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ハロンズ編
97 大苦戦と大逆転
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自分に向かってくるサーシャに気付いたのか、ヒュドラが9本の首を振りながらシャー! と威嚇をした。
ヒュドラよりも高く跳躍したサーシャは、空中でくるりと回転するとその勢いを生かして頭のひとつを叩き潰した。何かが飛び散るのが俺のいる場所からでも見えた。
……鈍器なのに流血させたなんてさすがすぎる。6倍掛け恐ろしいな。ヒュドラが古代竜よりも弱いのも関係するかもしれないけど。
サーシャはヒュドラの背中に着地すると、すぐに船に飛んで戻った。ギャオオオオン! と8つの首が叫ぶのが聞こえ、ヒュドラの怒りがサーシャに向いたのがはっきりわかる。
ヒュドラが自分を追ってきていることを確認しつつ、サーシャが次の船に飛び移る。俺は急いでヒュドラに近い船を収納してもう一度手前に出し、サーシャの退路を確保する。
「嘘っ、もう再生してるの!?」
「おおおっ! 凄い! 本当に凄い再生能力だね! 回復薬の素材に使われるというのも頷けるよ! 物凄く研究したい!! 生け捕りは不可能だろうけども!」
ソニアの魔法が届く位置に来る前に、ヒュドラの頭が再生を始める。レヴィさんが「ちっ」と舌打ちしたのが聞こえた。ヒュドラには再生能力があるとは聞いたけど、想定以上だった。
何度も後ろを振り返りながら、サーシャはヒュドラを小島に引き寄せていく。ヒュドラの再生の速さからいくと、ソニアとふたりで頭を潰していかないと全部潰しきる前にまたどれかが再生しきってしまう。
「《旋風斬》!」
杖を振り抜いてソニアが《旋風斬》を放つ。だが風の刃は首を傷つけただけで切断までには至らなかった。
「サーシャ! もう少し引き寄せて!」
「わかりました!」
ついでとばかりに、切断されかかっていた首をサーシャがメイスでへし折る。首を激しく振り乱すヒュドラは完全に怒り狂っているようだ。
その時、一番端の首がサーシャに向かって紫色のブレスを吐いた。咄嗟にサーシャは盾でそれを防いだけれども、何本もの首が角度を変えて同時にブレスを放ってくる。
「あれは!?」
「毒だ! ヒュドラは毒のブレスを吐くんだ!」
「サーナ・メンテュア・エトゥ・モービス・インイルニアム・エピシフィクス・ディアム・ロン・ネリ・テットゥーコ!」
毒を吸い込んだサーシャが船の上でしゃがみ込む。そこへ教授が素早く回復魔法を掛けた。
「サーシャ! もっとこっちへ! もう1回家を落とす!」
「は、はいっ! ごほっ……」
教授が素早く唱えてくれた回復魔法のおかげで毒は抜けたのだろうが、サーシャは少し苦しそうだった。その姿に胸がぎゅっと痛む。できることなら俺が代わってやりたい。けど、俺だともしかすると即死とかするかもしれない。そうしたら余計にサーシャが悲しむ……。
ほとんど役に立たないことが悔しくて、俺は爪が食い込むくらい自分の手を握り込んだ。
サーシャがヒュドラから距離を取るように移動すると、俺は残り2軒の古屋のうちひとつをヒュドラの上に落とした。少し高いところから落としたから、石造りの家はヒュドラに激突してバラバラと崩壊する。
「いいぞ、ジョー! 一度に複数の首を潰せてる」
「でも、家はあと1軒だけです。倒しきれない」
「その最後の家は、私の魔法が届くところまでヒュドラが近づいてから落として。畳みかけるわ」
ソニアがいつになく険しい顔で杖を構えたままヒュドラを睨み付ける。今まで感じたことのない殺気をソニアから感じた。――もしかしたらレヴィさんとふたりだったワイバーン討伐が、ソニアを一段成長させるほど厳しかったのかもしれない。
ヒュドラが徐々に小島に近づいてきた。こちらからでもその顔の表情がはっきりと見えるくらい。もう少し近づかれたらブレスが届いてしまうかもしれない。
「ソニア、いけるか!?」
「今度こそいけるわ、《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》!!」
剣のように杖を振りながら、ソニアが《旋風斬》を連発する。しかし、長くて動きの激しいヒュドラの首には全てが当たったわけではなかった。完全に外してしまったのがひとつ。切断に至らない傷を付けたのがふたつ。そして首を切り落としたのがふたつ。
それに合わせてサーシャがヒュドラの頭をひとつ叩き潰す。これで潰した頭はみっつ!
船の上で体勢を立て直してサーシャが4つめの頭を叩き潰した時には、既に先に潰した頭の再生が始まっていた。ソニアの《旋風斬》もまた飛ぶけども、なかなか必中というわけにはいかない。
「サーシャ、下がって! 古屋を落とす!」
「わかりました!」
ふたつの船の分、サーシャがこちらに後退してきた。サーシャより遥かに動きが遅いヒュドラの周りに何も無くなったタイミングを狙って、俺はヒュドラめがけて最後の古屋を落とす。
「ソニア! 潰れなかった首は頼んだ!」
「任せて! 向かって左側から行くわ、サーシャは右側からお願い!」
「はいっ!」
一際高いヒュドラの悲鳴が響き渡る。石造りの家が壊れて細かい白い粉が舞い上がり、視界が僅かに煙った。
――それが、俺たちの決定的な隙になった。
だらりと垂れ下がったいくつもの首。それがぼんやりと見えている。
今が確実にチャンスだというのに、どれが倒すべき頭なのかはっきりしない!
「ソニア、首の付け根を狙え。その方が避けられない」
「そうね! 《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》!」
それが当たっていれば、形勢はこちらの圧倒的有利になっただろう。
しかし、ヒュドラはソニアの魔法が届く前に水中にその巨体を沈めてしまったのだった……。
「くそっ! 逃げやがった!」
ルイが悔しげに叫ぶ。俺も叫びたい気分だった。
水中に逃げられてしまうとこちらからは手出しできない。ソニアの風魔法は完全に届かず、サーシャが潜るわけにもいかない。――敢えて言うなら教授の魔法なら何か効果があるものがあるかもしれないけど、ダメージを通すのは厳しいだろう。
俺たちが為す術もなく波の立った湖面を見つめていると、しばらくして全ての頭を完全に復活させたヒュドラが浮かび上がってきた。こちらに対しての敵意をはっきりと感じる。
ヒュドラは湖が完全に自らのホームグラウンドであることを理解した上で、敵対してきた人間と戦おうとしているのだ。
「これは……チャンス、……とは言い難いわね」
「また途中で逃げられるのが目に見えてんぞ?」
「でも、やるしかありません! ヒュドラの背中に飛び乗ります!」
サーシャはそう叫ぶと、空中でひとつ頭を叩き潰してヒュドラの背中に降り立った。そこでメイスを振るって次々に頭を潰していく。
「ソニア、サーシャが潰した頭を狙って首を切り落とせ! 再生させるな!」
「わかったわ!」
ソニアの《旋風斬》が飛んで首を切り落としていく。その間もサーシャは攻撃を盾で往なしながらメイスを振るっていた。
紫色のブレスが吐かれる。サーシャが盾をかざしてそれを防ごうとした時――サーシャの死角から、まだ生きている頭が大きくしなって彼女の背を激しく打った!
「きゃーっ!」
「サーシャ!!」
防御力はあってもサーシャの体は決定的に軽い。ヒュドラの攻撃を受けたサーシャの体が宙に舞う。俺は咄嗟に見えないファスナーを引いて、彼女の体が水面に叩きつけられる直前でサーシャを収納した。
ばくばくと自分の心臓がうるさく鳴るのを聞きながら、すぐに隣に彼女を出す。サーシャは物凄く驚いた様子で目を見開いていた。
「あ、れ? 私、ヒュドラの攻撃を受けて……」
「あのままだと湖に落ちると思ったから、サーシャを収納したんだよ」
「収納された感覚とか全くわかりませんでした。凄く、不思議な感じです。ともあれ、水上ではかなり不利ですね……こちらの足場は足りなくて、あちらは完全に有利です」
「いや、今ひらめいた。ヒュドラをしまっちゃおう!」
俺はまだ首を振り乱しているヒュドラを、急いで魔法収納空間へとしまう。
最初からこれに気付けばよかった!
「ヒュドラを収納!? マジか!?」
「その手があったか! 一度ジョーが収納して、水のないところへ行って戦えばいい!」
「そうですよ! 不利なところで戦う必要はありません。えーと……とにかくここではヒュドラを誘い出して、俺が目視でき次第収納します。それから辺りに被害が出ない場所で1頭ずつ出して片付けましょう」
うるさく主張していく心臓が落ち着きを取り戻すまで、俺は深呼吸を繰り返した。ソニアはほっとした顔で構えを解き、サーシャは深い息をついてぺたりと座り込んでいる。
「なるほど、面白い! 空間魔法は実に面白いね! よし、もう一度ルイくんが《水中探知》をして場所を確認したら、ありったけの魔力を注ぎ込んで僕がなんとかヒュドラを水面に出そう」
「はい、お願いします!」
「わかった。じゃあやるぞ。《水中探知》」
ルイが再び魔法を唱える。そしてしばらくしてから、今まで戦っていたのとは90度ずれた方向を指した。
「戦ってる間に近づいて来やがった。仲間のピンチとかわかんのか? こいつら。随分でかい塊だけど、岸までの距離が1だとしたら1/3位のところにいる。教授、ちゃんとやれよ!」
「気絶寸前まで魔力を注ぎ込むよ! 《水操作》!」
ルイが指定した場所にぐわっと大波が起きる。大波……? いや、違う。水を周囲にどかしてるんだ!
減った水のおかげで、ヒュドラの頭が露出した。何本か見えている頭をしっかりと目で捕らえて、俺はそれを収納する。
……って、あれ?
「レヴィさん」
「どうした?」
「今の、2頭でした」
「えっ」
「ああっ! なんかやたらでかいなと思ったら2頭だったのか!」
ルイが納得した! という顔をしている。
なんと、偶然だけど俺はまとめて2頭のヒュドラを収納して、俺は合計3頭を魔法収納空間に閉じ込めることに成功した。
ヒュドラよりも高く跳躍したサーシャは、空中でくるりと回転するとその勢いを生かして頭のひとつを叩き潰した。何かが飛び散るのが俺のいる場所からでも見えた。
……鈍器なのに流血させたなんてさすがすぎる。6倍掛け恐ろしいな。ヒュドラが古代竜よりも弱いのも関係するかもしれないけど。
サーシャはヒュドラの背中に着地すると、すぐに船に飛んで戻った。ギャオオオオン! と8つの首が叫ぶのが聞こえ、ヒュドラの怒りがサーシャに向いたのがはっきりわかる。
ヒュドラが自分を追ってきていることを確認しつつ、サーシャが次の船に飛び移る。俺は急いでヒュドラに近い船を収納してもう一度手前に出し、サーシャの退路を確保する。
「嘘っ、もう再生してるの!?」
「おおおっ! 凄い! 本当に凄い再生能力だね! 回復薬の素材に使われるというのも頷けるよ! 物凄く研究したい!! 生け捕りは不可能だろうけども!」
ソニアの魔法が届く位置に来る前に、ヒュドラの頭が再生を始める。レヴィさんが「ちっ」と舌打ちしたのが聞こえた。ヒュドラには再生能力があるとは聞いたけど、想定以上だった。
何度も後ろを振り返りながら、サーシャはヒュドラを小島に引き寄せていく。ヒュドラの再生の速さからいくと、ソニアとふたりで頭を潰していかないと全部潰しきる前にまたどれかが再生しきってしまう。
「《旋風斬》!」
杖を振り抜いてソニアが《旋風斬》を放つ。だが風の刃は首を傷つけただけで切断までには至らなかった。
「サーシャ! もう少し引き寄せて!」
「わかりました!」
ついでとばかりに、切断されかかっていた首をサーシャがメイスでへし折る。首を激しく振り乱すヒュドラは完全に怒り狂っているようだ。
その時、一番端の首がサーシャに向かって紫色のブレスを吐いた。咄嗟にサーシャは盾でそれを防いだけれども、何本もの首が角度を変えて同時にブレスを放ってくる。
「あれは!?」
「毒だ! ヒュドラは毒のブレスを吐くんだ!」
「サーナ・メンテュア・エトゥ・モービス・インイルニアム・エピシフィクス・ディアム・ロン・ネリ・テットゥーコ!」
毒を吸い込んだサーシャが船の上でしゃがみ込む。そこへ教授が素早く回復魔法を掛けた。
「サーシャ! もっとこっちへ! もう1回家を落とす!」
「は、はいっ! ごほっ……」
教授が素早く唱えてくれた回復魔法のおかげで毒は抜けたのだろうが、サーシャは少し苦しそうだった。その姿に胸がぎゅっと痛む。できることなら俺が代わってやりたい。けど、俺だともしかすると即死とかするかもしれない。そうしたら余計にサーシャが悲しむ……。
ほとんど役に立たないことが悔しくて、俺は爪が食い込むくらい自分の手を握り込んだ。
サーシャがヒュドラから距離を取るように移動すると、俺は残り2軒の古屋のうちひとつをヒュドラの上に落とした。少し高いところから落としたから、石造りの家はヒュドラに激突してバラバラと崩壊する。
「いいぞ、ジョー! 一度に複数の首を潰せてる」
「でも、家はあと1軒だけです。倒しきれない」
「その最後の家は、私の魔法が届くところまでヒュドラが近づいてから落として。畳みかけるわ」
ソニアがいつになく険しい顔で杖を構えたままヒュドラを睨み付ける。今まで感じたことのない殺気をソニアから感じた。――もしかしたらレヴィさんとふたりだったワイバーン討伐が、ソニアを一段成長させるほど厳しかったのかもしれない。
ヒュドラが徐々に小島に近づいてきた。こちらからでもその顔の表情がはっきりと見えるくらい。もう少し近づかれたらブレスが届いてしまうかもしれない。
「ソニア、いけるか!?」
「今度こそいけるわ、《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》!!」
剣のように杖を振りながら、ソニアが《旋風斬》を連発する。しかし、長くて動きの激しいヒュドラの首には全てが当たったわけではなかった。完全に外してしまったのがひとつ。切断に至らない傷を付けたのがふたつ。そして首を切り落としたのがふたつ。
それに合わせてサーシャがヒュドラの頭をひとつ叩き潰す。これで潰した頭はみっつ!
船の上で体勢を立て直してサーシャが4つめの頭を叩き潰した時には、既に先に潰した頭の再生が始まっていた。ソニアの《旋風斬》もまた飛ぶけども、なかなか必中というわけにはいかない。
「サーシャ、下がって! 古屋を落とす!」
「わかりました!」
ふたつの船の分、サーシャがこちらに後退してきた。サーシャより遥かに動きが遅いヒュドラの周りに何も無くなったタイミングを狙って、俺はヒュドラめがけて最後の古屋を落とす。
「ソニア! 潰れなかった首は頼んだ!」
「任せて! 向かって左側から行くわ、サーシャは右側からお願い!」
「はいっ!」
一際高いヒュドラの悲鳴が響き渡る。石造りの家が壊れて細かい白い粉が舞い上がり、視界が僅かに煙った。
――それが、俺たちの決定的な隙になった。
だらりと垂れ下がったいくつもの首。それがぼんやりと見えている。
今が確実にチャンスだというのに、どれが倒すべき頭なのかはっきりしない!
「ソニア、首の付け根を狙え。その方が避けられない」
「そうね! 《旋風斬》《旋風斬》《旋風斬》!」
それが当たっていれば、形勢はこちらの圧倒的有利になっただろう。
しかし、ヒュドラはソニアの魔法が届く前に水中にその巨体を沈めてしまったのだった……。
「くそっ! 逃げやがった!」
ルイが悔しげに叫ぶ。俺も叫びたい気分だった。
水中に逃げられてしまうとこちらからは手出しできない。ソニアの風魔法は完全に届かず、サーシャが潜るわけにもいかない。――敢えて言うなら教授の魔法なら何か効果があるものがあるかもしれないけど、ダメージを通すのは厳しいだろう。
俺たちが為す術もなく波の立った湖面を見つめていると、しばらくして全ての頭を完全に復活させたヒュドラが浮かび上がってきた。こちらに対しての敵意をはっきりと感じる。
ヒュドラは湖が完全に自らのホームグラウンドであることを理解した上で、敵対してきた人間と戦おうとしているのだ。
「これは……チャンス、……とは言い難いわね」
「また途中で逃げられるのが目に見えてんぞ?」
「でも、やるしかありません! ヒュドラの背中に飛び乗ります!」
サーシャはそう叫ぶと、空中でひとつ頭を叩き潰してヒュドラの背中に降り立った。そこでメイスを振るって次々に頭を潰していく。
「ソニア、サーシャが潰した頭を狙って首を切り落とせ! 再生させるな!」
「わかったわ!」
ソニアの《旋風斬》が飛んで首を切り落としていく。その間もサーシャは攻撃を盾で往なしながらメイスを振るっていた。
紫色のブレスが吐かれる。サーシャが盾をかざしてそれを防ごうとした時――サーシャの死角から、まだ生きている頭が大きくしなって彼女の背を激しく打った!
「きゃーっ!」
「サーシャ!!」
防御力はあってもサーシャの体は決定的に軽い。ヒュドラの攻撃を受けたサーシャの体が宙に舞う。俺は咄嗟に見えないファスナーを引いて、彼女の体が水面に叩きつけられる直前でサーシャを収納した。
ばくばくと自分の心臓がうるさく鳴るのを聞きながら、すぐに隣に彼女を出す。サーシャは物凄く驚いた様子で目を見開いていた。
「あ、れ? 私、ヒュドラの攻撃を受けて……」
「あのままだと湖に落ちると思ったから、サーシャを収納したんだよ」
「収納された感覚とか全くわかりませんでした。凄く、不思議な感じです。ともあれ、水上ではかなり不利ですね……こちらの足場は足りなくて、あちらは完全に有利です」
「いや、今ひらめいた。ヒュドラをしまっちゃおう!」
俺はまだ首を振り乱しているヒュドラを、急いで魔法収納空間へとしまう。
最初からこれに気付けばよかった!
「ヒュドラを収納!? マジか!?」
「その手があったか! 一度ジョーが収納して、水のないところへ行って戦えばいい!」
「そうですよ! 不利なところで戦う必要はありません。えーと……とにかくここではヒュドラを誘い出して、俺が目視でき次第収納します。それから辺りに被害が出ない場所で1頭ずつ出して片付けましょう」
うるさく主張していく心臓が落ち着きを取り戻すまで、俺は深呼吸を繰り返した。ソニアはほっとした顔で構えを解き、サーシャは深い息をついてぺたりと座り込んでいる。
「なるほど、面白い! 空間魔法は実に面白いね! よし、もう一度ルイくんが《水中探知》をして場所を確認したら、ありったけの魔力を注ぎ込んで僕がなんとかヒュドラを水面に出そう」
「はい、お願いします!」
「わかった。じゃあやるぞ。《水中探知》」
ルイが再び魔法を唱える。そしてしばらくしてから、今まで戦っていたのとは90度ずれた方向を指した。
「戦ってる間に近づいて来やがった。仲間のピンチとかわかんのか? こいつら。随分でかい塊だけど、岸までの距離が1だとしたら1/3位のところにいる。教授、ちゃんとやれよ!」
「気絶寸前まで魔力を注ぎ込むよ! 《水操作》!」
ルイが指定した場所にぐわっと大波が起きる。大波……? いや、違う。水を周囲にどかしてるんだ!
減った水のおかげで、ヒュドラの頭が露出した。何本か見えている頭をしっかりと目で捕らえて、俺はそれを収納する。
……って、あれ?
「レヴィさん」
「どうした?」
「今の、2頭でした」
「えっ」
「ああっ! なんかやたらでかいなと思ったら2頭だったのか!」
ルイが納得した! という顔をしている。
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