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ハロンズ編
101 少年は大志を抱く
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「アニタさん、こんにちは!」
「おや、ジョーじゃないか。今日はどうしたんだい?」
前回と同じように、今日もアニタさんは書類の山を作って仕事をしていた。……めちゃくちゃ大変そうだなあ。仕事を増やすことになるけどいいのかなあ……。
「今日はレナとアニタさんに相談があってきました。今俺たちは新しいテントを作ってるんですけど、水を弾いて頑丈な布を使いたいんです。その素材に、レナの出す蜘蛛の糸で布を織ってもらえないかというお願いなんですが」
「あ、あたし?」
思ってもみないことだったんだろう。レナが自分を指して驚いている。
アニタさんの方はちょっとびっくりした顔をしたけど、目を輝かせていた。
「ほう? 確かにレナの出す糸は頑丈だね、子供たちがたくさん乗ってもびくともしないんだから」
「蜘蛛の糸って丈夫なんですよ。火に弱いですが……。試しに布を織ってもらえないでしょうか。テントに使えるかどうかはその布を見て判断すると言うことで。もちろんお礼はします」
「レナの出す糸を巻き取って、それで機を織れというんだね。よしわかった、やってみよう。村一番の機織り名人に任せればいいさ」
「それと、スティレア織りなんですが、ハロンズの暑さの中であれで作ったシーツと寝間着が凄く快適だったんです。スティレアを栽培して織物を増産することはできますか? 来年ハロンズやネージュから注文が増えると思います」
これに関しては、ソニアが仕立屋に行った時に話をしたら好感触だったと言っていたので、かなり実現性の高い話だと思う。
「スティレア織りまで! やれやれ、ここ数ヶ月で一気に物事が動いた気がするよ。スティレアは種を蒔けば生える強い植物だから、畑を作って蒔けばいくらでも増やせると思うよ。畑は広げないといけないだろうけど」
「スティレア織りは凄いよ! 丈夫だし、サラサラだし、汗も吸うし。本当にあれのおかげで寝苦しさが和らいで助かったんだよー。きっとハロンズで流行るよ!」
スティレア織りのシーツができるまでパンツ一丁で寝ていたコリンが断言する。結局うちでは全員があのシーツを使っていて、ベッド数×3くらいのシーツが作られた。
力強くスティレア織りを褒めるコリンに、アニタさんが目尻を下げる。
「そんないいものがあったのかい? うちにも欲しいな。僕はどこで生まれたかはわからないけどハロンズ育ちだから、夏のあの暑さは慣れているけど毎年夏が来ると気が重くなるんだ。ルイくんも暑すぎると不機嫌になるしね」
教授の言葉に、アニタさんが布を一巻き持って来てくれた。それを触って教授はしきりに頷いている。
「なるほどなるほど。糸の太さのせいで凹凸があるんだね。肌に触れる面積が少ないからその分涼しく感じるんだろう。これはいいと思うよ。僕が出資するから、もっと大規模に工房を作ってみては?」
「ええっ、出資!? あんた何者だい?」
教授が突然言い出したことでアニタさんが凄く驚いている。そういえば教授の紹介がまだだった。
「僕はリンゼイ・レッドモンドという。一応男爵だよ。ジョーくんたちとは縁あって交流させてもらっている。元々食べるのに困らない程度の収入はあったのだし、この前のヒュドラ狩りでまとまったお金が入ったからね。そのお金を運用することを考えていたわけさ」
「それだ!」
以前から漠然と俺の中でモヤモヤしていたことが教授の言葉で明確な形を持ってすっきりして、俺は思わず手を打った。
サーシャは「冒険者は危険な職業だから貯金する」って前に言ってたけど、俺たちはかなりの金を稼いでいる。ただ持っているだけでは意味がないから、このお金をなんとか回さないとと思っていたんだけど。
でもいらないものを買い込んだりするのは違うなと思っていて、使う方法を考えながらオールマン食堂に支援したりしつつ貯め込んでいた。
起業をすればいいんだ。ただお金を貸したりするだけじゃなくて、俺のお金を使って人を雇って仕事をしてもらって、お金が循環するように。
レベッカさんが蜜蜂亭でやっていることを、今の俺ならもっと大規模にできる。
教授がスティレア織りを支援するなら、俺はテントの方をやればいい。
そして出た利益が俺のところに戻ってくれば、お金が回る。俺が不要なくらいお金がある時には神殿に寄付する。神殿はそれぞれ別方面の福祉を担当しているらしいので、そうすれば福祉も充実する。万々歳じゃないか。
「やっぱり教授は天才ですね!」
「随分と嬉しそうだね? 僕は前々からまとまった金があったら運用することを考えていたのだけど、その機会がなくてね。325万マギルは非常に大きかったよ」
「……325万マギル……男爵様は随分とお金を持ってるんだねえ」
「いやいや、僕よりジョーくんの方が多分お金なら持っているよ。前に古代竜を狩ったとも聞いているし」
「古代竜を狩ったのはサーシャとソニアですよ。俺は収納して運んだだけです。でも、丸ごと買い取ってもらえたので高値がついたのは確かです。空間魔法様々ですね」
「ええっと、それじゃあ、お兄ちゃんたちが村の畑を大きくしてくれたり、新しいお仕事を持って来てくれたりするの?」
目を輝かせてレナが尋ねてくる。ああ、そうだ、レナのこともあるんだよな。普通の人はアラクネを見たら怖がるだろうから、人を雇うにしても事前に説明しないといけない。
「俺や教授が直接畑を大きくするんじゃないよ。俺たちはお金を出して人を雇って、畑を大きくしてもらうんだ」
「へー、へー、なんか凄いね」
「その時はレナが怖がられたりしないようにちゃんと話をするから、安心していいよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
アニタさんは村で一番の機織り名人だというポーラさんを紹介してくれた。
蜘蛛の糸の織物については、ポーラさんと打ち合わせをして欲しいという。アニタさんは教授とスティレア織りの工房について相談をするらしい。
俺とコリンはレナの案内でポーラさんの家に向かった。今はちょうどお昼時のせいか、ポーラさんもその家族も家に戻ってきていた。
レナの出す糸を使って布を織って欲しいとお願いすると、ポーラさんはふたつ返事で了承してくれた。俺とサーシャにこの村が救われたから、そのお礼なのだという。
情けは人のためならずってこういうことなんだなあ……。
コリンと一緒にテントの説明をポーラさんにして、必要な布の量を計算した。その量だったら織るだけだったら1週間も掛からないという。凄いな。
ポーラさんとレナは、昼食を終えたら糸巻きに糸を取ることから作業を始めるそうだ。ポーラさんにお昼を食べて行きなさいと言われてレナも嬉しそうにしている。
「蜘蛛の糸とは考えたねえ! 茎を割いたりしなくていい分、スティレア織りより楽よ」
そんなことを言ってポーラさんは笑う。レナの出す糸は太さも一定で、綺麗な布が織れそうだ。
ポーラさんとレナには1週間後にまた来ますと言って、俺たちはアニタさんの家に戻った。
スティレア織りは、原価があまり掛からないけど手間は案外掛かるらしい。山から取ってくる以外にも栽培も簡単にできるけど、収穫してから糸にするまでが結構工程が必要。
今は人手の問題もあるしスティレアは野生のものを使っているので、1年で作れる数に限りがあるそうだ。でもそれは畑を広げて、織り手を増やすことで解決できる。
俺たちがポーラさんのところから戻ってくる間に、教授とアニタさんはハロンズやオーサカで人を集めてこの村自体を拡張し、畑を作る計画を立てていた。
集めた人員のここまでの輸送にはもちろん俺の移動魔法が組み込まれていて、教授のちゃっかりっぷりにはちょっと笑った。
この村が大きくなれば、北街道からここへ続く道ももっと整備されて大きくなるだろう。行商人も今よりもっと来るようになるはず。
そう思ってたら、工房は街道町に建てるらしくて、この村では原料の生産が主な役割として設定されていた。
理由は、街道町に作った方が働き手が集まりやすいということ。糸を運ぶだけなら荷馬車を使ってもそれほど大変ではないから、設備さえできてしまえば後は俺の移動魔法に頼らなくてもいいようになっているらしい。
実は空間魔法の講習会で出会ったアリスには古代竜を2頭持たせたままにしてあって、「売ったりしないでずっと持っていて」と頼んである。アリスは15才になったら大陸一周をするんだと息巻いていたから、そのうち移動魔法を習得するだろう。そして、きっとその弟子も。
移動魔法があればいろんな事が簡単に済むようになるけども、空間魔法使いの数が元々少ない。だから、教授が空間魔法に頼らない方法を選択したのは正解だと思った。塩や砂糖ではなくて織物を運ぶのならば、少しは商人も楽なはず。
教授を村に置いたまま、俺とコリンはハロンズの鍛冶ギルドに向かった。ミスリルでテントのポールを作りたいという話を持ち出したらみんな「えええー」って顔をしてたけども、「布にはアラクネの糸で織ったものを使います」って言ったら更に頭おかしい人を見る目を向けられてしまった……。
「だが、ミスリルを使えば錆びないし強度も問題ないものが作れるという考え方は悪くねえと思うぜ。ファーブ鉱山も側に精錬所ができてミスリルの供給も少しは増えるだろうから、そのアイディア自体は面白い。乗ってやろうじゃないか」
ニヤリと笑って俺たちに賛同してくれたのは、鍛冶ギルドの副ギルド長をしているというグレッグさんだった。彼の弟子は「えええー」って驚いてたけど、「ミスリルを使って武器防具以外のものを作れる機会なんて滅多にないぞ」と説明されてなるほど! ってなってた。
強度を下げない方法をいろいろ考えて、まとまったのはやっぱりパイプ型。いくつかのパーツをねじ込み式で繋ぐということに。
鋳型を作ったりするのに時間が掛かるというのでそれはお任せして、設計図を説明するためにコリンをそこに置いていくことになった。
今度は村に戻って教授を回収してハロンズへと戻ってくる。教授の方はアニタさんと話がまとまって、明日商業ギルドへ行って登録し、ついでに日雇いの求人の手続きもするつもりだという。おれも一緒に連れて行ってもらって、商業ギルドに登録をしておくことになった。
店舗を持ったりするつもりは今のところないけども、冒険者とてではなくて事業を興したり物流を扱ったりするには、やはり商業ギルドに登録しておいた方がいい。いろいろアドバイスももらえるだろうし。
こうして、夢のテント実現への道程は大きく前進した。
「おや、ジョーじゃないか。今日はどうしたんだい?」
前回と同じように、今日もアニタさんは書類の山を作って仕事をしていた。……めちゃくちゃ大変そうだなあ。仕事を増やすことになるけどいいのかなあ……。
「今日はレナとアニタさんに相談があってきました。今俺たちは新しいテントを作ってるんですけど、水を弾いて頑丈な布を使いたいんです。その素材に、レナの出す蜘蛛の糸で布を織ってもらえないかというお願いなんですが」
「あ、あたし?」
思ってもみないことだったんだろう。レナが自分を指して驚いている。
アニタさんの方はちょっとびっくりした顔をしたけど、目を輝かせていた。
「ほう? 確かにレナの出す糸は頑丈だね、子供たちがたくさん乗ってもびくともしないんだから」
「蜘蛛の糸って丈夫なんですよ。火に弱いですが……。試しに布を織ってもらえないでしょうか。テントに使えるかどうかはその布を見て判断すると言うことで。もちろんお礼はします」
「レナの出す糸を巻き取って、それで機を織れというんだね。よしわかった、やってみよう。村一番の機織り名人に任せればいいさ」
「それと、スティレア織りなんですが、ハロンズの暑さの中であれで作ったシーツと寝間着が凄く快適だったんです。スティレアを栽培して織物を増産することはできますか? 来年ハロンズやネージュから注文が増えると思います」
これに関しては、ソニアが仕立屋に行った時に話をしたら好感触だったと言っていたので、かなり実現性の高い話だと思う。
「スティレア織りまで! やれやれ、ここ数ヶ月で一気に物事が動いた気がするよ。スティレアは種を蒔けば生える強い植物だから、畑を作って蒔けばいくらでも増やせると思うよ。畑は広げないといけないだろうけど」
「スティレア織りは凄いよ! 丈夫だし、サラサラだし、汗も吸うし。本当にあれのおかげで寝苦しさが和らいで助かったんだよー。きっとハロンズで流行るよ!」
スティレア織りのシーツができるまでパンツ一丁で寝ていたコリンが断言する。結局うちでは全員があのシーツを使っていて、ベッド数×3くらいのシーツが作られた。
力強くスティレア織りを褒めるコリンに、アニタさんが目尻を下げる。
「そんないいものがあったのかい? うちにも欲しいな。僕はどこで生まれたかはわからないけどハロンズ育ちだから、夏のあの暑さは慣れているけど毎年夏が来ると気が重くなるんだ。ルイくんも暑すぎると不機嫌になるしね」
教授の言葉に、アニタさんが布を一巻き持って来てくれた。それを触って教授はしきりに頷いている。
「なるほどなるほど。糸の太さのせいで凹凸があるんだね。肌に触れる面積が少ないからその分涼しく感じるんだろう。これはいいと思うよ。僕が出資するから、もっと大規模に工房を作ってみては?」
「ええっ、出資!? あんた何者だい?」
教授が突然言い出したことでアニタさんが凄く驚いている。そういえば教授の紹介がまだだった。
「僕はリンゼイ・レッドモンドという。一応男爵だよ。ジョーくんたちとは縁あって交流させてもらっている。元々食べるのに困らない程度の収入はあったのだし、この前のヒュドラ狩りでまとまったお金が入ったからね。そのお金を運用することを考えていたわけさ」
「それだ!」
以前から漠然と俺の中でモヤモヤしていたことが教授の言葉で明確な形を持ってすっきりして、俺は思わず手を打った。
サーシャは「冒険者は危険な職業だから貯金する」って前に言ってたけど、俺たちはかなりの金を稼いでいる。ただ持っているだけでは意味がないから、このお金をなんとか回さないとと思っていたんだけど。
でもいらないものを買い込んだりするのは違うなと思っていて、使う方法を考えながらオールマン食堂に支援したりしつつ貯め込んでいた。
起業をすればいいんだ。ただお金を貸したりするだけじゃなくて、俺のお金を使って人を雇って仕事をしてもらって、お金が循環するように。
レベッカさんが蜜蜂亭でやっていることを、今の俺ならもっと大規模にできる。
教授がスティレア織りを支援するなら、俺はテントの方をやればいい。
そして出た利益が俺のところに戻ってくれば、お金が回る。俺が不要なくらいお金がある時には神殿に寄付する。神殿はそれぞれ別方面の福祉を担当しているらしいので、そうすれば福祉も充実する。万々歳じゃないか。
「やっぱり教授は天才ですね!」
「随分と嬉しそうだね? 僕は前々からまとまった金があったら運用することを考えていたのだけど、その機会がなくてね。325万マギルは非常に大きかったよ」
「……325万マギル……男爵様は随分とお金を持ってるんだねえ」
「いやいや、僕よりジョーくんの方が多分お金なら持っているよ。前に古代竜を狩ったとも聞いているし」
「古代竜を狩ったのはサーシャとソニアですよ。俺は収納して運んだだけです。でも、丸ごと買い取ってもらえたので高値がついたのは確かです。空間魔法様々ですね」
「ええっと、それじゃあ、お兄ちゃんたちが村の畑を大きくしてくれたり、新しいお仕事を持って来てくれたりするの?」
目を輝かせてレナが尋ねてくる。ああ、そうだ、レナのこともあるんだよな。普通の人はアラクネを見たら怖がるだろうから、人を雇うにしても事前に説明しないといけない。
「俺や教授が直接畑を大きくするんじゃないよ。俺たちはお金を出して人を雇って、畑を大きくしてもらうんだ」
「へー、へー、なんか凄いね」
「その時はレナが怖がられたりしないようにちゃんと話をするから、安心していいよ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
アニタさんは村で一番の機織り名人だというポーラさんを紹介してくれた。
蜘蛛の糸の織物については、ポーラさんと打ち合わせをして欲しいという。アニタさんは教授とスティレア織りの工房について相談をするらしい。
俺とコリンはレナの案内でポーラさんの家に向かった。今はちょうどお昼時のせいか、ポーラさんもその家族も家に戻ってきていた。
レナの出す糸を使って布を織って欲しいとお願いすると、ポーラさんはふたつ返事で了承してくれた。俺とサーシャにこの村が救われたから、そのお礼なのだという。
情けは人のためならずってこういうことなんだなあ……。
コリンと一緒にテントの説明をポーラさんにして、必要な布の量を計算した。その量だったら織るだけだったら1週間も掛からないという。凄いな。
ポーラさんとレナは、昼食を終えたら糸巻きに糸を取ることから作業を始めるそうだ。ポーラさんにお昼を食べて行きなさいと言われてレナも嬉しそうにしている。
「蜘蛛の糸とは考えたねえ! 茎を割いたりしなくていい分、スティレア織りより楽よ」
そんなことを言ってポーラさんは笑う。レナの出す糸は太さも一定で、綺麗な布が織れそうだ。
ポーラさんとレナには1週間後にまた来ますと言って、俺たちはアニタさんの家に戻った。
スティレア織りは、原価があまり掛からないけど手間は案外掛かるらしい。山から取ってくる以外にも栽培も簡単にできるけど、収穫してから糸にするまでが結構工程が必要。
今は人手の問題もあるしスティレアは野生のものを使っているので、1年で作れる数に限りがあるそうだ。でもそれは畑を広げて、織り手を増やすことで解決できる。
俺たちがポーラさんのところから戻ってくる間に、教授とアニタさんはハロンズやオーサカで人を集めてこの村自体を拡張し、畑を作る計画を立てていた。
集めた人員のここまでの輸送にはもちろん俺の移動魔法が組み込まれていて、教授のちゃっかりっぷりにはちょっと笑った。
この村が大きくなれば、北街道からここへ続く道ももっと整備されて大きくなるだろう。行商人も今よりもっと来るようになるはず。
そう思ってたら、工房は街道町に建てるらしくて、この村では原料の生産が主な役割として設定されていた。
理由は、街道町に作った方が働き手が集まりやすいということ。糸を運ぶだけなら荷馬車を使ってもそれほど大変ではないから、設備さえできてしまえば後は俺の移動魔法に頼らなくてもいいようになっているらしい。
実は空間魔法の講習会で出会ったアリスには古代竜を2頭持たせたままにしてあって、「売ったりしないでずっと持っていて」と頼んである。アリスは15才になったら大陸一周をするんだと息巻いていたから、そのうち移動魔法を習得するだろう。そして、きっとその弟子も。
移動魔法があればいろんな事が簡単に済むようになるけども、空間魔法使いの数が元々少ない。だから、教授が空間魔法に頼らない方法を選択したのは正解だと思った。塩や砂糖ではなくて織物を運ぶのならば、少しは商人も楽なはず。
教授を村に置いたまま、俺とコリンはハロンズの鍛冶ギルドに向かった。ミスリルでテントのポールを作りたいという話を持ち出したらみんな「えええー」って顔をしてたけども、「布にはアラクネの糸で織ったものを使います」って言ったら更に頭おかしい人を見る目を向けられてしまった……。
「だが、ミスリルを使えば錆びないし強度も問題ないものが作れるという考え方は悪くねえと思うぜ。ファーブ鉱山も側に精錬所ができてミスリルの供給も少しは増えるだろうから、そのアイディア自体は面白い。乗ってやろうじゃないか」
ニヤリと笑って俺たちに賛同してくれたのは、鍛冶ギルドの副ギルド長をしているというグレッグさんだった。彼の弟子は「えええー」って驚いてたけど、「ミスリルを使って武器防具以外のものを作れる機会なんて滅多にないぞ」と説明されてなるほど! ってなってた。
強度を下げない方法をいろいろ考えて、まとまったのはやっぱりパイプ型。いくつかのパーツをねじ込み式で繋ぐということに。
鋳型を作ったりするのに時間が掛かるというのでそれはお任せして、設計図を説明するためにコリンをそこに置いていくことになった。
今度は村に戻って教授を回収してハロンズへと戻ってくる。教授の方はアニタさんと話がまとまって、明日商業ギルドへ行って登録し、ついでに日雇いの求人の手続きもするつもりだという。おれも一緒に連れて行ってもらって、商業ギルドに登録をしておくことになった。
店舗を持ったりするつもりは今のところないけども、冒険者とてではなくて事業を興したり物流を扱ったりするには、やはり商業ギルドに登録しておいた方がいい。いろいろアドバイスももらえるだろうし。
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