ちょっと自分カッコいい!!
「行進止まれー! みんなは騎士さんたちの前に出て!」
私は前方に目を凝らした。ただの土埃から、だんだんとはっきりしてくるモンスターの姿。あれは、オーガが2体と他に小さいモンスターが数体! ちょっと前だったら確実に苦戦する相手だけど、多分今なら楽勝のはずだ。
「鶴翼の陣に、ひらけ!」
この数なら、火力を集中した方がいい。私はそう判断して子供たちをV字に展開させた。
こちらの攻撃は確実に届き、向こうの攻撃は絶対に届かない。そんな距離を見極めて――。
「ファイエル!」
予想通り一撃で二体のオーガは壊滅した。ほっとしたところで振り向いた私は、うっすら光る水たまりが思ってもみない場所にあることに気付いてしまった。
このスライムは、一体どこからきた!?
「クリスさん、危ない!」
スライムにやられたら鎧が溶ける!!
スライムが伸びるのを見た瞬間、咄嗟に私はクリスさんに体当たりするように飛びついていた。
そして、そのまま――。
「えっ?」
「……えっ??」
わ、私、クリスさんをお姫様抱っこしてるー!!
「………………」
「………………」
お互いの沈黙が痛い。私がクリスさんの足を抱えていた方の手を離すと、彼はすっと立ち上がった。その間にスライムは太一くんによって片付けられていた。
やばい、「君は羽のように軽いね」とかまさにそんな感じだった。180センチで武装した騎士を軽いと思える私の筋力どうなってるの!?
「……驚きました。ミカコさんはとても力があるのですね」
「……私も驚きました。子供たちは私の数倍強いので、てっきり私は弱いものだと思っていたので……」
「………………えっ?」
目一杯驚かれたので、私はその視線を受け止めるのが辛くて目を伏せた。
もしかして、私のステータス、高すぎ!?
これについては、「先生が一番足遅いんだから馬に乗せてもらいなよ」という雄汰くんの鋭くも涙が止まらなくなるような一言があり……。
確かに子供たちは足が速い。私とのステータスの差があるから。
前後を騎士に挟まれて子供たちは歩いて移動することになった。
最初は馬も並足で歩いていたんだけど、後ろの子供たちが「遅ーい」と煽るのでだく足だ。
人生二度目の乗馬体験だけどサラブレッドとは違って体高が低いせいか、いくらか安心感があるけど。
「ミカコさんは馬に慣れていないそうですね。気分が悪くなったりしたら我慢しないですぐに教えて下さい」
頭の真後ろから響いてくるイケボがなければ尚よかった!!
子供たちが疲れすぎないように時折様子を見つつ、私は智輝くんが熱を出したために医師を求めて集落を探し、森にほど近い村を見つけたことを話した。
そして、そこで子供たちと私が村人によって捕まえられそうになったことと、彼らは私たちを売るつもりだったと言うことも。
「一部の村人は、他の人の行いを謝ってくれました。……でも、やはり子供たちにとっては衝撃的なことで、自分の力によって人を傷つけてしまった子は、それが自分の傷になってしまったんです」
あの時の楓ちゃんの、嗚咽する度に激しく震えた背中を思い出す。彼女はあのまま心を閉ざしてしまってもおかしくないほどのショックを受けていた。
大人の私に比べても極端に高い子供たちのステータス。私たちに与えられた力はこの世界を生き抜くために必要だけど、子供の自覚している「自分の力」とはあまりに乖離している。それが、本当に危うい。
力は本当に使い方次第なんだなと、私は馬上でため息をついた。
「つまり、村人の行いによって、同じこの世界の人間である我々を良くは思わない子供たちも中にはいると、そういう事でもありますね?」
レイモンドさんが切り込んできた。言い難いことをバッサリと言うな、この人は。その分こちらも答えやすくて話が早くていいんだけど。
「……はい。言いづらい話ではありましたが、つまりそういうことです。この世界の大人だからというだけの理由で、皆さんを信じられない子もまだいます」
「ミカコさんにとっては、我々は信じるに足る者でしょうか?」
頭の後ろから、少し戸惑った声。私は善人ぶらずに、本当のことを話そうと決めた。私を舐められるのが現時点では一番まずいから。
「8割信じています。自分を一軍の指揮官として考えたら、相手に全幅の信頼を置いてしまうのは危険すぎると思うので」
クリスさんは無言で私の言葉を聞いていた。騎士としては、「全幅の信頼」を置かれたいだろう。でも子供たちが彼らを信じ切れない以上、私までが全て信じるわけにはいかない。
「騎士の誇りという言葉と、あの時のあなた方の表情は私たちの信頼を得るには充分でしたが、『騎士の誇り』が私が知る元の世界での『騎士の誇り』と同じであるなら、という条件が付いてしまっていますから。あとは、立場的に私たちがあなた方を助けたというのが、あの村人たちと違うところ。つまり」
一度言葉を切る私を、レイモンドさんが興味深そうに見ている。
「あなた方は私たちに大いなる借りがあり、騎士の価値観ではそれを放置するのを良しとはしないだろうから、それが崩れない限りは味方だと信頼できる。むしろ、その程度でしかない。――現時点ではそういうことです」
「なかなか、手厳しいですね……。我々は恩義を感じ、全て善意によって動いているつもりですが」
クリスさんの声は心なし元気がなかった。まあ、仕方ないよね。私なんかぱっと見甘く見えるんだろうし、あの村に行くまでは実際甘かった。
「団長はそういうところが甘いんですよ。都市に入った途端に石を投げつけられたら、その後の行動は慎重に取らざるを得なくなる。それと同じです。それに、まだ続きがあるのでしょう?」
「ちょっとレイモンドさんのことを心の友って呼びたくなってきましたよ。わかってますね」
「騎士団の砦に着いたら酒でも飲み交わしますか」
「いいですね! あ、でも、もしかすると存在していたお酒の関係上、この世界の人から見たら、私は凄くお酒が強いかもしれません……」
エールなんかはまず間違いなくあるだろうけど、あれってあんまりアルコール度数が高くないんだよね。
土曜の晩に溜まった録画を片付けつつ、芋焼酎のお湯割りを飲みながらスルメ囓ってる私を見てうちの親はよく嘆いていたもんだし。
多分私、この世界の人と比べたらお酒は強いはずだ。蒸留酒が既に存在してるかどうかで分かれるかもしれないけど。
「ミカコさんは、全ての点で私の常識を越えてきますね」
「そのうち慣れて下さい。私の世界ではこれくらいは普通です。――それと、『現時点では』と敢えて言ったのは、個々人の信頼関係が全体に大きく影響を与えてくるからです。例えばジェフリーさん。彼は息子さんをお持ちなんですよね?
昨日も子供たちとたくさん遊んでいただきましたし、子供たちもあっという間に懐いています。その、失礼ながらトイレからお尻を出して転げ出てしまったことについても、非情に人間味があって隙のある行動でしたので、大人に警戒心を持っていた子もその気持ちが少し緩んだようです」
「ジェフリー……」
レイモンドさんは思いきりため息をついたけども、クリスさんは私の言葉に頷いた。
「わかりました。確かにお互いに遠巻きに見ているだけでは信頼は生まれない。各自できる範囲で子供たちと交流を深めるように言いましょう」
「お願いします。それと、そろそろ休憩を――のついでに、魔物退治です」
私はひらりと馬から降りた。降りられた! ちょっと自分カッコいい!!
「行進止まれー! みんなは騎士さんたちの前に出て!」
私は前方に目を凝らした。ただの土埃から、だんだんとはっきりしてくるモンスターの姿。あれは、オーガが2体と他に小さいモンスターが数体! ちょっと前だったら確実に苦戦する相手だけど、多分今なら楽勝のはずだ。
「鶴翼の陣に、ひらけ!」
この数なら、火力を集中した方がいい。私はそう判断して子供たちをV字に展開させた。
こちらの攻撃は確実に届き、向こうの攻撃は絶対に届かない。そんな距離を見極めて――。
「ファイエル!」
予想通り一撃で二体のオーガは壊滅した。ほっとしたところで振り向いた私は、うっすら光る水たまりが思ってもみない場所にあることに気付いてしまった。
このスライムは、一体どこからきた!?
「クリスさん、危ない!」
スライムにやられたら鎧が溶ける!!
スライムが伸びるのを見た瞬間、咄嗟に私はクリスさんに体当たりするように飛びついていた。
そして、そのまま――。
「えっ?」
「……えっ??」
わ、私、クリスさんをお姫様抱っこしてるー!!
「………………」
「………………」
お互いの沈黙が痛い。私がクリスさんの足を抱えていた方の手を離すと、彼はすっと立ち上がった。その間にスライムは太一くんによって片付けられていた。
やばい、「君は羽のように軽いね」とかまさにそんな感じだった。180センチで武装した騎士を軽いと思える私の筋力どうなってるの!?
「……驚きました。ミカコさんはとても力があるのですね」
「……私も驚きました。子供たちは私の数倍強いので、てっきり私は弱いものだと思っていたので……」
「………………えっ?」
目一杯驚かれたので、私はその視線を受け止めるのが辛くて目を伏せた。
もしかして、私のステータス、高すぎ!?
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