70 / 122
ハロンズ編
67 こうかはばつぐんだ!
しおりを挟む
ソニアの《斬裂竜巻》が消えるまで、幸いそれほどの時間も掛からなかったし、気絶しているロバートが巻き込まれることもなかった。
ソニアに聞いたら「だって、手数を増やすために手加減して打ったもの」とけろりと答えられた。
そうか、手加減すると《斬裂竜巻》は威力じゃなくて効果時間の方に出るんだ……。ありがたいような、ありがたくないような。
「第2戦、マシュー対ジョーを開始します!」
名前を呼ばれて、俺はミスリルの盾を構えて出て行った。一応右手に短剣は持っている。あくまで虚仮威しでしかないけど。
「よお、空間魔法使いの坊や。一応は得物を使えるようだな」
「はい、盾は師匠に仕込まれましたよ。物理戦闘には必要ですから」
やりとりの言葉もブラフ。
一応魔法職の俺が物理戦闘なんかするわけがない。そもそも相手は戦士だし。
戦斧を片手に、俺の盾よりも大きなラージシールドを構えたマシューは俺との距離を見定めている。
「ははっ、一丁前に武器など持っても空間魔法使いなど相手になるものか! そもそも詠唱が」
彼の言葉の途中で俺は片手に短剣を持ったままで見えないファスナーを引き、マシューの体を収納した。
間髪置かず、2メートルくらいの高さから取り出して落とす。重い鎧の立てるガシャン! という音が響いた。
「プギャッ!」
うん、意識はある。俺は容赦なくもう一度彼を収納し、今度は3メートルくらいの高さから落とした。
「ガフッ!」
うん、悲鳴がまだ元気だな。もう一度。
「う、うう……こう、さん、だ……」
3度目で、か細い唸り声だけを漏らしてマシューの手がパタリと落ちる。ちらっと見えた感じ、顔面から落ちてたせいで鼻血も出てたな。
それを見て黄金の駿馬のメンバーが俺に向かって叫ぶ。
「な、何をした!?」
「俺の空間魔法は無詠唱なので、魔法収納空間に彼をしまって、適当な高さから落としました」
「無詠唱空間魔法!? そんなものは聞いたことがないぞ!」
「そう言われても実際そうなんで……女神テトゥーコからの授かりものですし」
淡々と答える俺を見返すリーダーの顔は、僅かに恐怖の色が混じっていた。理解できないものに遭遇したって顔だ。
空間魔法使いが戦えないって誰が決めたんだ。
古屋落とされなかっただけいいと思ってくれ。
「第2戦、勝者ジョー! 早ければ次でこの決闘の勝敗が決まりますよ」
「くそっ! 順番交替だ、次は俺が出る!」
「許可しますか?」
準備していた3属性魔法使いを押しのけて、リーダーらしき剣士が前に出る。そして審判役のギルド職員はレヴィさんにその是非を確認していた。
「誰が出ようが問題ない。許可しよう」
サーシャに確認しないでレヴィさんは即答した。その行動が癪に障ったのか、相手がギリリと歯を噛みしめた音が聞こえたくらいだ。
レヴィさんも割りと淡々としてる方だから、こういう時相手が余計頭に血が上るんだなあ。……と俺は黄金の駿馬のリーダーの顔が赤くなっていくのを見ながら、他人事のように思っていた。
誰が出ようが問題ない。全くもってその通り。
だってサーシャだもんな……。1対1でサーシャに勝てる人間がいるとはちょっと思えない。
「それでは第3戦、ピーター対サーシャ、開始です!」
「ハッ!」
「グハッ!?」
開始宣言の瞬間、サーシャが目にも止まらぬ速さで駆け出し、ピーターをシールドラッシュで吹っ飛ばした。
うわあ、5倍掛けサーシャのシールドラッシュ、あんなに威力があるのか。相手は10メートルくらい吹っ飛んだぞ……。壁にぶつかっていなかったらもっと飛んだかもしれない。
そして、壁に寄りかかってふらふらしているピーターの顔の真横に、サーシャが拳を打ち込んだ。
めり込む拳、崩れる壁。赤かった顔が真っ白になるピーター……。
決闘を見物していた数人がざわついている。「なんだあいつら……化け物か」って言葉まで聞こえた。
いやいや、失礼な。俺たちは人間だよ。魔力量とか魔法の効果とかいろいろとバグってるけどな。
「降参しますか?」
その状況の中でピーターに尋ねるサーシャだけがいつもと同じく穏やかで。だからこそ――怖いだろうなあ、あれ。やられる側だったら。
「降参! 降参だ!」
「それではこの決闘、レヴィパーティーの勝利とします。条件は……」
「いや、だが俺たちはあとふたり残っている!! 完全に負けたわけじゃ」
「いい加減にしたまえ、見苦しい。古代竜の査定も彼らの昇格も私が行ったことだ。白く塗ったコカトリスだと? それは私が査定を誤ってコカトリスと古代竜を取り違えたということになる。戦力だけじゃなくて頭も鍛えるべきだな、お前たちは」
いつの間に来ていたのか、食い下がろうとするピーターにアンギルド長のよく通る声がとどめを刺す。
自分たちが俺たちを貶すつもりで言っていたつもりの言葉は、実はギルド長を貶す言葉でもあることにようやく気付いたのか、ピーターはやっと静かになった。
「今ここで誓いたまえ。私が立会人になろう。今後、黄金の駿馬のメンバーはハロンズ以外の出身者を決して馬鹿にしない、と。
……しかし、決闘で決めるようなことか? そんなことは当然であって、品位の問題だ。新参者とみればすぐに虚仮にするその性分、ハロンズ随一と呼ばれる冒険者パーティーとしてはふさわしくないぞ。すぐにレヴィたちに取って代わられるだろう」
「ぐっ……決してギルド長を貶めたわけでは」
「もういい、ピーター、頭を冷やせ。これ以上無様を晒すな」
戦っていない魔法使いが未だ壁により掛かったままだったピーターに肩を貸し、サーシャと俺たちに向かって二度頭を下げた。
「君たちを馬鹿にした言動をとってすまなかった。今後はこうした言動は慎もう。ほら、ピーター」
「……すまなかった。ハロンズ以外の出身者や新人を馬鹿にすることはもうしないと誓う」
気絶している人を除いて、黄金の駿馬のメンバーが口々に同じようなことを誓った。
「それでは、そろそろ場所をお借りしてもいいでしょうか。血まみれで気持ち悪いので1秒でも早く風呂に入りたいんですが」
そんな空気の中で俺が尋ねると、一瞬何かに面食らったような顔をしてからギルド長は声を上げて笑った。
「ジョー・ミマヤ、君は大物になるよ。場所は好きに使いたまえ」
「ありがとうございます……?」
俺が大物になる?
そんな柄じゃないんだけどな。周りは凄いけど。
「それでは失礼します」
見えないファスナーを引き、家を出す。盛大に血を浴びてしまったのは男性陣だけだったので、先にサーシャとソニアには軽く汚れた場所を洗って着替えてから出てきてもらう。
その後で古代竜の血の樽入れを手伝ってくれた人たちを家に招き入れたら、とても喜ばれた。
「さっきの決闘、よくやってくれたよ! 黄金の駿馬は確かに強いんだが、態度も大きくてよくギルドにたむろってはああやって威張り散らしていてさ」
「黄金の駿馬が、というよりピーターやマシューが、だよな。エリッヒはさっきみたいにピーターを止めてることが多かった」
「エリッヒ?」
「3属性魔法使いの……さっき真っ先に謝罪したやつだよ」
「ああ、なるほど」
確かに彼を含めて魔法職の人たちは横暴ではなかった。プリーストの人は決闘と聞いたときに嫌そうな顔をしてたしなあ。
「ジョーたちは強いのに偉そうじゃないところが凄く格好いいと思うよ。これからも応援するぜ!」
「いや、そんな大袈裟な。でもせっかくの縁なのでこれからも仲良くしてもらえると嬉しいです。あ、お湯張り終わりましたよ。ぬるかったら言ってください。《火球》で少しなら温度を上げられますから」
風呂に湯を張り終えた俺の言葉に、ふたりはぽかんとした後大笑いをした。何か、笑われるようなことをしたかな?
「ギルド長の言う通りだ。ジョーは大物になるよ! 俺はティモシー。よろしくな!」
「俺はイーメイだ。よろしく」
何故か俺たちは血まみれの手で握手をし、一瞬後に3人揃って笑った。
ハロンズに来て初日に、いい友人ができた気がする。
「ところで、ジョーのパーティーのプリーストの女の子、可愛いよなあ。あんなに華奢なのに強くて驚いたよ」
「サーシャは俺の恋人だから駄目ですよ。強いのは、補助魔法が何故か他人に掛からないで自分に全部掛かるからで、5倍掛けになってるんです」
「それであんなに強いのか! 風魔法の補助を掛けたってあんなに速くは動けないよ。俺は、赤毛の彼女の方が好みかな。キリッとしてるのに抜けてる感じがあるところもいいし」
「あー、ソニアは……気になる人がいるみたいなんで」
「そうか……」
イーメイはがっくりと肩を落としたけども、その後泊まっている宿屋の名前を教えてもらったりした。若干場所が不便な分、設備の割りに値段がお得な宿らしい。
風呂は入れても着替えがないので、下着以外はサイズが合いそうなので俺のものを貸して、宿に着いたら着替えて返してもらうことになった。
「俺たちも今夜はそこに泊まるか」
ドアが開いてレヴィさんが入ってくる。レヴィさんも血まみれだから風呂に入りに来たのだろう。
「ギルド長から『エール代程度の報酬』を預かってきた。100マギルずつだ。本当にエール代だな」
レヴィさんの言葉に思わず噴き出す。あんなに貴族然としていて格好いいのに、ギルド長はなかなか金銭感覚は渋いようだ。
「それと、古代竜と火竜の査定結果が出た。合わせて850万マギルだ」
「はっ、はっぴゃく!?」
驚きすぎたのかティモシーが声を裏返して叫んだ。驚くよな、そりゃ……。
「レヴィさん、それ他の人がいる前で言っちゃっていいんですか?」
「構わない。そもそもギルド長が黄金の駿馬のメンバーの前でわざわざ伝えてきた。職員も目を剥いていたぞ。それに、俺たちの金はジョーの魔法収納空間に入るから安全だしな」
「半端ねえなあ……にしても、ジョーはあまり驚いてないんだな」
「うん、俺はあまり顔に出ない方だし、前に古代竜の買い取りが500万マギルだったから」
「初めてじゃないのか……いつか古代竜を狩れるようになりてえなあ」
「サーシャとソニアは古代竜をソロで狩ったけど、あれは普通人間がやることじゃないと思う」
俺の言葉に3人ははうんうんと頷いた。
なお、俺たちが古代竜と火竜を持ち込んで850万マギルを稼いだことは、その日のうちに広まったらしい。
風呂を出てから事務エリアに戻ったら、そこにいた冒険者たちが妙にキラキラした目で俺たちを見るようになっていた。
俺とソニアには星が5つに増えた身分証も渡されたし、「初手でぶつけてやる」作戦は大成功のようだった。
ソニアに聞いたら「だって、手数を増やすために手加減して打ったもの」とけろりと答えられた。
そうか、手加減すると《斬裂竜巻》は威力じゃなくて効果時間の方に出るんだ……。ありがたいような、ありがたくないような。
「第2戦、マシュー対ジョーを開始します!」
名前を呼ばれて、俺はミスリルの盾を構えて出て行った。一応右手に短剣は持っている。あくまで虚仮威しでしかないけど。
「よお、空間魔法使いの坊や。一応は得物を使えるようだな」
「はい、盾は師匠に仕込まれましたよ。物理戦闘には必要ですから」
やりとりの言葉もブラフ。
一応魔法職の俺が物理戦闘なんかするわけがない。そもそも相手は戦士だし。
戦斧を片手に、俺の盾よりも大きなラージシールドを構えたマシューは俺との距離を見定めている。
「ははっ、一丁前に武器など持っても空間魔法使いなど相手になるものか! そもそも詠唱が」
彼の言葉の途中で俺は片手に短剣を持ったままで見えないファスナーを引き、マシューの体を収納した。
間髪置かず、2メートルくらいの高さから取り出して落とす。重い鎧の立てるガシャン! という音が響いた。
「プギャッ!」
うん、意識はある。俺は容赦なくもう一度彼を収納し、今度は3メートルくらいの高さから落とした。
「ガフッ!」
うん、悲鳴がまだ元気だな。もう一度。
「う、うう……こう、さん、だ……」
3度目で、か細い唸り声だけを漏らしてマシューの手がパタリと落ちる。ちらっと見えた感じ、顔面から落ちてたせいで鼻血も出てたな。
それを見て黄金の駿馬のメンバーが俺に向かって叫ぶ。
「な、何をした!?」
「俺の空間魔法は無詠唱なので、魔法収納空間に彼をしまって、適当な高さから落としました」
「無詠唱空間魔法!? そんなものは聞いたことがないぞ!」
「そう言われても実際そうなんで……女神テトゥーコからの授かりものですし」
淡々と答える俺を見返すリーダーの顔は、僅かに恐怖の色が混じっていた。理解できないものに遭遇したって顔だ。
空間魔法使いが戦えないって誰が決めたんだ。
古屋落とされなかっただけいいと思ってくれ。
「第2戦、勝者ジョー! 早ければ次でこの決闘の勝敗が決まりますよ」
「くそっ! 順番交替だ、次は俺が出る!」
「許可しますか?」
準備していた3属性魔法使いを押しのけて、リーダーらしき剣士が前に出る。そして審判役のギルド職員はレヴィさんにその是非を確認していた。
「誰が出ようが問題ない。許可しよう」
サーシャに確認しないでレヴィさんは即答した。その行動が癪に障ったのか、相手がギリリと歯を噛みしめた音が聞こえたくらいだ。
レヴィさんも割りと淡々としてる方だから、こういう時相手が余計頭に血が上るんだなあ。……と俺は黄金の駿馬のリーダーの顔が赤くなっていくのを見ながら、他人事のように思っていた。
誰が出ようが問題ない。全くもってその通り。
だってサーシャだもんな……。1対1でサーシャに勝てる人間がいるとはちょっと思えない。
「それでは第3戦、ピーター対サーシャ、開始です!」
「ハッ!」
「グハッ!?」
開始宣言の瞬間、サーシャが目にも止まらぬ速さで駆け出し、ピーターをシールドラッシュで吹っ飛ばした。
うわあ、5倍掛けサーシャのシールドラッシュ、あんなに威力があるのか。相手は10メートルくらい吹っ飛んだぞ……。壁にぶつかっていなかったらもっと飛んだかもしれない。
そして、壁に寄りかかってふらふらしているピーターの顔の真横に、サーシャが拳を打ち込んだ。
めり込む拳、崩れる壁。赤かった顔が真っ白になるピーター……。
決闘を見物していた数人がざわついている。「なんだあいつら……化け物か」って言葉まで聞こえた。
いやいや、失礼な。俺たちは人間だよ。魔力量とか魔法の効果とかいろいろとバグってるけどな。
「降参しますか?」
その状況の中でピーターに尋ねるサーシャだけがいつもと同じく穏やかで。だからこそ――怖いだろうなあ、あれ。やられる側だったら。
「降参! 降参だ!」
「それではこの決闘、レヴィパーティーの勝利とします。条件は……」
「いや、だが俺たちはあとふたり残っている!! 完全に負けたわけじゃ」
「いい加減にしたまえ、見苦しい。古代竜の査定も彼らの昇格も私が行ったことだ。白く塗ったコカトリスだと? それは私が査定を誤ってコカトリスと古代竜を取り違えたということになる。戦力だけじゃなくて頭も鍛えるべきだな、お前たちは」
いつの間に来ていたのか、食い下がろうとするピーターにアンギルド長のよく通る声がとどめを刺す。
自分たちが俺たちを貶すつもりで言っていたつもりの言葉は、実はギルド長を貶す言葉でもあることにようやく気付いたのか、ピーターはやっと静かになった。
「今ここで誓いたまえ。私が立会人になろう。今後、黄金の駿馬のメンバーはハロンズ以外の出身者を決して馬鹿にしない、と。
……しかし、決闘で決めるようなことか? そんなことは当然であって、品位の問題だ。新参者とみればすぐに虚仮にするその性分、ハロンズ随一と呼ばれる冒険者パーティーとしてはふさわしくないぞ。すぐにレヴィたちに取って代わられるだろう」
「ぐっ……決してギルド長を貶めたわけでは」
「もういい、ピーター、頭を冷やせ。これ以上無様を晒すな」
戦っていない魔法使いが未だ壁により掛かったままだったピーターに肩を貸し、サーシャと俺たちに向かって二度頭を下げた。
「君たちを馬鹿にした言動をとってすまなかった。今後はこうした言動は慎もう。ほら、ピーター」
「……すまなかった。ハロンズ以外の出身者や新人を馬鹿にすることはもうしないと誓う」
気絶している人を除いて、黄金の駿馬のメンバーが口々に同じようなことを誓った。
「それでは、そろそろ場所をお借りしてもいいでしょうか。血まみれで気持ち悪いので1秒でも早く風呂に入りたいんですが」
そんな空気の中で俺が尋ねると、一瞬何かに面食らったような顔をしてからギルド長は声を上げて笑った。
「ジョー・ミマヤ、君は大物になるよ。場所は好きに使いたまえ」
「ありがとうございます……?」
俺が大物になる?
そんな柄じゃないんだけどな。周りは凄いけど。
「それでは失礼します」
見えないファスナーを引き、家を出す。盛大に血を浴びてしまったのは男性陣だけだったので、先にサーシャとソニアには軽く汚れた場所を洗って着替えてから出てきてもらう。
その後で古代竜の血の樽入れを手伝ってくれた人たちを家に招き入れたら、とても喜ばれた。
「さっきの決闘、よくやってくれたよ! 黄金の駿馬は確かに強いんだが、態度も大きくてよくギルドにたむろってはああやって威張り散らしていてさ」
「黄金の駿馬が、というよりピーターやマシューが、だよな。エリッヒはさっきみたいにピーターを止めてることが多かった」
「エリッヒ?」
「3属性魔法使いの……さっき真っ先に謝罪したやつだよ」
「ああ、なるほど」
確かに彼を含めて魔法職の人たちは横暴ではなかった。プリーストの人は決闘と聞いたときに嫌そうな顔をしてたしなあ。
「ジョーたちは強いのに偉そうじゃないところが凄く格好いいと思うよ。これからも応援するぜ!」
「いや、そんな大袈裟な。でもせっかくの縁なのでこれからも仲良くしてもらえると嬉しいです。あ、お湯張り終わりましたよ。ぬるかったら言ってください。《火球》で少しなら温度を上げられますから」
風呂に湯を張り終えた俺の言葉に、ふたりはぽかんとした後大笑いをした。何か、笑われるようなことをしたかな?
「ギルド長の言う通りだ。ジョーは大物になるよ! 俺はティモシー。よろしくな!」
「俺はイーメイだ。よろしく」
何故か俺たちは血まみれの手で握手をし、一瞬後に3人揃って笑った。
ハロンズに来て初日に、いい友人ができた気がする。
「ところで、ジョーのパーティーのプリーストの女の子、可愛いよなあ。あんなに華奢なのに強くて驚いたよ」
「サーシャは俺の恋人だから駄目ですよ。強いのは、補助魔法が何故か他人に掛からないで自分に全部掛かるからで、5倍掛けになってるんです」
「それであんなに強いのか! 風魔法の補助を掛けたってあんなに速くは動けないよ。俺は、赤毛の彼女の方が好みかな。キリッとしてるのに抜けてる感じがあるところもいいし」
「あー、ソニアは……気になる人がいるみたいなんで」
「そうか……」
イーメイはがっくりと肩を落としたけども、その後泊まっている宿屋の名前を教えてもらったりした。若干場所が不便な分、設備の割りに値段がお得な宿らしい。
風呂は入れても着替えがないので、下着以外はサイズが合いそうなので俺のものを貸して、宿に着いたら着替えて返してもらうことになった。
「俺たちも今夜はそこに泊まるか」
ドアが開いてレヴィさんが入ってくる。レヴィさんも血まみれだから風呂に入りに来たのだろう。
「ギルド長から『エール代程度の報酬』を預かってきた。100マギルずつだ。本当にエール代だな」
レヴィさんの言葉に思わず噴き出す。あんなに貴族然としていて格好いいのに、ギルド長はなかなか金銭感覚は渋いようだ。
「それと、古代竜と火竜の査定結果が出た。合わせて850万マギルだ」
「はっ、はっぴゃく!?」
驚きすぎたのかティモシーが声を裏返して叫んだ。驚くよな、そりゃ……。
「レヴィさん、それ他の人がいる前で言っちゃっていいんですか?」
「構わない。そもそもギルド長が黄金の駿馬のメンバーの前でわざわざ伝えてきた。職員も目を剥いていたぞ。それに、俺たちの金はジョーの魔法収納空間に入るから安全だしな」
「半端ねえなあ……にしても、ジョーはあまり驚いてないんだな」
「うん、俺はあまり顔に出ない方だし、前に古代竜の買い取りが500万マギルだったから」
「初めてじゃないのか……いつか古代竜を狩れるようになりてえなあ」
「サーシャとソニアは古代竜をソロで狩ったけど、あれは普通人間がやることじゃないと思う」
俺の言葉に3人ははうんうんと頷いた。
なお、俺たちが古代竜と火竜を持ち込んで850万マギルを稼いだことは、その日のうちに広まったらしい。
風呂を出てから事務エリアに戻ったら、そこにいた冒険者たちが妙にキラキラした目で俺たちを見るようになっていた。
俺とソニアには星が5つに増えた身分証も渡されたし、「初手でぶつけてやる」作戦は大成功のようだった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる